戦場の花嫁達
皆がアエリアが起きた事に喜んでいた頃、エルリとルエリは二人で夜のファーレン聖教国、聖地セルファスの街を歩いていた。
二人は大通りにちらほらいる人達を鑑定しながら話す。
「ルリ、ちーちゃん起きたって…本当に良かった…」
「そうねエリ…本当によかった…起きる時に傍に居たかったけど、今はこっちを全部終わらせないとね…」
「そうだねルリ。僕達がしくじったら、何もかもが失敗するかもしれないし…」
エルリとルエリがどうしても手が離せない用事…聖地セルファスが戦闘地になってしまった時の住民用の避難経路の確認と情報操作のお仕事がある。
もし、この仕事が未完成なら作戦は始められないし、戦闘が始まった時に大量の死者が出てしまう可能性がある為、少しでも早く終わるように夜も街を歩き続けている。
「こういう時にマップ機能は役に立つね?ルリ」
「そうだねエリ。もう少しで全部埋まりそうだから、終わったら避難経路の確認と噂を流しましょ。…後、街中をうろついている魔族と悪魔についても調べましょ」
エルリとルエリは街中にいる人間に擬態した魔族と悪魔を鑑定しながら見つつ、歩を進める。
「…一応マップは全部埋まったね」
「うん…所々地下施設があるみたいだけど、私達で姿を消して侵入してもバレる可能性があるから深入りは出来ないし、現状確認出来る所は確認終わったわね」
「一旦宿屋に戻ってマップを紙に起こして明日、朝になったら噂を流して屋敷に帰ろっか」
「そうだねエリ。一旦戻りましょうか」
■
「マップはこんな感じでいいかな?」
「…完璧。後は私達で避難経路を書き込んでいけば…」
二人で埋めたマップを紙に起こしていた時、何処からか視線を感じたエルリはインベントリから双剣を抜き出す。
「…見られてる」
そうエルリがルエリに伝えるとルエリもインベントリからレイピアを抜き出す。
「僕達の素性がバレた…?」
「相手はチート能力満載の魔王…何があっても不思議じゃない」
「逆に今まで何事もなく街を歩けてた方が不思議って事か…」
「うん…情報操作は出来なかったけど、一旦屋敷に戻りましょ」
エルリとルエリはインベントリから転移用の魔道具を取り出して魔力を込めていく。
すると窓から差し込む月明りが白から徐々に赤く変わっていく。
「外の様子がおかしい…」
「そうね…とりあえず転移…」
そして屋敷に転移…出来なかった。
「!?」
二人は転移出来ない事実に驚いていると、拠点にしていた宿屋の屋根が爆ぜる。
屋根が爆ぜた直後に無数の闇魔法が部屋に撃ち込まれる。
「一体何!?」
「わからない!私達の行動はバレてたみたい!」
二人は高速で赤い光が差し込んでいる窓に突っ込み、窓を割りながら宿屋の外に退避する。
「空が赤黒い…何かに閉じ込められてる!?」
ルエリが空を見上げると月は赤く染まり、赤い月光を浴びて真っ黒な雲が見える。
魔道具が使えなかったことを踏まえてエルリとルエリは何かの結界、もしくは別空間に閉じ込められていると認識する。
「わからないけど、どうにか街の外までいこ!私達の足なら問題ないわ!」
二人は走り出そうとした瞬間、前方に黒い炎の壁が現れ足を止める。
「ちょ!もう!なんなのよ!」
「姉さん、多分あいつの仕業だ…」
エルリとルエリが空を見上げると赤黒い肌に角を三本生やし、蝙蝠の様な羽を羽ばたかせている人物がゆっくりと降りてくる。
「何処に行こうと言うのだ?」
身体からは魔族特有の黒い魔力の靄が出ており、近づくにつれて気分の悪くなるような感覚に襲われる二人。
「何処でもいいでしょ?立ち塞がるなら容赦しないよ?」
「私達と一人でやる気?仲間を連れてきたほうがいいんじゃないの?」
そう言うと赤黒い肌の魔族は口を三日月の様に開き言う。
「お前達如き我一人で…と言いたい所だが、我が王の前で遊ぶわけには行かないのでな。捕まえて頭の中を覗かせてもらうぞ」
赤黒い肌の魔族が体から出ている黒い靄を広げていく。
その黒い靄から同じような姿をした悪魔が100体ほど現れ、空を飛ぶ悪魔と地に足を付ける悪魔で分かれていく。
