魔王の授与式
「だが私は言ったぞ?これは決定事項だ。拒否は許さない」
コルは炎の翼を羽ばたかせ、炎を散らしながら『新たな魔王』として君臨する事を此処に宣言する。
当然フェイナ、アルメラ、バハムートはいきなり自分が新たな魔王になると言ったコルに怒声を響かせる。
「ちょ!!マジでちーちゃんどうしちゃったの!?そんなのおかしいって!!さっきのムーちゃんの話を聞いてたのに何で魔王になっちゃうの!?」
「まさか…さっきの話を聞いてこの世界を本当に滅ぼすつもりになったの!?もしそうなら私達は絶対に止めるよ!!」
「母上!!何故魔王になると決めたのじゃ!?わらわ達は魔王を倒す為にここまで来たんじゃろう!?」
コルは三人の怒声を聞き、掴んでいた桜庭 信仁の顎を投げるように放すとフェイナ達に向き直り、いつもの声のトーンで告げる。
「わたくしを信じた貴女達を裏切る事は絶対にしないと誓いますわ。だから今はわたくしの…『理想の魔王』になる為の授与式を見届けて欲しいんですの」
そう言ったコルの表情はとても晴れやかで魔王になると宣言したとは思えない程フェイナ達を安心させてくれる優しい笑顔だった。
その顔を見たフェイナ達はさっきまで取り乱していたのが馬鹿らしいと言った感じで力を抜いてコルを見つめる。
「…わかった。私達はちーちゃんに何があってもついていくよ。それで間違った事したらみんなで止めてあげるから」
「…私達を悲しませるのは絶対に許さないから。二週間こき使うどころじゃないから」
「この世界線の母上は今までに無い程に自由気ままじゃのぅ…わらわは母上の絶対的な力じゃ。もし、魔王になって世界を滅ぼす事になってもわらわは母上の為に力を振るのじゃ。だから安心して母上が成したい事を成し遂げるのじゃよ」
「ふふ、貴方達が居てくれて本当に嬉しいですわ。これからもわたくしの幸せな覇道に付き合ってくださいまし」
そう言いながらコルは呆けたままの桜庭 信仁へ顔を近づけ、先程の魔王の様な雰囲気を纏い直す。
「それで?現魔王は私に殺されて魔王の因子と魔王の座を明け渡すつもりがあるのか?」
「ば、馬鹿の事をいってんじゃねぇ!!何が決定事項だ!!てめぇの戯言に俺が付き合うわけがないだろ!!俺は神を殺して復讐を成し遂げる!!」
「そうか、なら交渉は決裂だ。…だがな?私が魔王になるのは決定事項なんだよ。抵抗されずに魔王になるか、抵抗されても力でねじ伏せて魔王になるかの違いしかない。光栄に思え、私のおかげでお前が欲していたモノがやっと手に入るんだからな」
「お前はさっきからなにぐあっ!?」
コルは桜庭 信仁が何かを喋ろうとしているのにも関わらず、椅子に座っている桜庭 信仁の腹に前蹴りを叩き込み、玉座ごと後方に吹き飛ばして巨大なホールの壁に叩きつける。
コルは腹に蹴りを叩きこんだ後、炎の翼を羽ばたかせて空を飛び、フェイナ達の後ろに着地すると顎が外れないか心配になるほど口を開けた三人の目がこちらを向く。
「ちょ、ちょ!?ちーちゃん流石にいきなり蹴りはなくない!?」
「アルメラドン引きかも…」
「う、うむ…母上は容赦がないのぅ…」
「だってわたくしが善意で争わない方法を提示してあげたのにそれを断ったのは相手ですのよ?それにわたくしは言いましたわ。魔王を殺して魔王の因子も魔王の座もわたくしがもらう、決定事項なんですのよ。ほら、三人とも呆けてないで戦いますわよ!既にゴングは鳴らされてますわ!」
「「「どの口が言ってるの(じゃ)!?」」」
三人の悲鳴にも似たツッコミを受けたコルは翼から消えない炎を槍の様に飛ばして教皇と信仁のオートマトンを燃やす。
すると攻撃された事を認識したオートマトンは動き出して教皇のオートマトンは無数の魔法陣を描き、信仁のオートマトンは身体を膨張させてコル目がけて一気に瞬発してくる。
「私の仲間達には傷一つ付けさせないから!!」
そう言いながらフェイナは大盾でオートマトンの剣を難なく受け止めると剣と大盾がぶつかった衝撃波が発生する。
「なかなかいい攻撃だけどそんなんじゃ5倍の力を使ってもフェイナちゃんには傷を付ける事は出来ないよ!!」
どんどん加速していくオートマトンの剣技を欠伸でもしそうな程ゆったりとした無駄のない動きで弾き続けるフェイナに教皇のオートマトンが様々な属性の最上級魔法打ち込む。
「そんな魔法なら片手間で防げちゃうんだから!!」
フェイナは信仁のオートマトンの剣技を右手の大盾で防ぎながら左手にも大盾を装備しようとインベントリを操作していると、アルメラとバハムートがその行動を制止する。
