夫婦喧嘩は犬も食わぬ…ってね
「ん…ここは…?」
「あ、起きた!おかーさーん!」
誰かがおかーさんを呼びに行った様だ。
「んーっ…よく寝た…あれ、いつ寝たんだっけ…?」
辺りを見渡すと木の落ち着く香りがする部屋の中。
壁には身に着けていた『翠の小獅子』が掛けられていて、その近くに自分の剣が壁に寄り掛かる様に置かれている。
枕元の台には短剣と長手袋、鞘を腰から吊るす為のベルトが置かれていて、足元にはくたっと曲がっている編み上げブーツが置いてある。
何時こんないい部屋で寝たのか全く思い出せず千棘が頭を捻っていると、先程誰かが出ていった開けっぱなしのドアから二人の人が部屋の中に入ってきた。
「チトゲさん、具合はいかがですか…?」
「えっとフィオのお姉さん…?」
そう言うとフィオのお姉さんは満面の笑みを浮かべながら声色を優しくし始める。
「あらやだ、フィオの母親のフィーラです。一昨日、村に入ってからしばらく歩いていたら突然倒れられて、駆け寄ってみたらすごいいい笑顔で寝ていらっしゃったので私達の家まで運ばせて頂いたんです。何処かぶつけて痛い所とかはなさそうですか?」
「うわ…すみません、お騒がせしました。…ええ、体の方も全然何ともないです。ご心配おかけしました」
軽く頭を下げて一緒にいるフィオの方を見る。
「フィオ、お母さんとまた一緒に暮らせてよかったね」
「うん!でもなんかね?お兄ちゃんが寝ちゃった後ね?レノが木の棒を振り回して遊んでるよ!」
「振り回して遊んでるって…そっか、教えてくれてありがと」
苦笑しつつフィオの頭を撫でながらフィーラに話しかける。
「フィーラさん、すみません、教えて頂きたいのですがこの村の名前と今って何時ぐらいでしょうか?」
「この村の名前はフェルス村っていうの。今は丁度お昼頃かしら?ご飯も用意しているからよかったら食べます?」
「フェルス村…はい、すみませんが頂きます」
「フィオ?チトゲさんを連れて行ってあげてくれる?」
「うん!お兄ちゃんこっち!」
「あんな事があったのにフィオは凄い元気だなぁ…」
フィオに引っ張られながら家の中を進んでいく。
(フェルス村…?『SL』の時はそんな村なかったはず…という事はやっぱり『SL』の世界って訳じゃなさそうだな。この世界を模して造られたのが『SL』っていう風に考えれば分かりやすいか…?いわばオリジナルの世界、あっちでの地名なんかは全部違うはずだからしっかりこの村で情報収集しておかないとな…)
「お兄ちゃん?」
「ああ、何でもないよ。ちょっと考え事してたんだ」
「わかった!お兄ちゃんは私の隣ね!」
「あらあら、フィオはチトゲさんの事が好きなのねぇ」
「うん!だって助けてくれたし!」
「じゃあ、チトゲさんのお嫁さんになる為に頑張らないとね?」
「わかった!おいしいご飯作れるようになる!」
「あはは…」
(レノ…いっぱい頑張ってフィオを射止めてくれ…)
そしてフィーラ、フィオ、千棘でご飯を食べていると家の中にいなかった旦那さんが玄関の扉を開けて家の中に入ってきた。
「お、チトゲさん一昨日は本当にありがとう…ございました。その、体調とか大丈夫…でした?」
「挨拶が遅れてすみません…はい、お陰様で体調の方は万全です。後、口調もいつも話している感じで崩して頂いて大丈夫ですよ?」
「あー…わりぃ、どうもちゃんとした喋り方って言うのが性に合わなくてな…娘を助けてくれた恩人に失礼があったらとか思ったんだが…」
気恥ずかしそうに髪を触る旦那さんに笑みを向けた千棘は昨日の出来事を気負わせない様に言葉を作っていく。
「そこまで気負わないでください。道に迷っていたら偶々出会って助ける事が出来ただけですし、二日も泊めて頂いて食事まで頂いているのでもう十分過ぎますよ」
「おーそうか?そう言ってくれるならよかった。でもなんか力になれる事があるなら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。そしたら早速なんですが…」
