夕食後の告白
修学旅行の楽しみといえば、やはりみんなで囲む夕食の時間だ。
今夜のメニューは銘々膳のスタイルで、薄めのとんかつにミニサラダ、茶碗蒸し、色鮮やかな京漬物、そして温かいお味噌汁がお膳の上に綺麗に並んでいた。ご飯はお代わり自由となっていて、テーブルの真ん中には炊きたてのご飯が詰まった大きな御櫃が鎮座している。
「あー、動いた後のとんかつは最高!」
男子たちが猛烈な勢いで白米を掻き込む中、女子たちのテーブルでもワイワイと賑やかなお喋りに花が咲いていた。普段は食が細く、体型管理にも気を使っている和美だったが、今日ばかりはたくさん歩いたせいか、珍しくご飯をお代わりした。
ひとしきりお腹が満たされてくると、話題はさっきロビーで受けたお説教のことに移る。結愛、咲良、和美の三人は、咲良の突然の涙によって怒るタイミングを失った先生の様子を思い出し、クスクスと笑い合っていた。
「それにしても、あそこでまさか咲良が泣き出すとは思わなかったわ」
結愛が少し意地悪そうに、でも愛おしそうに咲良を揶揄う。
「だって……和美が全部自分のせいにしようとするから、本当に申し訳なくなって、自然と涙が出てきちゃったんだもん!」
咲良は顔を少し赤くしながら一生懸命に抗弁した。そんな咲良を見て、和美も優しい微笑みを浮かべる。
「咲良が泣き出したときは私もびっくりしたよ。班長として一身に責任を被るつもりだったのに、先生も私も、完全に毒気を抜かれちゃったんだから」
「ふふ、先生もやっぱり『女の子の涙』には弱かったみたいね。咲良が泣いた瞬間、明らかに動揺して取り乱してたもの」
結愛の言葉に、三人はまた声を潜めて笑い合った。ハプニングすらも楽しい思い出に変えてしまう、女子特有の心地よい連帯感がそこにはあった。
食事を終え、食器を片付けて部屋に戻ろうと廊下に出たときだった。
「面影、ちょっといいかな……」
背後から声をかけられて振り返ると、そこには同じ班の山崎が立っていた。いつもより少し硬い表情をしている。
「何? あんまり時間はないよ。もうすぐお風呂の時間だし」
「うん、すぐ済むから」
山崎はそう言うと、少し歩いて人通りの少ない静かな廊下の隅へと和美を促した。和美は怪訝に思いながらもついていく。少し離れた場所から、心配そうに結愛と咲良がこちらを見守りながらついてきているのが気配で分かった。
人気のない廊下の突き当たりで、山崎が突然くるりと振り返って、一呼吸おいて。
「面影さん……和美、好きです。僕と付き合ってください」
ストレートな言葉が、静かな廊下に響いた。
「前からずっと気になる存在だったんだけど……今回の修学旅行で、一生懸命みんなを引っ張ってくれる君の姿を見て、本当に好きになりました」
山崎の顔は赤く上気し、その眼差しはどこかギラギラとした熱を帯びている。普段、部活と勉強の毎日に追われている和美にとって、これほど直球で男の子の情熱をぶつけられたのは初めてのことで驚きでもあった。
一瞬、その迫力に「もしここで急に押し倒されたりしたらどうしよう」という恐怖が頭をよぎり、和美は思わず体を固くした。しかし、山崎がそれ以上距離を詰めてきたり、体に触れてきたりすることはなかった。
和美は、小さく息を吸い込んだ。ここで曖昧な態度を取るべきではない。
「山崎君、ごめんなさい。私はあなたのことを、そういう風に考えることができないの」
毅然とした、けれど静かな声で和美は告げた。
「今の私は、そう、自分のことで手一杯なの。とてもじゃないけど、男の人のことを好きになるとか、付き合うとか……そういうことを考える余裕は、今の私にはないわ」
自分の気持ちを包み隠さず伝えると、和美はそれ以上言葉を重ねることなく、山崎を残して自分の部屋へと歩き出した。