「あのくらいなら私が斬る」
「わらわも少しは楽しみたいしのぅ。あの魔法を防いだらわらわに剣を使うオートマトンの相手をさせて欲しいのじゃ」
アルメラは背中に納めている聖炎剣ランスロットを抜かずに刃が鏡の様に反射している両手剣をインベントリから出し、雨の様に降り注がれている魔法へ跳躍して魔法を斬り捨てていく。
バハムートも自分の翼を強く羽ばたかせ、一息で魔法目がけて飛ぶと己の四肢で魔法を殴り、蹴り飛ばし、アルメラが斬った魔法の残骸すらも誰もいない所へ弾いていく。
「アルメラ殿!!斬るのはいいのじゃが斬った後が不始末すぎるのぅ!!」
「ならそれをフォローして!ムーちゃんは楽しみたいんでしょ!?」
「なっ!アルメラ殿までわらわをムーちゃん呼ばわりするのか!?」
「ムーちゃんはムーちゃんでしょ!!」
「まったく!!わらわは神龍じゃぞ!それでは威厳が感じられぬではないか!」
魔法を弾きながら楽しそうに会話しているアルメラとバハムートを見ながらコルは蹴り飛ばした現魔王を見据える。
遠くから何かを構えるような仕草が見え、コルはフィーヤが言っていた未知の武器…銃を思い浮かべる。
「みんな!!銃の狙撃が来ますわ!!即死じゃなければわたくしが治しますわ!!頭と心臓だけは絶対に守ってくださいまし!!」
「「「了解 (なのじゃ)!!」」」
コルは油断なくいつでも皆を回復させれるように不死の炎を翼に蓄えて右眼に意識を集中させて空間を把握していく。
「対物ライフルだろうが何だろうが、わたくし達は負けませんわ!!」
そして右眼に映った桜庭 信仁は口元を三日月の様に歪ませながら対物ライフルの引き金を引いた直後、銃口から火が吹き、銃弾が放たれた事を確認したコルはその弾丸を見つめていると突如、弾丸の姿が消えた。
「弾丸が消えっ!?一体どっ!?!?」
「うああっ!?!?」
コルは消えた弾丸が何処に向かって放たれたか確認しようとした時、背中から脇腹辺りに衝撃を受けて前に吹き飛び、コルの身体が前にいたフェイナに当たってすらいないのに声を上げながらフェイナも前に吹き飛んだ。
「い、一体何が…あ、あれ…?」
コルはどうにか立ち上がろうと床に手を付けて力を入れるが、何かぬるぬるした液体で手を滑らせてうまく立てなかった。
「い、いてて…ちーちゃんだい…っ!?」
フェイナは衝撃を食らいながらも床に膝をつくことなく信仁のオートマトンの剣技を捌きながらコルを見るとそこには脇腹に大きな風穴を開けたコルがいた。
赤い炎のドレスに負けないぐらい赤い大量の血を床にぶちまけて、自分の血で手が滑って上手く起き上がれていない姿を視界に捉えてしまう。
「た…たて…な…」
「ちーちゃん!!!!!!!!!!!!!!」
フェイナはコルが撃たれた事に対して自分がいる時は絶対に仲間を守り切るというプライドが傷ついた感覚と、これからどんな戦闘になるかわからない為に温存していた守りのスキル…図書館の地下でペイン達を守る時に使った『シャットシェル』を使わなかった後悔を覚えながらも魔法を防いでる二人へ怒声を響かせる。
「ムーちゃん!アルメラ!!ちーちゃんが撃たれた!!早く回復して!!」
「千棘!?どうして撃たれてるの!?」
「母上!?アルメラ殿!!ここはわらわが弾いておくからすぐに母上を助けるのじゃ!」
バハムートが雨の様な最上級魔法を一人で弾くと伝え、アルメラは一気にコルの元まで駆け寄ってポーションをかけるが、明らかに傷の治りが遅くて焦ったようにフェイナに伝える。
「千棘の傷の治りが遅い!!このままじゃ死ぬかもしれない!!」
「そんなの絶対にダメ!!絶対に治して!!」
「そんな事言ったって傷の治りが遅いんだって!!!」
「だったらどうにかして早く治して!!」
「だからどうにか出来たらとっくにやってるってばフェイナねぇ!!」
アルメラの子供の様な怒声に今まで呼ばれた事の無い呼び方で呼ばれたフェイナは自分が冷静でない事を悟る。
「…ごめん!アルメラ!ちーちゃんはどれくらいで復帰出来そう!?」
「わかんない!千棘にぃの出血量が明らかにヤバいんだよ!!どうしたらいいの!?」
焦っていつものクールなアルメラじゃなく、現実の弱いアルメラが出てきてしまう程コルの今の姿は酷かった。
血で作った大きい水溜りの中でコルは震えるアルメラの手を握って血溜まりに伏せている自分の顔の近くまでアルメラを引っ張ってどうにか伝える。
