情報は氷の中
「…これはエルリとルエリから聞いた魔王の結界…」
コルは大通りから一直線に城へと続く道を疾駆しているともう少しで目的地と言う所で空が赤黒く染まって行くのを見た。
「この結界がエルリとルエリを閉じ込めてたやつなの?」
コルの少し前、大盾を片手に持ち、黒の鎧を着たフェイナがコルの言葉に反応する。
「ええ、エルリとルエリの話を聞いた限り、ここは別の次元の様なので建物の被害は考えなくて大丈夫です。アルメラも全力でお願いします」
コルの横を並走しているアルメラはピンクゴールドの両手剣…武具大会で使用した『聖炎剣ランスロット』を肩に担ぎ、白の軽鎧をカチャカチャと鳴らしながら答える。
「わかった、全力でやる」
そう答えたアルメラは走りながら肩に担いでいる聖炎剣ランスロットを胸の前で横に持ち、目を閉じて深く集中していく。
するとピンクゴールドの刀身から火の粉がちらちらと舞い上がり、一気に炎となって刀身を包む。
「じゃあ、あの門を開けてくる」
そう短く言い残してアルメラは聖炎剣ランスロットの切っ先を自身の後方に向け、刀身の炎を一気に爆発させてコル達の行く手を遮る門へ飛んでいく。
巨大な門へ炎の軌跡を残しながら一直線に飛んだアルメラはそのまま身体を右に何度も回転させながら叫ぶ。
「ぶった斬る!!!!」
炎が風に揺れる音、硬質な何かが断たれる音がコルとフェイナの耳に届いた時、アルメラは回転しながら門の前に着地し、少しだけ地面を滑りながら聖炎剣ランスロットを鞘に納めてコル達の方へ向きながら胸を張る。
「ん?あれ?なんかアルメラやり切った感出してるけど斬れて無くない?」
「しっかり斬れているのですが…なんというか…紙の真ん中だけ斬った感じで両端が両断されてないから…それに切れ味が良すぎて他に一切破損が無いっていうのも要因ですね…」
アルメラは確かに城壁諸共城門を横一線に斬り裂いた…が、切れ味が良すぎてどこも崩れておらず、真ん中に切れ込みを入れた紙と同じ状況になっており、門は開いていなかった。
そんなアルメラのおちゃめな所をコルとフェイナは走りながらクスクスと笑った後、コルが言う。
「なら、この身体の力を試してみるのに丁度いいかもしれませんね」
「うわっい!?」
そう言った瞬間、真っ白な髪から漏れ出ていた精霊光が一気に溢れ出し、辺りを明るく照らすとコルは四つん這いになって四足歩行で疾駆する。
真横でコルが光を放ちながら獣の様に四足歩行をし始めたのを見ていたフェイナは何かヤバそうな気配を感じて頬を引きつらせていると、コルの叫び声が響く。
「アルメラ!!どいてくだ…さぁぁぁぁぁい!!!!」
「っ!?」
アルメラはコルの叫び声を聞き、少し焦ったような表情しながら自分の身を守る為に門の前から跳躍して空へ逃げる。
するとコルは真っ白な髪の精霊光を置き去りにする勢いで門へ駆け出し、アルメラの斬ったであろう場所より少し上の位置へ斜めに跳躍して叫ぶ。
「フェンリルぅ…キーック!!」
特撮のヒーロー顔負けの綺麗なフォームで右足を突き出しながら蹴りを繰り出すと、城壁も城門も一気に砕けながら城の全貌を晒していく。
そして飛び散った破片が城へ深く突き刺さっていくのを見ながら綺麗な片膝着地を披露して優雅に立ち上がりながら真っ白な後ろ髪を手で払いのける。
「ふふふ。ちょっとやってみたかったんですよね、これ」
「ちーちゃん何かっこつけてんの!!さっさと城の中に入るよ!!」
「…私はちゃんと斬ったから」
「はいはい、ちゃんと斬れてたのはわかってますよ」
後ろから追いついたフェイナに怒られ、その後ろに不貞腐れた表情のアルメラを確認したコルはちゃんとわかってると伝えながら三人で城の中へ入っていく。
「ここまで派手に騒げば先に潜入しているユリス達が動きやすくなると思ったのですが…」
「なんていうか殺風景だね?」
「奥の方から気色悪い魔力を感じる」
「そうですね、魔王はここにいる…そろそろユリス達から何か連絡が…」
あると言おうとした瞬間、立っていられない程の衝撃が城を、地面を揺らしながら音がコル達を襲う。
