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再始動 -Second Life on-line- そして第二の人生が始まる  作者: 絢奈
第六章 天使の使いと巨龍の使い
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太陽と月の聖女

 ユリスは両手に持った短剣を逆手に持ちながらガルダンリーともう一人の魔族へ瞬発する。



 ガルダンリーは転移魔法で瞬発して接近してきたユリスから距離を開くが、もう一人の魔族は転移魔法が使えないのか空に飛んで距離を開こうとする。



 ユリスは自慢の長いうさ耳でガルダンリーが転移した場所の音を聞き、視線をもう一人の魔族に固定したままガルダンリーの場所を把握して空に飛んだ魔族に飛び掛かる。



「空に逃げるだけじゃ意味ないから!!」



 そう叫びながらユリスは持ち前の身軽さを遺憾なく発揮し、一瞬で距離を詰めて首と胴体を短剣で斬り裂く。



 早々に魔族を一人片付けたユリスだが、短剣に伝わる感触に違和感を感じる。



(人や魔族を斬った感触じゃない…鉄みたいなのを斬った感触…?)



 そう思いながら空中で姿勢を整えて音もなく着地し、斬った死体を確認する間も無く音で特定したガルダンリーの方向をすぐさま見据える。



「お仲間はもう終わったし、一対一の殺し合いでもしよっか?」



 ユリスが短剣の切っ先をガルダンリーに向けると、切っ先を向けられたガルダンリーは驚愕の表情を浮かべる。



「なっ…!?なんていう速度だ…!これは予想以上にいい個体…我が王に献上するのに不足なし…!」



 ユリスの速度に驚いていたガルダンリーだったが、魔王に献上する贄として十分だとわかると凄惨な笑みを浮かべながら転移魔法でユリスの背後へ転移し、首を刈り取るように爪で首を刎ねようと振り抜く。



「っ!あっぶないな!」



 突然後ろに現れたガルダンリーの一撃を短剣で弾き、その衝撃を利用してわざと吹き飛んで距離を開く。



「ほんと、魔法って卑怯だよね…」



 そうポツリと呟いたユリスに対してガルダンリーが感心した様な表情を作りながら言う。



「今のも避けるのか?ますます贄として相応しい。だが、時間が惜しいのでな…すぐにその首を狩らせてもらうぞ兎よ」



 その言葉の後ガルダンリーの姿が一瞬で消え、またユリスの後ろに現れて首を刎ねようとする。



「何回も同じ手が通用すると思わないでよね!!」



 一度目と同じ手で攻撃してきたガルダンリーの爪を短剣で防ぐのでは無く、手首を斬り落とすように刃を立てて迎え撃つ。



 すると短剣が当たった手首の少し上あたりから斬り飛ばされ、ガルダンリーはもう一度転移魔法を使って距離を取る。



「ぐっ…まさかたった一回で対応してくるとはな…だがこの程度ではないぞ?グラビティフォール!!」



 ガルダンリーは斬られた部分に黒い靄の様な魔力を纏わせて腕を再生させた後、両の掌をユリスに向けて空間属性の重力魔法を放つ。



 だがユリスはこの魔法を一度だけ見た事があった…その魔法はユリスが慕っているアエリアが冒険者ギルドで50人近い冒険者を相手に使った魔法。



 その魔法と同じ名前が叫ばれた時、ユリスは身体が鉄になってしまったかの様に重くなり、思わず膝をついてしまう。



「うっ!こ、これ…リアの魔法と同じやつ…!」



 魔法を放ったガルダンリーはまたも感心した様にユリスへ言葉を投げる。



「この魔法を食らっても潰れないとは…いい、いいぞお前…!!」


「う…っさいわ!!こんな魔法…あの人の足元にも及ばない!!」



 ユリスは自分が尊敬するアエリアが放った魔法とガルダンリーが放った魔法を比べたが、アエリアの魔法は威力が強すぎて自分の重さに耐える事すら出来ず、身体が押しつぶされていたのにガルダンリーの魔法は身体が重く感じる程度だった。



