台車の旅
台車に乗った二人の子供…みんなを助けたはずなのに何で…
「助けて…」
「…?熊ならあそこに倒れてるからもう大丈夫だよ?」
「違う…あの人達悪い人…」
「…!」
女の子から衝撃的な事を言われ少し動揺するが、剣と短剣の柄を強く握り短く息を吐いて女の子に聞く。
「ふぅ…君達のお名前は?」
「私…フィオ…この子は私の隣のお家に住んでるレノ…」
「わかった、フィオにレノだね。レノは大丈夫?」
「…」
「よしよし、少し待っててね」
声を出さずに頭を縦に振ったのを見て千棘は二人の頭を軽く撫でて男達を見る。
戦っていた六人に子供達の近くにいた一人を合わせて七人だが、一人はマッドベアの攻撃を受けた人を治療しようと渡したポーションを持って行っていっている。
もし行動するなら攻撃を受けた人が回復する前に動きたい…だからゆっくりと頭と呼ばれた人に近づき声をかける。
「あの、頭って呼ばれてた方ですよね?お名前を伺っても?」
「あぁ?名乗るような名前なんて持っちゃいねぇ。それより助けてもらったのはありがてぇがもう何も用事がねぇならどっか行きな。この辺りにはさっき見てぇなやつがうようよいやがんだ。熊の死体見ただけで吐いてたてめぇみたいガキはさっさと家に帰んな」
心配する様な物言いに隠れた何かを隠したいという思惑が見えたと思った千棘は声のトーンを少しだけ下げて言う。
「そうですか、最後に一つだけ」
「うっざってぇな、体に聞かされなきゃわかんねぇのか?」
「あの子達のお名前を伺っても?」
「…あ?んなのかんけ───」
「知らないんですか?」
「…何が言いてぇ?」
肩に担いだ斧を握る手に力が入った頭は千棘を睨みつけるが、千棘もそれ以上の睨みを頭にぶつけながら淡々と言葉を紡ぐ。
「最初は子供達を守ってる様に見えたので加勢したんですが、どうにも様子がおかしいんですよね。あの子達も何も話さないですし」
「だから何だって言うんだ?」
「あの子達の名前を言わなきゃ…襲いますよ?」
「っ!?」
千棘が笑顔でそう言い放つと頭と呼ばれていた男が斧を握り締めながら腰の後ろに手を回しているのを見つつ、マントの下に隠れている手を動かし気づかれない様に小回りの利く短剣を抜いて返答を待つ。
「…おい、レーナ!こっちにこい!」
頭が名前を叫びながら子供達の方を向く…が、フィオとレノという名前を先に聞いていた千棘は頭を睨みながら、
「来ないどころか自分が呼ばれた事にも気付いてないみたいですね?あなたやっぱりあの子達の名前───」
「うるせぇ!」
言い切る前に痺れを切らした頭が腰から抜いた短剣で千棘の首を切ろうとするが、既に抜いておいた左手の短剣で受け止める。
「やっぱり悪い人達なんですね?」
「っ!お前らこいつを殺せ!!!!!」
刃と刃がぶつかった硬質な音は試合開始のゴングの様に響き、頭の怒声を聞いた男達は瞬時に判断して千棘に向かって突撃する。
今だに刃を千棘に届かせ様と力を入れながら鍔迫り合いをしている頭に、
「命は取りません。殺す覚悟もないので。だけど抵抗が出来ないぐらいまでは全員を痛めつけるのでそのつもりで」
「っ!?」
少し短剣に力を入れて頭の短剣を上方向に弾き飛ばし、体勢が仰け反る程の衝撃で弾かれた頭にしゃがみながら回し蹴りを入れて足を払い、体が宙に浮いた頭が後ろに来る位置で体の回転を止めてバク宙の要領で鳩尾へ爪先を突き刺し地面へ叩きつける。
「うぐっ!?」
「静かにしててくださいね」
一瞬くぐもった声を上げた後、お腹を押さえて暴れている頭の頭をサッカーボールを蹴る感覚で蹴り飛ばして静かにさせる。
「か、頭ぁ!!!このクソガキがああああ!!!!」
「…ふぅぅ…」
