部長の背中、等身大の決意
その日の夜、和美はリビングで母親に胸の内を打ち明けた。
「お母さん……佐々木部長が、私に次期部長をやって欲しいって言うの」
母親は手を休めることなく、穏やかな声で問い返した。
「それで、和美はどうするの? 引き受けるつもり?」
「……私に務まるとは思えないのよね。それに、なんていうか……生まれつきの女の子たちに対する劣等感みたいなものも、まだ完全には消えてなくて」
和美の言葉に、母親はぴしゃりと言い切った。
「でも、今の和美は正真正銘の女の子でしょ」
「それは、そうだけど……」
「やりたくない理由は、他にあるんじゃないの? 例えば、小池さんや斎藤さんのこととか」
母の鋭い指摘に、和美は言葉に詰まった。
「……一緒に頑張ってきた友達の上に立つのが嫌だっていうのは、確かに、あるかもしれない」
「部長だから『上』に立つって考えるのがおかしいのよ」
母親は、諭すように言葉を重ねた。
「たかが中学の部活の部長じゃない。全然大したことじゃないのよ。それを上だの下だのと難しく考えるから、足がすくむの」
母の言葉は、和美の凝り固まった肩の力を少しだけ抜いてくれた。
「わかった。……一度、理沙と恵理にも相談してみるね」
「ええ。それがいいと思うわ」
翌日の昼休み。和美は中庭のベンチに二人を呼び出した。
「実は、佐々木部長から次期部長をやってほしいって言われて……今、返事を待ってもらっているの」
和美が切り出すと、恵理がパッと顔を輝かせた。
「和美、すごいじゃない! 和美が部長かぁ……」
憧れの眼差しを向けてくる恵理に対し、和美は不安げに視線を落とす。
「私に、部長なんて務まると思う……?」
「もちろん。むしろ、和美じゃなきゃ務まらないと思うよ」
理沙が、迷いのない確かな口調で言った。その一言が、和美の背中を力強く押した。
「……そっか。わかった。それじゃ、佐々木先輩に『引き受けます』って返事する。でも、二人とも……絶対に協力してね。一人じゃ、絶対無理だから」
和美が手を差し出すと、二人は顔を見合わせて笑った。
「「もちろんよ!」」
重なり合った三人の手のひら。
部長という重圧が消えたわけではない。けれど、等身大の自分で、仲間と一緒に歩んでいけばいい。
和美の心には、昨日とは違う静かな覚悟が宿り始めていた。




