お母様と子供の繋がり
「ちーちゃーん!!待ってたよー!」
「あら…あらあらあらぁ!エルリ、ルエリ!お待たせしましたぁ!」
アクエリア王国のとある海上で双子の精霊と水色の狼の再会が果たされた。
どれだけ嬉しかったか、どれだけ寂しかったか、どれだけ待ちわびていたかを表現するようにぎゅっと三人で抱き合い、しばらくシーサーペントの背で再会した事を噛みしめながら、二人の精霊に問いかける。
「大体察しはつきますがぁ…何をしていたんですかぁ?」
「ここじゃゆっくり出来ないし、精霊の国にいこ!ね、エルリ!」
「そうだねルエリ!ちーちゃん案内するからいこ!」
と二人はコルの手を二人で取り、そのまま空へ浮かび上がる。
「わわっ…シーサーペントもありがとうねぇ」
「ギュアアアアア!!」
シーサーペントにお礼を伝えて送還し、双子の精霊に導かれるまま精霊の国へ向かっていく。
しばらく二人に連れられ空を飛んでいると、先程から見えていた巨大な亀はさらに大きく見え、その背には建物などが建っており、本当に国の様になっていた。
「ここが精霊の国だよちーちゃん!」
「わぁ…すごいですねぇ…」
ようやく二人がコルの手を離し、亀の甲羅の上…精霊の国に降り立ったコルは少しだけ前を歩くエルリとルエリの堂々とした背中を見て少しだけ鼻の奥がツンっとしたが我慢しつつ、そのまま三人で歩いていくと建っている建物の詳細がわかってくる。
海の上での塩害対策としてレンガ造りの家にタイルの光沢にも似たつるつるとした塗料が塗られており、しっかりと建物の清掃が行き届いていてとても綺麗な外観で、住んでいるであろう住宅はほとんどが平屋、お店などは二階建てで一階が店舗で二階が住宅という造りの建物が多かった。
特に一際目立ったのは精霊族をまとめている長…精霊の国の王の住まいで陸地の王国には立派な城があるが、ここは亀の甲羅の上…規模は小さいが宮殿の様な造りで外壁には見た事のない植物のツタが巻き付いていて、とても幻想的な雰囲気を醸し出していた。
ここにはエルリとルエリと同じように精霊族しかいないので、みんな背中には半透明の羽を持ち、空を飛んだり、地を歩いたりと様々な移動方法で街を移動していた。
そこにただ一人、水色の狼が来れば興味の対象となり、人懐っこい子供はコルの周りを飛んだり、じっと見つめてきたりする。
だが、過去の出来事が記憶に根付いている者達はとてもいい感情を持たれているとは思えない表情でコルの事を見ていたり、その場から逃げる者もいる。
それはエルリとルエリに連れられていたとしても、過去の出来事は無視出来ない爪痕を残しているという証拠だった。
その事実に少し胸を痛めながらも二人についていくと、先程見えていた宮殿の建物に辿り着く。
「ちーちゃん、ここが僕達が住んでる所なんだよ?」
「ちーちゃん、私達はここでこの国がバレない様に結界を張ってるのよ?」
「やっぱり貴方達にはここを離れられない事情があったのですねぇ…」
二人からここにいる理由を伝えられ、そのまま二人が住んでいる宮殿へ入っていく…。
■
「そうなのねぇ…じゃあ今はそのクリスタルをどうにか維持しているから離れられないのねぇ…」
「そうだよー…本当ならちーちゃんと一緒に僕も冒険したいのに…」
「そうだねー…私もちーちゃんと一緒に冒険したい…」
「じゃあパパッと直しちゃいましょうかぁ。でもその場所は精霊族の王様…女王様に許可して貰わないと入れないのでしょう~…?」
二人から大まかの事情を聞かされたコル。
こちらに来た時は二人一緒にこの亀の上にいた事。
訳も分からず飛び回っていたら見た事のない顔が空を飛んでいると、この宮殿に住んでいる女王様に情報がいき、女王様直々にエルリとルエリに会いに来て《SL》での事を伏せて、事情を話したら英雄症の双子と言われ、ここの守護者として立ち振る舞うようになったとの事。
