カモフラージュ
「ナナ様の神格魔法で白黒の眠り姫が目覚めなかったとしても、俺達の目的…ファーレン聖教国にいる『魔王』を倒す手助けをしてくれないか…?」
金髪黒目の青年…シンジ・サクラバは部屋にいる彼女達へ問いかける。
シンジ・サクラバは周りを見て表情を伺っていくが…想像通り、いい反応とは思えない表情をしていた。
黒の騎士…フェイナがシンジ・サクラバに詳しい話を聞く。
「別に魔王を倒すのはいいんだけど…私達は帝国の魔王復活を阻止する為にずっと動き回ってたからそこそこ情報も手に入れてるけど、ファーレン聖教国に魔王がいるなんて聞いた事がないし聞いていれば真っ先に潰しに行っていた。そこの所はどうなの?」
魔王を倒す事に同意してくれたと思い、シンジ・サクラバは安堵の表情を浮かべるがすぐに引き締めてソファーに座り直して答える。
「約一年前に海上王国アクエリアで起きた事件…アイシャ・フォン・セルベレス・アクエリア女王が魔族に捕まって魔王復活を阻止する為に祈りを捧げていたら熾天使様が助けてくれたというやつ…」
思い出を語るようにあの出来事を思い返しながらシンジ・サクラバは語る。
「あの一件以来、各地で魔王を復活させようとしていた奴らは帝国に集まった。あの国には本当のアルマート公爵殺して、アルマート公爵に成り代わった魔族がいるから色々やりやすかったんだろう。…だが、それよりもずっと前から魔王はいたんだよ。ファーレン聖教国の教皇、ユリウス・フォン・ドルギス・ファーレンとして」
シンジ・サクラバを除いた全員が教皇が魔王だという話に驚いた顔をするが、構わず話を続ける。
「魔王は200年前…前教皇が勤めを終え、次の教皇を選ぶ時に今の教皇が現れたんだ。それでどういうわけか前教皇が指名して今のユリウス・フォン・ドルギス・ファーレンが教皇になった。…それからは神に許されたとか何とか、自分が不死の存在だと言い張って200年間ずっと教皇として存在し続けている。…既に国の中枢部は魔族だけで構成されているんだ」
深刻な表情で話を聞いていたフェイナは問う。
「なるほどね…今の教皇が200年も生きている事は知っていたけど…それが魔王だったからとは思わなかった。中枢部も全て魔族が成り代わって住民を操っているわけか…でも疑問なんだけど、何で魔王は200年もの間、何も問題を起こさず教皇としてファーレン聖教国を運営しているわけ?問題も起こさずにいるならいい魔王って事なの?」
フェイナの質問にシンジ・サクラバは首を振った。
「いや、魔王は待ってたんだ。あいつは自分の力を強大なものにする為に勇者システムを作ったんだよ」
シンジ・サクラバが勇者システムと口にした時、シンジ・サクラバ以外の皆は一人の少女に視線が集まった。
視線の先には金髪の少女、ルノアール。
ルノアールは勇者という言葉に反応して肩を震わせていた。
そんなルノアールから視線を切り、フェイナはシンジ・サクラバに聞く。
「勇者システムを魔王が作った?何で自分を殺せるかもしれない存在を?勇者が現れれば魔王が強くなるって事?」
シンジ・サクラバはまた首を振った。
「違うんだ、勇者は2パターン存在する。先天的か後天的か」
指を一つ立ててシンジ・サクラバは続ける。
「まずは後天的勇者。言葉の通り、生まれてから力を付けて勇者足りえる存在になる者…各国で勇者として認められる者の大半はこの後天的勇者になる。そして…」
指をもう一本立てて息を吐く。
「先天的勇者…これも言葉の通り、生まれ持って勇者となる事が決められた者の事を言うんだが…実は俺は先天的勇者『だった』んだよ」
その言葉に皆、目を丸くしながらも続きを聞き続ける。
「俺はこの世界の住民じゃない。別の世界から転移…簡単に言うと勇者召喚でこの世界に呼び出された者なんだよ」
