女神と眷属
「その答えを教えてしまったら面白くありません。なのでまたクイズです。何故、信仁君は最愛の人と半永久的に過ごせる世界を捨てて日本にいたのか…何故、1500年でその最愛の人との生活に終止符が打たれたのか…千弦さんはどう考えますか?」
千弦はセッテに問い返され、思考を巡らしてこうであればいいという希望を言葉にするがすぐにそれが違う事に気付く。
「魔王…獣王が復活しなくなって勇者としての異能…不老不死が必要なくなって信仁は最愛の人と一緒に死んだ…でも、不老不死だから死ねないだろうしそれなら何故日本に…そうか、記憶も異能も何もかもが取り上げられた…それで日本で子供からやり直した…それでセッテが信仁を見つけて…でも何でだ…?」
「ふふっ。流石に千弦さんでもわかりませんか。ならヒントを…信仁君は前の世界、最後のループで最愛の人の死を別の形で見届けてます」
「っ!?」
千弦はセッテのヒントを聞き、顔を伏せながら答えを言う。
「最後のループ…獣王を討伐しようとして最愛の女性が獣王に殺された…その後、信仁は獣王を倒して何らかの形で今後獣王が復活しない様に封印等をして女性を探した…けど、見つかる事は無く、信仁は何らかの方法でようやく日本に戻ってきた…」
「はい、正解です。信仁君は獣王が二度とその世界が現れない様に自分の中に閉じ込めました。それがこの世界で魔王の因子として信仁君の身体にあります。でも信仁君は最初から魔王の因子が自分の身体に取り込まれているのなんて知りません。しかもその因子は魂に根付いていたので肉体を初期化しても意味を成しませんでした。だからネシアの世界で魔王を倒した時に魔王の因子が取り込まれたと思ったのです。そして話は戻りますが、最愛の女性がまた輪廻転生で生まれ変わっていると思って何年、何十年、何百年と探しましたが見つかる事はありませんでした。獣王に殺され、生まれ変わるはずだった彼女の魂はその世界から消えてしまったのです。それを知った信仁君は己の命を、自分の中に封じた獣王ごと殺す為に死に続けられる場所を探して辿り着いたのは活火山。その活火山のマグマの中に身を投げて身体が再生されてもすぐに死ぬようにしました。そして死んでは生き返るという事を長い間繰り返した時、信仁君をその世界に連れてきた神が見かねて信仁君の異能も記憶も何もかもを消し去って、元の日本に子供の姿で転生させました。これが私と出会う前の信仁君の生い立ちです」
「そんなの………救いが何もないじゃないですか……」
千弦は涙を隠す事もせずに声を荒げながらセッテを問い詰める。
「何で!?何でまた信仁を呼んでしまったんですか!?信仁はまたこの世界で最愛の人を無くしてしまったんですよ!?貴方の求めるモノがあるって言われて信仁はそれを信じてこの世界に来てしまったんですよ!?何で何ですか!?」
セッテはそんな千弦を愛おしそうに見つめ、また千弦の涙を拭って何故、自分が桜庭 信仁をこの世界に呼んだのかを告白する。
「そんなに泣いていたら泣き虫になっちゃいますよ?何故、私が信仁君をこの世界に呼んだか…その答えは今、千弦さんが言った通り『この世界に信仁君が求めているモノがあるから』ですよ」
セッテの口から強調されて言われた『この世界に信仁が求めているモノがある』という言葉を噛み砕いて思案すると、ある事に気付いて千弦は目を見開いて問う。
「…ま、まさか……彼女の魂はこの世界で転生している…!?」
「はい、正解です。信仁君が求めていた最愛の人…その人の魂はこの世界ネシアに行きつき、とある女性へ転生しました。もう、わかりましたか?」
千弦は思い当たるたった一人の女性の名を信じられないと言った表情を浮かべながらセッテへ告げる。
「……信仁の事を殺そうとしていた暗殺者…シンシアさんですか…?」
「はい、大正解です」
セッテは千弦の回答に満足いった様で満面の笑みで千弦の顔に付いた涙の痕を綺麗に拭き取りながら言う。
「私は時と空間、人の繋がりを司る女神です。全ては何もかも繋がっている…それはとても素敵でとても面白くありませんか?信仁君は最愛の人と異世界で繋がって、切れてもまた異世界で繋がる。千弦さんは信仁君と同じ日に私と出会い、勇者と魔王として相対して繋がり、ここで千弦さんの世界を変えた私と繋がってる。全ては一つの繋がり、そしてその繋がりの先にはたった一人の女神…それが私、セッテなんです」