「お前達、あの下等生物の頭だけは傷つけるなよ?身体は無くてもいい、やれ」
赤黒い肌の魔族が呼び出した悪魔にそう命令すると、一斉にエルリとルエリに向かって突撃する。
「何気にこれが僕達の初戦闘だよね?」
「何気にこれが私達の初戦闘だよね!」
二人で同じようなセリフを言いつつ、インベントリから戦闘装備を取り出して一瞬で装備変更する。
二人の格好は白いミニドレスに白いブーツ、頭には新婦が付けるヴェールの様な物が添えられ、二人は純白の花嫁の姿になる。
「弟くん!いつも通りね!」
「姉さん!いつも通りだね!」
二人は押し寄せてくる悪魔の波に飛び込むように瞬発する。
エルリは二本の両刃剣で的確に首を刎ね、ルエリは魔法でエルリに攻撃しようとする悪魔に速く、貫通力の高い魔法で撃ち抜いていく。
エルリは死角から近づいてくる悪魔に気付いても反応しない。
エルリに悪魔の爪が当たる瞬間、ルエリのレイピアが爪を振るおうとした者の頭に突き刺さる。
ルエリは近寄ってくる悪魔を当然の様に無視をする。
ルエリに悪魔が近づいて攻撃出来る間合いに入る瞬間、エルリの双剣が四肢を、頭部を跳ね飛ばす。
お互いを信頼しきっているからこそ出来る戦い方で、みるみるうちに悪魔を殲滅して青い血を咲かしていく。
その光景は二人の戦闘衣装も相まって花嫁が戦場で青い花を咲かしていく様にも見える。
「やっぱりこの衣装に変えて正解だね姉さん?」
「そうだね、この青い血に毒とか酸とかデバフ効果があるみたい」
二人が浴びている青い血は花嫁のドレスに付着すると青黒い煙を立てながら消える。
二人が戦闘前に着替えた衣装『純潔の花嫁衣裳』は狩猟と純潔の神アルテミスを模した衣装で、戦闘している限り自身を犯す効果を無効化するという物だった。
悪魔の青い血にはデバフの効果があったようだが、全て純潔の花嫁衣裳に弾かれて無効化されていた。
そして空から高みの見物をしている赤黒い肌の魔族が感心したように言う。
「なかなかやるようだな?」
「なら高みの見物なんてしてないで私達と戦ったらどうなの!?」
「僕達が怖くて戦えないから下っ端を戦わせてるんでしょ!?」
二人の物言いに赤黒い肌の魔族の目元がピクリと反応するが、すぐに落ち着いた雰囲気で言う。
「そうだな、だからもっと量を追加させてもらうとしよう」
すると先程と同じように靄から悪魔が飛び出てくるが、その中には魔族も含まれていた。
「増援…無駄だってわからないのかな?」
「わからないから無駄な事をしてるのよ」
二人はそう吐き捨てながら魔族と悪魔が入り混じった敵を殲滅していく。
チラッと二人は空を見上げると赤黒い肌の魔族と青黒い肌の魔族が話しているように見えるが、戦闘音が激しく聞き取る事は出来なかった。
「姉さん!上にいる奴らと下にいる奴ら、同じ魔族だけど戦ってるのは下っ端なのかな!?」
「多分そうだと思う!下っ端ならいくら死んでも構わないって考えなんじゃないかな!!」
「やっぱりちーちゃんが言った通り、愚王に突撃させられる兵士にはなりたくないよね!」
「当たり前よ!こんな犬死なんて絶対嫌よ!」
二人はそんな軽口を言いながら攻めてくる下っ端の魔族と悪魔を蹴散らしていき、足元が肉体が崩れた灰の塊だらけになっていた。
その灰にもデバフ効果があったのか、舞い上がった灰は純潔の花嫁衣裳に触れると音もなく消失する。
「この灰にもデバフ効果あるなんてどんだけ!?」
「しかもどんどん現れるなんて…黒い悪魔みたいでほんとやだ!!」
倒し切っては補充される工程を五回ほど繰り返した頃、流石に息の切れたエルリとルエリを見て空から赤黒い肌の魔族と青黒い肌の魔族が降りてくる。
「ハァ…やっと降りて来たんだ…」
「ほんと…陰湿な奴って嫌い…」
二人は愚痴りながらインベントリをまさぐり、黄色い液体の入った瓶…スタミナポーションを飲み干して魔族を見据える。
「貴様らは本当に人間なのか?」
赤黒い肌の魔族が驚いたように問う。