ここでは私が一人称の姉のエルリはエル、僕が一人称の弟のルエリはエリという名前で過ごしているという事、守護者としてこの亀の存在を隠す結界の維持を頼まれているという事を教えてくれた。
精霊族の羽の事件から10年後にこの亀と共生し、結界の装置を作り上げ…490年もの間、ずっと稼働しっぱなしで魔力が切れかかっていたり、時々結界が弱まり船が近くに来てしまうなど、色々な不調を抱えているのでここを離れるとしても物資の確保として外に精霊族というのを隠していくぐらいしか外界との接触はないと言っていた。
「でもねー…女王はあの出来事を体験した精霊でね…?とてもいい感情を持っていないんだよ…僕がいっぱい説得してちーちゃんを呼んだんだけど、それでもね…」
「私もちーちゃんなら大丈夫っていっぱい説明したんだけど……」
「私が来てしまって問題を解決しちゃったらぁ…貴方達がこの国から居なくなる事も考えてるんでしょうねぇ…」
精霊女王は過去の出来事を目の当たりにしているらしく、他種族との繋がりなど一切求めていないとの事。
ただ、生きる為に必要な物資やこの国で採れない物が必要な場合は陸地へとエルリとルエリを向かわせ調達するらしい。
事実、エルリとルエリがここにいれば結界も維持出来るし、戦力としても申し分ない。
過去と同じ出来事が起きたとしてもきっとこの二人なら戦場を飛ぶように行き、相手を虐殺する事は出来るだろう。
だけどそれ以前に彼らはコルの仲間である…島を守る為の機械でも兵器でもない。
それ故に今の精霊女王の考えとコル達の考えが真逆であり、それを溶かし合うにはかなりの困難が予想されたので、三人はエルリとルエリの居室で頭を抱えていた…。
「それにしてもぉ…よく私をここまで連れてきましたねぇ…」
「本当に僕がごり押ししたんだよ?もし聞いてくれないなら二人で何処かに逃げるって言って…」
「そしたら女王はすっごい怒ってたの。でも条件として、何か問題があれば即首を取れっていう条件で許してもらったの」
「それはぁ…何とも物騒ですねぇ…」
コルはここで何かあれば即、首を落とされるという事実に溜め息を吐きながら思考の海に落ちていく。
(エルリとルエリをここから解放するにはまず守護者としての役割を捨てさせる事が必要ですねぇ…クリスタルをエルリとルエリがいなくても大丈夫にしてぇ、この島の戦力の増強ぅ……どちらにしても精霊女王に一度会わないといけませんがぁ…)
絶対に避けて通れないのは精霊女王との謁見…エルリとルエリの話を聞く限り、今の状態で顔を合わせて一言二言喋ればきっと無礼討ちは逃れられない…そんな事をぐちゃぐちゃと考えていたコルの胸の辺りで『何か』が主張してくる。
「…?何でしょう…」
コルは不思議に思いながら、その胸の中で主張しているものが何なのか、意識を集中して探っていくと…フェンリルのイメージが流れ込んできて召喚してくれと言っているように感じる。
「フェンリル…?…」
「「…?」」
こんな事は今まで一度もなかった為、コルは少し困惑しながらもエルリとルエリに問いかける。
「ねぇ…二人とも?…ここでフェンリルを召喚してもいいかしらぁ?」
「え?何でフェンリル…?んー…僕としてはここに呼ぶと魔力の流れで攻撃とみなされちゃうかも…?」
「私もここだとまずいと思う…んー…私達が降りた何もない場所なら大丈夫かな?」
「ならもう一度そこにいきましょ~。フェンリルが召喚して欲しそうなんですぅ」
「そうなの?…フェンリルお喋り出来るようになったの?僕も話してみたい!」
「私もお喋り出来るならあの真っ白の猫…キャスパリーグを召喚して欲しい!」
「ふふふ、じゃあもう一度あそこにいきましょぉ~」
そして三人は最初に降り立った周りに何もない所へ移動していく…。
■
「報告しなさい」