「…おう、なんだ?」
「お名前伺っても?」
そう言うと少しだけ身構えた旦那さんは目を丸くし、自分の額を叩きながら笑みを浮かべる。
「…ああ!こりゃわりぃ!俺はフィオの父親のエリオって言うんだ。よろしく頼む」
そう言いながらエリオは椅子に座りながら頭を下げてくる。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。先程も名前を呼んで頂いたと思いますが、千棘って言います」
するとエリオは凄く凄くすっごく目を輝かせ、テーブルに身を乗り出しながら問うてくる。
「あー!そうそう!聞きたかったんだよ!ダフネの十英傑と同じ名前だからさ!なんか関りあんのか!?」
「え、えっと~…」
「ほらエリオ、チトゲさんが困っているでしょ?英雄譚が好きなのは私達は知っているけど、何も知らない人にそうやって捲し立てたらダメでしょ?」
「うっ…わりぃ。ちょっと興奮しすぎた」
「あ、あはは…大丈夫ですよエリオさん。フィーラさんもありがとうございます」
途轍もない熱量のエリオを諫めたフィーラはにこやかな表情を作り、落ち着いた雰囲気のまま問う。
「いえいえ。…そういえば覚えてます?最初に会った時の事」
「ええ、僕がフィーラさんにダフネの十英傑に聞いた事ですよね?」
「そうそう、丁度英雄譚が大好きな人もいる事だし聞いてみてはいかが?」
「そうですね、ありがとうございます。エリオさん、ダフネの十英傑について教えて頂いても?」
「ん?ダフネの十英傑を知らないのか?」
「ええ、どうやらその人と同じ名前らしいですね?僕」
「ああ、500年も前の話で今も世界中で語り継がれている英雄譚なんだ!その中で英雄達を率いていたのがチトゲ様って事だ」
「500年前…」
「ああ、まだ天まで伸びる真っ白ーい塔がある時代の話らしい。まぁ、そんな塔があったのかなんてわかりゃしないけどな」
「ん…?『天空の廊下』ってもうないんですか…?」
「ん?天空の廊下ってなんだ?」
「あ、いえいえ何でもないです」
天空の廊下というのは『SL』の世界でネルミア国、王都アルマイアに建っていた真っ白の天まで届く塔の名前だ。
その塔は中がダンジョンになっていて、最上階のボスを倒すと雲の上の国に行く事が出来るという場所だったが、それがこの世界には無いとの事。
(さっき仮説でこの世界を元にして作られたのが『SL』っていう話だったけどこれは違うな…どちらかというと『SL』の500年後の世界みたいだ。…にしても雲の上の国に行く方法が今はないって事になるよな…でも500年も経っていればあるかどうかもわからないし、今考えても仕方ないか)
「エリオさん、そのダフネの十英傑の名前を聞いても?」
「ああ、いいぞ!まずはなんてったって『千姿万態のチトゲ』!これがお前と同じ名前の英雄で他の英雄を纏めて導き、たった十人で世界を渡り歩いてついには世界を壊す事が出来るドラゴンや神様まで倒しちまった英雄なんだ!しかもすげぇのはそれだけじゃない!特定の武器を持たない英雄でさぁ、手に持って使う武器なら何だって使えてその腕も超一流!んで、色んな武器を使って戦ってる様を表して千姿万態って言われているらしいぜ」
「へ…へぇ…そんな英雄がいるんですね…」
(これ、完全に僕の事だ…)
「んで、このチトゲ様には右腕と左腕と呼ばれる人がいたんだが、その右腕は『鎧袖一触のアエリア』!アエリア様はなぁ、すっげぇ魔法使いでたった一人で何万っていう数の敵を一回の魔法でやっつけちまうし、空に浮かんでいるあの星を落としちまうんだよ!しかもな?魔法使いってーのは鍛えた戦士達には筋力では勝てないわ、足が遅いわで近づかれたら終わりなのに、アエリア様はその弱点がない!その時代で名の知れた猛者を近接戦闘でも倒し、魔法では一瞬で相手を倒す。近接戦闘も出来る最強の人なんだ!!」