そして3mぐらいまで近づいてきた四人の男達と男達の後方で杖を向けて来ている男を視界に入れ、一番前を走る男が次の足を地につけようとしているタイミングで瞬発し、懐に入って鳩尾に掌底を叩きこむ。
「がっ!?」
「そらっ!!」
掌底を叩きこまれて体がくの字になる事で近づいて来る額にもう一つの手で掌底を叩きこみ、後頭部から地面に着地させる。
「このっ!!!」
「ふっ!!」
右側から剣を振り下ろしてくる敵に、相手の剣と同じ速度で右手の甲を剣の腹に添えながら引いて受け流す。
「なっ!?」
「はっ!!」
受け流された事によって剣で地面を叩いた男に右腕を引いた時の力を使いながら体を半分だけ回し、左手で前のめりになっている男の首後ろを鷲掴みにして思いっきり顔面から地面に叩きつける。
「死に晒せやぁ!!!!」
「残念だけど見えてるよ」
「あがっ!?」
後ろから槍を突き出してきた男の槍を掴み、手首を捻りながら槍を自分の方に引いて相手の手から槍を奪った後、そのまま体を回転させて遠心力を乗せながら石突部分で首を狙いすましたフルスイング。
「後は…」
「っ!『ファイヤーボール』!!」
「おっと」
「ぎゅっ!?」
千棘のフルスイングによってその場で地面に叩きつけられた男の腹に石突を突き立て、棒高跳びの要領で自分の体を持ち上げて後方からのファイヤーボールを避ける。
「ちょこまかと…!!」
「これで…!」
「ぐっ!?」
近づいて来る最後の男の頭に支えにしていた槍の柄を大上段で振り抜き、着地した瞬間に魔法を撃つ男に向かって瞬発。
「い、一瞬で!?くそ!!『ファイヤーボール』!『ファイヤーボール』!『ファイヤーボオオオオル』!!!」
「シッ!!!」
「がふっ!?」
一心不乱に『ファイヤーボール』を撃ち込んで来るが、その全てを完璧に躱しながら渾身の右ストレートを男の鳩尾へ叩きこみ、
「伏兵、気絶したフリ…警戒…」
意識を刈り取れなかった誰かが子供達を人質にするかもと警戒しながら倒れてる男達を見つめ…戦闘が終わった事を確認し力を抜く。
「…ふぅ、ちゃんと思った通りに体は動く…魔獣相手より人間相手の方が全然恐怖感は無い…とりあえずマッドベアにやられた人も合わせて全員縛っておくか」
インベントリから縄を取り出して地面に倒れてる七人の男達の足と手を一緒にしてきつく縛る。
ポーションを渡した男からポーションを返してもらい、最後に縄を男達の口に噛ませて舌を噛み切ったり出来ない様にして子供達に近づく。
「フィオ?レノ?もう大丈夫だよ、おいで」
「「……うわあああああああん!!!!」」
そう優しく声を掛ければ台車の隅で頭を抱えていた二人が大声をあげて泣き始めた。
そんな二人を抱き寄せて頭を撫でてあげながら泣き止むまで待ち、どういう事なのかを確認する為に話しかける。
「落ち着いた?もう大丈夫?」
「うん…まだ目が痛いけど…ありがとおに…おね…ちゃん?」
フィオが目を擦りながらお礼を言う相手が男か女か分からず困惑していると、レノが…
「お兄ちゃんだとおもう…お胸無かった…助けてくれてありがとうお兄ちゃん…」
「あはは…判断材料そこなのね。それは本当の女性に言っちゃダメだからね?フィオ、僕は男だからお兄ちゃんだよ」
「可愛いお顔だからお姉ちゃんかと思った…ありがとお兄ちゃん」
「はいはい」
そう言いながらフィオは抱き着いてきたので頭を撫でながら質問する。
「フィオ、レノ。二人に聞きたいんだけど、これはどういう状況なの?詳しくわかってなかったのに全員捕まえちゃったけど…」
「私達、この近くの村に住んでるの。でも今日、あの人達が村に来て暴れてお家壊したりご飯盗ったりしたの」
と、フィオが言うので他の台車を見ると村から奪ったであろう様々な食料が積んであるのが見える。
