破壊の申し子
「…ちーは大丈夫なのか…?あいつ、千棘の体もアエリアの体も本調子じゃねーだろ?ならこっちの役割の方が一番あってんじゃねーのか?」
「んなのあたいに聞かれたってわかんねーよ。なんかあるからちー助はコルの体でもあっちにいったんだろ?」
「ちーちゃんが今まで僕達を引っ張ってくれたのは変わらないでしょ?」
「エルリの言う通り、私達はちーちゃんを信じてついていってる。今更信頼は揺るがないよ」
「まぁそうだけどよ…心配すんのはすんだよ。というか帝国はこっちにくんのか?」
「さぁな、来なけりゃそれでいい。あたいらは魔王に加勢しようとしている奴らの排除だ」
鏡、ユーラン、エルリ、ルエリは聖地セルファスの上空に張られた鏡の魔法障壁の上に座りながらどこから敵が来るか眺めていた。
街に蔓延っていた魔族と悪魔はある程度片付けており、眼下に広がるのは襲撃で崩れてしまった街の光景だった。
四人はそんな街を悲しそうな表情で見つめながら口を開く。
「…なんていうか、ここまで崩れちゃったらまた住むまでに時間かかっちゃいそうだよね…」
「そうだねルエリ…でも、私達が失敗したら二度とここを再建する事も出来なくなっちゃうから頑張らないと」
「…終わったら……行きたきゃねーけど、エルドアースに行って支援してもらうよう言ってみるか…」
「俺様の方もアンバーウッズに頼んでみるわ。エルラシア王国の方はちーが何とかすんだろ」
そんな事を言っている時、街の神殿付近で爆発でも起こったんじゃないかと思うほどの土煙が上がり、四人はその付近に手持ちの望遠鏡を向けて目を凝らしていく。
するとそんな四人の視界に入ったのは桃色の羊と黒猫の獣人の二人と、見覚えのない真っ白な狼の獣人が見え、自然と見覚えのない狼の獣人に四人の視線は集まる。
「…おい、あの狼の獣人…コルなのか?…俺様の記憶が正しけりゃ、コルはあんな馬鹿見てぇな速度で走んねぇし、あんな見た目じゃねーんだが…」
「…あれがちー助の隠し玉なんじゃねーか?あの速さ…エルリとルエリと同じぐらいの速度じゃねーか?」
「…僕達と同じぐらいだね…ていうか、魔族をコルの体で蹴散らしまくってるよ…?」
「ちーちゃんの体の時でも私達の方が早かったのに…あ、今ちーちゃん悪魔を食いちぎったよ!?」
四人はいつもおっとりしたコルには似合わない戦い方に驚愕しながらも三人が城にも見える神殿へ一直線に進んでいくのを見守りながら、自分達の役割を全うしていく。
コル、フェイナ、アルメラが目的地に到着する頃、空の色が徐々に赤く染まり始め、地上を照らしていた太陽は黒く塗りつぶされていく。
「はぁ…またこれ…」
「ちーちゃんが目を痛めてまで明るい場所に出してくれたのに…」
エルリとルエリは見覚えのある空にうんざりしており、そんな二人の様子を見て鏡とユーランも察するが、鏡とユーランは気になる事を言ったエルリに問う。
「エルエリはここに閉じ込められてたんだな。…つーか、ちーが目を痛めてってどういうことだ?」
「…確かにちー助は右目に包帯を巻いてたみてーだけど、なんかの装備とかじゃねーのか?」
鏡とユーランに問われたエルリとルエリは悲しそうな表情を作りながら、悪い事をした子供の様に告白する。
「僕達を助ける為なのか、手をぐちゃぐちゃにしながら結界をこじ開けてくれたみたいなんだけど…」
「私達が結界を抜けた後、ポーションを使って手の怪我は治したんだけど…なんか右目から血が出てて、その怪我だけはポーションで治らなかったの…」
エルリとルエリの話を聞いて鏡は顎に手を当てながら思案し、頭の中の考えを吐き出すように呟く。