 元々この重さが自分の重さだと認識を切り替えたユリスはスッと立ち上がり、目を狩人の様に鋭くしてガルダンリーを睨みつける。



「この程度なら…もうあんたとの勝負は終わりだよ。遺言はある?」


「それは自分への問いかけか?我は鏡ではないんだがな?」


「あっそ、つまらない遺言ね。…それじゃあ終わりにしましょ」



 そう言ったユリスは重力魔法をかけられているとは思えない程の速度で、ガルダンリーへ瞬発して右手の短剣で首を狙った鋭い一撃を放つ。



「なっ…!?」



 転移魔法で目の前に移動して来たと思える程の速度で突っ込んできたユリスの首への一撃を身を捩って何とか回避したガルダンリーだったが、羽を中ほどから斬り飛ばされる。



 だがユリスの攻撃はその一撃だけでは終わらず、流れるような身の動きで第二の攻撃を放った。



 右手の反動に身を任せながら身体を空中で左回転させ、身を捩っているガルダンリーのこめかみへ振り抜いた左腕の肘を当てて横向きで床へ寝かせ、そのまま折り曲げた腕を伸ばして逆手に持った左手の短剣を首の後ろから突き刺す。



 首裏に突き刺さった短剣は喉から切っ先を覗かせ、ガルダンリーの身体が一際大きく波打った後、首の下から徐々に灰化していく。



 ユリスは徐々に灰になっていくガルダンリーの身体を見ていると、頭部が灰化するまでの時間を噛みしめるようにガルダンリーはユリスに憎しみの籠った視線を向けるが、ユリスはどうでもよさそうな表情を作りながら短剣を鞘へ納めてルノアール、フィーヤと分断されている障壁に手を当てる。



「…はぁ、これは私では解けそうにないかも…どうしたらいいかなぁ…」



 そんな事を呟きながら障壁の向こうで戦っている二人の姿を見つめ続ける…。





 ■





 ルノアールは二人の魔族が動き出す前に自分の作り出した魔法を相手にぶつける。



 ルノアールの作り出した魔法は相手の体内の水分を直接凍らせるという初見殺しの魔法だった。



 すぐに決着をつけて二人の援護をしようと思いながら魔法を使ったルノアールは違和感を感じる。



(…私の『血凍(けっとう)』が効かない…?なんで…!?)



 確実に自分の魔法が発動している感覚があるのにも関わらず、二人の魔族の体内が凍り付いた感覚が一切なかった。



「当機内部にて温度変化あり。内部温度を上げて対処…成功。これより当機内部温度を一定値より上昇させ、戦闘を開始します」


「なっ!?そんな事が出来るなんて…!」



 そう無機質な声で発せられた言葉の内容を理解したルノアールは、驚きながらもこちらに瞬発してくる魔族を見据えながら透明な氷の壁を自身を囲むように20枚作り出す。



 その防壁に到達した二人の魔族はルノアールが作り出した氷壁を殴りつけると、ジュッという蒸発する様な音を立てながら氷壁を破る。



「身体自体が高温になってる…!?一体どういう事なんです!?」



 徐々に破られていく氷壁を見ながら相手を観察しているとルノアールは違和感を覚える。



(…?魔力の流れが一切ない…?というより魔力が一切ない!?なら何で私の血凍を防いで氷を溶かせる高温を発してるの!?)



 ルノアールは生物であれば必ず持って生まれる魔力が一切感じられない事に驚いていると、氷が溶かされている音がさっきよりも近くなっている事に気付いて短距離の転移魔法を使って二人の魔族から距離を取る。



(氷を溶かすほどの熱…そんな熱を発してても何も感じない…?…なら私の得意な戦法で上からねじ伏せます!!)



 二人の魔族が高温を発しながらこちらに向かって瞬発してくるのを見据えながらルノアールはもう一度時間稼ぎの為に氷壁を作り出す。



 先程よりも高温になっているのか氷壁がさっきよりも早いスピードで溶けるのを感じつつ、自分の魔力を高めながらある物を目を閉じてイメージしていく。



 光が消え、樹も水も大地も生物も…存在する何もかもが凍え、動くものが一切ない絶対零度の世界…太陽も無く、温もりが一切ない世界…ルノアールを助けてくれた勇者様が、愛する人がいない光も色も何も無い世界を…。



 身体の周りから白い冷気が発せられ、自身を囲っている透明な氷壁の中が白んでルノアールの姿が二人の魔族から見えなくなる。



 そして氷壁の中は温度が消え、今まで蒸発する音を立てていた氷壁から音が消え、何もかも聞こえなくなると何もかもが動かない小さなルノアールの世界が出来上がる。



 そしてルノアールは心の中で『自分だけの魔法』の名前を呟く。



(ロスト・ワールド…)



