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小さな楯と、大きな一歩

 団体戦の「ボール5」と「フープ5」、そしてその後に続いた個人戦。秋の地区大会の全プログラムは、大きなトラブルもなく滞りなく進んでいった。


 わが校の新入生たちは、初めての公式戦とは思えないほど、持てる実力をいかんなく発揮した。個人戦での上位入賞こそ叶わなかったものの、団体戦の「ボール5」だけは違った。

 五人の連携はこれ以上ないほど研ぎ澄まされ、和美が一番懸念していた難所、あの「ブラインドキャッチ」も吸い込まれるように次々と成功。結果は、見事な三位入賞。


 新体操部の歴史において、秋の地区大会での上位入賞は創部以来の快挙(あるいは怪挙?)だそうで、誰よりも杉浦先生が嬉しそうに目を細めていたのが印象的だった。


「部長、これ。和美さんが持っていてください」

 閉会式後、三位の証である小ぶりの楯が入った箱を、新入生たちは和美に託した。

「えっ、私が? みんなで勝ち取ったものなのに」

「いいんです。私たち、これから寄り道して帰るから。部長、お願いします!」

 そう言って笑いながら去っていく後輩たちの背中を、和美は戸惑いながらも見送るしかなかった。


 帰宅した和美は、リビングのテーブルにそっとその箱を置いた。

「お母さん、今年の新人は本当に優秀で……『ボール5』で三位になったんだよ。これがその表彰楯」

 中から現れた光沢のある楯を見て、母親が目を丸くした。

「まあ、すごいじゃない。……でも、そんな大事なものを和美が持ち帰っていいのかい?」


「新人たちがね、『寄り道するから部長持って帰ってください』って。押し付けられちゃった」

「それは違うわよ、和美」

 母親は優しく微笑んで、和美の目を見つめた。

「彼女たちは、この楯を持つ権利が部長にもあるって思ってくれたのよ。あなたの指導があったからこそ、この結果があるって認めてくれたの」


「……そうかな。私自身、今まで上位入賞とは縁が無かったから、実物の楯をこんなに間近で見るの、初めてなんだ」

 指先でそっと楯の表面に触れてみる。冷たくて重いその感触は、あの日マットの上で感じたボールの感触よりも、ずっと温かく感じられた。


「明日は、校長先生に凱旋報告をするって杉浦先生が言ってた。わが校の新体操部で初めての上位入賞だって、先生も大はしゃぎで」

「あら、和美も報告に行くのかい?」

「あ……部長も行くのか、入賞した新入生だけなのか、確認するの忘れちゃった。どうしよう」


 急に不安になってあたふたし始めた和美を見て、母親が楽しそうに笑う。

「明日が楽しみね、新部長さん」

「うん。……でも、校長室なんて想像しただけで緊張して、また足が震えそうだよ」


 かつて男の子の感覚でボールを投げ上げていた指先。今はその手に、仲間と勝ち取った重みがしっかりと刻まれている。

 和美はもう一度楯を眺め、少しだけ誇らしい気持ちで深く息を吐いた。


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