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再始動 -Second Life on-line- そして第二の人生が始まる  作者: 絢奈
第六章 天使の使いと巨龍の使い
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第二ラウンド

 女神と女神の眷属は全てが静止した世界で向かい合って立っていた。



 静止している証明として二人が立っている浜辺…すぐ近くにある巨大な水溜り…海は波の動きが全て止まっており、写真で切り取った様な世界が広がっていた。



「そこまで」



 女神の一言で静止画の世界が本来の動きを思い出したかの様に動き始めた。



 そして女神の一言の後、眷属は夥しい量の汗を流しながら前に倒れ込み、ごみなどが一切存在しない綺麗な砂浜に顔を埋めて荒い呼吸を繰り返す。



 口の中に砂が入るのもお構いなしに呼吸を整えていた眷属は倒れ込んだ自分の頭上に移動してきたであろう女神に意識を集中させ、顔を砂浜に埋めたまま女神に視えたものを伝える。



「これからセッテは左手人差し指一本立てる…存在しない事象は右手親指を立てる…」


「はい、正解です千弦さん。今の事象と存在しない事象をしっかり見極める事が出来ましたね」



 セッテはしっかりと両眼の権能が使えている事に笑みを浮かべ、口の中に入った砂を吐き出している千弦を見つつ何もない場所から濡れたタオルを取り出して渡す。



「…ありがとう。…何秒止められた?」



 千弦の問いにセッテは嬉しそうな声色で問いに答える。



「すごいですよ?4()()止める事が出来ました。()()()()()()で2秒から4秒まで伸ばすなんてとてもすごいですね?」


「もっと長く止めてたつもりだけどまだ4秒か…でも時と空間の権能同時使用はかなりきついね…なんていうか、魔力じゃない何かを使ってる感じがする」


「神の力ですからね…まぁ、あえて名前を付けるなら神力(しんりょく)とでも呼びましょうか。この神力は魔力やスタミナ、生命力とは違うので酷使すればするほど上限値は増えると思います。信仁くん相手なら4秒あればすぐに決着をつける事が出来ると思いますよ?」


「そうだね…後は相手が他にどんなチートを持っているかわからないから初手で一気に決めに行きたいな。開戦の蹴りで物理無効とか完全反射とかそういう能力はないのはわかってるんだけど、まだ魔法に対しての耐性がわからないからやっぱり時間を止めて物理で一発か…」


「ふふっ。あの魔王の様な立ち振る舞い、とてもかっこよかったですよ?」


「でしょ?魔王って言ったらあんな感じかなって…ふぅ、やっと眼に神力が満ちたって感じがするな。一週間ずっと酷使してたから久々に全快って感じがするね」



 千弦は身体に付いた砂を綺麗に落とし、自分の眼に不思議な力が水滴が落ちていく感覚で満ちたのを感じる。



「まぁ、ここは神力が満ちてますからね。千弦さんは今、()()()が神と同じ構造になっています。今後、その目を正しい方法で酷使していけば身体全体に神力を貯める事が出来るでしょう」


「なるほどねぇ…なんかこう、魔力と生命力を変換して神力に出来たりとか、神力を補充しておくものが必要になるな…わかった、ありがとうセッテ」


「ふふふ…私に出来る事なら叶えられる限り叶えさせてもらいますよ」


「そっか…じゃあさ」



 千弦は満面の笑みを浮かべながらセッテにして欲しい事を伝える。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……はい?」