「な、何が!?」
「ちょっ!なんなのこれ!?」
「み、耳が…」
しばらくコル達が耳を塞ぎながら倒れない様に踏ん張っていると、揺れと音が収まっていく。
そして音と揺れの正体を確かめる為に一度城の外を確認したコル達は口をぽかんと開けてしまう。
「なんか…地獄絵図が見えるんだけど…」
「…あれは酷い」
コル達の視線の先…赤黒い雲から無数の稲妻が降り注ぐ光景が見えた。
「多分…ユーランの武器でしょう…私に自慢しに来たんですよ、『神格魔法』を再現してやったぜって…」
コル達は頭の中でニコニコしているであろうユーランを思い浮かべながら、いつもの事かと思う様にして城の中に戻る。
「…んんっ!…では気を取り直して魔王の元へ…」
行きましょうと言おうとしたコルは城の中から発せられた音と衝撃にまた阻まれる。
「ちょ!?今度は何なのよ!?」
「わかんない…!」
「…城の中から…もしかしたらユリス達が魔王と戦闘してるかもしれません!!フェイナ、アルメラすぐにいきますよ!!!」
音と衝撃が止み、動けるようになったコル達は音と衝撃の中心地で戦っているであろうユリス達の無事を祈りながら向かって行く…。
■
「ユリス!ルノ!フィーヤ!だいじょ…っ!?」
「ど、どうしたのちーちゃ…!?」
「…これはまた派手にやったね…」
コル達は城の中から発せられた音と衝撃の中心地に辿り着き、その光景に驚きの表情を浮かべる。
コル達が見た光景は射線を見せつけるように一直線に建物が綺麗に無くなっており、その表面はマグマの様に赤熱していた。
そしてくり抜かれている床の少し手前で金髪の少女、兎の耳を持つ白髪の少女が寝そべっている赤髪の少女の周りに座っていた。
コルは三人が無事な事に安堵しながら近づいて声をかける。
「ユリス、ルノ、フィーヤちゃん。問題はありませんか?」
名前を呼んだのにも関わらず、コルの顔をじっと見つめるだけで答えてくれない三人の少女にコルは首を傾げてしまう。
「…?どうしました?」
「…えっと……コル?だよね…?」
「ええ、ユリスの言う通り、コルですよ」
「コル様ってもっと小っちゃくて水色のふわふわした感じじゃ…」
「ルノの言う通り、小っちゃくて水色だったふわふわのコルですよ」
「なんていうか…めちゃくちゃカッコいい…」
「ふふ、フィーヤちゃんありがとう。それよりここで何があったか教えてくれますか?」
ユリス、ルノ、フィーヤはコルの姿が別人の様になっている事に驚きながらもここであった事を詳細に話してくれた。
「まず、私とルノ、フィーは作戦通りにサクラバ・シンジの捜索をしたの。だけど、何処にも見当たらないし、この建物に人の気配すらなかったから…最悪の状況として魔王のいる場所にサクラバ・シンジがいると思ってリアに伝えようとしたら、ガルダンリーって名乗った魔族が私達の事を結界で閉じ込めてそこで戦闘した感じ…なんだけど…」
歯切れ悪く言葉を発するユリスに変わるようにフィーヤが告げる。
「実はそのガルダンリーという魔族の顔が、サクラバ・シンジと同じだったのです。…そして、そのガルダンリーが連れていた仲間の魔族も全て髪の色や、目の色が違うだけでサクラバ・シンジの顔と同じでした」
ユリスとルノアールの報告を聞いたコル達は何がどうなっているのかわからず頭を悩ませるが、フィーヤの一言で目を見開く。
「それと…なんか…何て言えばいいのかな?私が戦った魔族が生物の身体じゃなかったんです。腕を切り飛ばした時、腕から雷みたいなのがバチバチしてて、油みたいなのも出てて…青い血でも赤い血でもなくて…後、全く見た事ない小型の弓?矢は小さい金属で出来てて…なんだっけ…『ごじゅーえーいーだん?』とか、『7.62みりかける39みりだん』とか、『12.7みりだん』とか言ってたかな…?」
「なっ….50AE弾…!?7.62x39mm弾…12.7㎜弾!?対物ライフルですか!?」
コルは日本での知識を元に魔族が何の武器を使っていたのか察して驚いてしまう。
「ちーちゃん…魔王って私達と同じ知識を持ってるの…?」
