幸運の運び手
『ライゼン聞こえるかしら…あなた…今どこにいるの?』
…………
(反応がない…なら別を確認するしかないわね…)
『フリエス、聞こえるかしら?リアよ』
『リア?えっとちょっと……はい、大丈夫ですよ』
『仕事中悪いわね。ちょっと問題が起きたのよ…確認したいのだけれど、アクエリアの上層部が人間至上思想になったのは数年前ってフリエスが持ってきた情報には書いてあったのだけれど…正確には何年前かしら?』
『……すみません、調べが足りなかったです…』
『別に怒ってないからそんな声出さないでちょうだい。調べて正確に何年前かわかったら連絡くれるかしら?』
『わかりました』
『ありがとね』
(次は…)
『アリエス、聞こえるかしら?リアよ』
『リアさん…はい、大丈夫です』
『仕事中悪いわね。アリエスが持ってきたアクエリアの情報で確認したいのだけど、アクエリアの上層部が人間至上思想になったのは正確には何年前かしら?』
『すみません、今すぐ詳しく調べます……………4年前です』
『4年前ね、ありがとう』
『最初から詳しくお伝え出来なくてすみません』
『いいのよ。私が伝えてから少しの時間で調べてもらったのだもの。また連絡するわ』
(次は…サリィね)
アエリアは頭の弾けた『何か』を土魔法で埋めて確認の為に孤児院へ転移する。
朽ちかけの孤児院の中に入ると獣人族の孤児達が数名おり、ボロボロの服で水の様な物を食べていた。
「これは…」
その奥にはボロボロになったシスター服を着るサリィがキツネの獣人族の子供を床に寝かせ、茶色く汚れた布で顔を拭いていた。
「はぁ…こんな事…許されないわ…」
その酷い有様を見てアエリアは鼻の奥がツンと痛くなる感覚を我慢しながらサリィに近づき話しかける。
「サリィ…待たせたわね。ここに人間はあなただけなのね」
「はい……」
「ちなみに…ここから旅立ってしまった子はいるかしら…」
「…二人ほど…」
「そう…サリィ、この国の上層部が人間至上思想になったのは正確に何年前かしら?」
「4年です…その頃にあの子達も…旅立ちました…」
「辛い事…聞いたわね。しばらくこれで凌いでくれるかしら?」
インベントリから大量の食材とその食材を保存するアイテムバック、清潔な衣類と布も大量に取り出して汚れないようもう一つアイテムバッグを取り出して収納していく。
「っ!?そ、そんな高価な物…!」
「いいのよ。…後、これは没収よ。その代わり…」
二つのアイテムバッグをサリィに渡した後、水の様な物を食べていた子供達からそれを取り上げ、あっ…と悲しそうな声を出す子供達にフリエスとアリエス用に買っていたお土産をインベントリから机の上にばら撒いた。
「あなた達、好きな物を好きなだけ食べていいわ。焦らないでゆっくり味わって食べなさい。誰も取ったりしないわ」
一瞬、水の様な物を取り上げられた子供達は驚いた顔をしたが、アエリアの手から魔法の様に食料が出てきたのを見て目をキラキラさせながら「食べてもいいの?」という顔をしてたので許可を出してあげた。
「お、美味しい!!!」
「うん!!すごく美味しいね!!!」
そう言いい泣きながら食べている獣人族の孤児を見てアエリアはずっと堪えていた涙を流す…。
「…っはぁ…酷過ぎるわ…」
その光景を見ていたサリィも何も言わず、泣きながら食べている孤児たちを見て静かに涙を流していた…。
■
「みんなお腹もいっぱいになって、身体も綺麗になったからかいい笑顔で寝てるわね」
「ええ…こんな顔見たの4年ぶりです…」
「サリィ…これから私はこの国を変える為に動くわ。だからもう少しだけ待っていてもらえるかしら?」
「この国を変える…?そ、そんな事が出来るんですか…?」
「ええ、私に任せてちょうだい。全部うまくやってあげるわ」
「リアさんは…何者なのですか…?」
「…私はクラン【ダフネ】のリアよ」
耳に付けているイヤリングを軽く弾いてそのまま孤児院を後にする。
その後ろ姿を見たサリィは聖女の後ろ姿を見ている様な感覚になり、自然と涙を零していた…。
■
(それとなく色んな店で店主に聞いたら全員正確に4年前と答えた…でも国外から来た様な人に話を聞いたら半分が元々、もう半分が4年前と答えた…王都に住んでる人は全員4年前と答えると思ったら半分だった…元々と答える人は全員状態は洗脳…4年前と答えた人は洗脳状態じゃなかった…まだこれだけじゃ絞れない…今ここでこの王都全域に洗脳を解除する魔法をかけたとしても何も解決しない…もっと根本的な…どうして洗脳されてる人と洗脳されてない人がいるのか…その原因を…)