「…またオリジナルの神格魔法…?いや、コルの体で神格魔法は使えねぇ…まさかさっきの白い狼になる時の代償…?エルエリはあの姿に驚いてたからそれはちげぇ…じゃあ何で…」
コルの右目が何故ポーションで治らなかったのかを考察して、思考の海から返って来ない鏡にため息をつきながらユーランはインベントリから一本の槍を取り出す。
ユーランが取り出した槍は真っ白の槍で、見た目は両端が杭の様に先細りしていて持ち手すらなく、青白い光を発してバチバチという音を周囲に響かせていた。
「ったく…おい、鏡。考えんのは後だぜ?どうやら敵の大群がこっちに向かってきてるみてーだ」
ユーランはバチバチと音を鳴らしている槍を敵の大群が来ている方向へ向けて鏡へ知らせると、鏡もハッとした表情をしながらその方向を向き、望遠鏡で相手の正体を探る。
「…こっちの援軍じゃねーな。全部悪魔と魔族だな…空飛んでる時点でありえねーけど…つかユーラン、その槍みてーのはなんなんだよ?」
「あん?これか?」
ユーランは鏡に問われ、手に持っている槍をくるくると回すと青白く発光していた槍がどんどん眩しく発光していき、バチバチとなっている音も強く鳴り響く。
「ちょー!!ランランその槍バチバチうるさいよ!!」
「私達の鼓膜が破れちゃうよー!!」
エルリとルエリも槍から発せられる音に耳を塞ぎながら文句を叫ぶが、ユーランはニッと口端を上げて首にかけていたゴーグルをつけて、笑顔で槍の正体を大声で叫びながら教えてくれる。
「こいつはなぁ!!―――――――!!――――――――――――!!!!」
ユーランは槍の正体を教えてくれていたのだろうが、槍から発せられる音で何も聞き取れなかった三人は槍から発せられる光にも目が開けられずに透明な魔法障壁の上で蹲る事しか出来なくなる。
そんな三人を見たユーランは保険としてインベントリから一本の剣を取り出し、こちらに向かってくる魔族と悪魔の大群…目視できる限りで1000以上いると思われる場所に狙いを付けて、槍を回すのをやめて腕を引き絞る。
「―――――――――――!!!!!」
ユーランの口から言葉が発せられたのか何度か口が開閉した後、引き絞った腕から槍が投擲される。
2㎞程離れていた距離から槍を投げたとしても普通であれば届くはずがないのだが、ユーランの手から解放された槍はドンッという爆発音を響かせながら敵の大群へ光速で一直線に到着する。
そして大群の中の誰かにその槍が触れた瞬間、天変地異が起きた。
空から目を焼いてしまう程の光の赤、青、白、紫、黄、黒等の鮮やかな雷が木の根が張るように無数に枝分かれしながら降り注ぎ、ファーレン聖教国の空を、整地された地面を、空にいる魔族と悪魔を焼き尽くしていく。
数秒後、2㎞程離れていたユーラン達の塞いだ耳にも轟音としか例えようのない音の衝撃がユーラン達を襲い、魔法障壁の上から吹き飛ばしてしまう。
ユーランはこうなる事が事前にわかっていた為、あらかじめ用意していた剣を吹き飛ばされている方向とは逆の方向に振り抜き、風を巻き起こす。
氷や土の壁では叩きつけられていただろうが、風が優しく四人を包み込み、徐々に吹き飛ばされた速度を殺していく。
「はっはー!!!どーだあたいの『ケラウノスの槍』の威力は!!!あたいらに喧嘩売ったのが間違いだぜー!!!」
そう叫んだユーランの手に握られていた剣が粉々に砕け、風の効果がなくなった四人は真っ逆さまに街へ落ちていく。
しばらく満足そうな笑みを浮かべて落ちていたユーランは背中に半透明の羽を生やした双子の姉に抱えられて空を飛び始める。
