疲れた笑みの二人
少し遡り…
「さて…みんな気を取り直していくわよ…!」
「ちーちゃんのせいでだいぶ台無しだけどね…」
「まぁ気を張りすぎて失敗するよりはいい」
「ユリスいくか」
「じゃあ、探してくるね?」
「みんな任せたわ」
アエリアから任された役割をアルメラと一緒にこなす為、フェイナは王城の屋根から真っ暗な闇に向かって飛び降りると下には芝生があり、音を立てないよう着地する為に衝撃を逃がすように身体を前に転がす。
すると隣に同じように降りてきたアルメラがおり、一つ頷きあって暗闇に紛れるよう暗がりを進んで王城内へ侵入していく。
アエリアの事前情報で地下に捕まっている人がいると聞いているので上に行く階段には目もくれず、下へ降りる階段を探している時、二つの小さな影が猛烈なスピードで横切っていきすぐに姿が消えた。
「今のユリスとユーランだよね…?」
「多分そう、敵なら攻撃されていたはず」
小さな影に少し驚き、鼓動が早くなったので胸を押さえつつ出来る限りの速さで廊下を走り始めると鉄製のいかにも頑丈な扉が見つかり、アルメラに目配せしていつでも武器を抜けるようにしてもらう。
アルメラが小さく頷いたのを見てゆっくりと扉を開けると地下へ続く階段が現れたので、前にフェイナ、後ろにアルメラの順番で降りていく。
一番下まで降りていくと左右前の三つの道があり、それぞれが牢屋と繋がっていて通路を歩けば左右に牢屋がある構造だった。
曲がり角から黒い猫耳と真っ赤な瞳を出して左右の道を確認するが看守の姿は見えず、アルメラにその情報を伝えるとハンドサインで前の道と指定されたので前の道に進む。
「っ…」
左右の牢獄では様々な種族がとても直視出来ないような状態で投獄されていて、フェイナやアルメラを見ても一切反応を示すことがなかった。
「あまり見ない方がいい」
「…」
フェイナの顔が曇るがアルメラがフェイナの手を取りあまり見せないように先へ進み、突き辺りまで歩くと更に左右の道を見つけるが、もし奥を確認した時に反対側から人が来たらバレる可能性があるので一旦階段の所まで戻って相談する。
「アルメラ…どうする?若干リスクあるけど、左右のどっちか奥まで確認しに行く?」
「看守が詰めてる部屋がどっちかにあるはず。時間をかけると逆にリスクが増えるから、左右に分かれて音を立てないように奥まで走って、またここに戻って見た物を伝え合うのがいい」
アルメラの提案に頷いてフェイナも一緒に左右の道へ走り出し、アルメラは左の突き当りへ到着すると右奥に木の扉を見つけ、顔の辺りに覗き窓が付いてるのを確認して階段へ戻る。
フェイナは右の通路の突き当りまで行き、壁から猫耳と目を出して覗くと奥には鉄製の扉と真ん中辺りの壁に一人の看守が椅子に座っているのが見え、そのまま看守が座っている付近を観察するとすぐ近くの壁から更に下へ続く場所があるようで、そこを看守が守っているように見えたので階段まで戻る。
「私の方は通路右側奥に木の扉でのぞき窓が付いてるのを確認した」
「私の方は通路左奥に鉄製の扉…多分道具入れなのかな…?それと通路の真ん中に看守っぽい人がいてその看守がいる所からさらに下に続く階段を見つけた。もし行くなら看守を落としていかないといけないから一旦ちーちゃんの指示待つでいいかな?」
「わかった、問題ない」
階段の陰に紛れるよう二人で潜みながらアエリアの指示を待つこと5分…フェイナとアルメラのイヤリングから凛とした声が響く。
『みんな聞こえるかしら?ユリス、ユーランどう?』
『ごめん、まだライゼンは見つからない』
『二手に別れて探したけど…多分王城にはいないな…』
『フェイナ、アルメラ』
