曝け出す心の内
「すみません、お待たせしました…今は意識はありませんがこの方が神子の聖女ナナ様です」
サクラバ・シンジが横抱きで抱いている意識のない少女…彼女が神子の聖女ナナだと伝える。
そして応接室には人が増えており、各国に散らばっていた鏡、ユーラン、エルリとルエリも屋敷に戻ってきていた。
事の詳細もサクラバ・シンジが神子の聖女を聖域から連れてくる間に共有済みで、詳細を聞いた皆は驚いた顔を晒していた。
タイミングよく転移魔法で帰ってきたサクラバ・シンジが抱えている神子の聖女を皆が見つめる。
そしてルノアールがぽつりと呟く。
「なんだか…似てる…」
その言葉に親友のフィーヤが反応する。
「うん…確かに似てる…」
二人の言葉を聞いた皆は似ている人物を思い浮かべるとすぐに思い当たる。
「ちーちゃん…?」
「ああ、ちーに似てんな…」
「確かにちー助に似てるな…」
「僕達みたいにそっくりじゃないけど似てるね?」
「私達みたいにそっくりじゃないけど確かに似てるね」
「そうね、お姉さんと言われても不思議じゃない」
「んー…他人の空似?そんな事ないよね…」
聖女の髪色は茶色で髪を伸ばした千棘に似ており、目の色は意識を失って閉じている為わからないが緑色であれば姉と言われても誰もわからない程似ていた。
サクラバ・シンジは皆がちーと呼ぶ人に神子の聖女が似ていると言っているが、よくわかっておらず首を傾げる。
それ以降皆は何かを考えているみたいだったが横抱きで抱えている聖女が心配になり、皆に話しかける。
「誰かに似ているようですが先にナナ様が目を覚ますまで休める場所に案内してもらえませんか?」
そう言われた皆ははっと我に返り、メイドのエルとデルに部屋を案内するよう伝えてサクラバ・シンジと神子の聖女を別室に連れていった。
部屋に残った面々は今後の予定について語っている。
「さて…衝撃の事実が色々あったわけだけど…きょーちゃんとランランはどうする?まだ離れられそうにない?」
鏡とユーランは腕を組みながら、頭を悩ませる。
「正直な話、既に魔王が復活してんなら俺様はそっちに加わるべきなんだろうが…蘇生の時に魔力ポーションを根こそぎ使っちまってるから今は加勢できねぇ…ピュリがいねぇから補充も出来ねぇしな。後あれだ、俺が今離れちまうとアンバーウッズがあぶねぇ。守れるなら守れるだけ守ってやりてぇからな…作戦開始するまではアンバーウッズに籠ってらぁ」
「あたいはどっちでもいいな…国王から他国の状況を聞く為にいるだけだし、特に問題はねぇ。…だけど、同じようにダンジョンから魔獣が溢れちまってるから防衛の為に魔剣作りは教えておきてぇ。だから問題がないなら鏡と同じく作戦開始まではエルドアースに籠るわ」
その話を聞いたフェイナは顎に手を当てて思考し、数分考えたフェイナは小さく頷く。
「おっけー。こっちの状況は逐一報告するからその時は助けに来てね?最悪の場合、相手はチート能力を貯め込んでる可能性がある…全力で当たらなきゃこっちが死ぬ可能性があるし、絶対にみんなの力が必要になる。防衛に全力注ぎ込まないよううまくやってね?」
「おう」
ユリスとルノアール、フィーヤに視線を向けながら伝える。
「ユリス、ルノアール、フィーヤは正直な話…今の実力じゃ穴になりかねない…だからもっと実力をつけてもらう。一人でエルとデル、どっちかと互角になるまで死ぬ気で頑張って欲しい…貴女達ならやれるよね?」
やれるよね?という信頼にも煽りにも聞こえるフェイナの言葉で三人の目はスッと細まり、心外そうな表情を作りながら言う。
「私達は何でもやります、見くびらないでください」
「ルノの言う通り、私だって覚悟は決まってる!」
「今ならリアの近接にも勝てる。エルとデルを超えてフェイナの防御も絶対に突破できるようになってやるから」
宣戦布告とも言える三人の宣言を聞き、フェイナはニッと笑顔を作る。
「その意気やよし!私にかすり傷付けれるぐらいになってくれなきゃ、安心して攻撃は任せらんないからね!!」