千弦は頭の中で全ての歯車が嵌った様な錯覚を覚え、急に今までのもやもやした何かが消えていくのを感じながらセッテを見つめる。
「人の繋がりを司る…はは…本当にすごいですね…」
「ふふっ。私が那奈ちゃんを転生させなかったら私は那奈ちゃんの未練から千弦さんを見つける事は出来なかったです。那奈ちゃんとセッテ…ふふふ。どんどん繋がっていきますね?」
「ええ、本当にそうですね…という事は、まだシンシアさんの魂はこのネシアにある…蘇生の可能性がぐんと上がる…後は僕が信仁からまお『その事ですけどシンシアさんの魂は今、ネシアにはありませんよ』うの…え…?…えええ!?!?ど、どういう事ですか!?」
またテーブルに身を乗り出し目を見開きながらセッテに問いかけると、セッテは千棘の表情が面白かったのか声を漏らしながら笑う。
「ふふふふっ…んんっ!…すみません、千弦さんの百面相が面白くてつい…最初の方に言った事を覚えてますか?」
そう言いながらセッテは自分の後ろに手を伸ばし、何かを探りながら千弦へ問いかけ、その返答を待つ。
「さ、最初…」
「ここがネシアと時間関係が無いと言った事ですよ。何で時間関係が無いと思います?」
「な、何で…それはセッテが時を司る女神だから…?」
そう答えた千弦にセッテは首を軽く横に振りながら何もない所から透明な瓶を取り出してテーブルの上に置く。
その瓶の中に白い光が浮いており、時折激しく明滅したりしていた。
セッテはその瓶を優しく撫でながら千弦へ瓶の正体を問う。
「…これ、なんだと思います?」
「光が浮いてる…?何かの魔道具みたいなもの…ですか?」
セッテは口の前で両の人差し指を重ねてバツ印を作りながら瓶の正体を明かす。
「ぶぶー、不正解です。正解はシンシアちゃんの魂です」
「……え?…シンシアさんの魂!?!?な、何でここにあるんですか!?!?」
「ちょ、ちょっと瓶が危ないですよ~?割れたらどっか行っちゃいますよ?」
千弦はまたテーブルに身を乗り出したが、セッテが少し焦ったように瓶を抱えて窘める。
「す、すみません…な、何でここにシンシアさんの魂があるんですか…?さっきネシアの世界には魂はない…あっ」
「気づきましたか?ここはネシアの世界と時間関係が無い…いわゆる世界と世界の狭間…だからネシアにはないと言いました。だって世界と世界の狭間にシンシアちゃんの魂はあるんですからね」
千弦は肩を落としながら両手を上げて降参と言ったポーズを取り、セッテはそんな千弦を見て嬉しそうな表情を作りながら何故ここにシンシアの魂があるかを説明する。
「何でシンシアちゃんの魂がここにあるか…それは信仁君がシンシアちゃんの遺体を大切に保管してるからなんですよ」
「大切に保管してるからここに魂がある…?」
「そうです。輪廻転生って言うのは有が無になり、無が有になる…簡単に言ってしまうとリサイクルなんですよ」
「…一気に現実味というか…スケールダウンしましたね…でもそう言う事なんですね…信仁がシンシアさんの身体を保管している限り、新しく生まれ変わる事は出来ない…」
「とてもわかりやすいでしょう?そして今、千弦さんが言ったことは正解です。信仁君は前回の記憶を既に無くしているのでシンシアちゃんが信仁君が本当に求めていたものだと気づかなかっただけで既に手に入れていたんですよ。シンシアちゃんも今までの世界とは違う世界だから懐かしさも何も感じなかった…そんなすれ違いから生まれたのが今回の悲劇の正体です。だから私は嘘はついていませんし、恨まれるような事はしていないですよ?」
「そう言う事だったんですね…流石人の繋がりを司るセッテ様…と言う所ですね」
「ふふふ。褒めても知ってる事しか教えれませんよ?」
「それが何よりありがたいですよ…それで、シンシアさんの魂を僕に見せたという事は…蘇生できる、と思っていいんですね?」
千弦の問いを聞いたセッテは顎に指を当てながら、悩むように頭を左右に揺らす。
「ん~…それがですねぇ…方法が二通りあるんですよ…」
「方法が二通り…?」
「ええ、一つは大切に保管している身体にこの魂を戻して蘇生する…千弦さんが今考えている方法ですね」