 セッテは千弦の突拍子もないお願いを聞いて言っている意味は分かっていたが何故そんな事をしないといけないのかと思う。



「だからここじゃなくて、ネシアで活動出来る身体だよ。依り代とかじゃなくて本当の身体」


「な、何故です?依り代の那奈ちゃんと千弦さんが居れば私はネシアの世界に行く事は出来ますよ?…まさか、私とデートしたり結婚したりしたいんですか?」


「何でそっち方向に行っちゃうの…僕が興す国に来て欲しいんだよ」


「千弦さんが興す国…ですか?」


「そうそう。母さんから聞いたけどさ、セッテってまだ信仰され始めて日が浅いんでしょ?なら僕が興した国で信仰集めしようよ」


「信仰集め…」



 信仰を集めるという言葉にセッテは顎に指を当ててしばらく考え込み、ゆっくりと首を縦に振る。



「そうですね…わかりました。でも依り代じゃなく私の本体を作ると言ってもかなり時間がかかりますよ?」


「大丈夫、すぐに国も身体もできるとは思ってないし、戦う力が無くても大丈夫だよ。…それに()()()()()はあるんだ」


「…そうですか。戦力に問題がないんでしたら外側だけ作る事にすれば割と時間は短縮できますね…ならとびっきりの美女を作っちゃいますね?」


「あはは…まぁ、その辺は任せるよ。…さて、そろそろ戻って魔王の信仁を殺して魔王の因子を抜き取ってくるか…」


「そうですねぇ…でも、死にかけてる事を忘れないでくださいね?それと千弦さんが蘇生するつもりなんですか?」


「うん。だって僕が一年も眠ってたのってセッテが封印を施してたからでしょ?」


「そうですけど…まぁ、信仰を集める手伝いをしてくれると言う事でサービスで信仁くんとシンシアちゃんは私が蘇生してあげます」


「ほんと?ポーション飲み続けると流石に厳しいから本当に助かるよ。…ならそろそろあっちに戻ろうかな…」



 千弦はそう言うと何かを探すように手を伸ばすがある事に気付く。



「あ…ここだとインベントリからアイテム取り出せないのか…」


「当り前ですよ。言ってしまえば今、千弦さんは思念体なんですから」


「それもそうか。じゃあ、身体が出来たらイヤリングを渡すから楽しみにしててね?」


「わかりました。ではそろそろ…一旦お別れですね」



 セッテがそう告げた瞬間、千弦は耐える事の出来ない強烈な眠気に苛まれ、また砂浜に崩れ落ちる。



「う…な…ねむ…」


「元の場所に戻しますから抵抗せずに寝て大丈夫ですよ」



 セッテは千弦の頭を自分の膝の上に動かし、そのまま目を閉じさせるように手を優しくかぶせながらゆったりとした曲調の歌を口ずさむ。



「そ…れ…」


「ええ、千弦さんを育ててくれたナミさんがよく歌っていた子守唄です。那奈ちゃんもこの子守唄でよく眠っていたらしいですよ。…目覚めたらすぐに戦う事になるでしょう…ですが」



 セッテは自分の眷属を慈しむ様に頭を撫でながら伝える。



「貴方は私の大切な眷属です。私から貴方へ渡せるものは全て渡しました。私の眷属はどの神の眷属よりも強くてすごいって事を証明して来てください」



 その言葉を聞いて千弦は口端を上げて意識を手放す…。





 ■





 千弦は生暖かい真っ暗な空間で硬質な何かが激しくぶつかり合っている音を聞く。



 その音の正体を確かめようと身体を動かそうとした時、身体に力が入らず身動きが出来ない事に気付く。



「わらわの母上に何をするつもりじゃ!!人形風情が!!!」



 何かが自分の上を通り過ぎた気がして確認しようとするが、身体をピクリとも動かせずに音だけで状況を確認しようとしていると爆発音が響く。



「そろそろこの魔法を弾くのも終いじゃ!!跡形もなく消し飛ばしてくれるわ!!サプレッション!!」



 聞き覚えのある声が魔法の名前を叫んだ後、自分の近くで液体を踏みつけた様な音を立てながら誰かが自分の身体を抱き起す感覚を覚える。



「大丈夫なのか母上!?」



(ああ…バハムートか…一週間ぶりだけどこっちだと本当に時間が経ってないんだな…)