「別に何だって…いいよね…」
「ええ…関係ない事よ…」
二人はスタミナポーションを飲んだ瞬間に疲労が抜けきっていて息切れなんてしていないが、油断を誘う為に息が切れている演技をする。
二人が満身創痍になっている様に見えた二人の魔族は、満足そうな表情をしながら言う。
「だが、流石に先程の数相手では満身創痍なようだな?」
「なぁ、もうこいつらやっちまっていいか?早く殺したくて仕方ねぇよ」
青黒い肌の魔族がもう我慢出来ないと言った感じで言う。
「早くこいつらの頭を魔王様に持っていきてぇ…身体は好きにしていいんだろ?」
赤黒い肌の魔族がやれやれと首を横に振りながら言う。
「もう少し我慢を覚えろ…お前の悪癖だぞ?人間の身体で欲求を満たすなんて恥ずべき行為だ」
趣味を恥ずべき行為と言われた青黒い肌の魔族が声を荒げる。
「いくらてめぇでも俺の趣味を馬鹿にしたらぶっころすぞ!!」
「やれるものならやればいい…だがその前にそこの人間二人の頭を魔王様に持っていくことが先だ。身体は好きにしろ」
そう言われると口を三日月の様に開きながら身体に黒い魔力の靄を纏って鎧の様な形を作っていく。
「アァ…綺麗に頭と身体を切り離さないといけないからなぁ…やっぱり剣がいいか?斧か?ククク…」
手に黒い魔力の靄が集まると斧の様な形を作り、それを振り回して調子を確認する。
エルリとルエリはお互いの顔を見て小さく頷き、エルリが言う。
「勝手に…話進めてる所…悪いんだけど…あんた達の…名前と目的は…なんなの?」
赤黒い肌の魔族が凄惨な笑みを浮かべながら言う。
「我らは神をも越えようとする魔王様の為に動いている、ただそれだけだ。お前達はもう死ぬのだから名など必要ないだろう?」
その答えを聞いたエルリとルエリは項垂れながら溜め息を吐き、武器を構え、息が切れた演技もやめて目つきを鋭いものに変えて言い放つ。
「それが君達の最後の言葉でいいの?」
「それが最後の言葉なら…さようなら、名も知らぬ魔族さん達」
そうエルリが言った瞬間、二人は魔族ですら認識出来ない速度で瞬発する。
エルリは斧を持った魔族の首と腰を斬り飛ばし、ルエリは赤黒い肌の魔族の眉間にレイピアを突き刺す。
「は?」
何が起こったかわからない魔族達は疑問の声を漏らすが気付くのが遅かった。
二人の魔族は身体が動かなくなり、そのまま後ろに倒れるとエルリとルエリは足先から徐々に灰になっていく倒れた魔族二人を見ながら言う。
「お疲れ様、姉さん」
「お疲れ様、弟くん」
「それにしても魔族ってこんなものなんだね?」
「そうね、拍子抜けだったね…」
「後はこの空間から抜け出す事なんだけど…」
「こいつら倒してもこの空間から出れないって事は…こいつらの力で閉じ込められたわけじゃないって事かな?」
「その可能性が高いね、姉さん」
二人の話を聞いていた青黒い肌の魔族が頭だけで喋り出す。
「どんなに強くてもここから出る事は出来ねぇよ馬鹿ども。魔王様が作った空間だぞ?俺達しか出入り出来ねえ様にするぐらい簡単に出来るわ低能ども。せいぜい死ぬまでこの空間で楽しく過ごすんだな」
エルリとルエリは項垂れて溜め息を吐く。
「情報どうもありがとう。不快だからもう喋らなくていいわ」
そうエルリが呟き、青黒い肌の頭を踏みつぶして灰化させる。
眉間にレイピアが刺さっている魔族も喋れないようだが、笑みを作っているのを見てルエリも言う。
「何も言わずに笑ってるのは気色悪いよ。さようなら」
赤黒い肌の頭部を踏みつぶしてレイピアを抜き、エルリに問う。
「んー…どうしよっか…通信も繋がらないし…」
「んー…本当にどうにもならないのか確認して見ましょ?嘆くのはその後よ」
「そうだねエルリ。それに僕達の賢王ならきっと助けてくれるよ」
「そうねルエリ。私達は賢王に仕えてるんだから」
花嫁姿の二人は笑顔を作り、マップを視界に表示させながら赤黒く染められた街の中を彷徨い歩いていく…。
その足取りは何処か、散歩にでも行くかの様に弾んでいた。