「そうですね…最初はそうするつもりでしたが…もう一つの方法…まさか、遺体を燃やして新しく輪廻転生させる…」
セッテは両手で輪っかを作りながら千弦に言う。
「千弦さん、大正解です~!ふふふ…やっぱりいいですね~…そう、二つ目の方法は輪廻転生。今ある古い身体を無に帰し、新しい身体として生まれ変わる事。千弦さんはどっちがいいと思いますか?」
「どっちがいい……んんんん…」
「私的には、酷い死に方をしてしまった今の身体より、新しい身体で最初からやり直す、今までの方法がいいと思うんですけどね~」
セッテの言葉で千弦は信仁が言っていた酷い死に方を思い出し、頭を抱える。
「…確かに…でもこればっかりは本人の意思が…でも前の記憶はないから説得の材料が無い…それに輪廻転生だと記憶が無くなる…輪廻転生を選んだらさっきの話を聞く限りでは死ぬまで信仁の事を思い出せない様だし…同じ人だって証明するなら今の身体で蘇生しないと…でもそれだと酷い事をされた記憶も…」
「悩んでる姿もいいですけど、やっぱり笑ってた方が素敵なのでお手伝いしてあげてもいいですよ?」
「お、お手伝い…?」
「ええ、お手伝いです」
そう言いながらセッテは千弦の目を覗きこむように顔を寄せながらお手伝いの内容を伝える。
「今、千弦さんの両眼には私の権能である時と空間の象徴が刻まれてます。いわゆる私との繋がりですね。私が一時的に千弦さんの身体を借りて信仁君に真実を伝えてあげてもいいですよ?」
「一時的に僕の身体…まさか、僕もセッテの依り代になったんですか?」
「ええ、正直、那奈ちゃんよりは適合しないと思いますが出来ますよ?」
「そ、そうなんですね…ならお願いしてもいいですか…?」
「ふふ、いいですよ。千弦さんのお願いなら出来る限り聞いてあげます」
「ありがとうございます…」
千棘がお礼を伝えると鼻が当たりそうな距離からセッテは顔を引き、紅茶に口を付けて一息つく。
「これでこれからやるべき事は決まりましたが…まだ、根本的な解決が出来てないのを忘れてないですか?」
千弦はセッテに言われ、ネシアの自分が死の淵に立っている事を思い出してハッとする。
「…まだ死んでいない…死の一歩手前なんですよね、僕…」
「そうです、忘れてなくてよかったです。本当であれば千弦さんは信仁君に負けるのはあり得ないんですよ?」
「え…?あり得ない…どうしてです…?」
千弦は一撃で自分の事を死の淵に追い込んだ信仁に負ける事はあり得ないと言われ、首を傾げながらセッテに問う。
するとセッテは頬を膨らませ、少し怒ったような表情をしながら両の人差し指で自分の両眼を指差してアピールする。
「んっ!これですこれ!」
「これ…両眼?」
「そうです両眼です!私の権能である時と空間を操る眼があるのに何で使わないんですか?」
「この神眼…この神眼がどういったものかまだ全然わかってなくて…」
千弦がそう言うとセッテは呆れた様に頬に貯めた空気を吐き出しながら問う。
「はぁ…千弦さん、極度の廃人ゲーマーでしたよね…?何で、新しいモノがアップデートされたら調べたりしないんです…?ゲーマーは検証するのが醍醐味でしょう?」
「うっ…た、確かにそうですけど…」
「新しいイベントが来たら絶対に調べ尽くしますよね?」
「はい…」
「新しいスキルとか魔法が出たらどういった効果とか、攻撃力がどれだけとか、消費するMPとか触媒とか調べますよね?」
「その通りです…」
「じゃあ何で私があげた権能は調べないんですか!?そんなに私があげた権能は気に入りませんでしたか!?」
「ご、ごめんなさい…エルリとルエリを助ける事に集中して後回しにしてしまいました…」
千弦はどんどん肩をすぼませて小さくなり、それに比例してセッテの頬は膨らんで怒っている事を主張してくる。
「…まったく、せっかく私があげた凄い権能なのに…」
「ごめんなさい…その凄い権能について教えてもらってもいいですか…?」
セッテはそっぽ向きながら紅茶を飲もうとしたが、ティーカップの中身がない事に気付いてんっ!と言いながら千弦に差し出し、紅茶を入れさせてすぐに飲み干して盛大に息を吐く。
「はぁぁぁぁ…わかりました。教えてあげるのでちゃんと聞いててくださいね?」
「は、はい!お願いします!」
