中学の選択
小学校の卒業が近づくにつれて、友達が口々に進学先の話をするようになった。公立か、私立か、地元か、越境か。
「和巳は、どこ行くんだ?」
問われるたび、和巳は曖昧に笑ってごまかしていた。正直、まだ何も考えていなかったのだ。
その日、家に帰るとリビングのテーブルに中学校の学校案内が並んでいた。
見るともなく眺めていた視線が、一枚のパンフレットで止まる。
紺色のセーラー服。
胸元のスカーフ。
笑顔で並ぶ女子生徒たち。
……かわいい。
胸の奥が、ふっと熱を持った。
和巳の中で、和美が小さく息をのむ。
(……あれ、着てみたい)
気づけばそのページから目が離せなくなっていた。
夕方、和美の姿で母に声をかけた。
「母さん、私。この中学に行きたいかも」
「どうして?」
「だって、このセーラー……すっごくかわいくない?」
母はパンフレットを一度見てから、和美を見た。
「制服で学校を選ばない方がいいわよ」
「でも……やっぱり、これ着てみたい」
少しの沈黙。
母はため息をつき、静かに言った。
「あなた、言い出すと聞かない子だったわね。でも、条件があるわ」
「条件?」
「中学校の三年間。家でも外でも、性別は固定。
途中で女の子から男の子に戻ったら駄目。それが約束できないなら、この学校には行かせません」
和美は一瞬だけ考え、それから笑った。
「じゃあ、三年間、女の子でいればいいだけじゃん」
その言葉が、あとになってどれほど重くなるか。
この時の和巳は、まだ知らなかった。