考え事をしながら歩いていたアエリアは誰かにぶつかってしまった。
「んっ…ごめんなさいね、考え事してたらぶつかってしまったわ」
「ああ、こちらこそ済まない」
「もーちゃんと前見ないから他の人にぶつかっちゃうんだよ?ごめんね?怪我とかない?」
「ええ、これぐらい問題ないわ」
(この格好…冒険者ね)
「ねぇ、あなた達…あなた達って双子の精霊の噂を聞いてこの王都に来た冒険者かしら?」
「ああ、そうだよ。双子の精霊は幸運を運んでくれるって聞いてな。ちょっとその幸運に縋りたくて…」
「私も彼と一緒だよ~」
(ふむ…国外からの冒険者ね…一応、状態確認しておこ…ん?男性の方は洗脳状態だけれど、女性は洗脳されてない…)
「そうなのね。…変な事聞くんだけれど、いつここに来たのかしら?」
「ん?一時間前だがどうしてだ?もしかして臭うか…?」
「いえ、そういうわけじゃないのよ。あなた達はこの王都に二人だけで来たの?」
「いや、他にも魔法使いが二人いて4人でパーティーを組んでいるんだ」
「そうなのね…ちなみにあなた達二人はこの王都に来てからずっと一緒に行動しているのかしら?あまりにもお似合いの二人だからずっと一緒なのか気になっちゃったのよ」
「お、お似合いって…べ、別に俺は…」
「何!?私と一緒じゃいやだって言うの!?」
「ちが、そんな事は言ってないだろ!?」
「あら、ますますお似合いに見えてきたわ。…で、ずっと王都では二人で行動してたかしら?」
「んんっ!…いや、一回パーティーで二手に別れた時はあったな?」
「うん、ギルドに寄る組と装備修理に出す組で別れたね?」
「そう…ちなみにあなた達はどっちの組だったのかしら…?」
「……お前何者だ?さっきから俺達の事を聞いてくるが、流石に怪しいぞ?」
そう言うと男性冒険者は腰に下げている剣に手をかけていつでも抜けるように構えるとその行動を見た女性冒険者も腰に括り付けている短剣に手をかけた。
「こんだけ聞いてたら警戒させちゃうわよね…違うの。最近、双子の精霊の噂が広まって、色んな所から冒険者が来てるでしょ?…私、孤児院を経営しているのだけれど…ついさっきうちの孤児院の子が冒険者の人に手をあげられて怪我しちゃったのよ…だから少しだけあなた達の事を疑ってしまったわ…本当に申し訳ないわね…」
少し声を震わせて二人の冒険者に頭を下げて警戒を解いてもらう為に演技をすると、その姿を見た二人は得物に手をかけるのをやめて話しかけてくる。
「…そう言う事か…同業者が済まない…一応、俺はギルドに寄る組で彼女は修理組だった。残りの魔法使い二人もギルド組と修理組で別れてその時、彼女と初めて別れたな」
「教えてくれてありがとう。…疑ってしまったお詫びとして、あなた達のご飯を一食奢らせてくれないかしら…?」
「いや…孤児院の経営がどうかはわからないがそのお金は孤児院の子達に使ってくれ。俺達はそこまでお金には困ってないからな」
「うんうん、私達も警戒しちゃってごめんね?」
「いえ、大丈夫よ。…なら依頼として少しお金を出すから是非、4人で孤児院の子達と一日遊んであげてくれないかしら…?」
「…それぐらいなら別にお金をもらわなくてもいい。お前もいいか?」
「うん、私、子供好きだしいいよ!二人にも声かけないとだし私達について来てくれる?」
「ええ、本当にありがとう、ついていくわ」
アエリアはぶつかった冒険者の後について行き、合流地点と思われる待ち合わせ場所で少し世間話をしていると、一目見て魔法使いだと分かる格好の二人が近づいてきて合流する。
孤児院の子供達と遊ぶという話をしたら魔法使いの二人も快諾してくれた。
合流した時にさりげなく状態を確認したところ、男性冒険者と一緒にギルドに入った魔法使いは同じく洗脳状態で、修理組だった魔法使いは洗脳されていなかった。
そして洗脳されてる二人に魔法をかけて洗脳を解除し、孤児院へ案内するといきなり冒険者が来た事に驚いたサリィだったが、耳元で「今日一日、子供達と遊んでくれるそうよ。キツネの子をガラが悪い冒険者が虐めてたって話にしてあるから、口裏合わせておいてちょうだい」と伝え、首を縦に振ったのを確認して孤児院を離れる。
(ギルドが黒に近いグレー…一応、入口付近で洗脳されてない冒険者と生産者を探して確認して見るしかないわね…)
そうアエリアは思いギルドへ向かった…。
■
