アイシャ・フォン・セルベレス・アクエリア
アイシャ…
彼女はただの平民で家族と暮らしている村娘で、両親とも黄色の毛並みの尻尾と耳の狐型の獣人だった。
両親の昔を知っている人はみんな口を揃えておしどり夫婦だったと、いつも幸せそうにしていると話していたらしい。
だがアイシャが知る両親はいつも声を荒げて物を投げる母、アイシャに怒鳴り声をあげて口汚く罵る父の姿しか知らず、姉ですらアイシャの事をいない者として接し二人の愛を独り占めしていた。
姉は父と母の黄色の毛並みと尻尾、目の色まで全部同じで誰がどう見てもこの父母の子だとわかる。
アイシャは生まれた時から水色の毛並みの耳と尻尾、目に関しては人の物とは思えない程、綺麗な紫色で星が散りばめられたような眼だった。
当然、父はこんなやつは私の子じゃないと、お前が誰かの子を産んだんだと…生まれた直後からアイシャはいない者だった。
それでもどうにか死なないぎりぎりの食事、ぼろ布同然の衣類などはくれた。
村に出てもアイシャは罵倒の的にされる。
アイシャはただ生まれただけだった、正真正銘、両親から生まれた子だった。
ただ、両親も村人も知識がなかった。
彼女の眼は魔眼、それも魔眼の中で特に稀有な未来視の魔眼、その数多ある代償の一つで毛色が水色になってしまう事を。
村にその文献があれば、両親にその知識があればきっとアイシャは女王にならなかった…ただ普通の幸せを手に入れる村娘になれたはずだった…。
10歳になった時、アイシャは村を追放され、一人魔獣が蔓延る様な森に投げ出された。
アイシャはもう生きれない、死にたいと思いながら目に溜まった涙を流さないように目を閉じる。
すると初めてアイシャは未来を視た。
その未来は私を助けてくれる一人の少年とも青年とも思われる男…勇敢な姿で森に住む魔獣を倒していく男が視えた。
アイシャは当然何のことかわからず困惑しながら目を開ける。
すると先ほど視た未来はすぐそこにあった。
今しがた視えた風景はアイシャがいる所、少年とも青年とも思われる男はこちらに背を向けながら魔獣と戦ってる。
アイシャは何故かわからないがどんどん目から涙が溢れ、その光景をただ見つめる。
するとその男はこちらに振り返り手を伸ばしてくれる。
「大丈夫?もう安心していいよ。僕…いやいや俺が助けてあげるよ」
あどけない顔を笑顔にして初めてアイシャに伸ばしてくれた大きな手…その手を見つめる事しか出来ないアイシャの手をその男は手に取り、胸に抱いてくれた。
「怖かったよね…俺が守ってあげるから一緒にいこう」
彼の声が優しく彼女の耳を震わせて理解させてくれる。
これが優しさ、これが暖かさ…これが人を好きになる事…
アイシャは今まで我慢した物を全部彼の胸へ吐き捨てていく…。
■
彼と一緒に暮らしてアイシャは18歳になり、小さなボロボロの家で彼の帰りを待っていた。
彼は冒険者で助けてくれた時もクエストで森に来ていただけだった。
アイシャは時々、未来が視える事を不思議に思い、図書館などで調べ物をしていた。
そしてアイシャは自分が未来視の魔眼の持ち主だとこの時初めて自覚した。
アイシャのお腹には彼との子供がいる、だからこの力を使って私達の未来を良くしようとこの力を使っていく。
だけど視えたのは彼がとある貴族の出自で、その家が取り潰しになる未来だった。
彼はアイシャに自分が貴族の出自である事を伝えてくれなかった。
その事に最初は腹を立てながらボロボロの家で帰りを待っていた…だけど彼はボロボロの姿で家に帰ってきた。
「ど、どうしたの!?その怪我!!」
「あ、アイシャ…俺はもうダメだ…最後に…アイシャにちゃんと伝えたい事があるんだ…」
彼…アイン・セルベレスの口から事実が話される。
彼はセルベレス伯爵の次男で長男が当主となり、次男であるアインはずっと夢だった冒険者になり、身分を隠して冒険をしていた事。
今、アクエリア王国は他家の貴族による王位簒奪の陰謀に晒され、それをセルベレス伯爵当主は糾弾したが口封じをされた事。
そして次男であるアインにも飛び火し、襲撃を受けた事。