セッテはんっと咳ばらいをし、右眼を指さしながら千弦へ説明する。
「まず、既に力の一端を使った右眼の権能についてです」
「右眼の権能…空間の権能ですよね?」
「そうです。その右眼は空間を象徴する箱の模様で、目に見えないもの…例えば結界であったり、透明になった何かであったり、普通では見えないもの…そして千弦さんの目の前で起きる事象と存在するはずのない事象を見る事が出来るのです」
「目の前で起きる事象と存在しない事象…?どういうことですか…?」
「簡単に言ってしまえば未来視と同じような事が出来るんですよ」
「み、未来視と同じ事…?」
「同じ事じゃなく同じような事です。千弦さんは事象って言うものはわかりますか?」
「あれですよね…数学とかで言うなら、同じ条件下でサイコロを振ってどの目が出るか…それを繰り返した時の結果の事を事象…でしたよね?」
「そうですね。サイコロで例えてしまうと、1の目が出るという『事象』が起きたとします。その世界線では1の出目だったが故に存在しない事象が発生するんです。1の出目が出た世界線では残りの2、3、4、5、6の目が出るという『存在しない事象』も、1の出目が出た『事象』の裏側に同時に存在するのですよ。そして今、千弦さんが私に攻撃しないという『事象』が起きている裏で、千弦さんが私に攻撃するという『存在しない事象』も起こっているのです」
セッテの説明を聞いた千弦はその内容を噛み砕き、自分が理解出来る様に纏めて確認する。
「だから未来視と同じような事ですか…前に向かって歩く事象の裏には横に、後ろに、斜めに、その場で立ち止まったり飛び跳ねたりする事象も隠れている…そしてこの右眼で起きている事象と起きなかった事象を見比べて、自分で好きな事象を選べてしまうという事ですね?」
セッテは千棘がしっかり理解している事に頷いて笑みを浮かべながら未来視とは違う部分を捕捉する。
「そう言う事ですね。でも、アイシャ・フォン・セルベレス・アクエリアの様に何年も先を見るというのは出来ませんから相手が起こす事象に対してこちらはその事象に一番有効な事象をぶつける事が出来る…結果がわかる先読み、後出しジャンケンみたいな感じですね」
「なるほど…じゃあ、今回僕が腹を対物ライフルに撃たれたという事象の裏に、避けていた存在しない事象を右眼の権能で見て、避ける事が出来たと…」
「その通りです。もし、ちゃんとその右眼を使えていたならば誰も傷つくことは無かったんですからね?」
千弦はセッテの言う通りだと項垂れるが、その右眼の権能を使うのにはリスクがあった事を伝える。
「は、はい…でも、神眼を使うと負荷が強すぎて目から血が出てポーションや回復魔法で治らなかったんですけど…そのリスクって…」
千弦の問いにセッテは首を横に振り、千弦の額を指でつつきながら答える。
「それは千弦さんの眼の使い方が間違っているからですよ。もし、10の力しか出せない機械に100の力を無理やり出させようとしたら、どうなってしまいますか?」
「確実に壊れるか、壊れずに10の力しか発揮しない…力を出せても出せなくても、無理に使用すれば次使う時に支障が出る…」
「つまりはそう言う事です。ちゃんとした使い方じゃなく、間違った使い方で10の力しか使えないのに無理に100の力を使おうとしたら眼は破裂しちゃいます。何故、回復魔法やポーションで治らないか…それは神の力を使って傷ついてしまったからです。千弦さんの好きな『SL』で例えるなら、最上級魔法でかけられた呪いは初級魔法の解呪じゃ解けない…優先度が違うんですよ」
「神の力で負った傷は同じぐらいの力じゃないと治す事が出来ない…そう言う事だったんですね」
千弦がエルリとルエリを助け出した方法は自分の眼が永久的に見えなくなる可能性のある綱渡りの賭けだったという事を知り、背筋に汗が流れていくのを感じ取った。
「だから無理に使おうとせずに全ての説明が終わった後に少し練習してくださいね?」
「わかりました…左眼…時の権能はどういった事が出来るんですか…?」
セッテは左目を指差しながらこれはですねと答える。
「そのままの権能です。時を操る事が出来ますよ?」
「時を操る…時間の巻き戻し、停止、未来への早送り…という事ですか?」
「ええ。でも時を戻したり止めたり早めるのには限度があります。今の千弦さんなら…2秒が限度ですね」