 するとお腹の辺りからじわじわと暖かい何かが身体の中に巡っていき、指一本ぐらいなら動かせそうになる。



「…まさかこれは魔王の能力…?不死のフェニックスと獣神化してポーションも使い、不得意とはいえ神龍の回復魔法じゃぞ…明らかにこの速度で治るのはおかしいのじゃ…母上の回復力が絶対に癒えない傷を上回ってるからこの速度での回復と考えるのがしっくりくるのぅ…じゃが…まだ何かしなければ母上は明らかに死ぬ…この世界線の母上は明らかにイレギュラー…母上がどうなるかなどわらわには検討つかん…!」



 そんなバハムートの考察を聞いていると不意に懐かしい感覚が自分の中に芽生える。



(この感覚…人を繋げる権能……そっか、遂に君が来てくれるんだねピュリエット…)



「チッ…こんな時に人形遊びをしてる暇はないのじゃ!!!………今度は何なのじゃ!?」



 バハムートが自分の上で大きく息を吸っているのを感じると、激しい音ともバハムートが発した音でも無い、何かが割れるような音と激しい炎の音が聞こえる。



 そしてその音を響かせた者の名前がバハムートの口から発せられる。



「お、お主は…!!ピュリエット殿か!?」



(やっぱりピュリエットか…ほんと、ずっと探してたのに…)



「ごめん、君の事はわからないけど僕は確かにピュリエットだ。それより…コルを助けるのが先だよ。コウちゃん行ける?」


『任せて』



(こ、コウちゃん…!?まさかピュリエットの奴、誰かと結婚…っいや、確かピュリエットの蒼いフェニックスもコウノトリちゃんだった気が…)



 コルはコウちゃんと呼ばれた者の考察をしているとお腹辺りに激しい熱を感じるが、不思議とその激しい熱は心地よく感じた。



「コウちゃん、感動の再会と思ったら千棘が死にかけてるとか冗談キツイよ全く…!!」


『ぐちゃぐちゃ言ってないでもっと魔力を込めて』


「すまぬ、ピュリエット殿、コウちゃん殿!微力ながらわらわも回復魔法を使い続けるのじゃ!!」



(な、なんかピュリエットの話し方が変わってる…!?恋は人を変えるって言うけど…いや、僕が獣神化出来るんだから、きっとピュリエットも出来るよな…)



 明らかに三人の緊迫した雰囲気に似つかわしくない事を考えていたコルは、徐々に身体が動かせるようになっていく。



「す、すごいのじゃ…みるみるうちにあの傷が治っておるのじゃ!?」


「コウちゃんの力を100%引き出してるからね!」


『あたし達の力ならこれぐらい出来て当然なの』



 コルは激しくも心地いい熱を受け入れていた時、不意に我慢が辛うじて出来る激痛に声を漏らす。



「うっくぅ!?…い…ううううううう!?」


「は、母上!!!」


「コル!?今、君の身体を治してるんだ!!きっと痛覚が戻ってきて痛いかもしれないけどもう少しだけ我慢してくれ!!」



 バハムートとピュリエットの声にどうにか応答しようとしたが、激痛のせいで身を捩らせる事しか出来ないコルは必死に痛みを堪えていく。



「ああああっ…!?う…ぐぅ……」



 そしてコルは先程の激痛が嘘の様に収まり、今まで自分の身体とは思えない程力の入らない身体に力が入れられる事を確認する為に、重りでも付けられて閉じられていると感じた目をゆっくりと開けていく。



