救助活動
(行方不明だった聖女がいきなり街中に現れれば周囲からの視線、声掛けは当然。この状況を魔王の部下が確認すれば各国に散らばった魔族はきっとこの場所に戻ってくるはず…後は出来るだけ早くエルリとルエリを探し出さないと…)
ルノアールの転移魔法で全員が聖地セルファスの廃教会に転移した後、誰も一言も発さずに各々の仕事に取り掛かっていた。
千棘は那奈の巫女服を着て街中を歩き、自分の姿を住民に晒して存在をアピールしながらエルリとルエリの痕跡を探していたが、特に怪しく場所は無く時間だけが過ぎていった。
「フィールド、私達は囮の役目をちゃんと果たせているのでしょうか?」
「ナナ様が姿を現せばきっと情報は耳に入ると思います…ですが…ナナ様が囮になる必要はあるのですか?」
「はい。私が囮になる事で各国に散らばっている追っ手をこの国に戻す事が出来ます。もし、魔王を倒せたとしても仲間が別の国で同じ事を繰り返すかもしれません。だから今回の事で全て終わらせなくてはいけないのです」
(まぁ、それだけじゃないけど…)
渋い表情をしているサクラバ・シンジに何度目かわからない理由の説明をしながら左眼を閉じて右眼だけで街を見ていく。
何かが切り替わったような、フィルターがかかったような視界で隅々まで見渡すが気になるものは見つからない。
(やっぱり母さんレベルじゃないと見つからないか…?イヤリングの追跡も切れてるから絶対に異空間にいるはずなんだけど…)
きょろきょろしながら首を傾げている千棘を見てサクラバ・シンジは疑問に思う。
「ナナ様?先程から何をされているのでしょうか?」
「白黒の眠り姫を起こした時に見えないはずのものが見えたので何か見えないかと思って試しているのですよ。もしかしたら女神様の新しい力を授かったのかも知れません」
千棘がそう言うとサクラバ・シンジは驚いた顔をしながら何かを考えている表情を作る。
「フィールド?どうしましたか?」
「…いえ、信者が集まったから新しい力を授かったのか…それとも白黒の眠り姫を起こしたから授かったのか考えていただけです」
「そうですか…」
そして二人は街を歩き続けてとイヤリングから那奈の声が聞こえてくる。
『千弦?母さんだけど、今ね?セルファス全域を覆う様に赤い膜の様な結界が張られていて、その中心に向かって行ったら宿屋の一室に空間の歪みを見つけたの。多分ここでエルリちゃんとルエリくんが閉じ込められちゃったと思うんだけど、どうしたらいいかしら?』
(やっぱ母さんの方が先に見つけるか…エルとデルが護衛に付いてるから大丈夫かな)
千棘はサクラバ・シンジに聞こえないぎりぎりの声量で伝える。
『わかった…絶対にエルとデルの傍を離れないでその空間をしら…ッ!!』
那奈と通信している最中、突然殺気を空から感じた千棘は反射的に上を向く。
千棘の視線の先には頭には角、背に蝙蝠の様な羽を持つ者が10人ほど見え、反射的に動こうとした瞬間、サクラバ・シンジが千棘の身体を横抱きにして走り出す。
「ナナ様!!申し訳ございません!!魔族の襲撃です!」
サクラバ・シンジが人混みを避け、屋根に飛び移りながら移動していると空から10の魔法がサクラバ・シンジ目がけて降り注ぐ。
「ナナ様!揺れるのでしっかりお掴まりください!!」
そう言うとサクラバ・シンジの筋肉が一回り膨れたような気がした後、建物の屋根を小さく砕きながらスピードを上げて飛び跳ねる。
魔族の魔法を避けた事によって建物に魔法が当たり、そのまま建物の瓦礫が大通りや人が通る道にばら撒かれる。
突然建物が爆発し、頭上から巨大な建材が落ちてくる恐怖に道行く人々は悲鳴をあげながら現場を見る。
そして誰かが言った一言で聖地セルファスの騒動が幕を開ける。
「あ、あ!!ま、魔族だああああああ!!!!」
空を指さし、絶叫しながら声の主は逃げ始め、人にぶつかりながら、人を倒しながら我先にと逃げ惑う。
その様子から空を見上げた人達、声をあげた人と同じような行動を取り始めて一気に混乱する。
(くそ…やっぱりこのまま魔王と戦闘になりそうだな…千棘もアエリアも万全じゃないのに…コルでやれるのか…!?)