『今、地下牢の近くにいるんだけど、看守がいるから待機してるよ』
『ちなみに私達の潜入に気付いた気配は一切していない』
『わかったわ。黒幕は宰相、女王は屋敷へ転移させたわ。やっぱり私達が感じた通り、二通りの方法を同時に進行させていたわ。更にこの王都に魔族がもう一人紛れているらしいから少し作戦を変更させるわよ…まず地下に祭壇があって魔王復活の儀式をそこでするらしいわ。その後洗脳した冒険者や軍を使って他国に戦争を仕掛けるらしいの。ユリスとユーランはライゼンがそこに配属されているはずだから洗脳魔法を解除したら手あたり次第軍の詰め所に行ってライゼンを探してちょうだい。フェイナとアルメラは一緒に地下の祭壇へ向かって祭壇を壊してちょうだい。壊せばそこに魔族か悪魔が来るはずだからそのまま討伐、もし来なくても結界張って逃げれないようにしてあるから大丈夫よ。私は今回の黒幕がいる所に向かうわ』
『わかった』
『おっけー!じゃあ、結界張ったら合図お願いねー!』
『ユリスとユーランも大丈夫そうかしら?』
『今さっき軍の詰め所みたいな所は何個か見つけてるから大丈夫!』
『あたいも特に問題ないぞ』
『わかったわ。私の準備が整ったら合図するからこのまま待っててちょうだい…』
………
「魔族もう一人いたんだね…多分あの看守が守ってる所が祭壇に続く場所だと思うけど、アルメラどう思う?」
「間違いないと思う。隠し扉とかでわからないなら両手斧で地面を砕いて下に降りればいい」
「じゃあ最悪それでいこっか。…一応、魔族か悪魔が待ち構えているていでいこう」
「わかったわ。いつも通りでいこう」
二人はお互いの拳を当て、右の通路の突き当りへ進みアエリアからの合図を待つ…。
『準備出来たわ。これから結界を発動させた後、すぐに洗脳を解除するわよ!解除したら相手が動き出すから各自注意してちょうだい。開始の合図はキュアリンクって言った後だからみんな頼むわね』
二人とも何時でも飛び出せるよう体勢を低くし…、
『キュアリンク!!』
「いくよ!」
「うん」
「っ!?おまっ!?………」
一斉に角から飛び出し、アルメラが先行して看守の男へ一気に近づき、両手剣の腹で看守の男に打撃を加え、意識を刈り取るがその光景を全く見ずにフェイナは音が出るのも気にせず、一気に駆け降りる。
少し後ろからアルメラも同じように駆け降りており、先に下まで着いたフェイナは盾を構えながら突き進むと奥に少し広い場所があるのを確認して入り口前に陣取る。
そのフェイナの陰に隠れながらアルメラもその広場に視線を向け、待ち伏せからの攻撃がない事を確認して二人で広場に出ると広場は石造りの床や壁、真ん中には真っ黒の禍々しい祭壇、気分が悪くなるようなどす黒い霧みたいなのが祭壇から漂っており、近づくのが嫌になるほどの存在感だった。
一度お互いの視線を合わせ、一つ頷いて祭壇に近づき、後5歩で祭壇に辿り着くという所で上から声がかかる。
「やはりアルマロスの言う通りこっちにも来たか…下等な獣よ。我はプルソンだ。お前らに教えてやる義理はないがここまで来た冥土の土産だ。有難く思いながら無様に死ぬがいい」
空気がびりびりと震えるような低音の声、その声の主の姿を見ると赤紫の肌に獅子の顔、顔意外は人間の構造と同じで背中には羽は無く、かなり立派な尻尾が生えていた。
「あれが魔族…」
「顔色悪いライオンにしか見えないけど…」
プルソンが上からゆっくりと降りてくるのを見て、軽くバックステップをして距離を取るフェイナとアルメラ。
アルメラはプルソンから身体半分隠れるようにフェイナの後ろに陣取り、油断なく両手剣を構え、フェイナも全身を覆う様な大盾を横に構え、顔が見えるようにして視界を確保する。