「お、お~!すごいですね!そのアエリア様は!」
(それも僕だ~…!しかもかなり尾ひれが付いてる…尾ひれどころか背びれも付いてなんだったら全身ひれまみれだ…)
「んで、左腕が『千軍万馬のコル』!このコル様もすげぇんだ!コル様はな?色々な召喚獣を操る事が出来るんだが、それが何万といる軍にも引けを取らないぐらい大量に召喚出来ちまうんだ!一人で軍なんだよコル様は!しかもすげぇのは戦闘だけじゃねえ!薬草学とか生産系であれば何にでも明るいらしく、そっちでの語り名もあってな?『博学多才のコル』って言うんだ!一口飲めば人間じゃ考えれねぇぐらいの力を引き出す薬や無くなった腕が生えてくる様なすげー薬、農作物が一瞬で育つ薬で食糧難の国や村に寄付して世界を救ったっていう逸話があんだよ!すごい博識で知らない事は何もなく、何でも作れるコル様!すげぇよなー!」
「お、おー…ダフネの十英傑ってそんなにすごいんですね…」
(それも僕の事だけど…最後の食糧難の国や村を助けたって何!?尾ひれがここにしか付いてないのにその尾ひれが巨大すぎて歩けない!!)
「んでな?他の英雄達も凄くてよー…」
そこから【Daphne】のメンバー全員の逸話を聞きつつ今後の事を考える。
(ここでは【Daphne】のメンバーの名前が神格化され過ぎて問題になりそうだし今後は偽名を使うか。千棘は千弦って名乗って…アエリアはリアで、コルは…ウルでいいか…)
そしてエリオの英雄譚語りは終わり、再び別の確認をする。
「エリオさん、英雄譚のお話ありがとうございました。すごく興味深かったです!」
「おー!そりゃよかった!俺も昔は英雄に憧れてよぉー、冒険者になってぶいぶい言わせたもんだぜ。ちなみにフィーラも魔法使いだったんだぜ?偶々ギルドで依頼を受けようとした時にフィーラを見つけてよ。一目惚れしちまって、すぐに声かけてパーティを組んでそこから一緒になったんだよ」
「エリオ?チトゲさんはそんな所まで聞いていないでしょ?…全く恥ずかしい事言わないで欲しいわ…」
そう言いながらフィーラはちょっと赤くなった顔を冷ます為に席を立ち、飲み物を入れに台所へ向かう。
「あら、フィオは寝ちゃったのね。飲み物を入れる前にお部屋に寝かせてくるわ」
「おう」
「わかりました、少し声の大きさ押さえますね」
「あら、大丈夫よ。さっきのエリオの興奮した声を聞いても目を覚まさなかったぐらいだもの」
そう言いながらフィオを抱いてフィオの部屋へ向かっていくフィーラの背中を見送った後、
「そうだエリオさん、ここからもっと人のいる街とか知らないですか?」
「お?なんか用事でもあんのか?ここから近いとなると…あーでもあれだな、同じぐらいの距離なら王都もあるな」
「では王都の場所を教えて頂いてもいいですか?」
「おう、王都の名前はリライアって言ってな?ちょっと口で説明するのもあれだから地図でも持ってきてやるよ。地図は渡せないがなんか描く物とかあれば写していっていいぞ」
「すみません、ありがとうございます」
そう言いながらエリオは自分の部屋へ向かう。
その間にインベントリから『写し紙』というアイテムを取り出して待っていると、エリオが部屋から地図を持って来てくれる。
「これがこの周辺の地図だ」
「ありがとうございます。早速写しますね?」
お礼を言いつつ『写し紙』を地図の上に乗せてコピーすると、エリオが驚いた表情を浮かべる。
「これはすげえな…全く見た事ない『魔道具』だが…」
「魔道具…?ええ、すごい便利なんですよこれ。すみません、地図ありがとうございました」
「うい。役に立ったんなら地図も嬉しいだろうよ…っと、空だったな」
飲み物を飲もうとしてコップの中が空なのを確認すると丁度タイミングよくフィーラが帰ってきた。
「あら、地図?チトゲさん何処かに行かれるんですか?」