 そう心の中で呟いた瞬間、氷壁に閉じ込められた世界を凍り付かせる白い霧は氷壁を破り、分断された障壁の中に充満していく。



 その白い霧に一瞬でも触れれば一瞬で身体を凍らせ、全ての物から等しく熱を奪う。



 そんな世界でただ一人、ルノアールはゆっくりと目を開けて全てが氷に覆われた熱を一切感じない世界でふぅっと白い息を吐く。



「これは今までの私の世界…だから私の冷たくて、氷だらけの世界を溶かしてくれるチヅル様が大好きなんです…」



 そう呟きながら自分に温もりをくれる勇者を思い浮かべて心が温かくなる感覚を感じながら氷で見えなくなってしまったユリスとフィーヤの無事を祈る…。



 そしてこの瞬間、ルノアールは金色の髪を月に、水色の瞳を氷に、氷を熱を感じない夜に見立てて『月の聖女』と呼ばれ、語り継がれる事になる。





 ■





「…さぁ、どっからでもかかってきなさい!!あんた達なんてバラッバラにしてやんだから!!」



 フィーヤは自分に向かってくる二人の魔族を見据えて温度を隠蔽していない炎糸を張り巡らせる。



 二人の魔族は周囲に張られた冷気を放つ障壁に変化を感じると、糸の合間を縫いながらフィーヤに接近する。



「ふぅん…どこに張られてるかはわかってるのね…」



 そう呟いたフィーヤは眼前に伸びてくる二本の腕を見ながら口端を吊り上げる。



 その瞬間、二本の腕はジュッと言う音と共に肘の付け根辺りからバラバラと切り落とされ、表情も変えずに二人の魔族は距離を取る。



「問題1の解、対象識別コード、フィーヤの不可視の攻撃は炎の魔法である事を確認」


「問題2発生、熱変動無しの不可視の攻撃を確認。近接での戦闘は不利と判断。解析と並行しつつ遠距離攻撃へ移行」



 二人の魔族は切り落とされた片方の腕など意に介さずにフィーヤの攻撃を調べていくが、攻撃をしたフィーヤは切り落とした腕を見ながら驚愕の表情を浮かべる。



「え…?何この腕…灰にもならない…それよりもこの腕…人の物じゃない!?魔族だからこんな…いや違う…街で戦った魔族もこんな腕じゃなかった…」



 フィーヤが見た腕は断面からバチバチと電気の様な物が弾け、肉や骨の部分は見た事もないような物で作られており、断面から流れ出ている液体は水の様な…油の様な液体が滲み出ていた。



「…なにこれ…こんなの見た事ない…顔はサクラバ・シンジだし、魔族の見た目をしてるのに腕は魔族の物じゃないし…私は何と戦ってるの…!?」



 魔族の見た目をした何かに問いかけたとしてもフィーヤが望む答えを返してくれるわけでも無く、返答は見た事もない片手サイズの武器での遠距離攻撃だった。



「っ!?まずっ!?」



 フィーヤは相手が見た事もない武器をこちらに向けている事を察知し、魔法障壁を五枚展開して相手の攻撃を防ぐが、未知の武器から放たれた攻撃はバンッという音と共に容易く魔法障壁を撃ち破りながらフィーヤの右肩へ当たる。



「ぐっ!?…っつぅ…一体何なのよ…魔法障壁を簡単に破ってくる火力…」



 何かが当たった右肩を手で押さえながら自分の身体を確認するが、右肩に痛みを感じても動くし出血もしていない事を不思議に思いながら魔力障壁を倍に増やして相手の攻撃を精査していく。



(…あれは小型の矢みたいなもの…?あの威力なら肩を貫通してもおかしくないけどしていない…魔法障壁で威力がそがれたからなら倍に増やして対応すればいいけど…もし、こっちが知らない武器をまた取り出されたら後手に回っちゃうから先に攻撃するしかない。…でも相手の攻撃は見えなかった…ん?これ…)



 フィーヤは足の位置を動かして相手との距離を調節していると、足元から何か硬質な物を蹴飛ばした音が響く。



 その音の正体を確かめるべく視線を足元に移そうとした時、相手が口を開く。



「.50AE弾での射撃により個体フィーヤへ攻撃。結果は障壁を五枚撃ち破り、右肩へ着弾。但し、障壁で威力減衰の為、貫通せず」


「武装変更、7.62x39mm弾の掃射にて対応可能と判断」



 フィーヤは何もない所からまた未知の武器を取り出したのを見て視線を足元に移すのを止める。



(次は片手に収まる大きさじゃない…火力はさっきよりも強そうだからもっと障壁を…っ!?)



 相手の武器が小型の物から大型の物に変わったのを確認して魔力障壁を更に強固に張りなおした瞬間、バンッという音が連続で鳴り響きながらフィーヤの魔力障壁へ何かが嵐の様にぶつかり、魔力障壁を食い荒らしていく。



(なにこれ!?張った傍から破られる…!!それに弓みたいに一発ずつじゃないの!?)



