新部長の船出、守るべき場所
放課後の部活動開始時、杉浦先生の口から新部長として「面影和美」の名前が正式に発表された。
和美は、少なからず波風が立つことを覚悟していた。自分のような経緯を持つ者が部を率いることに、反発を覚える下級生もいるのではないか。そう身構えていたのだ。
けれど、部員たちの反応は意外なほどあっさりとしていた。皆、「当然だろう」という顔で拍手を送ってくれたのだ。拍子抜けするほどスムーズな代替わりに、和美はどこか戸惑いさえ感じていた。
その日の練習後、恵理がこっそりと耳打ちしてくれた。
「和美、知ってる? 一年生たち、もし和美が部長にならなかったら、みんなで部を辞めようって話し合ってたみたいだよ」
「えっ……嘘でしょ?」
「本当。あの日の和美の話、それくらいあの子たちに刺さってたんだよ」
驚きと、それ以上に込み上げてくる嬉しさで、和美の視界がふわりと滲んだ。自分の言葉が、誰かの居場所を繋ぎ止めていた。その事実は、何よりも新部長としての自信を与えてくれた。
新部長発表の際、和美は部員たちの前でこう挨拶した。
「佐々木先輩のように、強くみんなを引っ張っていく自信は、正直に言って全くありません。でも、この部を、みんなが新体操の楽しさを心から実感できる場所にできるよう、精一杯努力します」
背伸びをしない、等身大の言葉。
後日、杉浦先生から「いい挨拶だったわよ。あなたらしい」と声をかけられ、和美は少しだけ面映ゆい思いをした。
しかし、部長の仕事は部内だけにとどまらない。
就任早々、和美は生徒会の定例会議に呼ばれることが増えた。中でも最も重要だったのが「体育館の共同利用に関する調整会議」だ。
バレーボール部、バスケ部、バドミントン部……狭い体育館を多くの部活が奪い合う。ここでしっかり主張しなければ、マットを広げるスペースさえ削られてしまう。
(私たちが練習する場所は、私が守らなきゃ……)
体育館の優先順位を決める際、大きな評価基準となるのが「対外試合の成績」だった。実績があれば、それだけ発言権が増す。必然的に、目前に迫った秋の地区大会への重圧が増していく。
秋の地区大会では、一年生六人全員を個人戦にエントリーさせると同時に、五人一組で行う団体戦「ボール5」にも出場させる。和美は新部長として、そして一人の先輩として、顧問の杉浦先生と共に後輩たちの指導に一段と熱を入れるようになった。
自分たちの居場所を、自分たちの演技で勝ち取るために。
和美は冷たい体育館の空気を深く吸い込み、後輩たちが待つマットの上へと歩き出した。




