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再始動 -Second Life on-line- そして第二の人生が始まる  作者: 絢奈
第一章 愛した世界
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ようこそ異世界へ

《千弦さん…千弦さん…?》


(僕…いや俺の名前を呼ぶ声がする…)


《千弦さん…聞こえますか…?》



 真っ暗な空間に漂っている感覚、そして何処かで聞いた事のある声がずっと千弦に聞こえてくる。



「は…はい…聞こえてます…でも真っ暗でよくわからないです…」


《ふふっ…ちゃんと聞こえてて安心しました》


(この笑い方、この声…そうだ…)


「奈々さん…ですか?」


《はい、宝くじ売り場にいた奈々ですよ》



 謎の声の主…十年以上前に一度しか会った事しかなかった奈々さんはそのまま千弦に話しかけてくる。



《どうでした?『Second Life on-line』は千弦さんに生きる意味と希望を与えてくれましたか?》


「えっと…はい。とっても素晴らしい世界でした。奈々さん、俺からも質問いいですか…?」


《はい、スリーサイズですか?えっと上から『違います違いますよ!』…あら?》


「何で教えようとするんですか!というよりこれは夢なんですか?確か俺、みんなと一緒にサービス終了までログインしていて自動的にログアウトするのを待ってたはずなんですが…そのまま寝てしまったとか?」


《んー、正確には世界と世界の狭間なのですが、夢でも特に間違いではないので夢という事で大丈夫ですよ千弦さん》


「そうですか…。ではもう一つ聞きたいことがあります」


《なんでしょう?やっぱりスリ『スリーサイズは大丈夫です』…ふふっ。ちょっとした冗談ですよ冗談》


「んんん…えっと、奈々さんは何者なんですか…?」



 全くと言っていいほど状況が理解出来ていない頭で漠然とした質問を投げてしまう。



《何者か…ですか。教えてもいいのですが、それだとつまらないので今は『案内人』と答えておきますね?》


「『案内人』…という事は俺は今から何処かに案内されるんでしょうか…?」


《はい、その通りです。その前に私の質問にもう一つだけ答えて頂けますか?》


「はい…スリーサイズは…」


《…どうぞ続けてください?ちゃんと聞いておきますので》


「いやいや、ちょっとした冗談ですよ冗談。悪乗りしないでくださいよ…あはは…」


《んんっ、では千弦さん?千弦さんは今までの生活を捨てて『SL』の世界へ戻りたいですか?》


「っ!?」


《落ち着いて考えて頂いて大丈夫ですよ?》



 以前までの千弦であれば即答したであろう問い。


 真っ先に思い浮かべるのは【Daphne】のメンバー達。


 もしこのまま『SL』の世界へ行ってしまったらみんなともう二度と会えなくなるんじゃないかと不安になり、千弦は答える事が出来ない。


 【Daphne】のメンバー、フェイナ、アルメラ、鏡、エルリ、ルエリ、ユーラン、ピュリエットの事を一人ずつ思う。


 一人ずつ思い返している間、どんどん胸の奥が暖かく『あの日』と同じような感覚に包まれていく。


 みんなとまた会える、そんな根拠もない事を思い浮かべる。


 だけど確信している。


 きっとまた会えるだろうと。


 どれだけの時間が経ったか全く分からないが、この想いを『案内人』奈々さんへ伝える。



「…はい。『SL』の世界へ案内してください、奈々さん」


《ふふっ。あなたならそう言ってくれると信じてました。では案内するので手を伸ばしてください。そして私は今から案内する世界の情報は何一つ与えません。なので知りたければ千弦さんご自身で調べてください。知らなければ知ろうとする過程を楽しめますし、知ればそこから何が出来るのか考える事が出来ます。なのでこの世界も是非、楽しんで素敵な人生を送ってくださいね。それでは千弦さん『いつかまたどこかで』》



 声を出そうとして喉を動かしても声が出ることはなかった。


 でも伝えたい。


 だから、



「─────」



 声は出なくてもきっと伝わる。


 だから口の形だけで伝える。


 ”ありがとう”


 ”どういたしまして”