「そっか…大変だったね…そしたら君達は人質として連れてかれちゃったのかな?」
「僕達は売る為に連れて行くって言ってた…」
「なっ…!」
売るって言う事はこの世界には奴隷の様な人身売買なんかもあるのかと考えてると、声を震わせながらフィオが、
「怖い顔してどうしたの…?」
かなり怖い顔をしてたみたいでフィオもレノも少し震えているのを見て千棘は心を落ち着けて元の優しい自分に戻る。
「…ごめんね、もう大丈夫だよ。とりあえずこんな所にずっといるより早くお家に帰りたいよね?案内してくれる?」
そう言いながら二人の頭を撫でて落ち着かせ、フィオは満面の笑みを咲かせて千棘の服を引っ張り始める。
「うん!こっちの方にあるから早くいこ!」
「ふぃ、フィオちゃんだめだよ。お兄ちゃんと一緒にいないとまた熊みたいなのが来ちゃうよ…」
少しだけ大人びたレノはしっかりと今の状況を理解している様だった。
「そ、そっか、お兄ちゃん早く一緒にいこ?」
「ん、村から取り上げたこのご飯も持っていかないといけないし、悪い人達も運ばないといけないからちょっと待ってね?」
辺りに散らばった気絶した男達を台車に一人ずつ乗せていくとレノも満面の笑みを浮かべ始めて口を開く。
「お兄ちゃんすごい力持ち………僕も強くなれる…?」
「……」
心の底からの問い…これは無責任な事は言えないと思った千棘は何故強くなりたいのかと問う。
「レノは強くなってどうしたいの?」
「…フィオちゃんを守りたい…」
「そっか…」
(~~~!!!めっちゃ可愛い!!なんだこの子!!)
ちょっと恥ずかしがりながらレノが男らしくフィオが好きな事を告白してくるが、にやにやしそうになるのを必死で堪えながら冷静に、
「…うん!ちゃんと強くなるから大丈夫だよ!僕みたいに強くなるのはまだまだ先かもしれないけど、こんな男達に負けないぐらいならすーぐ強くなるよ!」
「ほんとに?フィオちゃんの事守れる?」
「ほんとほんと!剣を振る練習をいーっぱいしたら強くなれるから、お家に着いたら練習出来るように木で出来た剣をあげるよ!それでいっぱい強くなって、フィオの事守ってあげるんだよ?」
「…うん!がんばるよ!」
(はぁ~~めっちゃかわええ…このまま素直に育ってほしい…)
そんな事思いつつ男達を乗せた後に馬顔負けの力で台車を片手で引き、インベントリから『翠の小獅子』を取り出しながらフィオとレノの後を付いていく。
(すごい色々あったけど…人とも会えたし、村にも案内してもらえるなら頑張ってよかった…フィオとレノの話では家も壊されたって言ってたから大変な事になってると思うけど…)
そう思いながら台車を引き続けて20分後、
「お兄ちゃん!あそこに私達のお家があるよ!」
フィオが村のある方に指を差しながら走っていく。
「フィオちゃん走ったら危ないよ!」
と言いながらレノも走って行ってしまう。
「フィオ、レノ…ん、気配はないし大丈夫か…」
周囲を警戒したが魔獣の気配も全くないので二人をそのまま先に行かせ、遂に村の門が見える所まで来た。
「やっと人が集まる所に来れた…」
体は疲れていないが精神的な疲れによって自然と溜め息が出る…。
門の近くでフィオとレノが親御さんと思わしき人達と抱き合っているのが見え、そのまま近づいていくと後ろに積んでいる男達が悪さをした後だからかなり警戒され、農具の鍬を持った二人に、
「何をしに来た!ここには食料も何もないぞ!!」
「えーっと…」
怒鳴られ、千棘はどうやったら話を聞いてくれるかなと逡巡するとフィオが、
「そんな事言わないで!!あのお兄ちゃんは私達を助けてくれたの!怒らないで!!」