ユリス、ルノアール、フィーヤは驚きで声をあげるが、フェイナ、アルメラ、エル、デルはやっぱりかという表情を浮かべる。
驚かなかった四人を見たシンジ・サクラバは予想する。
「なぁ…もしかしてだけどウェイナさんとアルさん、エルさん、デルさんも同じく別の世界から召喚されて来たのか…?」
そう問われ、ユリス達も驚きながら見る。
答えたのは薔薇の騎士…アルメラだった。
「別に私達が驚かなかったのはアズマ国に行った事があるから。それにシンジ・サクラバはサクラバ・シンジでしょ?自己紹介の時に名前を聞いてから勘付いてた」
納得の表情を浮かべたサクラバ・シンジは話し始める。
「そういう事か。アズマ国に行ったのならこの名前も不思議じゃないな。あそこは昔の勇者が日本って言う国の文化をこっちで広めて出来た国、いわば異世界の文化の国だな。それに触発されて勇者召喚以外で転移してしまった者や、この世界に異世界の知識を持ったまま転生してきた奴がいるんだよ。人数は片手で数えれるかどうかって数だけどな」
一度話を切り、自分用に用意されたお茶で喉を潤して続きを話す。
「勇者召喚以外でこっちに来てしまった奴は揃ってこの世界の事を聞くんだが、そいつらには特殊な能力が与えられるんだよ。転移させた神なのかは知らないけどな?…んで、何も知らないけど偉業を残す『英雄症』の話が出来たんだ」
何故、英雄症と呼ばれる者達が偉業を成すか、その真実を聞いたユリスとルノアール、フィーヤは終始驚きっぱなしだが、英雄症と呼ばれていたフェイナとアルメラは納得いった表情を浮かべ、フェイナが話し始める。
「なるほどねぇ…英雄症のルーツはそこにあるわけか。勇者システムの事、先天的勇者と後天的勇者、この世界には異世界の住民を勇者として転移させる魔法がある。それとは別に何らかの事情でいきなりこっちの世界に来る人もいれば、元の世界で死んで、記憶を持った状態で赤子に生まれてくる人もいる。それで出来上がった国がアズマ国…少し話がそれたけど把握したわ。…んで?把握した上で聞くけれど、何で教皇は自分を殺せるかもしれない存在を呼んでいるわけ?力をつける為にとか言ってたけど…それにシンジ君は勇者『だった』って過去形?」
逸れた話を元のレールに乗せるようにフェイナはサクラバ・シンジに問いかけた。
するとサクラバ・シンジは着ている服を上に捲り、服で隠されていた素肌を見せた。
その肌は至る所に傷があり、腹筋には大きな穴が開いたと思われる古い傷が肌の色とは別の色で表されていた。
腹筋の傷を見たフィーヤは無意識に自分のお腹に手を当てるが、フィーヤの服の下には生々しい傷等一切なく、問題は無い…が、昔を思い出して少しお腹が疼いた気がした。
そんなフィーヤの仕草に気付くことなくサクラバ・シンジは言う。
「教皇は…勇者召喚で呼ばれた勇者が最初から強大な力を持っていれば殺して自分の力に変えていくんだ…どんなに強大な力を持っていたとしても、いきなり異世界から訳も分からず連れてこられた勇者はいきなりラスボスの前に現れるんだぜ?為す術なく殺されるのがオチだ。…んで、大器晩成型の勇者は適当に泳がせて、ある程度力を付けたら刈り取る…裏ではこういう事をやってんだよ教皇は…」
紅茶を飲み干してから続ける。
「ちなみに俺は大器晩成型らしくてある程度力を付けた時に旅先で教皇に殺されたんだけど…そこで神子の聖女ナナ様に助けられたってわけだ。世間ではもう死んでいる事にされている俺は存在を消して陰からナナ様を守ってるって感じで、フィールド・ブロッサムって今は名乗ってる。チェリーって言うのはちょっとな…前にいた世界ではあんまり男にそう言うのは禁忌みたいなもんだったからな…」