「はい。現在、守護者二名が件の人物と王宮の居室で話をした後、最初にこの地を踏んだ場所へ再度向かっていきます。監視を任せたものからの通達は以上です」
「話の内容は?」
「それが…何分守護者二名の居室は万全でして、中の会話を聞くことは叶いませんでした…」
「使えない…居室を出たなら会話もしっかり聞きなさい。チャンスがあれば無礼討ちでも何でもいいから首を取るのよ」
「ハッ!」
「おかあ…精霊女王…一度しっかりとお話をされた方が…」
「何を言っているの?精霊族以外の種族は下種の集まりですよ?過去の出来事を忘れたのですか、カルラ。貴方はこれからこの国の王となる存在…そのような甘い考えを持っていたら過去と同じ事が起こるのよ」
「違うのです…守護者の二人が連れてきた者から…詳しくはわかりませんが…懐かしい感じがするのです…」
「そんな幻想は捨てなさい。精霊族に味方なんていない。私達は私達だけで生きていくのです」
「精霊女王…」
■
「さて~…この辺りでいいでしょうかぁ」
「大丈夫なんだけど…監視がいるみたいだから僕が追い払ってくるー?」
「ずっと監視されているから私も追い払ってくるけど…どうする?」
「んー…多分二人が追い払ったら私がやった事にされて無礼討ちになる気がするんですよねぇ…そうなると取り付く島がないんですよぉ…どうしましょうかぁ…」
三人は何もない所を歩き、監視に聞こえない声でどうやり過ごすか考えているとエルリが呟く。
「ねえ、ちーちゃん、エルリ…ギルド戦やった時のあれ使えないかな…?設備とかごまかすアイテム…」
「…確かにそんなのあったよね…私とルエリはずっと前線だったからあんまりわからなかったけど…」
「んー…確かに『戦場の霧』を使えばなんとかなりそうですねぇ…」
コルはそう言いながらインベントリから《戦場の霧》というアイテムを取り出した。
掌に収まるほど小さいサイコロの様な物で、《SL》の攻城戦や防衛戦の時にプレイヤーの位置を誤認させたり、兵器の数をごまかしたりと色々な効果があるアイテムだった。
一言で言ってしまえば相手に幻覚を見せて有利に立ち回れるという代物で、そのアイテムを起動すると何か霧が立ち込める…という事は無く、何も感じないが一つだけはっきりと分かるのは先程まで監視をしていた数人が突如動き出して、更にコル達が向かっていた奥の方へ行ってしまった。
監視がいなくなった事を感じ取ったルエリは…
「おー!うまくいったね!僕凄いでしょ!?」
「ほんとによくやったわ!流石私のルエリ!」
「ええ、よく思い出しましたねぇ?ルエリお手柄ですぅ。それじゃあフェンリルとキャスパリーグを召喚しますねぇ」
そう二人に伝えてフェンリルとキャスパリーグを召喚すると即座にエルリはキャスパリーグ、ルエリはフェンリルに抱き着いてもふもふしていた。
「わー!!フェンリル久しぶりー!!」
「キャスも久しぶり…やっぱり可愛い…」
「ふふふ、こっちに来て凄い時間経ってましたからねぇ…それでフェンリル…?召喚しましたけどぉ…」
フェンリルに話しかけるとコルは次の瞬間、驚きを露にした。
『お母様、召喚してくれてありがとうございます!』
「っ!?!?ふぇ、フェンリル!?喋れたの!?」
コルの時の口調を忘れる程取り乱し、エルリとルエリは今までそんな事なんてなかったのを知っていた為、身体をビクリとさせてきょとんとする。
だがエルリとルエリにはフェンリルの声が聞こえていないようで首を傾げながらコルとフェンリルを見つめていた。
『どうやらお母様との繋がりが強くなったみたいで…今までは喋る事は出来なかったのですが』
「えっ…ええ…?何か特別な事をしましたかぁ…?」
『いつも私達を召喚した後にお礼を言って下さったり、世話等をしてくれたおかげかと…キャスパリーグ、お前もお母様と喋れるだろう?』
