赤と桃の召使い
第三章 最終話です。
「千棘、肩揉んで」
「はい」
「ちー助、こっちの飲みもんなくなったから持ってきて」
「ただいまお持ちします」
「千棘、足疲れたから足揉んで」
「はい、ただいま」
「ちー助!これは飲みたくないから別の持ってこい!!」
「申し訳ありません、ただいま…」
「千棘」
「ちー助!」
「はいただいま…」
あの大会から四日後の王都拠点の屋敷で千棘がアルメラとユーランのお世話を必死にしている光景があった…。
■
試合の後、全然目を覚まさない千棘とアルメラは試合会場の医務室から首都が運営している魔法治療病院に搬送され、同じ病室で二人とも二日間眠り続けた。
先に目を覚ましたアルメラが隣で満足そうな顔で寝ている千棘に腹を立てて思いっきりお腹を殴って千棘を起こし、何であんな変装をして私達を騙していたのかと問い詰められていた。
ちゃんとユーランにも話さないといけないから一回みんなで集まってから話すと伝えて、二人で病室から出て治療師に身体は問題ない事を伝えて退院した後、大会の結果を街の人々から聞かされた。
揉めに揉めた優勝結果は千棘のエルノ・シエル工房の優勝という事になり、準優勝のベルファスト工房と一緒に今回使用された6つの武器が美術館の様な場所で飾られるようになると教えられた。
武器は手元にあるが既に模型が飾られているらしく、千棘が使った金色の片手剣は「神剣ウルカリバー」という名前で展示されていて、アルメラが使ったピンクゴールドの両手剣は「聖炎剣ランスロット」という名前で展示されているらしい。
明らかにアルメラが使っていた両手剣の方がかっこいい名前なのにネーミングセンスがひどい金色の片手剣、『神剣ウルカリバー』を思い浮かべてこっそり肩を落とした千棘…。
アルメラと一緒にベルファスト工房に顔を出した時に、ベルファスト工房の親方らしい人は「おう!!試合見たぞ!!ウルっていう代表はどんなやつなんだ!?」と声をかけてきたが、千棘はあの時変装していたから今の姿がわかるはずないと思ったのだが、あの後ずっと変装しっぱなしでチルとして声をかけられていた。
親方に丁寧に応えつつ、正体は教えられませんと伝えてベルファスト工房のランを呼んでもらう。
すると工房の奥から素早い動きでアルメラに抱き着いたちっちゃい女の子を見て千棘は、
「ごめんね、話したい事があるから私が泊まってる宿まで来てもらえる?」
と伝えてアルメラと一緒に泊まっている宿まで来てもらった…。
そして千棘に宿まで案内され、三人だけなのを確認してユーランが話を始める。
「ここまで呼び出してなんなんだ?アルはなんか知ってるのか?」
「ええ、それを今から話してもらうのユーラン」
「ちょ!アル!その名前で呼ぶなって!!」
「いいのユーラン。ね?千棘?」
「はぁ!?え!?お、お前…ちー助なのか!?」
「う、うん…ごめん変装して騙すような事して…アルメラ、ユーラン…」
脳の処理が追い付いていないユーランは困惑しながらも事実確認をしていく。
「は?お前がちー助…?え?女の子になったのか?」
「あ、これは変装の腕輪で姿変えてるだけだよ…ほら」
変装の腕輪を外していつもの髪と目の色に戻して、来ていたドレスをインベントリにしまっていつもの格好をする。
「はぁ!?…はぁ!?何で変装なんてしてんだよ!!すぐあたいらに会いに来てくれたらよかっただろ!?」
「そうなんだけど、噂で凄腕の鍛冶師がいるって聞いて隣国のエルラシア王国から来たんだけどさ…どこにいるかっていう情報が全くなくて、こっちに来てから色々探したんだよ?でも見つからなくて…そんな時にギルドで武具大会っていうのがあるって話が聞こえて、もしかしたらユーランなら出るかと思って出場したんだよ。それまではダンジョンに潜ってたんだけど、そこでソロの凄腕冒険者がダンジョンの階層を更新しまくってるって噂もあって、そっちも調べたんだけどなかなか出会わなくて…」
「そうか…ならその件については何も言わないし、逆にこっちまで来てくれて嬉しいけどよ?何で変装してたんだ?大会であたいらがちー助の格好みりゃこっちから話しかけに行ってたぞ?」
