白うさぎの実力
少し遡り…
「さて…みんな気を取り直していくわよ…!」
「ちーちゃんのせいでだいぶ台無しだけどね…」
「まぁ気を張りすぎて失敗するよりはいい」
「ユリスいくか」
「じゃあ、探してくるね?」
「みんな任せたわ」
アエリアの言葉を聞いた瞬間、王城の屋根から暗闇に溶け込むようにユリスとユーランは飛び降り、ユリスは持ち前の身軽さと素早さで途中の木を一度掴んで身体を回し、枝に着地する。
ユーランはそのまま着地しようとしたが、ユリスが気を利かして空中で横抱きにユーランを抱え、代わりに着地してくれた。
「さんきゅー、んじゃいくかユリス」
「了解!」
体勢を低くして前を走るフェイナとアルメラの後ろについていきながら王城へ侵入するとフェイナとアルメラは上に行く階段を無視しながら牢屋を探しており、こちらはライゼンを探さないといけないので一番下の階から虱潰しに素早く確認していく。
途中でフェイナとアルメラを追い抜いた時、フェイナの身体がびくっとしていたがユリスとユーランは気付かず、二手に別れて一番下の階を練り走る。
一階を全て探し、見つからなかった二人は二階に向かう階段で落ち合い、成果を伝えあって二階を探していくが特に見つからなかった。
「次は三階だな…ん…今のはちー助か?」
「かな…?全く姿が見えなかった…」
「扉の作り的に女王の寝室だろ。あたいらはさっさとライゼンを探すぞ」
「そうだね…」
三階へ二人で上り、二手に別れようとした時、とある一室が勝手に開いて閉じるの見た二人はそんな光景を見て姿を消したアエリアが部屋に入ったと思い、扉に近づくと明らかに今までの部屋とは違う造りの扉を見て女王の寝室と結論付けて同じ階の別の部屋を探していく。
三階も見つからず、四階に上がり、虱潰しに探していると先程女王の寝室に入ったであろうアエリアから通信が入る。
『みんな聞こえるかしら?ユリス、ユーランどう?』
『ごめん、まだライゼンは見つからない』
『二手に別れて探したけど…多分王城にはいないな…』
『フェイナ、アルメラ』
『今、地下牢の近くにいるんだけど、看守がいるから待機してるよ』
『ちなみに私達の潜入に気付いた気配は一切していない』
『わかったわ。まず黒幕は宰相、女王は屋敷へ転移させたわ。やっぱり私達が感じた通り、二通りの方法を同時に進行させていたわ。更にこの王都に魔族がもう一人紛れているらしいから少し作戦を変更させるわよ…まず地下に祭壇があって魔王復活の儀式をそこでするらしいわ。その後、洗脳した冒険者や軍を使って他国に戦争を仕掛けるらしいの。ユリスとユーランはライゼンがそこに配属されているはずだから洗脳魔法を解除したら手あたり次第軍の詰め所に行ってライゼンを探してちょうだい。フェイナとアルメラは一緒に地下の祭壇へ向かって祭壇を壊してちょうだい。壊せばそこに魔族か悪魔が来るはずだからそのまま討伐、もし来なくても結界張って逃げれないようにしてあるから大丈夫よ。私は今回の黒幕がいる所に向かうわ』
『わかった』
『おっけー!じゃあ、結界張ったら合図お願いねー!』
『ユリスとユーランも大丈夫そうかしら?』
『今さっき軍の詰め所みたいな所は何個か見つけてるから大丈夫!』
『あたいも特に問題ないぞ』
『わかったわ。私の準備が整ったら合図するからこのまま待っててちょうだい…』
…
ユリスとユーランはさっきの通信を聞き、合流した後少し意見を交わす。
「魔族がもう一人…か。あたいの感ならその魔族は既に祭壇にいるな」
「そうだね…とりあえず王城を出て、軍の人達が詰めてそうな所に移動しよ?」
