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部活動の扉

 翌日の昼休み。和美は昨日よりもいくぶん軽やかな、けれど決意の滲む足取りで体育教官室を訪ねた。


「杉浦先生、昨日のお話ですが……私、新体操部に入れてください」


 深々と頭を下げた和美に、デスクにいた杉浦先生がパッと顔を輝かせた。


「そう、ありがとう! そう言ってくれて嬉しいわ。早速だけど、今日は体操着、持ってるかしら?」

「はい、午後の授業で使います」

「よかった。じゃあ放課後、着替えて体育館に来て。部員たちに紹介するわね。それから、入部にあたって親御さんにサインをもらう書類も渡しておくわ」


「はい、わかりました。よろしくお願いします」


 教官室を出た和美の胸には、不思議な高揚感と、それと同じくらいの不安が渦巻いていた。

 本当に入っちゃったんだな、という後悔にも似た震えと、やるしかないという決意。その二つが混ざり合った、形のない感覚。


 放課後は、残酷なほどすぐにやってきた。

 午後の授業でかいた汗が少しだけ湿り気を残している体操着。それに袖を通しながら、和美は更衣室で何度も深呼吸を繰り返した。


 体育館へ足を踏み入れると、そこにはすでに新体操部のメンバーが揃い、ピンと張り詰めた空気が漂っていた。


「みんな、ちょっと集まって。一年生の面影さんが、今日からこの部に入ることになりました。仲良くしてあげてね」


 杉浦先生の言葉に、「はい!」と全員の揃った返事が体育館に響く。

 その一糸乱れぬ様子から、杉浦先生がどれほど厳格に、そして情熱を持ってこの部を指導しているかが肌で伝わってきた。


「面影さん、挨拶して」

「はいっ。……面影和美といいます。新体操は全くの未経験ですが、一生懸命頑張ります。よろしくお願いします!」


 和美が精一杯の声を出すと、先生は満足そうに頷いた。


「よし。面影さんは初心者だから、ABCの『A』からしっかり教えてあげてね」

「はい!」


 先輩たちの元気な返事に、和美の緊張がほんの少しだけ解けていく。

 ふと周囲を見渡すと、皆が着ているのは学校指定の体操着や練習用のTシャツだった。


「あの……先生。レオタードを着ている人はいないんですね」


「ああ、それ? レオタードはあくまで試合着よ。練習のときはあまり着ないわね。……もしかして、憧れてた?」


 先生に茶目っ気たっぷりに聞き返され、和美は慌てて首を振った。


「いえ、逆です。あんな恥ずかしい格好でやるのかなって、ずっと不安で……」


 正直な本音に、杉浦先生はフッと口角を上げた。


「その感覚、実はとても正しいわよ。あの衣装は、審査の時に筋肉の動き一つひとつまで正確に見せるためのもの。いわば『戦うための服』なの。恥ずかしいと思うのは、それだけ自分の体を客観的に見られている証拠だから」


 先生の言葉に、和美はハッとした。

 ただの羞恥心だと思っていたものは、表現者としての第一歩なのかもしれない。

 まだ見ぬ「戦うための自分」を想像し、和美はキュッと体操着の裾を握りしめた。


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