放課後の甘い誘惑
放課後、結愛たち数人のグループと一緒に変えるのが、最近の和美の習慣になっていた。
かつて「男の子」として駆け回った慣れ親しんだ街並み。そこを今、少女として、少女たちと肩を並べて歩いている。不思議なことに、そこに違和感も恥ずかしさもなかった。まるで最初からこうなることが決まっていたかのように、世界は自然に和美を受け入れていた。
「ねえ、今日も寄っていこうよ!」
誰かの声を合図に、一行は道中にあるテイクアウト専門のカフェへ吸い寄せられる。
ここでソフトクリームを買うのが、彼女たちの密かな「決まり事」だ。和美は、濃厚なミルクが自慢の『北海道ソフト』をカップで注文した。
「和美、コーンにしなくていいの? 最後まで食べられるし、そっちの方がお得じゃない?」
隣で結愛が、不思議そうに自分のコーン付きソフトを見せびらかしてくる。和美は苦笑しながら首を振った。
「うーん、なんか手が触れたところを直接食べるのが、どうしても気になっちゃって……」
「あはは! 和美って意外と繊細っていうか、お嬢様っぽいよね」
「『意外』は余計でしょ」
和美の返しに、女子たちの笑い声が弾けた。
甘いものを片手に、中身のないおしゃべりに花を咲かせて歩く。かつての自分なら「格好悪い」と一蹴していただろう光景。けれど今、その柔らかな女子の環の中に自分がいるという事実に、和美は言いようのない充足感を覚えていた。
こうした「女子としての時間」は、家族の間でも少しずつ形を変えていた。
ある休日の外出中、お父さんが頼みもしないのに、あちこちで甘いものを買って持ってくることがあった。
「はい、和美。これ、美味しいらしいぞ」
「……父よ。私をデブにしようとしているな?」
和美が冗談めかしてジト目で睨むと、父は慌てて首を振った。
「そんなことない。和美は全然デブじゃないぞ。……あ、でも、この鯛焼きはあげないからな。これはお父さんのだ」
「えっ! 私の分じゃないの!? 期待させといてそりゃないよ!」
まるで漫才のようなやり取りに、隣を歩く母がクスクスと肩を揺らす。
「ふふっ。和美が『息子』のままだったら、お父さんもこんなにデレデレして、一緒に買い食いなんて出来なかったでしょうね」
母のその言葉に、和美は鯛焼きを奪い取ろうとした手を止めた。
かつて、父と並んで歩いていた時の、どこか距離のあった「男同士」の空気。それが今は、甘くて少し騒がしい、温かな家族の風景に塗り替えられている。
(……息子だったら、か)
父が差し出してくれた一口分の鯛焼きを頬張りながら、和美は思う。
失ったものは確かにある。けれど、女の子になったからこそ手に入れられたこの幸せな時間を、今は大切にしたいと心から感じていた。
次回投稿は週明け月曜日6月1日の午前6時です。




