三人の誓いと決戦の朝
秋の地区大会が近づくにつれ、出場する三人の練習は過酷を極めていた。
部活動の制限時間いっぱいの一日三時間を使い切り、さらに警備員のおじさんが「もう帰る時間だよ」と鍵を鳴らして追い出しに来るまで自主練習を続けても、底なしの不安が消えることはなかった。
「……はあ、はあ。もう一回、いいかな」
和美が額の汗を拭いながら言うと、一緒に残っていた理沙と恵里も、肩で息をしながら頷いた。三人はいつしか、お互いの演技を厳しく、けれど愛を持ってチェックし合うようになっていた。
「和美は、体の柔軟性と体幹の強さは文句なし。でも……やっぱり手具を受け止めるのがまだ不安定かな。あと、音楽がかかると動きがバラバラになるよ」
理沙の指摘に、和美はガックリと肩を落とした。
「そうなの……。つい音楽を『聴きすぎ』ちゃうんだよね。音に頼らずに、体でタイミングを掴まなきゃいけないって分かっているのに」
「いっそのこと、耳栓して練習してみる?」
「それ、いいかも」
恵里の突飛な提案に、三人は顔を見合わせて少しだけ笑った。
「理沙は、手具の扱いは天才的だよね。全然落とす気がしないもん。でも……ちょっと体が硬いかな。柔軟、もう少し増やしてみたら?」
「うう、わかってる。お母さんには『お酢を飲みなさい』って毎日言われるよ。お酢を飲むと体が柔らかくなるんだって」
「それ、骨まで溶けちゃいそうね」
「でも恵里――エリチンは、なんていうか……表情が硬いよね。笑顔が消えてる」
恵里が図星を突かれたように顔を伏せると、理沙が追い打ちをかける。
「あ、それ和美も……。杉浦先生に『笑顔が足りない!』って、何度も怒鳴られてたもんね」
「無理だよ、手具を必死で追いかけてる時に、余裕の笑顔なんて作れないって……」
弱音を吐き、笑い合い、お互いの弱点をさらけ出す。
そんな泥臭い時間の中で、新入生三人の間には、クラスの友達とはまた違う、強固な「戦友」としての連帯感が育まれていった。
技術面ではまだまだ課題が山積みで、杉浦先生からは「今のままじゃ参加賞ね」と手厳しい言葉も投げられた。けれど、三人の胸には、自分たちにしか分からない熱い何かが確実に灯っていた。
そして、秋の地区大会の当日は、残酷なほどあっという間にやってきた。
会場となる市営体育館には、朝早くから独特の緊張感が漂っていた。
観客席には、出場する生徒たちの家族が詰めかけている。和美の両親も、カメラを手に、少し緊張した面持ちで観戦に来ていた。
「和美、大丈夫。練習であれだけやったんだから」
控室で自分に言い聞かせるように呟く和美。
かつて「和巳」として生きていた頃には想像もできなかった、レオタードを身に纏い、美しさを競い合う舞台。
体育館に響くアップテンポな音楽と、他校の生徒たちの歓声。
その喧騒の中で、和美はギュッと自分の拳を握りしめ、自分に訪れる出番の時を静かに待っていた。