「おう、下まで降りるの面倒くさいから、窓から飛び降りるぞ」
「了解!」
二人で適当な窓を割りそこから外に飛び降りると、王城の屋根に転移した時に見つけていた数か所の詰め所らしき場所に向かって二人は走っていく。
ユーランは生産者とは思えない速度で走ってくれているが、ユリスの半分ぐらいの速さなのでユリスが速度を合わせて走っているとユーランが少し顔を歪めながら口を開く。
「ユリス、足が遅くて申し訳ないが…あたいを背負って走れるか?」
「問題ないよ?背負っていい?」
「…任せた」
「了解!」
ユーランからの提案を快諾し、背中に小さい女の子を乗せたユリスは先程の速度より二倍速い速度で詰め所に辿り着く。
アエリアから強力な洗脳を解除した時に意識を失う可能性があると伝えられていた為、詰め所の近くに生えていた木の後ろに隠れてユーランを下ろし、アエリアの合図を待つとユーランは水色の片手剣を取り出すが、その形が独特だった。
持ち手から伸びる刃は音叉の様に二股に別れており、そこから更に枝分かれをしていて一見すると氷の鹿の角の様な剣を二本腰に吊るす。
「すごい形の剣だね…?それどうやって切るの?」
「これか?これはあたいが作った氷属性の特殊能力を付与した剣なんだよ。これは切るんじゃなくて力いっぱい振ると氷漬けに出来るんだ」
「おお…でも『武具大会』の時そういうの使わなかったよね…?」
「強力なんだが、属性によっちゃ殺傷力が強すぎるんだ。氷は基本足止めとか相手の行動範囲を狭める設置魔法みたいな感じだな。デメリットはあたいが付与した特殊能力が強すぎて武器が一回でおしゃかになっちまう。だから殺し無しの武具大会は普通の武器で出場したんだよ」
「殺し無し…なるほど…他にも色んなのあるの?」
「ああ!すげーのがあんだよ!あたい天才だからな!ほかにはかみ『準備出来たわ。これから結界を発動させた後、すぐに洗脳を解除するわよ。解除したら相手が動き出すから各自注意してちょうだい。開始の合図はキュアリンクって言った後だからみんな頼むわね』…」
ユーランが自分の作る武器のすばらしさを語ろうとした瞬間アエリアから通信が入り話を中断されてしまうが、特に嫌な顔をせずスッと表情を引き締め、詰め所に視線を向ける。
「っ…これがダフネの十英傑…」
ユリスはそんなユーランを見て、生産者なのにダフネの十英傑として戦っていた事を実感させるような雰囲気の切り替えに少したじろぐが、気持ちを切り替えてアエリアが洗脳を解除の合図を待ち、腰に差している短剣を二本抜いていつでも動けるよう構える。
『キュアリンク!!』
「行くぞユリス!」
「了解!」
合図を聞いた瞬間、同時に木の陰から飛び出し、先行してユリスがドアを蹴り破るとそこには同じ全身鎧を付けた人たちが床に倒れており、洗脳が解除され意識を失った人達の兜をどかしたり、身体を裏返して仰向けにして顔を確認する。
「チッ…外れだ。次行くぞユリス」
「うん!」
最初の詰め所にはライゼンはおらず、別の詰め所に即座に向かい次々と探してライゼン探しが6か所目になった時、ドアを蹴破った先の光景が今までと違う事に気付いた。
「…ここはさっきまでと違うな」
「もしかしたらここにいるかも…」
先程までは全員同じ鎧を身に纏っていたが、ここに集められた人達は全員装備がバラバラ、男女も様々に混じっており、魔法耐性が少しだけ高かった者達はうめき声を若干上げているが意識はない様だった。
「赤い侍…これだけいれば流石に目立たねーな…」
「うん…何処にいるんだろ…」
