プレゼンテーション
結愛が作成したパワーポイントの資料は、咲良の手を経て旅行倶楽部の顧問・鈴木先生による事前チェックに回された。タイムテーブルに多少の修正が入ったものの、構成はほぼ一発で合格。さすがに「監修:鈴木先生」とスライドに名前を載せることだけは苦笑いで却下されてしまったが、計画の完成度は折り紙付きだ。
「修学旅行の班別行動の資料ができたから、放課後集まって!」
結愛からの招集がかかり、第4班の6人はワクワクした表情で空き教室に集まった。
教卓の前に立った結愛は、ノートパソコンの画面をプロジェクターに繋ぎ、いたずらっぽく微笑む。
「では、プレゼンを始めます!」
パッとスクリーンに映し出されたのは、『修学旅行第4班 班別行動計画書』と銘打たれた、デザインの洗練されたスライドだった。
ページがめくられ、メンバー紹介の画面になる。
『班長:面影和美 副班長:高橋翼 班員:……』
「ええっ!? ちょっと待って、私、班長なんて聞いてないよ! 務まらないってば!」
和美が慌てて抗議の声を上げると、結愛は人差し指をチッチッと振った。
「ダメでーす。男子チームも咲良も、満場一致で『和美が班長がいい』って言ったんだから。5対1になるのが目に見えてたから、あえて事前に聞かなかったの」
「そんなあ……」
困り果てる和美に、副班長の翼が「頼むよ、班長!」と手を合わせる。三浦も山崎も深く頷いていた。和美は観念したように、小さくため息をつく。
「……分かったわよ。その代わり、全員が無条件で私に協力するって約束してね?」
「「「はーい!」」」
心地よい一体感の中、スライドの続きが始まった。画面が変わると、そこには大きな文字が躍っていた。
――『錦市場での食べ歩き 〜京の食文化を体験する〜』
「うわ、かっこいい! ただの食べ歩きなのに『食文化』なんて、どこから持ってきたの?」
翼が感心したように声を上げる。
「だって、先生からの条件に『京都の日本文化に触れること』ってあったじゃん?」
結愛がふふんと胸を張った。
「だから、食べるメニューも京都らしいものを例として挙げたんだよ。ほら、次見て」
スライドには、写真付きで具体的なメニューが並んでいた。
『・だし巻き卵 400円 〜京の出汁文化を味わう〜』
「なるほどねえ」と三浦が呟く。
『・京湯葉 400円 〜精進料理文化に触れる〜』
「……ねえ、湯葉って何?」
山崎が不思議そうに尋ねると、解説担当の咲良がすかさず補足を挟む。
「湯葉っていうのはね、豆乳を温めたときに表面にできる膜みたいなものだよ」
「へー……って、そう言われても味の想像がつかないや」
『・京漬物 300円 〜京の保存食文化を学ぶ〜』
「お漬物も文化なのか」
「そうだよ。京都には柴漬けとか千枚漬けとか有名なお漬物があって、お店によっては試食もさせてくれるみたい」
『・生八つ橋 〜観光とともに進化した菓子〜』
「観光とともに進化したって、どういうこと?」
今度は翼が食いついた。結愛に代わって、歴史得意の咲良が講釈を垂れる。
「八つ橋っていうお菓子は、元々は焼き菓子で、お琴の形をしていたの。琴の名手だった『八橋検校』って人の名前から取ったんだって。でもあるとき、焼く前の生の生地を食べた人が『これ、モチモチして美味しいじゃないか』ってなって、試しに生も売り出したら大ヒット。今じゃ生八つ橋の方が主流になっちゃったのよ」
「へえー! 面白いなそれ!」
男子たちが一斉に感心の声を漏らす。単なる食べ歩きが、見事な「学びのレポート」に昇華されていた。
「これなら先生たちも文句言えないね」と和美が笑顔を見せる。
「ちなみに、お寺はどことどこを組み込んだの?」
「六角堂、建仁寺、そして清水寺の三箇所!」
「清水寺はわかるけど……六角堂って聞いたことないな」と三浦。
「ここはね、生け花(華道)の発祥の地なんだって」
結愛が誇らしげに言うと、和美は納得したように頷いた。
「へえ、それ、すごく『文化っぽい』じゃない。完璧ね!」
条件である二箇所以上を上回る三箇所、しかもどれも歴史的なストーリーがある。これ以上のプランはそうそう作れないだろう。
「よし、じゃあこのままLMS(学習管理システム)経由で先生に提出しちゃおう」
和美が班長らしく全員に呼びかける。
「まだ直しが入るかもしれないし、期限ギリギリより、早めに出しておいた方が印象もいいもんね」
「賛成!」
こうして、第4班の挑戦的なオリジナル計画書は学校へと送信された。自分たちの手で「やりたいこと」を形にした達成感で、6人の顔には一足早い修学旅行の輝きが灯っていた。