「下等な獣?自己紹介なのかなー?どう思う?」
「きっとそう。だって初めて会う人とは自己紹介するもの」
「じゃあ、あのライオンが魔族の下等な獣さんかー…下等な獣さんー!私は今からその祭壇壊すので覚悟してくださいねー!」
そう挑発をしながらフェイナはプルソンに見えないよう後ろに手をやり、ハンドサインをアルメラに見せ、フェイナからはアルメラが同意したか見る事は出来なかったがそこはずっと一緒にいた二人、ハンドサインなしでも意思疎通が出来るくらいの信頼関係が築かれているので特に問題はない。
「これだから下等な獣は…壊すことが出来ないのを何故わからないのか…そこまで考えが及ばないから下等なのだ…我が祭壇を守り、獣共を殺す。祭壇を破壊しようとも獣如きじゃ壊せない」
「ふーん?やってみないとわかんないよね?」
「そう、やらないとわかんない」
「やる前から結果など決まっている…獣共の死、ただそれだけだ」
プルソンがそう言葉を発した直後、プルソンの姿がブレてフェイナとアルメラの間に姿を現すが二人は特に慌てた様子はなく、フェイナは勢いよく足を踏み鳴らしてスキルを発動させる。
「ショルダーペイン!」
「っ!?」
プルソンの鋭利な爪が伸びてアルメラを切り裂こうとするがアルメラの身体が淡い緑色の光に包まれ、プルソンの爪は確実にアルメラの首を跳ね飛ばす勢いと狙いだったが爪は虚しく折れた。
「あ、あれっ…?」
「え…折れた…?脆…」
ショルダーペインは《SL》のスキルで誰か一人を対象にして攻撃を肩代わりするスキルで発動条件は対象の半径5m以内にいるというもので、フェイナは特に油断などしておらず、姿がブレて後ろに現れるのもしっかり見えており、全てが予定通りだったが…肩代わりしたはずのダメージがほぼ全くないと言っていいレベルで困惑し、アルメラも勝手に折れた爪に困惑していた…。
「何が起きた…!?」
「飛んでも無駄」
「ぐあっ!?」
プルソンは何が起きたかわからず上に勢いよく飛び上がり距離を取ろうとするが、アルメラがそれを許すわけなく、両手剣を横に斬り払うとプルソン飛び上がっていた途中だった為、首を狙った横一線は身体の下にズレ、腹から下あたりを斬り落とす結果になった。
「…あれ?」
斬った感触があまりにも軽過ぎた為拍子抜けしたアルメラはきょとんとした表情を作るが、斬り飛ばして残った下半身の斬り口からは黒い霧の様な物が噴き出ており、それを見たアルメラとフェイナは気持ち悪さに顔を歪める。
「うっわ!気持ちわる!ねぇどっかに蹴っ飛ばして!」
「同感、気持ち悪い」
そう吐き捨てアルメラの渾身の蹴りで残された下半身を蹴っ飛ばすと下半身は祭壇にぶち当たり、障壁の様なものに当たった独特な音を発していた。
「貴様ら!!我の身体をそんな扱いしていいと思っているのか!?」
プルソンは自身の身体を傷つけられた事に驚き、アルメラ達の行動を見て怒りを露にするがフェイナとアルメラはとぼけた様な表情を浮かべる。
「え?気持ち悪かったんだもん…ね?」
「うん、近くにあると黒い霧で吐きそうになる」
「貴様ら…!!」
「おっと、そうはさせないんだけどねぇ~」
自分の肉体を気持ち悪いと言われた事に怒ったのか…それとも蹴り飛ばした行為なのか…祭壇にぶち当てた事なのか…とりあえず何かに怒ったプルソンは黒い霧を身体に纏わせると斬り飛ばした下半身が生え、再生した瞬間、またプルソンの姿がブレて接近してくるがフェイナがそれを許すわけなく、しっかりとプルソンの目の前に張り付きフェイナとアルメラの間に行けないよう塞ぎ続ける。
「くそ…!!獣風情が…!!!!!」