「おう!エルリさんきゅ『ちょっとランラン!!!何考えてんのよ!!!!』ー…おおう?」
ユーランはエルリの顔を見ると鬼の様な形相で睨みつけられている事を認識して首を傾げる。
「ん?何考えてるってそりゃあ、一撃であたいらを敵に回した事を後悔させようと思ったんだけどな?」
ユーランの答えを聞いたエルリはそれでも怒りが収まらず、抱えているユーランを空中で揺さぶる。
「少しは!!撃った後の!!ことを!!かんがえ!!なさいよ!!!!」
「ぐっ…つぅ…はは、わりぃーな?」
エルリはユーランの表情が歪んだのを見て怒りを収めてユーランの体を見つめると、槍を放った右腕が紫色に変色しており、所々焼け焦げているユーランの腕を視界に捉えた。
「ちょ、ちょっと!!ランラン何してんのよ!!腕がヤバいじゃない!!」
「ああ…出来れば早く治してーからさっきの障壁まで運んでくれるか?」
「…まったくもう!!」
別の意味で怒りを覚えたエルリは鏡が張っていた魔法障壁の所まで飛びながら向かったが、障壁も音の衝撃で破壊されていたらしく、ユーランを下ろす事が出来なかった。
「音で障壁破るなんてどんだけよ…!…ルエリー!!!」
エルリは自分の片割れの名を叫ぶと下から鏡を捕まえていたルエリが来る。
「エルリ、ランラン大丈夫だった?きょーちゃんなら…ってランランの腕!!」
「おいおいユーラン…おめぇやりすぎだっての…」
そう言いながら鏡は魔法障壁を空間に張りなおして四人でその上に腰を下ろす。
「おう、さんきゅー」
ユーランはお礼を言いながらインベントリから一本のポーションを取り出して飲み干していく。
するとむごい状態の腕がみるみる治癒していき、健康な右腕に戻ったのを確認する為に拳を作って確認する。
「…よし、腕はもう大丈夫みてーだな。ていうかあたいの槍凄くないか!?ちゃんと見たかよ!?」
腕が治った事より自分が作った槍の出来栄えがどうだったかの感想を三人に求めるユーランだったが、その一言が三人の怒りを再発させる。
「おい!!ユーランてめぇ!!あれはいったい何なんだよ!!」
「そーだよランラン!!あれのせいで僕達吹っ飛んだんだよ!?」
「ほんとよランラン!!耳も目も使えなくなっちゃうところだったんだよ!?一人だけゴーグルしてるし!!」
「わりぃわりぃ、説明したんだけどよ?雷の音で聞こえてなかったみたいだな?」
ゴーグルを外しながらキラキラしている表情を作りながらケラウノスの槍を説明していく。
「『ケラウノスの槍』って言ってな?あたいがこっちの世界で作れるようになった武器なんだよ!しかも威力は見ての通り、神格魔法と同等の力を放出する槍なんだよなこれが!!」
後ろに広がっているケラウノスの槍で出来上がった光景を腕を広げながら披露しつつ、説明を続ける。
「でな!?『ケラウノスの槍』は回せば回すほど威力と飛距離が伸びてくんだ!最大まで威力貯めると、あっちの世界での雷属性の神格魔法、『雷炎災害』を再現出来んだよ!!!」
雷の神格魔法の再現だと興奮気味にぴょんぴょんと跳ねながら説明するユーランは、後ろの光景が無ければきっと親に物を強請る可愛い女の子の様に見えたのであろうが、今の状況では破壊神が無邪気に破壊の成果を自慢しているようにしか見えなかった。
「…そうか」
「おん?何だよ鏡。テンション低いじゃねーか?エルリとルエリもどうしてため息ついて項垂れてんだよ?んでな!?ほかにも色んな属性の神格魔法を――――」
疲れた様子でユーランの話を聞いている三人は、示し合わせたわけでも無く同じタイミングでため息をつき、同じタイミングで肩を落としていた…。