そして今回の作戦に絶対に必要な役割をエルリとルエリに命じる。
「エルリとルエリは戦闘予定地になる聖地セルファスにユリス達と転移してから地形把握用の地図作成、住民の避難経路の確認、それと情報操作。情報操作に関しては聖女が起きてから始めて欲しい。流す内容は教皇が実は魔王だったというモノと、近々戦争になるかもしれないから聖地セルファスから避難した方がいいという内容ね。私達がファーレン聖教国を襲った悪にならないよう流して欲しい、大丈夫?」
エルリとルエリはお互いの顔を一度見た後、小さく頷きフェイナを見る。
「りょーかい!」
残り一人の仲間、アルメラに向き直ったフェイナは言う。
「アルメラは万が一にもないと思うけど、ここでちーちゃんと聖女の護衛、私もここで護衛プラスバックアップ組との連携を取る、おっけー?」
アルメラは表情も崩さず、いつもの真顔で頷く。
「わかった、任せて」
パンパンと二回手を叩いて皆の視線を集めて発破をかける。
「はいはい、みんな!色々言ったけど、自分で出来る範囲でいいからね!無理したら何処かで綻びが出る、無理したら誰かがフォローしてしわ寄せがくる、一人の焦りがみんなの足を引っ張る、ちゃんと認識しておくんだよ!!私達は物語の選ばれた勇者なんて高尚な物じゃない、突然覚醒して魔王を一発で倒すなんてありえない…だからこそ念入りに準備して、確実に行動していくよ!」
皆がそれぞれ応答し、顔にやる気が満ちるのを確認したフェイナは告げる。
「よし!んじゃぁみんな頼んだよ!解散!」
各々に割り振られた仕事を完遂する為に皆は応接室を後にし、応接室に残った者はフェイナとアルメラだけになった。
そしてフェイナは疲れを吐き出すようにソファーにどさりと腰を下ろして深い溜め息を吐き、身体を沈み込ませていく。
「はぁ…真面目キャラはフェイナちゃんの担当じゃないんだけどなぁ~」
アルメラもフェイナの隣に座り、ソファーに身体を沈ませながら言う。
「まぁ、ギルマスが不在ならフェイナが指揮を執るのが一番って言うのは全員思ってる。だから私達は空中分解せずにしっかりと目標に向かっていける…それに、そんな事言いつつも口元は笑ってる」
「ん~?まぁね~…なんていうかさ~…」
フェイナは軽く伸びをしながら、目を閉じて自分の心の内を晒す。
「少しは私も憧れの王子様に近づいてるのかなって思ったら、無意識に笑っちゃったのかな?…それに、ユリスとかルノアール、フィーヤを見てるとさ…私の方がちーちゃんとずっと一緒にいたし、色んな事を知ってるんだぞーって対抗心が沸いちゃうんだよね~」
アルメラはフェイナの言葉を聞きながら表情を見る。
その表情はアルメラがいつも一緒にいたのにも関わらず、見た事がない表情を浮かべていてドキリとした。
フェイナの表情は今までどれだけ悩んでいたのか、どれだけ溜め込んでいたのか…一目見ただけでわかってしまうほど歪んでいた。
「だから…なのかな?…わかんないけど…ちーちゃんが…ちーちゃんがお…起きるかもしれ…しれないって思ったら…気が緩んじゃったのか…色々な気持ちが噴き出ちゃって…もしちーちゃんが起きてわ、私以外の人といい感じになったら嫌だなとか……そういうのを考えない様に…わ、笑ったり発破かけてたけど……不安で頭ぐちゃぐちゃになって…」
涙も拭かず、途切れ途切れになりながらも自分の醜いと思っていた感情を吐き捨て、アルメラをじっと見つめてフェイナは聞く。
「私…ちーちゃんみたいになれてるかな…?ちーちゃんは起きても…今までと変わらないで…一緒にいてくれるかな…?ちーちゃんは…私を選んでくれる…かな?」
アルメラはフェイナの問いに胸が締め付けられて息が苦しくなる。
いつも私達を笑顔で支えて守って助けてくれていたフェイナ、いつも私達に笑顔をくれていたフェイナ、いつも私達に安心を与えてくれていたフェイナ。
今までのフェイナから考えもつかない心の内を聞いたアルメラも表情を歪めながらフェイナを胸に抱きしめる。