「わた…くしは死に…ません…わ…それ…よ…り、あの…銃弾…ワープ…します…わ…気を…つけて…す…ぐに復帰…し…ますの…それ…まで、近づ…いて、銃を…使わ…せないで…」
アルメラに何故攻撃を食らったのか種明かしをした後、アルメラの手を掴んでいたコルの手は力が抜けて血溜まりに落ち、血を飛び散らせる。
「ち、千棘にぃ!?ねぇ!千棘にぃ!?」
アルメラはコルの手が落ちて跳ねた血を顔にかけられるが、そんなのも気にせずにコルに話しかけ続ける。
喋る事すら億劫になったコルは震える腕で桜庭 信仁を指を差してアルメラに銃を使わせない様に指示する。
「…わかった…行ってくるから千棘にぃ死なないでね」
アルメラは顔に付いた血も、手にべっとりついた血も拭わずに背中の両手剣を抜き放ち、桜庭 信仁へ向かって瞬発する。
「絶対に許さない!!千棘にぃを傷つけたお前は絶対に許さない!!!」
「ちょ!アルメラ!?冷静に…っもう!!ムーちゃん!!!このオートマトンも任せていい!?」
「わかったのじゃ!!わらわに任せて早くアルメラ殿の元へ行くのじゃ!」
フェイナは怒りで我を忘れているアルメラを守る為に瞬発して追いかけていき、バハムートは途切れる事の無い魔法の雨と、剣を握りながらコルに止めを刺そうとしているオートマトンを引き受ける。
「わらわの母上に何をするつもりじゃ!!人形風情が!!!」
バハムートは空中で魔法を弾きながらコルに近づいているオートマトンに向けて口から神龍のブレスを吐き、剣で受け止めたオートマトンを壁まで吹き飛ばす。
「そろそろこの魔法を弾くのも終いじゃ!!跡形もなく消し飛ばしてくれるわ!!」
バハムートの翼が徐々に黒い光を蓄えていき、光を飲み込む程の黒になった瞬間、バハムートは身体を一回捻って尻尾を振り、その風圧で魔法を全て弾き返しながら教皇のオートマトンへ手を開いて向けて魔法の名前を叫ぶ。
「サプレッション!!」
魔法の名前が叫ばれた瞬間、教皇のオートマトンの周りに黒い板が現れてオートマトンの姿を隠す。
そしてバハムートが向けていた手をゆっくり握っていくとその板はどんどん小さくなっていき、握りしめた時にはその板ごと教皇のオートマトンの姿も消え去り、すぐにコルの元に飛び付きコルの血を撒き散らせながら着地する。
「大丈夫なのか母上!?」
バハムートはコルを抱き起すと大きく穴の開いた脇腹がゆっくりとした速度で塞がっていくのを見つめるが、この速度で回復していたら明らかに治る前に出血死する事がわかり、不得意な回復魔法を腹にかける。
だが、回復魔法をかけたバハムートは何か違和感を感じ、その違和感を探ると一つの考えが浮かぶ。
「…まさかこれは魔王の能力…?不死のフェニックスと獣神化してポーションも使い、不得意とはいえ神龍の回復魔法じゃぞ…明らかにこの速度で治るのはおかしいのじゃ…母上の回復力が絶対に癒えない傷を上回ってるからこの速度での回復と考えるのがしっくりくるのぅ…じゃが…まだ何かしなければ母上は明らかに死ぬ…この世界線の母上は明らかにイレギュラー…母上がどうなるかなどわらわには検討つかん…!」
バハムートは必死に回復魔法をかけ続けているが一向に早まらない腹の傷を見て苛立ちを覚えると、先程ブレスで吹き飛ばした信仁のオートマトンがゆらゆらとこちらに向かってくるのを視界の端に捉えて舌打ちをする。
「チッ…こんな時に人形遊びをしてる暇はないのじゃ!!!」
バハムートはもう一度ブレスで跡形もなく吹き飛ばそうと深呼吸をした時、頭上からガラスを割ったような音が巨大なホールに響き渡った。
「今度は何なのじゃ!?」
バハムートは二転、三転する現状に苛立ちを露にして言葉を吐き捨てると、蒼い炎の翼を羽ばたかせて蒼い炎を放ち、信仁のオートマトンを跡形もなく焼き尽くす一人の男を見た。
「お、お主は…!!ピュリエット殿か!?」
蒼い炎の翼を持つ男はバハムートの傍に着地するとすぐにコルの元に駆けつける。
「ごめん、君の事はわからないけど僕は確かにピュリエットだ。それより…コルを助けるのが先だよ。コウちゃん行ける?」
『任せて』
ピュリエットはコルの穴の開いた腹に手を当てて、蒼い炎を纏わせる。
「コウちゃん、感動の再会と思ったら千棘が死にかけてるとか冗談キツイよ全く…!!」
『ぐちゃぐちゃ言ってないでもっと魔力を込めて』
「すまぬ、ピュリエット殿、コウちゃん殿!微力ながらわらわも回復魔法を使い続けるのじゃ!!」
バハムートはピュリエットと、ピュリエットの身体の中にいるコウちゃんに協力するように全力で回復魔法を使い続けた…。