「ああ…バハムート…ごめんなさいね、心配かけましたわ…それとピュリエット…イメチェンしましたの…?」


「母上…母上!!」



 バハムートはコルが生きている事に感謝する様に抱きしめて小さく鼻をすする。



「全く…久しぶりの再会なのにイメチェンした?は無くない?…それを言うならコルの方こそ水色じゃなくて赤くなってるじゃないか」


『千棘さん、お久しぶりです。お姉ちゃんは元気ですか?』


「あ…あれ?何処からか声が…お、お姉ちゃんとは誰ですの…?」



 コルは何処からかいきなり名前を呼ばれ、心当たりのない姉の様子を伺われた事に焦りながら周囲を見渡すが声の主が居ない事に気付く。



「…幻聴かしら?」


『違いますよ千棘さん。私はピュリエットの中から話してるんです。コウノトリです』


「え、えええ!?ピュリエット、獣神化しながらコウちゃんと喋れるんですの!?」


「じゅ、獣神化…?まぁ喋れるけど…それより、フェイナ達の加勢をしなくていいの?私も戦うよ」


『ゆっくり話すなら魔王を倒してからの方がいいもんね』


「わ、わらわもじゃ!!」



 三人とも力を貸してくれると言ってくれた事にコルは嬉しくなるが、笑顔でピュリエットとコウノトリのコウちゃんに伝える。



「ピュリエット、コウちゃん感謝しますわ。ですが、力を借りるのはバハムートだけで十分ですのでそこで見学していてくださいまし」



 そう言うとピュリエットは表情を渋いものに変えながら言う。



「何言ってるのさ。コルはさっきまでお腹に凄い穴が開いてたんだよ?一人で戦うよりみんなで戦った方がいいよ」


『千棘さんはまだお姉ちゃんの力を全部引き出せてない』


「ど、どうしてなのじゃ?何故わらわだけでよいのじゃ?」



 コルは立ち上がり、膝をついているバハムートと一つになる為にフェニックスとの獣神化を解き、バハムートと見つめながら三人へその理由を伝える。



「死にかけて女神と会いましたぁ。私はその女神の眷属となったんですぅ。その眷属としての初仕事をここで見届けて頂きますぅ」



 コルはフェニックスに引っ張られていた喋り方からいつものコルの口調で女神の眷属になった事を伝えると三人は酷く驚いていた。



 そんな三人を無視しながら驚いた表情のバハムートの頬を両手で優しく包み、バハムートへ問う。



「バハムート、私に力を貸してくれますか?」



 バハムートはコルの問いに驚いた表情から幸せそうな表情に変わり、目を閉じながら忠誠を誓う騎士の様に居住まいを正し、返答する。



「もちろんなのじゃ。わらわは母上の絶対的な力。『わらわ達』は母上の為に道を切り開いて見せようではないか。この身は母上の為にあるのじゃ」


「ありがとう、バハムート」



 コルはバハムートの額に唇を触れさせるとバハムートの身体が光の粒子となってコルの身体を包む。



 頭からバハムートと同じような角が二本現れ、背にも漆黒の翼と腰に強靭な尻尾が現れると水色の髪が黒くなり、目の色が黄金の様な色に変わっていく。



 そしてその瞳は龍の眼と一目で分かるように瞳孔が縦に伸び、いつもの見ていた世界がよりくっきりと映し出される。



 炎のドレスから元のゴスロリ服に戻ったコルは、バハムートと獣神化してまた装いが変化していく。



 手と足にはバハムートの鱗作られた様なバハムートの手足をモチーフとしたガントレットとグリーブが嵌められ、背中の翼と腰の尻尾の動きを阻害しない背中の開いた黒のインナーと、ローライズ気味のホットパンツの姿に変わる。



