古さと新しさが混ざる街角
錦市場の東端にある錦天神にたどり着いた。ここまで来ると、それまでの凄まじい混雑が嘘のように、観光客の姿が少しだけ減る。
朱塗りの鳥居をくぐり抜けると、すぐに京都の賑やかな空気が私たちの背中をそっと押してきた。通りの左右にはみやげ物屋や飲食店がぎっしりと軒を連ねている。香ばしく甘いみたらし団子の香りと、どこかホッとするだしの匂いがふわりと混じり合って鼻腔をくすぐった。
「ちょっと待って、八ツ橋買いたい!」
誰かがそんな声を上げたけれど、和美がすかさずそれを遮る。
「時間が無いから我慢して!」
全員でお揃いの制服を着た団体は、やはり嫌でも目立つらしい。店先のおじさんやお姉さんが、通り過ぎる私たちに笑顔で気さくに声をかけてくれる。
通りはアーケードがついている場所も多く、差し込む光がやわらかく守られているようだ。年季の入った古びた木の看板のすぐ隣に、スタイリッシュな現代的カフェのガラス窓が並んでいる。京都らしい「古さ」と「新しさ」が、お互いを邪魔することなく自然に混ざり合っていた。
少し歩いて、四条通から北へと折れる。
すると、目に見えて空気が変わった。さっきまでの観光客の熱気がやや引いて、しっとりと落ち着いた町並みが姿を現す。
通りは少し狭くなり、歴史を感じさせる町家風の建物が互いに肩を寄せ合うようにして並んでいる。格子越しに見える暗い奥の空間や、軒先に涼しげに吊るされた暖簾。自転車が静かに私たちの脇をすり抜けていき、遠くの方で信号が変わる電子音がかすかに聞こえた。
ふと足元を見ると、アスファルトの中にさりげなく石畳の名残が混じっている。それを見つけた瞬間、「ああ、今、京都に来ているんだ」という実感が、胸の奥からふっと湧き上がってきた。
やがて、建物の隙間の先に、ぽっかりと開けた場所が見えてくる。そこが、目的地である六角堂だった。
四方を高い街の建物に囲まれているのに、不思議とそこだけ少し空が広く感じられる。一歩境内に入ると、さっきまでの街のざわめきが嘘みたいに静まり返った。
中央に佇むのは、独特な六角形の本堂だ。幾重にも重なる屋根の線がやわらかくて、どこか親しみやすい形をしている。その脇にはたくさんの鳩が集まって羽を休めており、水場では誰かが静かに手を合わせ、祈りを捧げていた。
「ここ、本当に街中なのかな? 驚くほど静か……」
誰かがぽつりとそう呟いたのをきっかけに、みんな自然と少し声を落とす。
さっきまでのはしゃぎ声とは違う、修学旅行の賑やかなスケジュールの中でも、ほんの短い「間」のような、穏やかな時間が流れていった。
本堂の案内板を眺めながら、一人が口を開く。
「ここが池坊生け花の発祥の地だって」
「へえ、そうなんだ。和美は華道やっているの?」
振られた和美は、可笑しそうに首を横に振った。
「まさか、私は新体操だけで手一杯よ」
「だよね。でも急にどうしたの?」
「うーん……華道ってお嬢様の習い事って気がして、昔からちょっと憧れではあるのよね」
その言葉に、周りのみんなが目を丸くした。
「活発なイメージのある和美が生け花に憧れるなんて、超意外!」
「ちょっと、それどういう意味よ!」
和美がむくれたように頬を膨らませる。
そんな小さなやり取りさえ、静謐な境内の空気に溶けて、心地よい思い出のひとコマになっていくようだった。




