京都食べ歩きと、噛み合わない6人
朝の柔らかな光が差し込む旅館の大広間。
和美、結愛、咲良の三人は、おひつに入った炊きたての白米と、湯気を立てるお味噌汁が並ぶ純和風の朝食を囲んでいた。そこへ、少し眠そうな顔をした高橋、三浦、山崎のサッカー部三人組がドタドタとやって来て、私たちの前の席に腰を下ろした。
「よっ。今日はよろしくな、仲良くやろうぜ」
山崎が爽やかな笑顔でそう言うと、女子組を代表して咲良が微笑みを返す。
「そうね、折角の修学旅行だし楽しくやりましょう。――あ、それと。くれぐれも十時半に宿の玄関集合、忘れないでね?」
昨日から何度目か分からない念押しに、高橋が苦笑いしながら頭を掻いた。
「おれら、よっぽど信用ないなぁー」
「昨日のバスでの集合状況を見ていて、不安にならない方が無理よ」
和美がピシャリと言い返すと、男子三人は「うっ」と言葉に詰まり、顔を見合わせて苦笑いした。
その小言が薬として効いたのか、奇跡的にも集合時間の五分前には、全員がバッチリ玄関に揃っていた。
ロビーで待機していた担任の教師の元へ向かい、班長の和美がハキハキと告げる。
「第4班、出発します!」
「おお、噂の4班か。気を付けて行ってこいよ。面影さん、班長よろしくな」
ぽんと肩を叩かれて送り出されたものの、和美はどこか引っかかるものを感じていた。旅館を出てすぐ、隣を歩く結愛にそっと耳打ちする。
「……ねえ、『噂の』っていうのがちょっと気になるんだけど」
「ああ、それならオリジナルプランを提出したのが、学年で私たちだけみたいだからじゃない? それで噂になってるんだと思うよ」
「あ、それもそうね」
結愛の至極まっとうな分析に、和美は「なるほど」と納得し、それ以上深くは考えなかった。
宿から歩くこと約十五分。
午前十一時前に到着した錦市場は、まだ人通りもまばらで、いくつかの店舗が慌ただしく開店準備を進めている最中だった。
「さて、どこから攻略するんだっけ?」
キョロキョロと辺りを見回しながら、高橋翼が尋ねる。
「まずは『麩嘉』で、生麩まんじゅうか鯛焼き麩の予定だよ」
「お店、もう開いてるかな?」
山崎が心配そうに呟いたその瞬間、三浦がいきなり前方に走っていってしまった。そして、遠くから両手を大きく振って大声を張り上げる。
「開いてるよーーっ!!」
静かな朝の市場に響き渡る声。
その瞬間、女子三人は一歩、いや三歩ほど後ずさりし、冷ややかな視線を向けた。完全なるドン引きである。
「……ちょっと、恥ずかしいでしょ、三浦君! ここ京都だよ!?」
咲良が真っ赤になって怒ると、三浦は決まずそうに頭を下げた。
「えー、開いてるのを早く知らせたかっただけなんだけどな……ごめん」
気を取り直して、目的の『麩嘉』の暖簾をくぐる。
「すみません、鯛焼き麩を六つお願いします」
「はーい、ありがとうございます。これから焼き上げますので、少々お待ちくださいね」
店員さんの優しい声にホッとしながら待つこと十分。
香ばしい匂いとともに、人数分の出来立ての鯛焼き麩が揃った。
「うお、美味そう! いただきまーす!」
高橋と山崎が嬉しそうに熱々の麩をぱくつく隣で、女子グループはおもむろにスマートフォンを取り出した。
鯛焼き麩を綺麗に画角に収め、お互いの顔を寄せて、慣れた手つきで自撮りを始める。
「おいおい、写真撮ってる間に冷めちゃうぞ? 焼きたてじゃなくなったら勿体ないじゃん」
モグモグと口を動かしながら三浦が不思議そうに首を傾げたが、結愛はシャッターを切りながら、冷徹なトーンで言い放った。
「いいの。私たちにとって、この写真は『焼きたて以上の価値』があるんだから」
「……価値?」
男子たちには永遠に理解できないであろう「映え」の壁。
和美はスマホの画面と、口の周りにあんこをつけた男子たちを交互に見つめ、小さくため息をついた。
(これから先も、この凸凹グループで回るんだよね……)
楽しいはずの食べ歩きツアーの幕開け。しかし和美の胸中には、ほんの少しだけ、前途多難な気が重い予感がよぎるのだった。