事前情報で千棘はサクラバ・シンジが那奈以外どうなってもいいと言っていた事を把握しながらも言う。
「フィールド!!街の人々が危険です!!助けてあげないと!!」
「申し訳ございませんナナ様!!私はナナ様以外どうなっても構いません!!心優しいナナ様にはお辛いと思いますがここでナナ様を失ってしまえば救える命も救えません!!」
サクラバ・シンジは住民が悲鳴をあげながら逃げている者達を一瞥もせずに屋根を飛び跳ねていく。
ずっと続いている魔族からの攻撃でサクラバ・シンジが足場にした建物は全て爆発し、街の人々への被害を増やしていく。
街の人々の悲鳴が色々な場所で聞こえ、街に火が上がり始めた時、サクラバ・シンジが人がまだ少ない広場に出たのを確認して千棘は言う。
「フィールド!!私はあの魔族を倒します!!」
サクラバ・シンジの腕から逃れようともがくが不安定な体勢という事もあり、一回り大きくなった腕でがっしりと掴まれなかなか抜け出せない。
もがく千棘を見てサクラバ・シンジは驚きの表情を浮かべて腕に力を更に入れ、逃げ出さない様に捕まえる。
「ダメですナナ様!!」
(ぐっ!!ゴエティアの首輪のデバフで全然抜け出せない…!もう仕方ない…!)
千棘はこのまま魔王討伐をする事になると思いながらもサクラバ・シンジへ怒鳴る。
「離せサクラバ・シンジ!!!僕はナナじゃない!!偽物だ!!」
聖女の顔で人が変わったような物言いをする腕の中の人を見てサクラバ・シンジは驚きながら足を止めてしまう。
「な…ナナ様…?」
「馬鹿!!何で足を止めるんだ!!!」
サクラバ・シンジが足を止めた事によって魔族が一気に攻撃を激しいものに変えて千棘達へ降り注がせる。
千棘は自分の不調を感じながらもインベントリから鏡の様な盾と紫の水晶で出来た弓を取り出し、盾を構えて魔法を受ける。
盾に当たった魔法はそのまま相手に反射されるものや真上に弾かれたりして周りに被害は出していないが、どうしても盾でカバー出来ない部分に魔法が当たってしまい街の人々に被害が出てしまう。
(くっそ…!!いつもの半分も力がでない…!!力緩めたら吹き飛ばされそうだ…!!)
ゴエティアの首輪を使用した際のデバフが思った以上に辛く、素手で弾けるような魔法ですらかなりの脅威に感じている千棘は歯を食いしばりながら空から降り注ぐ魔族の魔法を受け続ける。
「…サクラバ…シンジ!!あいつらを倒す事は出来ないのか!?」
防御しか出来ない千棘はサクラバ・シンジに問いかけるが、何も返事が返って来ない事に苛立ちながら視線を後ろに向ける。
「なっ!あ、あいつ逃げたのか!?」
後ろを向いた千棘はサクラバ・シンジがいない事に気付いてつい口から感情が漏れてしまう。
すると魔族の攻撃の手が止まり、何かを空で話し合った後、千棘を攻撃していた魔族は散り散りに飛んで行ってしまう。
「なっ!?あ、あいつらも逃げるのか!?」
敵にも味方にも逃げられた千棘は呆れた様な表情を浮かべながら盾と弓をインベントリにしまい、瓦礫の下敷きになっている人達を助け出していると通信が入る。
『リア!!ギルドの近くに魔族が出た!住民を避難させる組と討伐組で別れちゃったから私達は住民を避難させてから討伐に向かうね!』
『わかった!その判断で間違ってないから頼むユリス!』
『ちー助、こっちにも魔族が出た。一応住民の避難を優先しながら魔族と交戦するぜ』
『わかったラン。出来れば二本以内に仕留めてくれ!…ミラー!サポート頼むぞ!』
『おう、俺様に任せとけ』
『私とアルも散らばった魔族倒しに行って大丈夫?』