 そして俺の意識は途切れた。





 ■





 視界がまだ暗いまま耳を澄ませる。



(風の音…木が揺れて葉っぱが擦れる様な音がする…原っぱのような草の匂いがする…って前にも同じような事あった気がする)



 そして前は開け忘れていた目をゆっくりと開く。



「…ははっ!戻ってこれた…この世界に…!」



 そして辺りを見渡し、景色を眺める。


 今、千弦がいるのはかなり高い崖の前、一歩前に踏み出せばすぐに崖下に真っ逆さまという状態だ。



「最初に『SL』の世界に来た時はこの場所から『王都アルマイア』が見えていたけど、やっぱり初めての時とは違う場所みたいだ。情報も欲しいし一人でいても仕方ないから少し動いてみるか…ここはゲームの時と同じ様な事が出来るのかもちゃんと確認しないといけないしね…」



 一人でぶつぶつ言いながら崖下を見つつ、一歩下がって振り返り歩き始める。



「まずは自分の姿を確認…うん、この視界の低さと声は…千棘だな。次は…ここが現実の世界なのか仮想の世界なのか確認してみるか…」



 確認する為に腰に装備している短剣を抜く。



「…あれ?短剣がない…あぁ、そっか。ギルドホームで普段着に変えたから武装もアクセサリーも何もつけてないのか僕…」



 そうして自分の服装を確認する。



「この服確か、春ごろに追加されたガチャ服のセーターか…」



 ぶかぶかな白のセーターに黒のホットパンツで疑似履いてないを演出。



「男でこんな事していたらきっとすごい絵面になるけど、千棘は『男の娘』をテーマに作り上げたキャラだから問題なく似合っているはず!鏡ないから分からないけど!」



 そんな事を言いつつここが現実の世界なのか仮想の世界なのかを確認する為に、腕まくりをして自分の左腕を思いっきり…



「っ!いててててて!!!」



『SL』の世界では抓ったとしても全く痛くなく、抓まれているという違和感を感じるだけだったがここでは現実の世界と同じ様に痛みを感じた。



「ここは現実っていう事で確定かな…でもそうなると次に問題になってくるのが食べ物と飲み水か…ここは森っぽいし、動物がいると思うけど…現実っていう事は自分の手で獲物を仕留めて捌いたりなんだりしないといけないよね…いざいきなり自分でやれと言われてもかなりハードル高いなぁ…別に今お腹が空いていたり、喉が渇いてるなんて事はないから一旦この問題は置いておこうかな…」



 一旦歩くのをやめて周りを見渡す…が、見渡す限り木、木、木…完全に森の中である。



「特に人の気配もないしっと」



 周りを確認した後、手を前に向け左から右へスライドする。


 するといつも見慣れていたシステムウィンドウが現れた。



「あれ?これは使えるのか…何で使えるんだろう…現実じゃないのか…?いや、『SL』の世界なら魔法も使えるのか…?まぁ、今は装備やインベントリがどうなってるか全部確認しよう」



 そう言ってインベントリを見ると、



「あ、装備とかもちゃんとあるし大丈夫っぽいな。じゃあー…今の状況的に…防具とアクセサリーはこれとこれで…武器は…これにしよう」



 そしてインベントリから色々な装備を選択すると自動的に装着してくれる。


 肌にぴったりと吸い付く袖無しの臍出しの黒インナーに足首までの黒のパンツを装備して膝下までの編み上げブーツを履く。


 露出している手に指先から二の腕までカバー出来る長い手袋を両手に嵌め、肩から緑色のマントを羽織り両耳にピアスを一つずつ付けて腰に剣と短剣を装備してステータスを開くと…



「ん…あれ?なにこれバグ…?」



 名前:千棘

 種族:人間

 年齢:12歳

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 犯罪歴:無し



「ステータスの数値だったり装備の名前が全部見えなくなってる…どういうことなんだ…しかも称号じゃなくて犯罪歴ってなってるな…知らない人が千棘を見て可愛らしいくてキュン死しても僕が殺人犯になっちゃうのかな…」



