六つの個性、一つのマット
一人で抱え込むのは限界がある。佐々木さんの助言を受けた和美は、同期の梨沙と恵理を部室に呼び止めた。
三人はホワイトボードの前に集まり、新入生たちの指導について現状を共有することにした。
「新入生六人のうち、五人で秋の地区大会の団体に出なきゃいけないでしょ? 誰がメンバーになっても同じレベルで動けるように、あえて組み合わせを入れ替えながら練習させてたんだけど……それが不満に繋がっちゃってて」
和美が正直な悩みを打ち明けると、梨沙が腕を組んで深く頷いた。
「知ってる。あの子たち、今ちょうど三対三のグループに分かれちゃってるよね。五人の連携が団体戦の命なのに」
「六人全員、仲良くってわけにはいかなかったのかしらね」
恵理が困ったように眉を下げるが、問題はもっと具体的だった。
「えまと、あおい。あの中がしっくりいってないのが大きいのよね」
和美がこぼすと、梨沙が指を折って分析を始める。
「あおいはマイペースなところが武器だけど、えまは自分が仕切りたいタイプだから。そりゃぶつかるわよ」
「……一度、六人の特徴を書き出してみよう。そうすれば、新しい組み合わせが見えるかもしれない」
和美はホワイトボードに、新入生たちの名前を書き連ねていった。
1.佐倉 みお
明るくて素直、自然と周りに友達が集まるタイプ。チームの潤滑油になり得る存在。
2.篠原 ひより
穏やかで観察力がある。文学少女の趣があり、休憩時間はよく漫画を読んでいる。冷静な視点の持ち主。
3.高橋 えま
活発で運動神経は抜群。クラスのムードメーカーだが、少し自己主張が強い。
4.森川 さつき
大人びていて落ち着きがある。新入生の中では一番の常識人。彼女が調整役を引き受けてくれると助かるのだが……。
5.結城 こころ
感受性が豊かで、音楽や創作を好む。ただ、かなりの泣き虫。以前、佐々木さんの熱い話を聞いて感極まって泣き出したのは彼女だ。
6.小原 あおい
自然や生き物が好きな超マイペース。正直、ガツガツした新体操の世界にいるのが不思議なほどだが、強豪校にいる姉の影響で始めたらしい。
「……こうして見ると、本当に個性的よね」
書き出されたリストを眺めながら、恵理がため息をつく。
「いっそ、一番実力もあってハキハキしてる高橋えまを、一年生のリーダーに据えちゃうのはどうかな?」
梨沙の提案に、和美は即座に首を振った。
「うーん。それをやると、たぶん不満が爆発して、残りの三人が辞めちゃう気がするわ」
「やっぱりそうよね……」
バラバラの方向を向いた六つの個性。彼女たちを一つの「団体」としてまとめ上げ、同じ音楽の中に溶け込ませるには、まだ決定的な何かが足りていない。
和美はホワイトボードに書かれた「あおい」と「えま」の名を、無意識にペン先でなぞった。
秋の地区大会まで、時間はそれほど残されていない。和美は、冷たい指先でボールを抱え直したときのような、あの静かな緊張感を再び背中に感じていた。




