五人の輪、六人の心
放課後の体育館。窓から差し込む西日が、フロアのマットをオレンジ色に染めている。
和美は、新入生六人を自分の前に集めた。
正直、彼女たちに説々と語って聞かせる自信なんて、これっぽっちもなかった。
「偽りの体」を持って生きているという劣等感。それは以前より薄れたとはいえ、今も和美の意識の底に、深い澱のように沈んでいる。自分なんかが、真っ直ぐな彼女たちに何を言えるのだろう。
けれど、逃げるわけにはいかなかった。和美は、脇に控えてくれている恵理と梨沙の存在を心の支えにして、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「秋の地区大会の話をするね。みんなにとってはまだ先のことだと思えるかもしれない。でも、人前で恥ずかしくない演技ができるまで仕上げることを考えたら、実はもう、スケジュールはギリギリなの」
六人の視線が和美に集まる。驚いたように目を見張る「こころ」や、少し冷めたような「えま」の視線。和美は一歩、彼女たちの方へ踏み出した。
「今年は、杉浦先生が団体戦にもエントリーすると決めているわ。『ボール5』、『フープ5』の練習が加わるから、これから本当に忙しくなる」
ここで、和美は言葉を切った。新入生たちの間に流れる、あの「三対三」の壁を壊すために。
「団体演技は五人でやるもの。だから、誰か一人が『あぶれる』って考えているかもしれない。でも、それは違うの。マットに立つのは最終的に五人だけど、チームとしては六人でも足りないくらいなのよ」
和美は指を折って数えて見せた。
「音響の曲出しをする人、外から動きをチェックする人。それを入れたら七人でギリギリ。六人だと一人足りないくらいなの。それに、もし誰か一人が怪我をしてしまったら……その時点で、団体戦は棄権することになる」
不満げだった「えま」の表情が、わずかに強張った。
「でも、それは補欠の……」と言いかけたえまに
「黙って聞いて」と梨沙が素早く言った。
「今、あえてメンバーを入れ替えながら練習してもらっているのは、万が一誰かが出られなくなっても、残りのメンバーで同じクオリティーの演技ができるようにするためなの。それは『控え』を作るためじゃなくて、全員が『当事者』でいるための工夫なんだよ」
和美は、一人ひとりの目を見るように視線を動かした。
「特に手具の交換は、息が合わないと絶対に成功しないわ。取れなかったとき、それは投げた人の責任でも、受けた人の責任でもない。交換する『二人』の責任なの」
マイペースな「あおい」が、ふいにとぼけたような表情を消し、真剣な顔つきで和美を見つめた。
「私は……誰が相手になっても、心が通じ合える関係をこの六人で作っていってほしい。そして終わった後に、『精一杯やった』っていう気持ちを、六人全員で、同じ熱量で味わってほしいの」
それは、飾らない和美の、精一杯の「本音」だった。
言い終えると、体育館には静寂が訪れた。高い天井から、バドミントン部のシャトルが打たれる音だけが響いている。
和美の想いが、彼女たちの硬い心をどれだけ溶かせたかはわからない。けれど、少なくとも、新入生たちの視線は、さっきよりも少しだけマットの先にある「同じゴール」を向いたような気がした。
そして和美は自分の喉がカラカラになっていることに気がついた。




