運命の班分け
中学二年生にとって最大のビッグイベント、それは修学旅行だ。
和美たちの通う中学校では、毎年秋に京都・奈良へ二泊三日で赴くのが習わしとなっていた。往復は東海道新幹線の車両を二両も借り切って移動するという、聞くだけで胸が躍る大旅行だ。
しかし、その事前準備である「二日目の班別自主行動」の班決めにおいて、和美はある種の混乱に巻き込まれることになった。
事の発端は、女子側の申請だった。
和美は親友の結愛と、結愛の友人である遠藤咲良の三人でグループを組んで申請を出した。学校のルールでは「一つの班は五〜六人、必ず男女混成班にすること」と決められていたため、和美たちは「どうせ余った男子の班と担任が適当にくっつけるだろう」と高を括っていたのだ。
ところが、教室の後ろに貼り出された班構成表を見た瞬間、和美は自分の目を疑った。
『第4班:高橋翼、三浦恒一、山崎悠真、遠藤咲良、面影和美、西野結愛』
「ちょっと……嘘でしょ?」
和美は思わず声を漏らした。
名前の並びにある「山崎悠真」――それは他でもない、少し前に結愛が振った、あの“山崎”だったのだ。しかも、男子三人は全員が野球部に所属する仲良しグループ。気まずいなんてレベルではない。
放課後、机を寄せ合った女子三人は緊急会議を開いていた。
「どうする、結愛……」
和美が恐る恐る顔を覗き込むと、結愛はため息をつきながらも、どこか吹っ切れたような顔で肩をすくめた。
「どうするって言ったって、先生が決めちゃったものはしょうがないわよ。今さら変更なんて通らないし、山崎は私にとって過去なの、私は前しか見ていないから過去は関係ないわ」
「そうそう」と、咲良がすかさずフォローを入れる。
「二泊三日って言っても、完全にこの班で動くのは二日目の班別行動だけだからね。そこだけ割り切って我慢すれば、何とかなるって!」
「それはそうだけど……学校に提出する行動計画書を作るとき、どうしても一回は全員で話し合いの会議を開くしかないわよ?」
和美が現実的な問題を指摘すると、咲良は頼もしく胸を叩いた。
「大丈夫! 結愛が不愉快な目に遭わないように、私と和美で全力でガードするから。山崎くんに変な空気にさせないよ」
「ふふ、二人ともありがとう。心強いわ」
結愛がようやく少し笑みを見せた、その時だった。
「よ、よろしくな。修学旅行」
ひょっこりと顔を出したのは、男子側のリーダー格である高橋翼だった。その後ろでは、三浦と山崎が何だかソワソワとした様子でこちらを窺っている。
「同じ班になったからさ、仲良くしてね。……その、色々あるとは思うけど」
翼の少し歯切れの悪い物言いに、和美は察した。どうやら野球部側でも、悠真と結愛の「件」は全員が知っている周知の事実らしい。男子側は男子側で、この運命の悪戯のような班分けに相当気まずさを感じているようだった。
「こちらこそよろしく、高橋くん。せっかくの修学旅行だし、みんなで楽しもうね」
和美が代表して努めて明るく返すと、翼はホッとしたように「おう!」と笑った。
一筋縄ではいかなそうな、京都・奈良の班別行動。押し寄せる波乱の予感に、和美は胸の中でそっと神仏に祈りを捧げるのだった。