 などとバカな事を言いながら別のシステムウィンドウを見ていく。



「一応今使えるのはステータス、インベントリ、クイックスロット、マップ、スキルリスト、ギルド、フレンドリスト、ごみ箱か…ちゃんと使えるのは把握しておかないとな…それにしてもクイックスロットが使えるなら『SL』の時の様な戦闘が出来るからひとまず安心。後、めちゃくちゃ大事なのが…アエリアとコルだよな…」



 今まではシステムウィンドウのログアウト項目の所にキャラクター選択というタブがあったが全くない。



「という事はアエリアとコルはもう使えないって事か…サブキャラとはいえメインキャラと同じぐらい愛してたのに…」



 かなり落ち込みながらアエリアの事を想像する。



「アエリアが使えたらこの先めちゃくちゃ便利…っ!?」



 すると突然周囲がパッと明るくなり、何かしらの攻撃を受けたと思った千棘はその場から一気にバックステップで10m以上離れ、すぐに剣と短剣を抜き放ち周囲を確認しようとするが…



「剣と短剣がない!?武器を奪われ……?」



 もし武器を奪って攻撃をするなら今が絶好のチャンスである事は誰が見ても分かる事だが、一向に次の攻撃がこない。


 周囲を警戒しながら状況を確認しているとふと視界と聴覚の違和感に気付く。


 先程よりも高い位置の視線、視界の端にちらちらと映る白と黒の髪、凛とした女性の声…



「なんだ…白と黒の髪…?それにこの声っ!?もしかして!?」



 すぐに自分の体と装備を確認すると今の体はアエリアになっていて白と黒の髪、ゆったりとしたセーターに細いパンツ、足元にはメリケンサックと魔法陣の模様が描かれているスリッパを装備している。



「やっぱりだ…アエリアになってる…そっか、あの時ギルドホームで確認で呼ばれてそのままだからスリッパでブーツ履いていないのか…とりあえずブーツとナックル、いつもの装備しておこうかな」



 そしてスリッパを見た時に一瞬、メンバー達の顔が脳裏を過る。


 ちょっとだけ口元を緩めてブーツと入れ替え、手には手首までの白黒のグローブを嵌めてぐっと力を入れてきつく拳を固める。


 するとグローブが変化し、5㎝程の白黒の刃が飛び出て力を抜くとただの白黒のグローブに戻る。



「うん、いつものアエリアの感覚だ…という事は魔法使えるか試してみるか…ここは森だし『ファイヤボール』はマズいから上に向けて…『ウィンド』!」



 空に向けたアエリアの掌から風が巻き起こり、バァン!と空気の破裂音が響くと近くに生えていた木の葉を全部落としてしまう。



「ん!よしよし、魔法も使えた!相変わらず???だらけのステータスだけどさっきバックステップした時の感覚的にも『SL』のステータスと変わりないな……んーアエリアになれたって事はコルも出来るのかな?」



 アエリアになった時に様にコルをイメージする…するとまた周囲がパッと明るくなるが、今度はバックステップせずに自分の体を見る。



「おー!コルになってる!!コルになれるって事はきっと召喚獣も出せるし生産系のアイテムも今後作れるしひとまず安心だな…とりあえずスリッパを靴に変えて千棘に戻って人がいそうな所を探して情報収集しないと…」



 そう呟きスリッパから靴に履き替え千棘をイメージして姿を替える。



「…うんうん、剣も短剣も戻ってきてるし服装も同じ。じゃあマップ開いて…あー、ワールドマップは開けなくて簡易マップのみか。しかも黒くなってるって事は行った事ない扱いか。んーと、じゃあこれは…」



 歩きながら出来る確認をしつつ当てもなく森を彷徨い…そして4時間経った時、何処かで獣の雄たけびが聞こえてきた。



「グオォォォォォォ!!!」


「っ…今の雄たけびかなり遠いな…でもどっちから…あそこか」



 警戒しながら辺りを見ていると赤い火の玉が空に上がり、自然と千棘の視線が吸い寄せられる。



「多分、人と魔獣が戦闘しているはずだから見に行ってみるか…」



 緑色のマントのフードを被ると『SL』の時と同じ様にマントに何かを吸われている感覚が加わり、そのマントは周囲に同化するように姿が消える。



「『翠の小獅子(みどりのこしし)』もちゃんと発動してるっていう事はMPを失ったはず。さっきの感覚がMPか…」



 先ほどアエリアでも魔法は使ったけどアエリアの膨大なMPで初級魔法を使った所で何も感じなかったが、MPが少ない千棘の体はMPが無くなる感覚を感じれた。



「千棘のMPはそんなに多くないからこのポーションで常時回復状態にして…ん、現実になってから味が追加された…?不味くはないけど…まぁ、これなら千棘でも10分ぐらい使えるし行ってみるか」