冒険者だけを集められた詰め所を見つけたユリスとユーランは赤い髪の侍を探す為、どんどん奥に入って探し人を求める。
「何処にいんだ?…もしかしてこいつか?」
「…あ!そうそう!!その人だよ!!」
「うし、んじゃあさっさととんずらすっか」
「そうだ…っ!?」
「何だこの音!?」
赤髪の侍風の男が他の冒険者の下敷きになっているのを確認し、ほっと息をついて救出しようとするが詰め所の外でバンッ!という破裂音が一回聞こえ、もしかしたらフェイナとアルメラのほうにいると思っていた魔族が来たのかと思った二人は即座に詰め所の外へ出る。
すると目の前にいたのは冒険者ギルドの制服を着た一人の女性だったがユーランが鑑定を即座に行い、確認した情報を呟く。
「グリア…こいつがアルマロスの眷属か」
「こいつが悪魔…」
「あら?私の事はもう調べがついてるのね?悪いけど、祭壇に下等生物が紛れ込んだみたいだからそこに転がってるゴミを向かわせないといけないから早く死んでくれるかしら?」
そう吐き捨てたグリアは手を上に伸ばして可視化出来る程の魔力を練り上げ、周囲に黒い玉が無数に浮かび上がると手をユリスとユーランに向けて振り下ろし、無数の黒い玉がユリスとユーランに向かって飛んでくる。
「ふーん?まぁ使うまでもないけど別にいいか…」
それを見たユーランは腰の剣を一本抜き、横に振り抜くと甲高いギュアアア!という音を立てながら氷の壁が出来上がり、その氷の壁に当たった黒い玉は貫通する事も氷の壁に傷をつける事も出来ずに消滅する。
「なっ…魔力を使わずに魔法!?…魔剣か…!!」
突然現れた強靭な氷の壁に攻撃を防がれ、その攻撃は傷すらつける事が出来ない事実にグリアは一瞬驚いた顔をしたが、ユーランの手に握られていた剣はパキンッと高い音を立てて崩れるのを見て、スッと表情を引き締める。
「へぇ…随分強力な魔剣ね…?でも後一本しかないようだけど、次は防げるの?」
とユーランに言葉を投げ、もう一度手を振り上げて黒い玉を作り出すがユーランはニヤリと笑う。
「敵の心配か?随分悠長な奴なんだな?一瞬で片を付け…?どうしたんだユリス?」
「…」
もう一本の剣を抜いて、玉ごとグリアを氷漬けにしようとしたがユリスがユーランの前に手をかざし、剣を抜く事を静止する。
「ユーラン、あれは私にやらせてほしい…ユーランがその剣使ったら次には倒せると思うけど…魔族じゃない悪魔なら私だってやれるはず」
「…まぁいいけど早く終わらせろよ?ちー助の作戦もあるからあたいはライゼンを引っ張り出してくるけど、それまでに片付けておいてくれよ?」
「了解!」
ユリスの返答を聞いたユーランは剣を抜くのをやめて詰め所に戻り、他の冒険者の下敷きになっているライゼンの救出に向かい、ユリスはユーランに感謝しつつ二本の短剣を曲芸師の様に手元で回しグリアに切っ先を向ける。
「あんたぐらいの強さなら私でもよゆーだから、すぐに倒させてもらうよ?」
「下賎な兎のくせに…すぐに殺してさっきのガキもぐちゃぐちゃにしてやる」
「ハッ!やれるもんならやってみなさい!」
ユリスはずっと一緒に訓練していたアエリアの口調が移り、自分の口からアエリアと同じセリフが自然と出た事に口を緩めるが、丸くて大きい目をスッと細め、狩人の様な視線を向けて集中していく。
「ぐちゃぐちゃになりなさい!!下賤な兎!!!」
「っ!!!」
グリアが手を振り下ろすがそれすらもスローモーションに見え、早く攻撃が来ないかと待ち構え、飛んでくる玉に狙いを定めて…一閃、ユリスの手に握られている短剣が黒い玉を斬り裂き、次々と飛んでくる玉を全て斬っていく。