 内心焦りながらも食い破られる魔力障壁を張り直しながら相手の攻撃を観察していると、足元に何かがカラカラと落ちる音がする。



 フィーヤはたまらず足元に視線を向けるとそこには先端の潰れた小さい金属が散らばっている事に気付く。



(鉄製の矢!?こんな矢見た事ないし…!それにこのままじゃ防戦一方だし、相手の矢が切れるのはいつなのよ…!)



 相手の攻撃が緩むことなく降り注ぎ、攻撃が出来ない事に焦りを感じていたフィーヤは必死に魔力障壁を張り続けていると嵐の様な攻撃が止む。



 そして相手の行動にフィーヤは目を見開きながら自分の命が危ない事に気付く。



「な…なんなのよその大きさ…」



 相手が取り出した未知の武器は先程取り出した二つの武器よりも大きく、そして長かった。



「7.62x39mm弾による掃射は継続的に張られた魔力障壁により個体フィーヤは無傷。12.7㎜弾を使用します」



 二人は床に寝そべりながら手のひら程の大きさの金属を二人で武器に取りつけてフィーヤに狙いを定める。



 フィーヤは自分に狙いを定めている相手を見据えながら移動するが、その先端はフィーヤから外れる事は無かった。



「狙いは正確…この距離じゃ短距離転移で相手の後ろを取る事は出来ない…なら、ユリスとルノにも見せてない奥の手を使う時か…」



 自分の命が狙われている恐怖によるものか、それとも戦いによって高ぶった気持ちを表すものなのか、フィーヤは身体を震わせながら口端を吊り上げて相手を見据える。



「これを使うと魔力が尽きるから相手の出方がわからない初手で使う気にはなれなかったけど…それ以上に物騒な武器を取り出されたら死んじゃうかも知れない…だからここで全部出し切ります!!見ててくださいチヅルさん!!」



 フィーヤは親指を立てて人差し指を魔族に差し、自分の魔力を全てを使いながらある物をイメージしていく。



 世界を照らし、木を育て、大地に住む人々に暖かさをくれるもの…鏡から教わった知識を、エルとデルから教わった魔力の操作を、そして初めてフィーヤが感じた自分の中で激しく、身を焦がすような熱…千棘に恋をした時の心の熱を思い浮かべながら『自分だけの魔法』を構築する。



 指先には赤い炎が小さく灯り、その周りに炎の帯を棚引かせては消え、指先から見える景色は陽炎が揺蕩う。



 今にでも弾けてしまいそうな指先の炎を必死に抑えつけて、フィーヤがイメージしたもの…太陽を作り上げる。



 そしてフィーヤは魔力が切れかかった霞んだ視界で二人の相手を睨みつけて…叫ぶ。



「私は絶対に負けない!!勝ってみんなとチヅルさんの元に生きて帰る!!」



 フィーヤの咆哮を聞いた相手は無機質な声で告げる。



「目標捕捉。命中率100%。射撃します」



 フィーヤは自分が作り出した魔法の名前を叫ぶ。



「『フレア・ノヴァ』!!!!」



 相手の武器がドンッという音を響かせるのと同時にフィーヤの指先で創造された小型の太陽は結界に遮られた真っ黒な空間を真っ白な光で影一つ無く染め上げ、指先から一筋の光となって解き放たれた。



 相手が放った攻撃は一筋の光に飲み込まれる瞬間、何かが燃える音を一瞬だけ立てて消滅し、攻撃を放った相手すらも一瞬で消滅させる。



 指先から放たれた光はそのままフィーヤを捕らえていた障壁を消し去り、更には真っ黒な空間を作り上げていた結界すらも破り捨て射線上にある元の空間の屋根すら飲み込み消失させた。



 バキンという音が鳴り響きながらフィーヤ達を覆っていた結界は崩れ落ち、結界に囚われる前の景色に戻る。



「…ははっ…流石にやりすぎちゃったかもね…」



 フィーヤはそんな事を呟きながら苦し気な表情を作りつつ背中から床に倒れ込んで息を整えていると、二人の仲間が声をかけてくる。



「…フィー、さっきの魔法何…?」


「フィーヤ…私に隠してまた新しい魔法作ったの?」



 フィーヤはその二人の顔を見て心の底から安堵して笑顔を作る。



「ふふん!どーよ!私の最高傑作の魔法は!!」



 そしてフィーヤはこの瞬間から、ルノアールとは対極の位置にある赤い髪と瞳を日輪に、熱を太陽に見立てて『太陽の聖女』と呼ばれ、語り継がれる事になる。

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