「そのほうがサプライズ感があるかなって僕が勝手に『違うの!!』ちょフェイナ!言わなくていいって!!」
「はぁ!?今の声フェイナか!?」
「フェイナ!?」
ここまで黙って話を聞いていたアルメラもフェイナの声を聞いた瞬間驚きを露にして声がした方を向く。
すると三人だけだった部屋の扉が開き、そこから黒猫状態のフェイナがしょんぼりしながら入ってきた。
それを見たアルメラは涙を目に貯めながらフェイナに抱き着いた。
「よかった…フェイナ…戦闘出来ないからどこかで寂しい思いしてないかってずっと心配だった…いっぱい探したんだよ…?でも私、方向音痴で鉄壁の黒猫の噂は聞いてたけど会いに行けなくてずっと心配だった…」
アルメラがずっと心配していた事を口に出した途端、嗚咽を漏らしながらフェイナを抱きしめる力が強くなるが、フェイナはそっと背中を撫でながらアルメラに伝える。
「ごめんねアルメラ…ずっとこの街で噂になってるソロの冒険者がアルメラだって気付けなくて…でも鉄壁の黒猫の名前を頑張って売ってたらちゃんとちーちゃんが迎えに来てくれたから大丈夫だったよ。心配かけてごめんねアルメラ…グスッ…」
こちらの世界に来てからお互い探し合っていた人物とようやく会えた嬉しさを確かめるようにしばらく二人は抱き合っていた。
■
「ごめん、話の腰折っちゃって。えっとさっきの話の続きなんだけど、変装して大会に出ようって進めたのは私なの」
「はぁ…?何でそんな事する必要があったんだ?」
「え、えっとぉ…ランランの事驚かせようと思って…まさか相棒がアルメラだなんて思いもしなかったけど…えへへ」
「はぁぁ!!??この駄猫!!何でそんな紛らわしい事するんだよ!!」
「ちょ、ユーラン落ち着いてほら!確かに言い出したのはフェイナだけど、最終的に面白そうって言って乗ったのは僕だから!!」
「そう、千棘が悪い」
「「「えっ!?!?」」」
「そうでしょ?メンバーの提案を聞いて最終的に決定するのはギルマスの千棘。だから責任を取るのは千棘一人で十分。フェイナは何も悪くない」
「あ、アルメラ…?でもちーちゃんも…」
「フェイナは悪くない。千棘が全部悪い」
「お、おいアルメラ…それはいくら何でもちー助が可哀そうじゃないか…?」
「全く可哀想じゃない。私とユーランを騙した。しっかり責任取ってもらう。許すまでこき使うからよろしく」
「は…はい…すみませんでした…」
「…はぁ…まぁわかったぜ。ちー助、私もこき使うから覚悟しろよな?」
「わ、わかってます…」
「うーちーちゃんごめんね…」
「いいよフェイナ。アルメラが言ってる事は正しいから…そうだ、後二人にもちゃんと話さないといけない事が何個かあるんだよ」
「なに?」
「ん?ちー助なんかあるのか?」
「まず順番に教えるね?まず、僕とフェイナはエルラシア王国の王都リライアって場所で屋敷を買い取って拠点を構えてて、二人の部屋も用意するから王都に来る?ってお誘いと、僕達に協力してくれる人がいるんだよ。ユリス、シエル、入ってきてくれる?」
「ん…初めましてユリスです」
「初めまして!私、エルラシア王国で公爵位を頂いてるノエル・マクナス公爵の娘、シエル・マクナスと言います!ユーランちゃん!お友達になりましょ!!」
「は、はぁ!?こ、公爵!?国王の次に偉いやつだろ!?てかなんだユーランちゃんって!これでもあたいは16歳だぞ!成人してるんだぞ!」
「そんなの関係ないです!お友達になりましょ!ユーランちゃん!」
「ちょ、ちー助!!こいつ何なんだ!?公爵なんだろ!?」
「シエルちゃんはユーランの事を観客席から見てお友達になりたーいってずーっと言ってたんだよ?ね?ユリスちゃん?」
「う、うん…あの可愛らしい子とお友達になるってずっといってた…」
「お、おう…そうか…だがなシエル!ちゃんはやめろ!ユーランって呼べ!」
「はい!ユーランはもう友達です!」
「ちょ!膝に座らせんな!!」
「ほら、ユーラン…僕は話の続きするからちょっと大人しくしてて…」