「ええ、明日にでも王都に向かおうかと」
「あら、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「既に色々お世話になってますし、これ以上迷惑はかけれないですよ」
「ん~このままうちの子になってもいいんですよ?」
「そんなまたまた…というよりそんな歳じゃないですよ?僕は」
「…?チトゲさんはおいくつなの?」
「えっと、確か3…いえ、12歳です」
「…?この国は15歳から成人だから12歳ならまだ子供よ?東の方でも確か15歳が成人だったはずだけど…」
「え?ああ、そうですね。でも大丈夫です、僕は冒険者になりに来たので」
咄嗟に王都に向かいたい理由をでっち上げたが、
「あら?冒険者も15歳からよ?」
「えっ…」
完全にでまかせが裏目に出てしまった。
「ん?チトゲは冒険者になりたいのか?」
「え、ええ」
「あー…んじゃ、別のやり方しかねぇなー」
「別のやり方…?」
「おう、手っ取り早く実力を示せばいいんだ。チトゲは男なのに可愛い顔してっから、ギルドで突っかかってくる奴をちょちょいっとぶっ飛ばして特別に登録して貰えばいいぞ」
「そんな荒っぽい事…でもありがとうございます。いざとなったらそうしてみます」
「エリオ、そんな事教えてダメでしょ?」
「いやいや、俺もお前もそうやって未成年でギルドに登録したんじゃねーか」
「まぁそうだけど…」
「ふぃ、フィーラさんも意外とやんちゃだったんですね…」
「あら、やんちゃなんて言わないで欲しいわ」
「んや、フィーラは凄かったんだぜ?なんせギルドの───うぐぼぼぼぼがああ!」
フィーラが昔話を暴露しようとしたエリオの顔を『ウォーターボール』で包み強制的に黙らせた。
「エリオ?それ以上はダメよ?」
「フィーラさん?フィーラさん!?エリオさんがヤバそうです!ヤバいですって!」
「あら、ちょっと厳しかったかしら?」
そう言いながら指を弾いてパチンといい音を鳴らすとエリオの顔を覆っていた『ウォーターボール』が消え、ずぶ濡れのエリオが息を切らしていた。
「ふぃ…フィーラ…ゲホッ…俺が悪かった…す、すまねぇ」
「ちゃんと謝れてえらいわね。ちゃんと乾かしてあげるから動かないで」
そう言いながら『ウィンド』で風を起こし乾かしていく。
「おー、魔法って攻撃するだけのものって思ってたのですがこういう使い方もあるんですね?」
「チトゲさんも魔法を?」
「いえ、僕はほぼ使えませんよ」
「あら、まぁ誰もが使えるっていう訳じゃないですしねぇ…」
「使えたらよかったんですけどね。そうだ、後もう二つ聞きたいことがあるんです」
「ええ、どうしたの?」
「ギルドに登録する前に偽名を使う事って出来ますか?」
「偽名?どうして?」
「ほら、僕ダフネの十英傑と同じ名前じゃないですか。問題とか起きそうで…」
「ああ、それなら問題ないぞ。名前は自己申告だ」
「それなら年齢も自己申告でいいのでは…?」
「ああ、そう思うよな。だけど、登録する時の名前は自己申告だが、魔法使いと書いて魔法が使えない奴が過去にいてな?魔法しかダメージが通らない敵が出るダンジョンに潜っちまって全滅しかけた事があったんだってよ。それで魔力を図る魔道具が開発されてそれに触れると自分の魔力を勝手に吸い上げてくれて魔力の適性がわかるんだよ。んで、そん時に年齢に対しての総量が測られるから年齢も職業も嘘つけねえってわけだ。ちなみに成長していくと魔力もあがったりするから定期的に測定するやつもいるぞ。その場合は貸してもらうからお金が必要だがな」
「なるほど…よくわかりました、本当にありがとうございます。今の話を聞いて聞きたい事があるんですが大丈夫ですか?」
「ん?なんだ?」
「お金です。この国の通貨って何ですか?これですか?」
机の下で見えないようにインベントリから100ニルの価値があるニル銅貨を出す。
