ミッション:錦市場
流れというものは恐ろしい。気づけば、第4班の修学旅行計画づくりは、男子リーダーの高橋翼と、女子側の和美が中心になって進めることになっていた。
学校側から提示されたのは、あらかじめ決められたAからFまでの6種類の推奨コース。本来ならその中から一つを選ぶだけで済むはずだったのだが、班の女子会(?)の席で、結愛がぽつりと言い出した。
「ねえ、私どうしても錦市場で食べ歩きがしたいな」
その一言に、全員が顔を見合わせた。
「京都の台所」と呼ばれる錦市場。確かに魅力的だが、学校の推奨コースには一切組み込まれていない。
「錦市場か……俺はいいと思うぜ。美味いもん食えそうだし」
「僕も大賛成」
翼と三浦が即座に食いつき、気まずそうにして目立たないようにしていた山崎悠真も小さく頷いた。メンバー全員の意見は一致したものの、問題は担任の反応だった。
コースの変更を恐る恐る相談しに行くと、担任は渋い顔をしながらも、一枚の紙を差し出してきた。
「職員会議が納得する代替コースを自力で作れるなら許可しよう。ただし、条件は4つだ」
【オリジナルコース許可の条件】
予算が過剰にならないこと(食べ歩きの予算は一人1500円までとする)。
必ず京都の日本文化に触れる要素を入れること。
決められた門限までに、確実に宿舎へ戻れるルートであること。
推奨コースに含まれている主要な寺社を、二箇所以上回ること。
放課後の教室、4つの条件が書かれたメモを囲み、6人は頭を抱えていた。
「ねえ、こんな厳しい条件を満たせるコースなんて、私たちだけで本当に作れるの……?」
言い出しっぺの結愛が、申し訳なさそうに眉をひそめる。
確かに、京都の地理も市バスの系統もよく分からない中学生にとって、時間とルートを完璧に計算するのは至難の業だ。
その時、遠藤咲良がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ふふん、任せなさい。ちょっと『旅行倶楽部』の顧問の鈴木先生のところに行って、相談してくるわ」
「え? 咲良、鈴木先生に相談できるような伝手なんてあったっけ?」
和美が不思議そうに尋ねると、咲良は胸を張って眼鏡の位置を直す仕草をした(眼鏡はかけていないが)。
「こう見えても私、歴史の成績だけは学年トップクラスなんだよ? だから鈴木先生のウケはめちゃくちゃ良いの。ちょっとお知恵を借りてくる!」
「おお、頼もしいな!」
翼が感心したように声を上げ、身を乗り出した。
「じゃあ、俺たち男子は何をすればいい?」
「そうねえ」
和美は人差し指を立てて、男子三人を見遣った。
「スマホ使ってネットで『錦市場 食べ歩き 予算1500円』って検索しておいて。条件1をクリアするために、何がいくらで食べられるか、具体的なメニューと金額のリストが欲しいの」
「了解! すぐ調べる!」
翼たちが一斉にスマホを取り出す。
「あ、私、抹茶とかの甘いものがいいなー!」
結愛がすかさずおねだりするように付け加えると、男子たちは「甘いものな、分かった!」「パフェとかあるかな……」と、完全に女子のペースに巻き込まれて検索を始めた。
(ふふ、こういう時の男子って、本当にたじたじになっちゃうのね)
さっきまでの気まずい空気はどこへやら、女子のパワーに圧倒されながら必死に画面をスクロールする男子たちの姿を見て、和美は内心面白くて仕方がなかった。
難攻不落に思えたオリジナルコース作り。けれど、この6人なら案外、最高の計画が完成するかもしれない。和美はノートを広げ、翼たちが調べ始めた情報を書き留める準備を始めた。