苦笑しながら魔王が何故勇者を召喚するのか、何故腹に傷があるのか、神子の聖女との繋がりを聞いた皆は頭を悩ませながら三つの疑問に行きつく。
一つ目、200年もの間勇者を召喚して殺し続け、その力を高めていたのなら…今の強さはどのくらいのモノなのか。
二つ目、帝国で計画されている魔王復活計画…既に魔王が復活しているのに何故そんな事をしているのか。
三つ目、ユリス達の行動を言い当てた…神託を授かった神子の聖女は何故、未来予知にも匹敵する力を使っても、魔王を取返しのつかない所まで放置していたのか。
フェイナがその疑問をサクラバ・シンジに問いかける。
「そう言う事だったのね、なら三つ疑問があるわ。今の魔王の強さはどのくらいか分かるの?」
サクラバ・シンジは思い出したくもないのか、辛い表情をしながら当時の状況を思い出しながら告げる。
「想像がつかねぇ…俺は特殊能力で『身体の極限強化と解放』っていう能力を授かってるんだが…それでも歯が立たなかった…まぁ『身体の極限強化と解放』っつー特殊能力もそれを扱う身体が出来上がってないと意味がない。呼ばれたばかりで今まで身体を鍛えてなかった俺は全くの無力だったから旅をして自分を強くしていったが…成果は腹にでっけぇ穴が開いただけだったよ」
嫌になるぜと小さく呟きながら頭を振り、二つ目は?と話を促す。
「二つ目は、帝国での魔王復活の事。既に魔王がいるのに何故、魔族達は魔王復活をしようとしているの?」
サクラバ・シンジはそんな事か…とでも言いたげな表情で天井を見ながら答える。
「わかりやすく言うとカモフラージュだな。海上王国アクエリアでの一件以降、魔王復活が起きるとわかればどこでその計画が行われているか…行われている場所がでっかい国で、国の上が関わってるとすれば外交問題で下手に手出しが出来ずに時間が稼げる。しかも既に魔王がいる事も知らなければその魔王復活さえ防いでしまえば問題ないとその国を監視し続ける。更には各国がこぞって後天的勇者を集めて魔王討伐に備えさせる…んで、いい感じになったら教皇が刈り取って自分の力にする。全部教皇のいいように事が運んでるんだよ…実際に釣られただろ…?ちなみに、帝国の皇帝は人間で、アルマート公爵に成りすましてる魔族に唆されて魔族が適当に作った計画に乗っかってる」
サクラバ・シンジの言葉に皆が苦虫を嚙み潰したような顔になり、苛立ちを露にする。
フェイナは物にあたりたくなる気持ちをどうにか抑えながら三つ目の疑問を問いかける。
「確かに騙されたわ…三つ目だけど、未来予知に近い力があるのにも関わらず、ナナさんは何故、取返しのつかない段階まで放置していたの?」
サクラバ・シンジは目を閉じ、傷跡のある腹に手を当てて神子の聖女の事を思い浮かべながら言う。
「ナナ様は…人を癒す力と神託を受ける力しか持ってねぇんだ…この世界では生きていくのも難しい方なんだよ…人を癒す力なんて自分の身を守る力じゃねぇ。神託を受ける力なんて自身を守る力にはなんねぇ…どっちも他者に利用される力なんだよ…!!自分の身を守る力がねぇから…毎日心を殺しながら生きてる…」
サクラバ・シンジは自分の事の様に神子の聖女の事を思い、一粒だけ涙を流して頭を下げる。
「頼む…どうかナナ様を、ファーレン聖教国を救ってくれないか…?」
是非を聞くまでは頭をあげないサクラバ・シンジを全員が見つめた後、フェイナに視線が集まり、返答を待つ皆。
覚悟は決まったという表情で長く息を吐き捨て、サクラバ・シンジに告げる。
「わかったわ、協力してあげるからまず、神子の聖女…ナナさんをここに連れてきて」
フェイナの言葉を聞いた皆は笑顔になり、やってやるとやる気を現したが、サクラバ・シンジだけが静かに嬉し涙を流し続けた…。