「ごめん…今までずっと一緒にいたのに気付いてあげれなくて…いつも私はフェイナと千棘に甘えてた。私が失敗してもフェイナと千棘が守ってくれる、フェイナと千棘が何とかしてくれるってずっと思ってた」
フェイナを抱きしめる腕に力が入る。
「だけど、フェイナがそんな顔をするまで溜め込んでいるなんて知らなかった。千棘の事をそんな風に思ってるなんて知らなかった。ずっと私達はフェイナと千棘に守られていたから、何も相談出来なかったんだって今思った…」
アルメラの頬に雫が流れる。
「守られていた私だから断言できる。フェイナは千棘と同じように私達を守ってくれている…フェイナは千棘の横にちゃんと立っているよ。千棘が私達から離れるなんてありえないから安心して」
アルメラの言葉を聞いたフェイナはアルメラの胸で声を出して泣きじゃくる。
「わ、わた…私もユリスに負けないぐ…らい、る、ルノアールやフィーヤにまけ、負けないぐらい愛してるし…!!ちー…ちゃんが!目をさま…覚まさないのも!ずっと、ずっとずっと不安で…!心がい、いつも折れそうで…!ちーちゃんの寝顔…見る度に!ルノアールの顔が浮かんで…な、何で自分の命をはって…命を張ってまで助けたのって!…酷い事ずっとずっと考えてた…!そんな事…ずっとぐちゃぐちゃ考えてる自分がゆ、許せなくて!…どうしたらいいのか、わけわかんなくて…ずっと…わけわかんなくて…辛かった…」
アルメラは何も言わずにフェイナの頭を優しく撫でる。
撫でている間、ずっと自分を責めるような言葉を吐き続けていたフェイナを母の様に優しく包み続けた…。
■
言いたい事を全部吐き出したのか、痙攣していた身体はゆっくりと落ち着いた呼吸をしており、胸から顔を離したフェイナの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
アルメラは自分の胸もぐちゃぐちゃになっていたが、気にせずにタオルを空間から取り出して優しくフェイナの顔を綺麗にしながら言う。
「今まで溜め込んでたの、全部吐き出せたみたいだね。私でよければ何時でも聞くし、答えられる事はちゃんと答える。だから今度は私にも背負わせて」
フェイナは何も言わずに小さく頷く。
頷いたフェイナの顔はスッキリしたような顔をしていたが、元々赤かった目は更に充血して赤くなり、目元は擦ったせいで化粧をしたように赤く腫れあがっていた。
そんな顔を見たアルメラは、今までよりも自分達の絆が強まった事を確信しながら微笑む。
そして答えられていなかった最後の質問をからかう様にフェイナに答える。
「それと、さっきフェイナが言った『千棘は私を選んでくれるかな』って答え、それは千棘が決める事。私達が決める事じゃない。だから絶対フェイナを選んでくれるって無責任な事は言えない。けど、フェイナを選ばなかったら私が千棘をぼっこぼこにしてあげるから安心して」
フェイナは一瞬きょとんとして、
「私そんな恥ずかしい事、言っちゃったかな…?」
と小首を傾げていたが、クスリと笑いながら言う。
「もしそーなったらアルメラよろしくね?」
アルメラも笑いながら、
「任せて、次は絶対に負けないから」
そんな事をフェイナに言って二人で笑い合う。
…でも、今までこんなになるまで溜め込んで、相談してくれなかったという事に自分を棚上げにしているのも理解しつつ、ちょっとムッとしていたアルメラはフェイナを戦慄させる事を言い放つ。
「でも、フェイナがそんなになるまで私に相談してくれなかったのはちょっとむかついたから、意地悪する。…千棘が私やユーランを選んじゃうかもしれないからね?」
フェイナの悲鳴染みた叫びは屋敷中に響き渡り、別室にいたサクラバ・シンジとメイドのエルとデルが応接室に駆けつける。
三人が見た光景は大声をあげ、泣きながらアルメラを追い回しているフェイナと、笑いながらフェイナをからかっているアルメラの…気心の知れた、親友以上の仲とも言える二人の女の子が追いかけっこをしている光景だった…。