「2秒…」
千弦にとって2秒はとてつもなく長い時間に感じて2秒の時間をどう活用出来るか思案する。
もし2秒時間が止まったらどれだけ有利に動けるのか、もし2秒時間を巻き戻したら何が出来るのか、もし2秒早送りが出来るならどれだけの事を飛ばして行動出来るのかを考えているとセッテが話し始める。
「そうです、2秒です。これはちゃんとした使い方をして、最大の効果を発揮して2秒です。初めて使ったのが右眼でよかったですね?もし、左眼を右眼と同じように使っていたら一瞬で弾け飛んでいましたよ?」
「はじけ…っ…確かにあの使い方はセッテの話を聞いた後だと間違ってると自分も思います…」
セッテに言われ、自分がどれだけ危ない使い方をしていたのか理解して眼が破裂してしまった時の事を考えて身体を震わす。
セッテは千弦がしっかりと最悪の事態を把握したのを確認して首を縦に振り、真剣な表情を少し崩しながら話を続け、神眼の本当の使い方を教える。
「それがわかってるなら安心です。ちなみに、片方ずつではなく両眼を一緒に使う事で本来の力を発揮出来るという事を解っておいてください」
「両眼を同時に使う?」
「時を止めて事象を読み解いたり、時間を早めて事象をすぐに起こしたり、時間を戻して起きるはずだった事象を無かったことにする…本来はそういう使い方をする眼なんですよ?どちらか片方だけの権能だと恐ろしく反射神経のいい人や、未来予知に匹敵するような感を持ってる人なら突破されてしまう場合があるんです。だから両方を使い、どれだけ優れていてもそれを無意味にする…そんな権能なんですよ、その両眼は」
セッテの説明で千弦は一瞬で理解してしまう。
片方ずつの権能でも十分反則なのにも関わらず、両方の権能を同時に使い、相手の成す事を全て事前に封じ込めてこちらの事象だけを押し付ける事が出来てしまう…どんな強力な武器や防具、魔法、魔道具、作戦があったとしてもその全てが封じられてしまえばただの的…そんな事を理解した千弦は自然と声が大きくなる。
「そんなの何でもありのチートじゃないですか!?自分の不都合な事象は時を戻して無かった事にして、そこからその事象を起こさない様にさせて、こちらの事象をノーリスクで相手に押し付ける…この力は本当にヤバい…」
「だから千弦さんは信仁君に負けるはずがないんですよ。ネシアの世界で千弦さんを殺せるのは千弦さん本人と神…後は事象を改変する間もない圧倒的な力の奔流以外ないのと同じなんですよ」
「圧倒的な力の奔流…」
「千弦さんを中心に半径100キロほどのマグマが一瞬で落ちてきた時、千弦さんは生き残る自信がありますか?」
「それは絶対に死にますね!?」
今、千弦の頭上にそんな即死するようなマグマが落ちてきたら時を戻して2秒前から全速力で走って時間を止めて2秒稼ぐ…たった4秒で100キロを走るなんて絶対に無理だと悟り、圧倒的な力の奔流というモノを理解する。
「そう言う事です。こと戦闘においては生物の頂点に立ったと言っても過言ではありません。唯一の敵は次元の違う者達と事象…と言う所ですね。この力は悪い人に渡せば世界を必ず滅ぼせる力になるんです。千弦さんはそう言う事しないと信じているので私の権能を与えました…だから裏切らないでくださいね?」
とんでもない権能を授かってしまったという自覚が千弦に重くのしかかってくるが、ゆっくりとしっかりとセッテを見つめながら頷く。
「わかりました……最後に人の繋がりの権能…これは?」
最後の権能…人の繋がりの権能について問われたセッテは自分の胸に手を当てながら最後の権能について語っていく。
「人の繋がり…目に見えない人の繋がりを感じ取る権能です。人の繋がりには色々な物があるんですよ?一番わかりやすいのは人と人…私と千弦さんの繋がり、これが一番簡単ですね」
「そうですね、真っ先にそれが思い浮かびました」
「なら、他の繋がりは想像できませんか?」
「他の繋がり…?…人と動物とか、ですか?」
セッテは頷きながら、他にもある人の繋がりを指を一本ずつ折り曲げながら数えて伝える。