 そしてコルはバハムートと獣神化した事によって内から湧き出る形あるものを全て破壊出来るような暴力的な力を感じつつ、身体の調子を確かめる。



「ふむ…これが『わらわ達』の力か…尻尾があるから攻撃の択も増えるのぅ…翼は不利になるといかんから仕舞ってしまうのがよかろう」



 背に生えた翼に意識を集中させ、身体の中に取り込むイメージを描いていくと翼が畳まれて背中に溶け込む様に姿を消し、背中を露出した白い肌に漆黒の尻尾が強調される。



「これはなかなかよいのじゃ。ピュリエット、何時まで呆けた面をしておるのじゃ?『わらわ達』の圧倒的な力をしかとその目に焼き付けるのじゃぞ?」


『千棘さんの性格が変わった…?』


「こ、コル…わ、わかった…だけど、こっちまで巻き込まないでくれよ?流石にその身体に内包された力は明らかにヤバい…」


「わかっておる。フェイナ達もすぐここに連れてくるでの、そこからしかと見ておくのじゃぞ?」



 そう言ったコルは一度身を屈め、遠くで激しい戦いを繰り広げている三人を視界に捉えて集中し、嗜虐的な笑みを浮かべる。



「現魔王よ…わらわの頭を初手で射抜かなかった事に絶望するがよい…そしてわらわが次の魔王になってやろうぞ」


『ちょっとピュリエット!?千棘さんが魔王になるって言ってるよ!?』


「ちょ、ちょっとコルどういう事なっ!?」



 ピュリエットの言葉は脚に溜めていた力を開放した事によって生じた爆風すら生易しい衝撃を受けて最後まで紡がれる事はなかった。



 ピュリエットとコウちゃんが捉えたコルの姿は正しく人の形をした黒い災害そのもので、遠くにいる三人目がけて人の形をした黒い暴力が姿を消しては現れるコマ送りの様な移動を繰り返しながら突っ込んでいく。



「な、なんなんだあれ…!?」


『やばい…あれには絶対に勝てない…』



 ダフネの十英傑であるピュリエットは相棒のコウちゃんと一緒に絶対的な力の背を見てその身を震わせながら、この後起こるであろうコルの蹂躙劇の結末を見届ける…。





 ■





(コウちゃんとピュリエットが何か言っておったが…まぁよい)



 コルはコウちゃんとピュリエットが何か言っていたと思いながら左眼の権能を使って時間を0.5秒だけ止めながら瞬発する。



 コルはセッテに授けられた権能の使い方を教えてもらっていた時、長い間止めるのではなく、ほんの少しずつ時間を止めたほうが明らかに消費する神力が少ないという事に気付いていた。



 魔法で作られたであろう特別な空間は右眼の空間を司る権能で視ると所々歪んでおり、遠くの物が近く見えたり近くの物が遠く見える様になっていた。



 フェイナとアルメラが戦っている場所は飛び出した所からかなり遠くで戦っていたようで、爆発的な加速で距離を詰めていても若干の猶予があった。



 そしてコルは右眼の権能で再度正確な距離を測り、射程に入った事を確認して飛び出した時と同じ位の力を脚に溜め、開放すると自然と気持ちが高ぶって叫ぶ。



「わらわが魔王となってお主の悲劇に終止符を打ってやるのじゃ!!」


「「っ!?」」



 フェイナとアルメラは後方からとてつもない力が近づいてくる事を察知し、一瞬で桜庭 信仁…魔王から距離を取り、アルメラは盾を構えているフェイナの後ろに隠れる。



 そしてコルは二人が退避したのを確認し、左眼の時を司る権能を開放して時間を止める。



 魔王はコルの接近に気付き、何やら腕に付いたブレスレットで何かしようとしていたが、そんなのお構いなしで静止した世界で声を荒げながら圧倒的な破壊の力を纏った拳を魔王の顔に向かって振り抜く。



「さっきの一撃の分じゃ!!!!しかと受け取れい!!!!」



 コルの拳は正確に魔王の鼻に直撃したが、停止した世界では殴った時の音も物も動くことが無く、圧倒的なコル達の力をぶつけたとしてもそこには微動だにしない魔王の姿はあった。



 だがコルはそのまま振り抜いた逆の腕を引き絞り、二度目の破壊の力を魔王の腹に開放する。



 それでも微動だにしない魔王の姿に凄惨な笑みを浮かべ、両腕、両足に破壊の力を纏った拳と蹴りを放ち、動かないフェイナとアルメラの後ろに即座に移動して腰をがっしりと抱いて、これから抗いようのない力に蹂躙される魔王に向けて叫びながら止まった世界を動かす。



「死に晒すのじゃ!!()()()()()!!!!!」


「ちーぐえあ!?」


「ちうぐぅ!?!?」



 フェイナとアルメラは後ろから近づいてくるとてつもない力がコルだとわかっており、時間を止める前に名前を呼ぼうとしていたが逆らう事すら許されない力で立っていた場所から動かされてしまい、変な声を上げてしまう。



