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地味で堅実な第一歩

 新体操部の部長を務めるのは、二年生の佐々木さんだった。この学校で唯一、県大会まで勝ち進んだ実績を持つ、部内でも一目置かれる存在だ。


「よし、全員集合! 柔軟から始めるよ!」


 佐々木さんの凛とした掛け声とともに、部員たちが一斉にフロアに広がった。

 和美には、二年生の落合さんが指導役としてついてくれることになった。


「面影さん、柔軟は怪我防止のための基本だから、しっかりね。でも、初心者がいきなり無理をすると逆に筋を痛めちゃうから。まずはゆっくりと背中を伸ばして……。――あら、あなた、結構体が柔らかいわね」


「はい。クラスの女子からも、よく体が柔らかいって言われます」


 落合さんの補助を受けながら体を折り曲げると、和美の額はすんなりと膝についた。鏡に映る自分の姿勢を確認しながら、二十分ほどかけて全身の節々を丁寧に解きほぐしていく。


 十分に体が温まったところで、次の指示が飛んだ。


「次は外周! 列を乱さないように、ゆっくり十周!」


 佐々木さんのリードで、体育館の中を回るように走り出す。和美も慌ててその列に加わった。

 新体操といえば、華やかなリボンやボールを操る優雅な姿を想像していたが、現実はもっと泥臭い。規則正しい足音が体育館に反響し、じわじわと体力を削っていく。


 十周を走り終え、肩で息をしながら一休みしていると、和美は隣にいた落合さんに素朴な疑問をぶつけてみた。


「あの……演技の練習じゃなくて、ランニングがメインなんですか?」


「ふふ、そう思うよね」


 答えてくれたのは、いつの間にかそばに来ていた部長の佐々木さんだった。


「一見、優雅に見える試技だけど、実はものすごい運動量なの。最後まで集中力を切らさずに踊りきるには持久力が不可欠。だから、こういう基礎体力の養成は欠かせないのよ」


「そうなんですね……。新体操って、もっとこう、すぐにリボンとかを振ったりするものだと思っていました」


 和美が苦笑いしながら答えると、佐々木さんは周囲を見渡して付け加えた。


「あ、そういえば、杉浦先生の姿が見えないでしょ?」


 言われて気づけば、先ほどまで指導していた顧問の姿がどこにもない。


「先生、たぶん職員室でテストの採点でもしてるんじゃないかな。普段はあんまり練習を見に来ないのよ。今日はあなたがいたから、しばらく様子を見ていたみたいだけどね」


「先生がいなくても、みんなあんなに真面目に練習してるんですね……」


「それが私たちのスタイルだから」


 佐々木さんは誇らしげに微笑むと、「休憩終わり! 次はステップの練習!」と再び声を張り上げた。


 華やかなレオタードも、きらびやかな手具も、今日の練習には登場しなかった。

 新体操部は、名前から連想していた華やかなイメージよりも、ずっと地味で、そして驚くほど堅実な場所。


(でも、嫌いじゃないかも)


 額に滲む汗を拭いながら、和美はこのストイックな空気の中に、自分が少しずつ溶け込んでいくのを感じていた。


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