 透明なガラス瓶に入っている青色の液体を飲み干し、微妙な味わいに顔をしかめつつさっき失ったMPが本当にちょっとずつ回復しているのを確認し速度を出して向かう。



「うん…今の所『SL』と違うのはステータスの詳細が分からなくなった事とキャラの変更が変わった以外殆ど支障がないな…あれか…?」



 透明になっているから近くに行っても大丈夫だが、万全を期す為に木の後ろから戦闘音が続いている場所を見る。



「…らぁ!…ま…すよ!…おと…して…すか…」


「ふざ……ねぇ!商…を……る!?…かく………れじゃ……ろうがぁ!!」



 木こりの様な見た目で斧や剣を持っている六人ぐらいの男が四足歩行状態で身の丈以上ある熊と戦っており、熊が立ち上がれば優に3mは超えるだろう体躯で男達に向かって走り30㎝程の爪を繰り出し攻撃している。


 ここからでは声までははっきり聞こえないが何か男達が揉めながらも熊の攻撃を避け、必死に手に持っている得物で応戦しているのを見つめていると、千棘の視界の端に切った木を乗せる台車の上に子供が二人乗っているのが見え、男達の仲間であろう一人がその子供達を守る様に立っていた。



(木こりの仕事をしてて運悪く魔獣に遭遇した感じかな…?あれは普通の熊じゃなくてマッドベアみたいな見た目だし…これは助けたほうがいいのか…?)



 そう思いながら『翠の小獅子(みどりのこしし)』にMPを流すのをやめて姿を現しながら少しずつ近づき、しっかりと姿を確認出来る距離まで来ると攻撃を受けていた武器が壊れ、一人が爪に切り裂かれ真っ赤な血を撒き散らしながら木にぶつかるという衝撃的な場面を目撃してしまう。



(…っ!やっぱり現実だ…た、助けないと…)



 助けなくちゃいけないと分かっててもいきなりの光景に手や足が震えだす。


 いくら『SL』で戦闘していたとしても所詮はゲーム。


 死んでも拠点からリスポーンするなりその場で復活出来る…が、ここは現実。


 ゲームではありえない光景を目の当たりにして、ここでは人が本当に死んでしまう事を確認してもし自分が…と考えて飛び出すのを躊躇ってしまう。



「グオォォォォォォ!!!!!」



 雄たけびをあげながら男達に近づいていくマッドベア。


『SL』で慣れたはずの巨体が殺意を持って自分に向かってくるという恐怖が千棘を木の後ろに縫い続け、ただ震えながらその光景を見ているだけしか出来なかった時、



「いやっ!やめてっ!!」


「っ…!!!」



 子供の悲鳴染みた声を聴いた瞬間、腰から剣と短剣を抜き放ちマッドベアの元へ駆ける。



「ああああああぁぁぁぁ!!!」



 半ばやけくそ気味に声を張り上げ、15m程あった距離を一瞬で詰めて男達に振るった左の爪を右手の剣で受け止めた時、剣のあまりの切れ味で爪を切断してしまいそのまま爪を無くした手が千棘の体を叩いた。



「うぐぅ!!」



 大した痛みはなかったが明らかにゲームの時とは違う恐怖と衝撃で大ダメージを受けた気持ちになった千棘は5m程吹っ飛び、地面に体を打ち付けた衝撃に喘ぐ。



「あ…れ…痛くない…?」



 だが、幻覚に似た痛みに喘いだおかげか幾分か頭の中は冷静になり、こっちを敵と認識して殺気を向けてきているマッドベアを見つめて両手に持った剣と短剣をしっかりと握り直す。