「悪いのぅ、舌は――――――」



 コルは名前を呼ぼうとしてくれたフェイナとアルメラに謝りながら舌を噛まなかったか確認しようとした時、コルが背を向けた魔王の方から天地開闢に等しいと思わせるような轟音と衝撃がコル達を飲み込む。



 コル自身は自分で放った力だったが故に特に問題は無いが、フェイナとアルメラには耐えられない音と衝撃だと判断し、即座に翼を生やして二人を包み込んで音と衝撃を遮断する。



 その衝撃を利用して暴力的な音と衝撃から抜け出し、先程コルが飛び出したピュリエットとコウちゃんの元へ移動しながら二人も音と衝撃から庇う様にピュリエットの身体を抱きしめる。



「ピュリエット、コウ、悪いの――――――」



 コルはまたも後から追いついた轟音と衝撃に告げようとした言葉を遮られるが、四人の身体を母の様に包んで守り続ける。



 しばらく四人を守り続けるとコルの背中から音と衝撃が鳴りを潜めていき、翼に包んでいるフェイナとアルメラを開放し、腕の中にいるピュリエットの身体を開放する。



「お主ら、大丈夫かのぅ?」


「ち、ちーちゃん!?な、何今の!?流石の私も死にそ…ええ!?ピュリピュリ!?」


「千棘にぃ!?だ…()()()()()!?」


「ぴゅ、ピュリにぃ!?アルメラはそんなキャラだったっけ!?」


『もうめちゃくちゃだからみんな落ち着いて!?』


「ピュリピュリが女の子の声でしゃべった!?」


「何それ腹話術なの!?」


「いやこれは『ええい!主ら落ち着くのじゃ!!!』っ!?」


「まったくお主ら!!身体に大事は無さそうじゃな!?『わらわ達』はすぐに魔王を仕留めてくる故、そこで待っておるのじゃぞ!?」



 コルは皆が驚いて収集が付かなくなってしまった流れを断ち切り、騒いでいる四人が無事である事を強引に確認して魔王の元に先程と同じ様に爆風すら生ぬるい衝撃を生み出しながら近づいていく。



「な、何あれ…ちーちゃんだよね…?しかも私ですら2、3回受けたら腕が千切れそうな攻撃してたよね…?」


「千棘にぃがバハムートと獣神化したの…?」


「あ、ああ…そうだけど…」


『今の千棘さんは神龍バハムートの力を()()()()()()()()()()()よ』


「「「半分!?」」」



 コウちゃんは驚いている三人を無視しながら何故圧倒的な力を発揮しているコル達が半分の力しか出せていないのかを答える。



『まず私のお姉ちゃんと一体…獣神化しておいてあんな大怪我をするなんて()()()()()()。フェニックスは身体が不死の炎で出来てるから()()()()()()()()()()()()はず。なのに大怪我をしていたから力を引き出せてないの。…最初はお姉ちゃんと獣神化していて神龍バハムートと獣神化していないから、神龍バハムートとは獣神化出来ないからお姉ちゃんと獣神化してたと思ったの。だから私達も協力した方がいいと思ったけど、神龍バハムートと獣神化出来るなら今のあたし達は千棘さん達の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()方が絶対にいい』