両親と抱き合っていたのを振り解いて怒鳴っていた人の脚にしがみついて説明してくれた。
「む…そ、そうか…」
そんなフィオの訴えがあったおかげか構えていた鍬は下ろしてくれたがまだ警戒している様子。
その警戒を解いてもらえる様に両手を上げながら優しい声色で口を開く。
「怪しいと思いますが話を聞いてください。ここを襲ったと思う七人の男は縛ってこの台車に乗せてあります。後、食料なんかも台車に乗ってたのでここまで運んできました。少し離れた所で待っておくので好きなだけ調べてください」
相手が何か言う前に台車から離れ、門の前にいた人達が積み荷を確認しているのを見ていたらフィオとレノの親御さんが近くに寄ってきて話しかけてきた。
「あの…フィオとレノを助けて頂いて本当にありがとうございました…!」
フィオに似た女性…お姉さんっぽく見えるが多分母親が頭を下げた。
「俺からも…本当に助かった…!!」
それに釣られる様にしてフィオと抱き合ってた父親とレノの両親も頭を下げた。
「いえいえ、実は僕もあの森で道に迷ってた所で…今回の出来事だってただの偶然ですのでどうか頭をあげてください」
大の大人四人に頭を下げられるのはもどかしい…すぐに頭をあげてもらい村の現状を聞く。
「フィオ…ちゃんとレノ君から話は少し聞いて、家が壊されたと言っていたのですが…」
「フィオと呼び捨てでも構いませんよ。でも家が壊れたと言っても家の中の物なので家が壊れたわけじゃないんです」
と、フィオの母親…もしかしたらお姉さんかもしれない人と話しながら台車を調べてる人達を見るが、
「…もう少しかかりそうか」
大男を全員台車から下ろしたり、奪われた食料を確認するのに時間がかかっているみたいなので話を続ける。
「あぁ、家具が壊れちゃったんですね…もし力仕事が必要なら言ってください、お手伝いするので」
「いえそんな…だって…えっと、お名前をお伺いしても…?」
「失礼しました。僕は千棘って言います」
「…あら?チトゲって『ダフネの十英傑』のお名前よね…?」
「!?」
何気なく伝えられた言葉に激しく動揺した千棘は恐る恐るフィオのお姉さん?に話を聞く。
「あ、あの…そのダフネの十英傑って何ですか…?」
「ダフネの十英傑のお話を知らないなんて…えっと───」
「おーい!確認し終えたからこっちに来てくれないかー!」
話を聞く前に遠くから確認を終えた人達が手を振りながらこっちに来て欲しいと伝えてくる。
「あら、このお話はまた後でしますのであちらにいきましょう、チトゲさん」
「え、えぇ…後で詳しくお願いします…」
歯切れの悪い事を言いながら近づいていく千棘に台車を確認していた男達はにこやかに話しかけてくる。
「先程はすみませんでした。山賊に襲われた後だったのでもしかしたら仲間かもしれないと思い…」
「いえいえ、もし自分が同じ立場なら同じ事をしていたと思いますので気に病まないでください。何か無くなってる物とかありましたか?殆ど食品だったので何が無くなってるかはすぐにわからないと思いますが…」
「ええ、この村の至る所からかき集めたみたいでまた村の方で食料を配布しないといけないのですが…食料を取り返して頂いたのと、フィオとレノを助けてくれて本当にありがとうございます!」
「僕も二人を助けれてよかったです。たまには道に迷うのも悪くないですね」
そんな事を言いつつ皆さんに連れられて千棘は村に入った。
「ここがフィオとレノの暮らしている村かぁ…何だか…おち…つ…」
「っ!?チトゲさん!?チトゲさんしっかりしてください!!!」
そしてこの異世界に来て初めて心の底から安堵した千棘は体の力が抜けてそのまま道の真ん中で倒れる様に眠りに着いた…。