「グルアアアアアアアア!!!!!」


「ふぅぅぅ…!!!」



 マッドベアの殺気でまだ少しだけ体が震えるが、深く息を吐き捨て更に体を落ち着けた瞬間、マッドベアがこちらに向けて走り出し、せっかく収まった震えが少しだけ強くなった。


 やらなければこっちがやられる…これはゲームじゃなく現実…ならやる事は一つしかない。



「う…ああああああ!!」



 裏返った声を張り上げ、一直線に走ってくるマッドベアが残った右手の爪を振り上げたのを見た千棘は、



「っ…ここっ!!」


「ガアアアアアアアアアアアッ!?!?」



 迫って来るマッドベアの右手目掛けて剣を振り下ろし肘辺りから切断する。



「これで終わりだああああああ!!!!」



 そしてそのまま剣を振り被って姿勢が低くなったのを利用し、マッドベアの脚の間を潜って背後を取りながら左手に持った短剣でマッドベアの首に短剣を突き刺し、刺さった短剣へ追撃の回し蹴りを放つ。



「グギャ…ガアアァァァ…」



 回し蹴りを食らったマッドベアは短剣が刺さった傷口から裂ける様に頭が千切れ、千棘は頭を失ったマッドベアの体を蹴りつけて三角飛びの要領で後ろへ飛びながら周囲を警戒する。



「他は…いない…?」



 マッドベアの体が蹴った反動でゆっくりと傾き、少しの地鳴りの後に静かになると自分の心臓が煩いぐらいに跳ね続けている事に気付いた。



「ふぅぅぅぅ…ふぅぅぅぅ…や、やっ…うっ…おええぇぇぇぇぇ…」



 口から心臓が出そうになりながらも残心を解いて口に手を当ててこみ上げる物を抑え込むが、抵抗虚しく口から青っぽい液体を吐き出した。


 初めて本当の命を刈り取った感触が脳裏に、体に染み付いていく…。



「これは…厳しいな……」



 お互いの命を賭けた生きるか死ぬかの戦い…日本では味わう事が出来ない経験に生き残った達成感と命を刈り取った罪悪感にも似た消失感のちぐはぐな気持ちが更に気持ち悪さを煽り、自分の両手に残った肉を斬った感触を地面に擦り付けて違和感を拭って立ち上がる。



「…」



 助けた男達は誰もその場から動いておらず化け物を見る様な目でマッドベアと千棘の事を凝視して固まっているが、千棘は両手に持った剣と短剣を鞘に納め、土まみれの両手を上げながらゆっくり近づき、近づくにつれて警戒を強める男達へ言葉を投げる。



「そ…その…大丈夫…でしたか…?」



 まだ胃のむかつきが残っていて言葉が詰まる。



「あ、あぁ…助かった…」



 相手も歯切れ悪く答える。



「そう…ですか…あ…子供たちは大丈夫でしょうか?」


「て、てめぇ!!何するつもりだ!!!」



 子供達の安全を確かめる為に近づくと男達は更に警戒を強めて怒鳴ってくる。



「いや…子供が大丈夫か確認しようとしただけです…そういえば、お一人…さっきの熊の攻撃されてた方は…」



 そう言うとその仲間の一人が攻撃を受けた人の元へ行って状態を確認すると大きな声を張り上げる。



「頭!大丈夫そうですぜ!これならポーションでも掛けときゃなんとかなりやす!」



 頭と呼ばれた人物に向けられた言葉だが、その声を聞き少しほっとしながら二人の子供に近づき子供を守って今だ警戒している男へ赤色のポーションを渡す。



「これ、さっきの男の人に使ってあげてください」


「あ、あぁ…」



 この人も歯切れ悪く答える。



「…?…まぁ、命のやり取りをした後だもんね…」



 何だか違和感のある人達だけど戦闘後だからまだみんな緊張しているんだろうなと思いつつ、二人から離れた男を眺めながら二人の子供に出来る限りの笑顔で話しかける。



「大丈夫だった?もう安心していいよ?」



 そう言うと二人の子供の内、女の子が千棘だけに聞こえるような声で…



「助けて…」



 千棘は鞘に納めた剣と短剣に手を掛けた…。

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