『にゃ~?お母様今まで僕達の声聞こえてなかったの~?』
「キャスパリーグまで!?!?…それに繋がりが強くなったって…そんな簡単な事で…?」
『召喚術師は家族の様に接したりするものはやはり少ないので…戦闘の時に呼び出すだけだとどうしても信頼関係は生まれにくいかと…』
『にゃ~』
「キャスパリーグはの…のんびり屋さんだったのですねぇ…それにお母様ってなんですか~…?」
『私達と契りを結び、仮初の身体をいつも生み出してくれる…だから私達からしたらお母様なのです』
『にゃ~お母様~』
「あ、あらぁ…突然お母さんになってしまいましたぁ…」
「え、ええ?ちーちゃんフェンリルと喋ってるの?僕も喋りたい!どうすればいいの!?」
「ちーちゃん!私もキャスパリーグとお喋りしたい!!どうすればいいの!?」
「ふ、二人とも落ち着いてください~…一番混乱してるのは私ですよぉ……えっとぉ、それでフェンリル?呼んでいたようですがぁ…」
『ええ、実はここの精霊女王がもし私の知っている者であれば問題なく謁見する事は可能かと…名をカレンと言います』
「エルリ、ルエリ?精霊女王のお名前はカレン様で合ってますかぁ?」
「そうだよちーちゃん!」
『ふむ…であれば、私を召喚したまま謁見してくださいお母様。実は500年前…正確には490年、10年の間、精霊の羽の出来事があってから精霊族を匿い、逃がしたのは私達フェンリルなのです。その後は別の幻獣や聖獣、原精霊等の力を借りて今の国を作り上げたはずです』
「あ、あらぁ…また凄い事を…簡単に言ってしまえばフェンリルは精霊女王だけじゃなく、精霊族の命の恩人なのですねぇ…」
『ええ、なので交渉は私がしましょう』
「ありがとうねぇ。…でもどうやってお話するのかしらぁ?エルリとルエリには今の会話は私の声しか聞こえてないみたいですよぉ?」
『お母様の魔力を使い、直接言葉を届ければ可能です。今は許可がないのでいつもよくしてくれていたエルリとルエリには声は届けていません』
「なるほどぉ…そのうち人型に変身とか出来ちゃいそうですねぇ…」
『出来ますが…以前、フェンリルはこの白銀の毛色に凛々しい顔が素敵と褒めて頂いたのであまり…』
「で、出来るんですねぇ…いつかは見てみたいので後で見せてくださいねぇ?今はこの凛々しい姿で私達を助けてくださいねぇ」
『はい、お母様』
『にゃ~』
「もちろんキャスパリーグも助けてくださいねぇ?二人とも小さくなってエルリとルエリの肩に乗っててください~」
「「…?」」
まだよくわかっていないエルリとルエリに事情を説明し、フェンリルとキャスパリーグに小さくなるよう伝えて二人の肩に乗ってもらう。
そして二人に魔力を流してエルリとルエリはキャスパリーグとフェンリルと楽しく話して嬉しそうにしていた…が、魔力を常に流しているコルは徐々に魔力を回復させるポーションを飲み、最初は涼しい顔をしていたが、だんだんと回復が追い付かなくなって魔力が無くなり、青い顔をしながら冷や汗を流し、エルリとルエリの居室に戻ってきた時にはまたポーション地獄に陥って意識を無くしていた…。
■
「精霊女王!報告します!監視していた者から情報があります!」
「やっと無礼討ちのチャンスが来たの?」
「いえ…追跡していたのですが、当てもなく森の中を歩き回った後、突然姿が消え、捜索していたのですが…既に守護者二名の居室に移動していたようです…高度な転移魔法などを使用した形跡はなく…」
「何かしらの転移魔法の魔道具でも使ったか…仕方ない、謁見して私直々に無礼討ちを言い渡します。守護者二名に通達し、謁見の前来るよう動かしなさい」
「ハッ!」
「精霊女王…」
「カルラ、貴方は黙って見ていなさい。これが精霊族の為になります、貴方は次期王として他種族への慈悲を捨てなさい」
「……」