「なぁっ!?…チッ!!」
その光景にグリアは絶句するも、すぐに気を取り直して槍の形をした物や、剣や斧と様々な武器を飛ばしていくがそれすらも全て斬っていく。
「…全部見切れる!!!」
「くそ!!!くそくそ!!!!」
その攻防が二分ほど続くと後ろの詰め所からガタンッという音が聞こえ、ユーランがこっちに向かってくる気配がしたので勝負を決める為、ユリスがグリアに言葉を投げる。
「そろそろ倒すけど…遺言はある?」
「下賎なクソ兎が!!!誰に向かって口を聞いている!すぐにぶち殺してやる!!」
「そう、それが遺言ね?」
そう言葉を返した瞬間、今まで斬り伏せていたのを止めて更に集中しながら回避し始め、相手の弾幕の間を高速でするすると抜けて時には横に前に後ろにと跳ねていき、身体をくるっと回していく。
「あはっ!全部止まって見える!!本当に私…強くなったんだ…!!!」
「っ!?」
その光景は敵の降り注ぐような弾幕の嵐の中で白い兎がダンスを踊っているかの様に見え、どんどんグリアとの距離を詰めていく。
詰められた距離を離す為に、攻撃しながら後退りするが…攻撃を止めれば即座に飛び掛かってくるし、攻撃しながらだと攻撃に集中力を割かれて、後退の速度が遅れるという悪循環にグリアの顔はどんどん歪んでいき…
「くそ!!なんであたらないんだ!!この!この!!死ね!!死んでくれ!!!」
とぐずる子供の様に癇癪を起しながら下がっていく…が、
「私達の中で一番弱い私に負けてるようじゃ…まだまだだよ。さようなら」
そう呟きユリスは瞬発して一瞬でグリアとの距離を詰めて首を跳ねる。
すると身体がだんだん灰に変わり、形を失っていく。
「くそが…!!アルマロス様…もうしわけござ…」
そう呟き、最後の言葉すら言えずに頭が崩れるとユリスは残心を解きながらくるくると短剣を回し、鞘に納める。
「ふぅ…意外と何とかなった…」
すると大柄な男の足を引きずりながら、小さい女の子が背負って詰め所から出てくる。
「くっそ!でかいしおもいし!!ユリス!あたいを助けてくれ!ライゼンの足を持ってくれー!」
「あ、あはは…」
そんな悲痛な叫びを聞きながら苦笑して近づき、ライゼンの足を持ってあげると王城の空が一瞬明るくなったと思った次の瞬間…莫大な光量を内包した光が王城を包んだ。
「「っ!?」」
二つの『何か』がその光の中で上へ上へと移動し、雲の隙間に隠れた瞬間、光が消えた。
その光景を見たユリスとユーランは何が起こったかわからず、開いた口が塞がらないような顔をしていた。
「ユーラン…今のは…?」
「あの大規模の魔法…ちー助だと思う…けど王城が壊れてないぞ…?」
「ええ…リアって魔法使ったら王城壊れちゃうの…」
「ああ。本気で撃てばこの王都は一発の魔法で消し炭だぜ」
「…やっぱり魔法なしのリアに勝っても…もっと強くならないと…」
「んや、あの悪魔を一方的に倒せたんなら、間違いなく最強の5本指には入ってるぞ?ユリスは」
「そうなのかなぁ…」
「まぁあんま思い詰めるな。人には長所がある、ユリスは自分の長所を伸ばせばあたいらに追いつくよ」
落ち込むユリスにユーランが声をかけているとアエリアから通信が入る。
『黒幕のアルマロスを討伐したわ。みんなの状況はどうかしら?』
二人は顔を見合わせクスリと笑い、担架の様に担がれているライゼンを持って王城へ向かっていく…。
そのライゼンは身長150㎝程のユリスが足、身長120㎝程のユーランが前で支えて頭が下になっており、顔色が悪くなっているのを二人は気付いていなかった…。