「ああ、それで合ってるぞ。てか、ネシアにあるどの国でもニルだけだぞ?そんな事も知らないとかなんか記憶喪失とかか?」
お礼を言いつつニル銅貨を仕舞いエリオの質問に歯切れ悪く答える。
「え…あぁ、そうです。自分の名前はわかるんですが、それ以外が全く…」
「ん…って事はチトゲ、お前、英雄症ってやつかもしんねーぞ?」
「え、英雄症…?」
「ああ、このネシアじゃすげぇ偉業を残す人達は大体が記憶が無くて名前しか分からねーらしい」
「そうなんですか…確かにそれっぽいですけど、僕はそんなに凄くないので違うと思いますよ?後さっきからネシアって単語が気になってるんですが…」
「マジか…それもわからなかったか…ネシアは俺達が住んでるこの大陸の事を言うんだ。んで、ついでに言っておくとこの国はエルラシア国って言うからな。ネシア大陸すら知らないならこの国もわからなかっただろ?」
「ええ…お察しの通りわからなかったです、ありがとうございます」
「んや、気にすんな。もし本当に英雄症だったらいつか偉業を残すかもしんねーからな!したら俺達がチトゲに色々教えてやったんだって自慢できるしよ!」
「あはは、確かにそうですね。なんか偉業が残せたらこの村とエリオさん、フィーラさんの事をお話しておきます」
「私は恥ずかしいのでやめてくださいね?」
「俺は大歓迎だ!よろしく頼む!」
「あはは。話すとしても悪いようには話しませんよ?お姉さんに見えるぐらい若い奥様って事でいい噂になるかもしれないですよ?」
「…っもう、あんまり年上はからかうものじゃないですよ?」
ちょっと顔を赤くしながら『ウォーターボール』を千棘の顔の前に持っていく。
「は、はい。き、気を付けます…」
「はい、よろしい」
指を鳴って『ウォーターボール』が消えるとエリオがにっこり笑う。
「どーだ?フィーラは。怒らせるとなかなかだろ?」
「いえいえ、頼もしい奥さんですから大切にしてくださいね?浮気とか絶対にダメですよ?」
「するわけねーだろ!」
と、三人で笑い合う。
「そうですね…あらかた今聞きたい疑問は聞けたのですが、捕まえた山賊は今どうなっているんですか?」
「ああ、それなら村長の家の地下に食糧庫があるんだが、そこに縛って閉じ込めてるぞ。明日になりゃ王都からの兵士が来てあいつらを王都まで連行してくれるみたいだ。もし王都に行くならそいつらと一緒に行けばいいんじゃないか?」
「…確かにそうですね。そうします、教えて頂いてありがとうございます」
「ん、他に聞きたいことはあるか?」
「そうですね…んー、この辺の木で加工しやすくて頑丈な木とかってありますか?」
「ん?木?んーまた変な事聞くな…んー…フィーラ、心当たりあるか?俺、全然木とか詳しくねぇわ」
「そうねぇ…カガシの木って言うのがあるわよ。お金持ちの貴族様とかが愛用する建築材料なんだけどね?」
「ふむふむ…それが欲しいんですが、どこで手に入りますか?もしくはこの森のどこで採れるか…」
「木こりでもないのに木を切るのはダメよ?それを売ったりしたら犯罪になっちゃうから気を付けてね?一応この村でも生産しているから欲しいならあげるわよ?少ししかないけど」
「では加工前の枝とかがあったら二本程欲しいんですが…」
「枝でいいのかしら?それなら倉庫にあるから取ってきてあげるわ」
「何から何まですみません」
「いいのよ、フィオを救ってくれた恩人の為ですもの」
「あはは…ありがとうございます」
お礼を言った後、フィーラは倉庫に枝を取りに行ってくれた。
「はぁ~あの木がカガシの木なんだなー。興味もなかったから全然分からなかったわ。意外とあれで高級材料なんだな。ハハハ!」
「エリオ、あなたもこの村にいるなら覚えなさい。もう村の新参者の期間は終わったのよ?はい、チトゲさんどうぞ」
「おお!いい枝ですね!ありがとうございます!」
「いえいえ、その枝どうするんですか?」