(だいぶ暗くなってきたわね…でも、生産者ギルドは白だった…店が依頼出すなら生産者ギルド、だからこの街にいる店を出していた店主達は洗脳されていないのね。という事は…街の半分が洗脳状態だったのは冒険者ギルドに依頼を出した者、もしくはその依頼をこなす現地の冒険者だったから。それに来たばっかりの4人の冒険者の内、冒険者ギルドに寄った2人は洗脳状態、修理でギルドに寄らなかった2人は洗脳されてなかった…冒険者ギルドに何かあるのは確実…一日でここまでの成果はかなりでかいわ…一旦孤児院に戻ってあの4人にお礼を言って、明日朝から冒険者ギルドを監視するのが良さそうね)
この街で洗脳にかかっている人とかかってない人の違い、どこで洗脳にかかっているかを一日で突き止めたアエリアは一度孤児院に戻り、子供達と遊んでもらうよう頼んだ冒険者達にお礼を伝え、「もし双子の精霊が見つかったら教えてあげる」と言ったらしばらく泊まる宿屋の場所を教えてもらい孤児院から宿屋へ帰っていった。
そしてサリィと一緒に遊び疲れて眠っている子供達をアエリアが用意したふかふかの寝床へ運び、朽ちかけの孤児院で二人っきりで話す。
「サリィ。今日一日色んな所で情報を集めた結果、4年前から誰かが国の上層部に入り込んで、何かを企んでいるって事がわかったわ。もしかしたら戦場になるかもしれない、だから一度私が住んでいるエルラシア王国の屋敷にみんなを連れていきたいのだけれど…いいかしら?」
「そんな……でも…どうやってエルラシア王国へ…?子供達は獣人族の子です。この国を出るならあの橋を渡らないといけないです…そこの門番にあの子達が見つかったらきっと酷い事になります…」
「その点は大丈夫よ。私の魔法で安全に屋敷まで送り届けてあげるわ。全部片付いたらまたここに戻れるようにするし、ここの改築なんかも手伝ってあげる」
「なんで…今日会ったばかりの私達にそこまで手を差し述べてくれるのですか…?」
「…ただの成り行きよ。ただ私がどうにかしたかったからおせっかいをしてるだけ。私は自分の手が届く範囲で守りたいと思ったものを守っているだけよ。例え誰かに自己満足だと言われてもやめるつもりはないわよ?私が動いて助けれるなら何だってするだけだわ」
「…リアさんは…聖女様なのですか…?」
「何よ聖女様って。この格好見てもわかるでしょ?聖職者にすらなれなかったただの自己中な人よ。だから手の届かない所まで救ってしまうような聖女様なんかじゃない。手の届く場所だけ、自分が守りたいと思ったものだけ守る、そんな自己中な人よ」
「…リアさんは私なんかよりも立派に聖職者ですよ…人を守れる力もある、人の為にここまで考えて行動が出来てしまう暖かい心の持ち主です…」
「…サリィ、私はあなたに負けているわよ。私は確かに力もお金も物も持っているわ。でもあなたは力が無くても子供の為に自分の身体が傷つくのを恐れずに盾になって庇い、お金が無くてもあの子達の為に頭を下げて食べ物を用意して、今あるものを大切に使ってあの子達の命を守ったのよ、私より非力なサリィが今まで一人で…ね。それは並大抵の人じゃ出来ない…サリィだけの守る力なのよ。誇っていいわ、私があなたの強さを認めてあげるから」
「っ!…!」
認めるてあげると言った瞬間、サリィが今まで必死に押さえつけていた何かがはずれ、顔をぐしゃぐしゃに歪め、溢れてくる感情に身を任せて生まれたての子供のように声を張り上げ泣き叫ぶ。
「もう…サリィ…あなた今日だけでどれだけ泣くつもりなのよ…強くても泣き虫なのね」
周りに音が聞こえないよう魔法をかけてから優しくサリィを抱きしめ、胸が涙で濡れる感覚をどこか心地いいと感じながら今までサリィが背負ってきた物を優しく下ろすように背中を撫で、疲れて涙と声が出なくなる時まで朽ちかけた孤児院に聖職者の泣き声は響いた…。
■
「ちーちゃん気付くの早かったね?エルリ」
「さすが私達のギルマスだね、ルエリ」
「エルリこの後どうする?ちーちゃんに会いに行く?」
「まだ私達のやる事が残ってるし、今は孤児院のシスターがいるから会いに行かないよ、ルエリ」
「じゃあ、このまま王都はちーちゃんに任せるの?エルリ」
「うん、だから私達は私達の国を精一杯守らないとね、ルエリ」
「わかった。…あーあ、僕ちーちゃんと話したかったなぁー」
「それは私もだよ。だから私達はここにいるって教えるだけにしましょ」
月が王都を照らしている夜、孤児院のシスターに幸運を運んだ双子の精霊は透き通った羽を震わせて海へと飛び立つ。
二人の聖職者がいる孤児院に一枚の手紙がゆっくりと落ちてくるが二人はまだ気づかない…。