「ちー助…後で覚えとけよ…」
「…で、協力してくれてるのはここにいるユリスとシエルだけじゃなくて他にも王都の冒険者ギルドと生産者ギルドの受付嬢に一人ずつ、後はシエルのお母さんのノエル・マクナス公爵、多分アルメラも戦ったはずなんだけど、侍姿で強い人と戦う為に武者修行してるライゼンってSランク冒険者が今協力してくれているんだ」
「かなりいい感じに情報網を広げたね。上の情報、生産者の情報、冒険者の情報、更に各地に旅している冒険者。その辺の手腕はさすが」
「ありがとアルメラ。で、これがコルで作った離れた所でも通信出来るイヤリングだから、二人とも付けておいてね?」
「おう」
「わかった」
「それで、今僕達はこのイヤリングを持ってる人達でクラン【ダフネ】って名乗ってるから、二人も好きに名乗ってくれていいよ」
「そう」
「おう、わかったぜ」
「で…ここからが二人にも意見が欲しい所なんだけど…二人がここで活動していたのは知ってるんだけど、王都の拠点に移る際のごたごたとかはなんかあったりする?」
「んー…強いて言うなら上のお偉いさんからの勧誘かー?」
「やっぱりそうか…その辺はなんとかなりそう?」
「おう、ずっと勧誘されてうんざりしたから共和国から別の国に行くって言って、工房のみんなにも挨拶すりゃあたいは大丈夫だな」
「わかった、じゃあそれお願いね?アルメラはどう?」
「私も特にない。ずっとユーランの素材集めでダンジョンに潜ってただけだから」
「わかった。じゃあ、二人は王都に拠点を移す準備をしておいてくれると嬉しい。後、他のメンバーの噂とか聞いたりした?」
「んや、あたいはすげーポーションがエルラシア王国で出回ったとかしか聞いてねーなー。ピュリエットじゃねぇか?」
「私も鉄壁の黒猫の話と後は…血染めの天使…エルエリの事?後は死神の聖職者…これはアエリアでいい?」
「血染めの天使も死神の聖職者もすげーポーションも全部ちーちゃんだよ?」
「全く…」
「なんだ全部ちー助かよ」
「な…なんかごめん…そっか、じゃあまたメンバーの情報集めが必要だね。とりあえず一旦解散して、各自王都に行く準備をしたら転移魔法で移動するよ。一応期限は二日後まで、解散!」
そして王都の拠点に移動した直後、アルメラとユーランにこき使われる千棘の姿はその日から約二週間程見る事が出来たのだった…。
■
とある場所の冒険者ギルドに一人の冒険者が訪れた。
「もし、俺は最近この辺りに来た冒険者なのだが、強い者の噂であったり、面白そうな噂はこの都市にあったりするだろうか?」
「強い人の噂…?そうですね…特にSランクの冒険者が立ち寄ったとかそういう話は聞きませんが…あぁそういえば最近この辺りで流行ってる噂がありますね」
「ほう?どのような噂なのだ?」
「ええ、この街に出るんですよ…」
「で、出るというのは幽霊的な…ものか…?」
「いえいえ、そういう怖い話じゃなくて可愛らしい話ですよ。最近、双子の精霊が街に現れて、貧しい人達に幸運を運んでくれるって話です」
「ほぉ。それはいい話だな?」
「ええ、実際にその恩恵に恵まれた人もいるみたいで、街ではいろんな噂を聞きますよ?酷い怪我が治ったとか、迷子になってた子供が見つかって話を聞いたら精霊さんがこっちって教えてくれたとか」
「なるほどなぁ…是非俺もその精霊というものに会ってみたいものだな」
「ええ、善人であればきっと恩恵を受けれますよ」
これで第三章は終了となります。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
如何でしょうか?ユーランとアルメラの赤と桃、主人公の変装の赤いドレスとピンクの髪、対決する赤いドレスの主人公とピンクの髪を持つアルメラ。
色んな事が第三章の「赤と桃の二重奏」というのにかかっていて自分的にはちょっとうまくいったんじゃないかなって思ってます…。
この後にユーランとアルメラの閑話を投稿して第四章を書いていきたいと思います。
閑話に関しては…今日中に投稿できるかどうかわかりませんのでご了承を…




