心の鎧、そして本当の仲直り
和美は、迷いのない足取りで体育館の準備室へと向かった。
「杉浦先生、私、覚悟を決めました」
突然の宣言に、書類を整理していた先生が顔を上げる。
「新体操選手として、レオタード姿を人に見られるのは当たり前のことです。でも、私の『心の服』までは、誰にも絶対に脱がさせないって決めました」
その言葉を聞いた杉浦先生は、満足げに目を細めた。
「そう。やっぱり、あなたならそう言うと思った。強いわね、和美さん」
「なんですか、急に……」
「この間、佐々木さんが来たでしょう? 彼女、帰り際に寄ってこう言ってたのよ。『和美は強い子だから、きっと大丈夫です』ってね」
「……やっぱり、佐々木先輩には敵わないなぁ」
和美は苦笑しながら、これからの練習方針について伝えた。
「今日から、以前の練習スタイルに戻します。野次馬……いえ、オーディエンスには、せいぜい見せてやりますよ」
「頼もしいわね。でも、もし限度を超えていると感じたら、すぐに私に言いなさい」
「もちろんです。ありがとうございます」
不思議なもので、一度腹をくくってしまうと、窓の外の喧騒が全く気にならなくなった。
自分が毅然としていれば、それはただの背景にすぎない。部員たちが見物客に無関心を貫き、ただひたむきに練習に打ち込む姿を見て、見物客の方も次第に飽きてきたようだった。騒ぎは少しずつ、けれど確実に沈静化していった。
それでもしつこく覗きに来る見物客には学校側が目隠しという壁をようやく用意してくれた。
そんなある日の練習後。
体育館の入り口に、結愛と数人の友達が立っているのが見えた。
和美は迷うことなく彼女たちのもとへ駆け寄った。
「練習、見に来てくれたんだ」
「うん……」
結愛は少し気まずそうに視線を泳がせていた。和美は努めて明るい声で問いかける。
「どうだった? うまく演技できてた?」
「……うん。和美、とっても綺麗だったよ」
その言葉に嘘はないようだった。結愛は一度深く息を吐くと、意を決したように和美を真っ直ぐに見つめた。
「和美。私、今日は謝りに来たの」
「謝りに?」
「山崎の件。私、和美にあんなに怒っちゃって……」
「ああ、でも、あれは私が無自覚だったのもいけなかったし……」
「違うの」
結愛は遮るように首を振った。
「あれは山崎が悪いのよ。私の隣にいながら、勝手に和美に見惚れるなんて。……だから、別れてきた」
「えっ、別れたの……?」
「そう。私の前で別の女を見惚れるような野郎なんて、こっちから願い下げだってね!」
凛と言い放った結愛の姿は、以前よりもずっと大人びて見えた。
「結愛も、見かけによらず強いね……」
「まあね。……それで、和美。こんな私と、また仲直りしてくれるかな?」
「もちろんよ! 私の方こそ、なんて声をかけたらいいか、ずっと悩んでいたんだから」
二人は顔を見合わせ、弾けるように笑った。張り詰めていた心の糸が、ようやく解けていく。
「今度、また駅前のお店にファンシーグッズ見に行こうね。新作出てるみたいだよ」
「もちろん。楽しみにしてる」
夕暮れの体育館に、少女たちの明るい声が響く。
自分を信じる強さと、許し合える絆。それを手に入れた和美の指先は、今度こそ音楽の半拍深くへと、しなやかに沈み込んでいった。