「…もしかしたら勇者の記憶を抜き取ったのかもしれない」
コルはフェイナとアルメラの話を聞き、顎に指を当てて思案する。
「…フィーヤが戦った武器は明らかに『銃』です。私達の元の世界の武器…この世界にはない物…」
フィーヤはコルの言葉を聞いて目を丸くしながら問いかける。
「え…この世界にないって…もしかして再現不能の遺物ですか!?」
「…ええ。その可能性が高いですね…魔王は再現不能の遺物を作り出す事が出来る…きっとその魔族達も再現不能の遺物で作られた人形…ユリスが戦ったガルダンリーは止めを刺した時に灰になりましたか?」
「うん、ガルダンリーは灰になったけど…確かに仲間の魔族は斬った感触がなんか金属を斬った感じだったかも…すぐにガルダンリーに集中しちゃったから死体は見てない…というかフィーが使った魔法でどっか吹っ飛んでったからわからない…」
「うっ…少しやり過ぎた…」
「…確かに私が戦った魔族も一切の魔力が感じられず、私の血凍でも凍りませんでした。一応、力押しで凍らせてるので見てみますか?」
「ええ、見せてください」
ルノアールが凍らせた魔族の元に皆で向かい、サクラバ・シンジの顔を持つ氷像を見つめる。
「…確かに顔はサクラバ・シンジですね…一度氷を『触っちゃダメです!!』…!?」
コルが氷を溶かそうと手を伸ばした時、ルノアールが遮るように静止する。
「…この氷に触れるとチヅル様も凍ってしまいます。フィーヤが使った魔法でも解けずにこのままの状態で、常に凍り続けてると思ってください…」
「一体どんな魔法を使ったのですか…?…まぁわかりました。なら…」
コルはそう言うとフェンリルとの獣神化を解き、いつもの水色の狼の姿に戻った後、すぐに魔力を練り上げてフェニックスを召喚する。
そしてコルが心を痛める一言がフェニックスの嘴から発せられる。
『お母様?どうしてお話が出来るようになってからわたくしを呼んでくださらないの?』
コルはフェニックスの言葉を聞いてうっとうめき声を漏らしながら胸を押さえる。
「ご、ごめんなさいねぇ…精霊の国ではフェンリルが昔助けたって言うからぁ…それにアクエリアの空を飛んでいたら怒られちゃってぇ…その後、一年ぐらい意識がなくてそのぉ…今度必ず埋め合わせするから許してくれるかしらぁ…?」
そう言うとフェニックスは目を閉じ、身体が光に包まれた。
その光が徐々に人型に変わっていき、その光が収まるとそこには赤いツインテールに炎で出来ている赤いドレスを纏った強気な赤い瞳を持つ女性がいた。
「…お母様?その約束、絶対に忘れないでくださいね?」
「ええ、絶対に忘れないですよぉ…フェニックス、力を貸してくれますか~?」
「ええ、喜んで。わたくしはお母様の翼であり、炎ですわ。どんな困難も『わたくし達』はお母様の為に道を切り開いて見せます。この身はお母様の為に」
そう言いながらフェニックスはコルの目の前で跪く。
跪いたフェニックスの頬を優しく包むように両手を当て、フェニックスの額に唇を触れさせるとフェニックスの身体は光の粒子になってコルの身体を包む。
コルがフェニックスの姿を強くイメージすると水色の髪は燃えるような真っ赤な髪、水色の瞳は赤色の瞳に変わり、服は炎で出来た様な真っ赤なドレスで炎がフリルの様に揺らめいていた。
そしてコルの背にはフェニックスと同じ赤い翼が生え、その羽は虹色のグラデーションがキラキラと主張していた。
そしてコルは真っ赤なヒールをコツコツ鳴らしながら身体を確かめていく。
「…ふふ。やっぱりお喋りは出来ないようですが胸の内にフェニックスを感じますわね」
そう言いながら豊満な胸を張りながら手を当て、フェニックスの強気な性格に引っ張られるようにしてコルは自信満々で皆に告げる。
「『わたくし達』に任せてくださいまし!!ルノの絶対零度の氷、『わたくし達』の炎で溶かして見せますわ!!」
コルの性格と姿がいきなり変わった事に皆は驚きながらもシエル以外の貴族のお嬢様ってこんな感じなのかな…と皆は心の中で思うのだった…。