「これでフィオとレノに木刀を作ってあげようかと」
「ボクトウ?木剣じゃねーのか?」
「えっと、刀という武器はわかりますか?」
「あー…あれか?細くて折れやすい刃が曲がってるやつだろ?」
「そんな簡単には折れないと思いますけど…多分それだと思います。あれは斬り方があるので普通の両刃の剣と同じように使うと折れやすいのかな…?まぁ、それを木で作ってあげようかと。フィオとレノを助けた時にレノが言ってたんです。強くなってフィオちゃんを守りたいって。だから剣術の練習が出来るように作ってあげようかと」
「あらあら、レノくん…」
頬に手を当ててにっこり笑いすごく嬉しそうな雰囲気のフィーラに対してエリオが、
「…俺は認めないぞ!俺のフィオは誰にも渡さん!!!」
と娘が可愛すぎて嫁に出したくない父親になってしまった。
「エリオ?後で家族会議ですからね?」
「いくらフィーラの頼みでもそれだけは絶対に譲れん!」
「あはは…ではすみませんが作りたいと思うので」
「ええ、夜には帰ってきてくださいね?晩御飯作っておきますから」
「ではお言葉に甘えて…ありがとうございます」
と、お礼を伝えて家を出ると扉を閉めた瞬間に家族会議が始まった様で、二人とも大声を出して言い合いしているのがドア越しでも分かる程だった。
(夫婦喧嘩は犬も食わぬ…ってね)
そんな事を思いつつもらった枝を目につかないようにインベントリに収納して村を歩く。
そして村を歩いていたら村の人達の視線が痛いほど刺さる…。
(ん…なんだろ…?よそ者はあんまりよく思われない感じかな…?)
視線攻撃の理由を考えながら村の外へ出ようとするが、一人の女性が近づいてきたので立ち止まる。
「ねえ、あなた?女の子がそんな格好してちゃダメよ。男の人もいるんだから…」
「へ?…ああ、そういえばフィオの家に装備とか置いてきちゃったな…」
冷静に考えてみれば今の格好は肌にぴったりくっついた臍出しインナーと足のラインが際立つようなぴったりとしたパンツに編み上げブーツ。
更には筋肉など一切付いていない真っ白な肌の細い体で低身長。
そして止めの女の子に間違われても仕方ない男の娘顔。
だから女の子がこんな破廉恥な格好で村を練り歩いていると思われてずっと見られたのだと気づく。
「お目汚しすみません。一応男なんですが…以後気を付けますね?」
「え!男!?やだ、めちゃくちゃ美形なのね………お姉さんとお茶でもしない?」
「ね、ねぇあなた私のお家でお茶しましょ?お菓子もあるわよ?」
「私のお家にきて!抱き枕にさせて!」
女性が男という単語を大声で叫び、辺りにいた女性は男である事をわかると我先にお茶しましょ?と誘ってくる。
何名かは抱き枕であったり飾りたいなどよくわからない事を言っていたが…、
「すみませーん!ちょっと用事があるので失礼しますねー!」
女性の間をするするっと抜けて村の外まで人の常識範囲内の速度で走り森の中に入っていく。
「ふぅ…女性に詰め寄られるのも悪くないな…」
なんて事を考えながら村の人から見えない位置を探して場所を決める。
「ここら辺がいいかな。村にも近いから迷子になる事ないし。したらコルの実力を見せちゃいますかねー!」
コルをイメージすれば周囲が一瞬パッと明るくなり、光が収まるとそこには水色の髪を緩く三つ編みにして頭の上から狼耳とお尻の上辺りから尻尾を生やした女の子が現れる。
「よし、そしたら早速木刀を作っちゃいますかね~!特殊能力とかはこれを付けてあげて~…」
フィオとレノの木刀を作る為にどんな特殊能力を付けてあげようか考えながら作業台等を置いていく。
「好きな女の子の為に強くなりたいと思う男の子を手助け出来る様な立派なものを作りますよ~!!」
傍から見たら耳と尻尾がある赤ずきんちゃんがるんるんで尻尾を振りながら木刀を作っている光景で色々ツッコミたくなるが、誰もこの光景を見ていないのであった…。




