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揺るがぬ視線、自分だけのステップ

 失意、という言葉が今の和美にはしっくりときていた。

 自らマットの中心に立つことを避け、後輩たちのサポート役に徹する日々。指導に熱を入れることで紛らわせてはいたが、自分の居場所を奪われたような寂しさは拭えずにいた。


 そんなある日の練習中。体育館の重い扉が開き、懐かしい人影が姿を見せた。


「佐々木先輩!」

「やっほー、和美。元気にしてた?」

 引退したはずの前部長、佐々木さんだった。和美は駆け寄り、少しだけ強張っていた表情を緩める。

「どうしたんですか、今日は」

「学校に成績証明書を取りに来たついでよ。ちょうど練習時間だなと思って、ちょっと覗いてみたの」


 佐々木さんは、マットの上で練習に励む新入生たちに視線を向け、目を細めた。

「そうそう、聞いたわよ。秋の地区大会のボール5、三位に入ったんですってね」

「ええ。あの子たちが、本当によく頑張ってくれて」

「それだけじゃないでしょ。和美が、崩れそうになっていた新入生たちを必死に支えてたって。杉浦先生から聞いてるわよ」

「……部長でしたから、当然のことをしたまでです」


 謙遜する和美の様子をじっと見つめていた佐々木さんが、ふと声を落とした。

「ところで。……最近、随分と大変なんですってね」

 その一言で、和美の胸の奥に澱んでいた苦い感情が蘇る。

「ええ……男子生徒が大勢見物に来るようになってしまって。学校でも問題になっているみたいなんです」

「和美が、そのせいで随分傷ついているとも聞いたわ」

「そんなことまで……」


 和美は俯いた。誰かの視線が怖いのではない。その視線が、自分という存在を勝手な枠に嵌め込み、周囲との関係を壊していくことが堪えがたかった。


「和美。新体操という競技は、身体の隅々まで使って、審査員と観客を魅せる競技。……見られることは、最初から承知の上よね?」

「……はい」

「なら、いい。他人があなたを見てどう評価しようと、どう感じようと、それにあなたが影響される必要なんて一切ないのよ。自分は、自分。誰に何を思われようと、あなたの価値も、あなたの積み上げてきた努力も、何一つ変わらないわ」


 佐々木さんの言葉は、硬く冷え切っていた和美の心に、静かに、けれど力強く染み渡っていった。

 ――見られているから、自分を隠すのではない。

 ――見られているからこそ、誰にも邪魔させない自分を磨くのだ。


「……ありがとうございます、先輩」

 顔を上げた和美の瞳には、さっきまでの迷いはなかった。


 見られて上等だ。

 でも、私は、私のために演技をする。誰の視線にも、私の心までは揺らさせない。


 佐々木先輩は右手を挙げて体育館を去っていった。

 帰りに体育教官室に寄った佐々木先輩に杉浦先生が「どうだった」と訊ね「和美は強い子だからきっと戻ってきます」と言い置いて帰っていった。


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