「その繋がりもありますね。他にも人と物であったり、人と空間…これはその人の思い入れのある場所、昔住んでいた家だったり土地だったりとか…結婚した記念日とか、お祭りとかは人と時間の繋がりですね。色んな事に人の繋がりというのはあるんです。それを直感として千弦さんに教えてくれるという権能なんですよ。…心当たりがあるんじゃないですか?」
セッテに言われた心当たりをしばらく探っていると千弦は心当たりを見つけ、セッテに伝えてそれが権能で感じ取った事なのかを確認する。
「…確かに…信仁が僕の母さんと信仁が作ったオートマトンの話を聞いた時、直感的に何か感じましたね…これは人とその出来事に関わる繋がりという事で感じたものですか?」
「ふふふ、その通りです。何事も何かに繋がっている…それがわかる権能と言った所ですね」
「…はは…半端なくチートの女神様じゃないですか…」
「そうなんです、実は私は凄いんですよ?」
セッテはそう言い豊満な胸を張って誇らしげに微笑む。
千弦はそんなセッテを見ながらクスクスと笑い、立ち上がって海へ歩いていく。
「セッテ、素晴らしい権能をちゃんと使えるようになりたいから今から教えてくれませんか?」
セッテも千弦が早く試したくてうずうずしているのを感じ取り、クスクスと笑いながら千弦の元へ歩いていく。
「ふふふ。新しいおもちゃを買い与えられた子供みたいですよ?」
「僕はセッテから授かったこの権能で仲間を守れるならどんなに子供にでもなります。だから僕に、仲間を守る為の新しい力の使い方を教えてください」
千弦は満面の笑みをセッテに向けて教えを乞う。
セッテはその千弦の笑みを見て寂しい気持ちが沸き上がってしまい、言葉に詰まってしまう。
(はぁ…何変な事考えてるのよ私…私は女神なのよ…私は千弦さんの守りたい仲間には加われない…わかってる事でしょ…)
曖昧な笑みを千弦に向けてしまったのにセッテは気付き、取り繕った笑顔を作り直して応じる。
「もちろんですよ。きっとこの権能を使いこなせれば手の届く場所は必ず守り切れると断言してあげます」
そう言いながら千弦の隣に立ったセッテは千弦と一緒に水平線を眺めていると、右手を握られた様な感覚を感じて自分の手に視線を移す。
「え?手…」
「こうやって手が届くんだからセッテからもらったこの力でセッテの事も守ってあげるから、さっきみたいな寂しい顔はしないでよ」
セッテは自分が寂しい思いを抱いた事…自分は女神だから千弦の仲間として傍に居られない…そんな寂しい気持ちを見透かされたと思い、心臓が跳ねあがって鼓動が自分の意志に反して勝手に早くなっていく。
「え、え…?」
「セッテはもう、『僕達の仲間』だよ。女神だからとか関係ない。セッテはセッテだよ。だから僕は自分がどうなろうとも必ず守ってあげるからね」
そう言った千弦の顔は頼もしくも可愛らしい笑顔を見せていて、その表情を見たセッテは町娘の様に顔を赤く染め、女神ではなくずっと憧れていた仲間として…女神ではなく一人の女性として扱われた事も相まって心臓が破裂してしまう程早鐘を打っていた。
セッテは握られていない左手で顔を触り、自分の顔が熱を持っている事を自覚する。
(はぁ…こう言う所なのよ…仲間思いで自分より他人を大切にする…ちょっとした機微も漏らさないでその時に欲しい言葉を言ってくれる…ずっと千弦さんの傍に居る仲間達が羨ましかった…自分の命を投げ捨てて、ルノアールちゃんを助けた時……きっとそこで千弦さんを好きになっちゃったんだろうな……やっぱり女神って言っても女神になりたての新米女神って事かな…)
そんな事を考えながらセッテはそっぽ向きながら千弦に言う。
「そうですか…私はめちゃめちゃ強いので守られる必要はないと思いますけどね?」
千弦はそっぽ向いたセッテの耳が赤くなってるのに気付き、手を離してセッテの前へ移動して見つめる。
「な、なんですか?」
「ならセッテからもらったこの権能を使いこなしてセッテより強くなって守ってあげるよ。だから使いこなせる様になるまで教えてね?」
笑顔で言われたセッテは心臓が跳ねたのを感じ、惚れた方の負けだと認めて恥ずかしそうな笑顔を作りながら言う。
「しょうがないですね…早く使いこなして、わる~い神様から私の事を助けてくださいね?」
「僕の全力を以って、女神セッテの盾となり、剣となりましょう…」
二人だけの浜辺で女神は嬉し涙を流し、眷属は此処に女神への忠誠を誓う…。