『ウェイナは住民の守りを出来るだけ優先しながら戦ってくれ!アルは極力建物に被害を与えない様に戦ってくれ!無理なら全力で構わないけど人を巻き込むのだけは気を付けてくれ!』
『わかった』
『りょーかい!』
(後は…)
『母さん!魔族が攻撃し始めた!そっちは大丈夫!?』
『ええ、エルちゃんとデルちゃんが対処してくれてるから大丈夫。ただ…フィールドが魔族に連れていかれちゃったみたい…』
『サクラバ・シンジはそっちに行ったのか…って!?捕まった!?…いや、今はそれより母さん、空間の歪みについては何かわかった!?』
『もう少しで結界を破れそうだからこっちに来てくれる?』
『マジか…この辺の救助も終わったからすぐそっちに行く!』
…
(やっぱりこのまま魔王討伐のパターンだな…ゴエティアの弱体化が思った以上に酷かったし、さっさとコルに姿を変えていくしかないな…)
千棘は街の人達が避難済みの場所に向かい、誰も見ていない事を確認してコルの姿に変わる。
コルは王都のクーデターを阻止した時のゴスロリの様な衣装と、身長程のキラキラとした宝石が取り付けられた杖をインベントリから一瞬で装備替えをする。
そして護衛の為にフェンリルを召喚していつもの真剣な声色で指示をする。
「フェンリル。今からこの宿に向かわないといけないの。でも街の人の救助も必要だから私を人型になって運んでくれるかしら…乗ったままだとうまく召喚出来ないから」
フェンリルはコルの指示を聞いて身体から発せられている精霊光を一際強く輝かせるとその精霊光の中から身長180程の白髪の長身美女が姿を現す。
背中まで伸びる真っ白な髪、目は狼を思い浮かべる程鋭く金色の瞳、口からは牙が見え隠れしており、頭と腰にはフェンリルの時にもあった狼耳と尻尾がある。
服は動きやすさ重視のレンジャー系の軽装、武器は何も装備していない身軽な格好をしていた。
「わかりました、お母様。すぐに向かいます」
フェンリルはコルの事をサッと抱き上げ、道を登っていると感じる程身体を倒して疾走する。
コルはフェンリルの腕の中で瓦礫をどかす簡単な命令を受け付ける召喚を次々と呼び出しながら運ばれていく…。
■
「我が王、人形を捕らえてまいりました」
人形を捕まえたと言った人物の後ろにはピクリとも動かないサクラバ・シンジが横たわっていた。
「その人形をこっちに持ってこい、頭の情報を抜き取る」
王と呼ばれた人物がそう言うと全く動かないサクラバ・シンジを王の足元へ移動させて首を垂れる。
「我が王が教えてくださった魔法の言葉を呟きましたら、死んだように動かなくなってしまったのですが…頭の方は問題ありませんか?」
「何も問題ない。それより勇者がこの地で暴れているみたいだがそっちはどうなっているんだ?」
「はっ…只今、各国に依り代を探しに行っていた者達がこの地に集まり、勇者に駒をぶつけている最中でございます。中にはかなり強い個体もいるようで、我が王の糧に相応しいと思われます。もうしばらくお待ち頂ければその個体も我が王の前に連れてこれるでしょう」
「そうか、後始末などどうとでも出来る。手段を選ばず早急に終わらせろ…」
「はっ!」
サクラバ・シンジを連れてきた者は王の前から姿を消す。
「さて…この人形から情報を引き出すか……『記憶抽出』」
王がそう呟くとサクラバ・シンジの頭に手から出た様々なケーブルの様な物が刺さっていく。
刺さる度にカチャカチャと機械の様な音を響かせ、接続される。
「ほう…?これは…」
王はサクラバ・シンジの記憶を読み取り、口端を上げていた…。