 フェイナ、アルメラ、ピュリエットはコウちゃんが言った事に目を目を剥きがら絶句し、すぐにフェイナが遠く離れたコルと魔王に向かって盾を構える。



「よくわかんないけどアルメラとピュリピュリは私の後ろにいて!」


「わ、わかったフェイナねぇ」


「あ、ありがとうフェイナ…」


「ていうかさっきからピュリピュリは何で腹話術で喋ってんの!?」


「うん…何でなの?」


「コルと同じようにコウちゃんと獣神化してるんだよ。喋ってるのはコウちゃんだよ」


『そう言う事。細かい事は全部終わってから話せばいいからフェイナさんは守りに集中してください』


「わ、わかった!!」



 フェイナの身を隠すほどの大盾の後ろから四人は顔だけ覗かせ、望遠鏡を使ってコル達と魔王の戦いを遠くから見守っていく…。





 ■





「ぐぅぅぅ!?!?な、なんだ!?ゴホッ!!…ワープしようとしたら…ゲハッ…何が起きたん…!?腕と足が!?ブハッ!?」



 魔王は遠くから強大な力がこちらに近づいてくるのを確認してブレスレットに組み込んだワープで距離を取ろうとした瞬間、見えない強大な力に吹き飛ばされてしまった。



 あまりの衝撃で自分がどうなっているのか一瞬分からず、身体を動かそうとして初めて自分の四肢が砕かれている事と、先程から喉に込み上げてくる熱くてドロドロした物が口から吐き出されてようやく自分の血だと気づく。



 そして魔王はすぐに自分の怪我を治す為に今までの勇者達から奪った能力ですぐに傷を癒そうとすると高圧的な物言いで称賛される。



「ほぉ?先程の攻撃を食らってまだ生きておるとは大したもんじゃのぅ?」



 あまりにも酷い破壊のされ方をした四肢は本来であれば瞬時に万全の状態になるはずなのに全く治らず、顔だけで声の主の方を向く。



「お…前!!最初の一撃…ゴホッ!!殺したはず…!!」



 魔王は殺したはずのコルが無傷の状態で目の前にいる事に驚きながらも憎悪を込めて睨みつける。



 だが、憎悪の籠った視線を受けてもコルは凄惨な笑みを浮かべながら言う。



「わらわの頭を吹き飛ばさなかったのがお主の敗因じゃ。わらわの腹を撃ち抜いた奇襲と、先程のわらわの奇襲で一勝一敗じゃ。そしてわらわはこれから()()らしく()()()()()()()に暴虐の限りを尽くし、魔王の何たるかを教えてやるのじゃ、感謝せい」


「誰がお前なんかに殺されてやるか!!!」



 コルは魔王の叫びと共に自身の後頭部辺りに空間の揺らぎを感じるが、既に右目の権能で何をするのかわかっていた。



「そんな小細工が二度も通用すると思うとるのか?」



 そう言いながらコルは後ろを見向きもせずに後頭部に向かって発射された対物ライフルの弾丸を親指と人差し指で摘み取る。



「こんなものは初見殺しの小細工に過ぎぬのぅ。わかっておればこうやって豆を掴む様に防げてしまうのじゃよ」



 そう言いながら摘み取った熱を蓄えている弾丸を地べたに背を付けて寝ている魔王に近づき、その口の中に放り込む。



「おま、な、なにをし…むぐううっ!?」


「喋るでないわ」



 嗜虐的な笑みを浮かべたコルはせめてもの慈悲としてもう一度だけ問う。



「今からお主を殺して魔王の因子を頂こう。そしてお主は魔王としてじゃなく、魔王となったわらわの仲間としてわらわについてくるのじゃ。その対価してお主が欲していたシンシアとの幸せな人生を送らせると約束してやるぞ?これが最後の慈悲じゃからちゃんと考えてから答えるんじゃぞ。受け入れれば痛みも感じずにお主から魔王の因子を抜き取った後、蘇生してシンシアも蘇生しよう。だがのぅ?もしここで断れば今まで受けた事も無い様な苦痛を味わいながら殺され、魔王の因子を頂いた後にわらわの手によって蘇生される…そしてシンシアも蘇生してわらわの仲間になる。どう転んでもお主とシンシアは幸せな生活を手に入れるのじゃ。今痛みを感じるか感じないかの二択しかお主にはもう残っておらん。賢明なほうを選んでくれるとわらわは信じておるぞ?」



 コルは魔王にシンシアとの幸せな生活を送る為に痛みを感じるか否かの選択を迫るが、魔王は口に入った弾丸を吐き出して魔王なりの返答を轟音と共にコルへ返す。



「…そうか、残念じゃのう。なら今まで味わった事のない痛みに悶えながら、今後の幸せな日常を思い描くとよいぞ。第二ラウンドの開始じゃ」



 残虐な笑みを作るコルの右手の中には先程と同じ弾丸が煙を上げながら握られていた…。

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