錦市場の食べ歩き計画と、不穏な警戒
「高橋君、あしたは10時半にロビー集合ね。班別行動の中では出発が一番遅い組だから大丈夫だと思うけど、遅刻厳禁で。あとのスケジュールに響くから」
修学旅行の夜。女子部屋に戻る間際、和美は明日の行動班で男子リーダーを務める高橋翼に念を押した。
「和美、奴ら時間通りに集まれるかな……」
翼は少し不安そうに眉をひそめる。男子たちの普段の行動を思い浮かべているのだろう。
「5分くらいは余裕があるよ。出発が遅くなると、錦市場が観光客で一杯になるらしいから早めに出たいんだよね。高橋君が責任を持って引っ張って来てね」
「錦市場はどこに行くの?」
「計画ではね、まずは『麩嘉』で生麩まんじゅうか鯛焼き麩。それから『京とうふ藤野』の豆乳ドーナツに、『錦一葉』の抹茶ソフト。『桝悟』の京漬物も外せないし……あとは、たくさんある生八つ橋のお店を回る予定!」
楽しそうに指を折り数える和美を見て、翼の表情も和らぐ。
「ずいぶん回れるね」
「ふふ、でも1500円というお小遣いの予算もあるから、買い過ぎないようにしないとね」
「へえ、鯛焼き麩って食べてみたいかも」
「数量限定みたいだから、早めに行ってみようか」
そんな二人のやり取りを、少し離れた場所から見つめる鋭い視線があった。
「山崎の動きには注意だよ。和美に手を出しそうだったら抑えるよ、咲良」
結愛が低い声で囁くと、咲良は力強く頷いた。
「結愛、分かってるって。和美を守るのは我々二人の使命だからね」
そんな大袈裟な警戒態勢に気づき、和美はきょとんとした顔で振り返る。
「……私、そんなに狙われてるの?」
あまりに無防備な問いかけに、結愛と咲良は同時に深いため息をついた。
「気がついていないのは和美だけだよ。高橋と三浦はどっちの味方か分からないから頼りにならないしね」
女子たちの秘密の警戒令など露知らず、のんきに明日の食べ歩きに思いを馳せる男子たち。
京都の街を舞台にした明日の班別行動は、一筋縄ではいかない波乱の予感をはらんでいた。