返り討ちにしたが、致命傷をもらってどうしようもない事。
その話を聞いたアイシャは森に捨てられてからの8年間、ずっとアインに助けてもらったのに私は何も守ってあげれないと自分の無力さを痛感していた。
私にお金があればこんな致命傷、ポーションで治せるのに…私に力があれば治癒魔法でアインを治せるのに…。
自分の無力さを祟っているとアインから一つの指輪を渡される。
「これ…今日は俺達が出会った日…だから…依頼料貯めて買ったん…だけど…ずっとアイシャは…その耳と尻尾を嫌ってたよね…俺はその耳も尻尾も大好きだった…だけどもう守れないから…これからはこの指輪がきっと…守ってくれるから…」
結婚指輪の様に箱から指輪を取り出し、ぎりぎりで繋ぎ留めている命に鞭を入れ…震える手でアイシャの指に指輪を嵌める。
その指輪を付けた途端、今まで憎んでいた耳と尻尾が無くなり、ただの人間と同じ姿になり、目も普通の紫の瞳になった。
でもアイシャはそんな事気にもせずアインの事を励まし続ける。
「そんな事言わないで…!私、まだあなたに何も返せてない…これから私達はお腹の子と一緒に幸せな未来を作るのよ…!だから死なないで…!!」
「俺…僕は…あの時アイシャに出会えた事が一番の幸せで…それは今この時も幸せだよ…だから僕は一生分の幸せをもらったから…先に還るだけだよ…だから…アイシャもいっぱい幸せになったらこっちに来てね…愛してる、アイシャ…」
最後にアインがアイシャに口付けして…力尽きる。
ボロボロの家の中で、アイシャの腕の中で命を落とした。
アイシャはアインをずっと抱きしめて泣き続けた…。
「ほう?こんな所に未来視の魔眼がいるとはな?利用させてもらうぞ?」
アイシャの不幸な女王としての未来が見えた瞬間だった…。
■
魔族アルマロスはあの日からずっとアイシャを操り、女王としての…アイシャ・フォン・セルベレス・アクエリア女王という地位を勝ち取らせた。
アイシャが何故アルマロスに従っているか…それはお腹にいたアイシャとアインの愛の結晶…ウィールの無事だった。
アルマロスはすぐにアイシャの弱みがお腹に宿っている命だと見抜き、魔王復活の為の傀儡としてアイシャを成り上がらせた。
お腹の子が生まれ、名前を付けた後、すぐアルマロスに連れていかれてしまった…人質としても、未来視の魔眼が遺伝する可能性もある為だ。
それからたった5年で女王の地位に立ち、未来視の魔眼を利用して政治を執り行って国をいい未来に変えていった…が、それすらもアルマロスの魔王復活が裏に隠れていた。
アルマロスが突然、宰相として名乗り出て、それ以降の政治を執り行ってアイシャへのけん制と魔王復活の為に、人間以外の種族に激しい嫌悪感抱くよう洗脳していった。
アイシャはアルマロスが宰相と名乗り出てからずっと寝室で監禁され続け…ある未来を視た。
白と黒の長い髪を持ち、聖職者の格好をしているがあまりにも聖職者には見えない長身の女性。
手には髪の色と同じ白と黒の手袋、瞳は赤い…血を思わせるように赤く、怖い雰囲気を持つ女性が私の枕元に立つ未来を。
最初はついに私は殺されるのかと…アインの元にいけるのかと…だけど生まれてから顔を見た事ないウィールが心に未練として突き刺さる。
死にたくない…そう思った時、その未来の女性は一言、「任されたわ」と呟く。
それからアイシャの…未来を変えてくれる使者を待ち続ける日々が続いた。
■
いつか見た未来がついに来た。
いつも寝たふりをしていた為、寝たふりが異常にうまくなったアイシャ。
勝手に扉が開き、勝手に扉が閉まる…意識を集中すると誰かがいる気配がする。
アイシャは目を開き、そこにいるであろう白と黒の長い髪を持ち、聖職者の格好をしているがあまりにも聖職者には見えない長身の女性…手には髪の色と同じ白と黒の手袋、瞳は赤い…血を思わせるように赤い瞳を持つはずの…姿が見えない人に…
「来ましたか…白黒の髪色の女性…あなたが国の運命を変える使者なのですね?」
問いかける…。
自分的に悲しいと思う話を書きました。
正直自分で書いて自分で泣くという上級者でした。