「さっきはどんなものかと思って見てたけど、正直拍子抜けだからすぐ終わらせるよ。…いくよアル!」
「わかった」
笑みを浮かべたフェイナが高速でプルソンの道を阻み続けている後ろで、アルメラは両手剣に魔力を這わせ、エンチャントを施していた。
「もっと…もっと…」
暖かい太陽の光、朝焼けの様な心地いい光、植物を優しく育てる光をイメージしていき、両手剣に魔力を込めていくと両手剣が白く輝いて光属性の魔力を纏っていく。
「あれはまずい…!!」
「んー?何処に行こうというのかねー?下等な獣さん?」
「貴様!!!」
プルソンは何かがまずい状況になっている事は感じ取ってはいるのだが…常にフェイナが前にいて後ろの視界を防がれ、状況を確認する事が出来ずにフェイナの煽りに吠える。
「んー…そろそろだよねぇー…んじゃ、これでおしまいにしよっか」
「何を言っているのだ獣風情が!!!」
フェイナは準備ができたと思い、初めてプルソンを追い抜き後ろに立ちながら即座にもう一つのスキルを発動する。
「シャドウスタンプ!」
そう叫ぶとスキルが発動した感覚があり、勝手に身体がプルソンの影を踏み抜く。
「流石ウェイナ」
アルメラはエンチャントの光で伸びた影をフェイナが踏み抜いたのを確認して瞬発する。
「ぐっ!?なんだ!?動けんぞ!?」
影を踏み抜かれたプルソンは突然身体が動かなくなり動揺していると、どす黒い霧で薄暗くなった広場で真っ白の光を棚引かせ、一条の光の様になったアルメラが瞬発してくるのを見る。
「これで終わり、じゃあね」
「な、なんなんだこれはあああああああああ!!!!」
圧倒的な存在感にプルソンは一瞬たじろぎ、動けない状況と自分を滅しえる攻撃の前で吠えながらアルメラの両手剣を迎えた。
頭の上から振り下ろされた両手剣は抵抗なくプルソンを縦に真っ二つにし、すかさず両手剣を横向きに構え、連続の横斬りを振り抜くとパイソンの身体は長細いブロック状にバラバラと床に散らばり落ちるが…その切り口一つ一つから黒い霧を噴き出していた。
「ないすー!流石だね!」
「ありがと…でもこれでもまだ生きてる…跡形もなく消し飛ばさないといつか再生されるかも」
「うわー…しぶといんだね…いけそう?」
「今以上に魔力込めないといけないから少し時間かかりそう」
「おっけー!警戒しておく!よろしくね!」
「わかった」
フェイナは長細いブロック状になったプルソンに近づき、いつでもアルメラへの攻撃を受けれるよう備え、アルメラは消し飛ばす為に魔力を込める。
すると………
「きゃあ!!何々!?アル大丈夫!?」
「大丈夫だけど何これ!?」
いきなり綺麗な鐘の音が聞こえたと思った瞬間、視界を真っ白に染める程の莫大な光で広場が埋め尽くされ、あまりの眩しさに目を強制的に閉じさせられたフェイナとアルメラ。
「次は何なの!?」
「わかんない!警戒!!」
すぐに二人はバックステップをしてプルソンから距離を取るが目が開けられず、状況が確認できなかったがようやく光が収まり、勢いよく目を開けるとそこには今まで漂っていた黒い霧もプルソンのブロックも、魔王復活の儀式に使う祭壇すらもない、石造りの広場が視界に入ってきた。
「え…もしかしてプルソンに逃げられた!?」
「わかんない…」
何が起きたかわからず、もしかしたらプルソンが逃げたのかと油断なく周囲を警戒しているフェイナとアルメラのイヤリングからアエリアの声が聞こえてくる。
『黒幕のアルマロスを討伐したわ。みんなの状況はどうかしら?』
フェイナとアルメラはしばらく視線を合わせて同時に、今の光はアエリアの攻撃だったのかと思い至り…
「「はぁ……」」
少し肩を落とし、疲れた様な笑みを二人で浮かべた…。




