姫騎士チルVS聖剣騎士アル
「本気で…」
「やる…!」
千棘は超スローモーションの世界に意識を落として、初めて普通の速度で動くように見えるアルの姿に驚愕していた。
開始直後に両手剣を中段に構えていたのを横に倒し、引っ張るように前傾姿勢で一気に距離を詰めてくる。
それを迎え撃つように千棘は開始直後に力を貯めていた脚を開放してアル以上の速さで瞬発し、超スローモーションの世界でも一瞬と思える時間で距離を詰め引き絞っていた右腕を開放して神速の突きを相手の腹目がけて放つ。
アルはその突きこまれた金色に輝く剣を斬り払うようにして横から振り抜いて両者の剣がぶつかる。
普通であれば金属と金属のぶつかった独特な甲高い音がするはずなのに、会場に届いたのはステージが爆発でもしたのかと思える程の轟音とすさまじい衝撃波だった。
その衝撃波で頭に被り物をしていた人は吹き飛ばされ、手元に何か持っていたものはそれが吹き飛ばされないように身体を折って衝撃に耐える。
その音と衝撃の発生源である二人は一合切り結ぶとお互いの体が中央から25m程あるステージの端まで吹き飛び、両者ともステージに剣を突き刺し勢いを殺して場外を防ぐ。
その一瞬の出来事に観客は声を失い、何が起こっているのか必死で理解しようとするが頭が理解してくれない。
ステージの端でゆっくりと立ち上がった二人はお互い二、三歩歩いたと思ったらまた姿が消え、次の瞬間にはまた中央で凄まじい轟音と衝撃波を生み出しながら斬り結んでいた。
たった二合打ち合っただけだが、会場に悲鳴が響き、大会スタッフが慌てて魔法使いに「魔法障壁を全力で展開して観客を守れ!!」と怒号を響かせて会場の魔法障壁を限界まで強化していく。
限界まで強度を高めた障壁は三合目の斬り結びで生み出された衝撃波を観客席に届かせなかったが、ギャリギャリと音を立てていつ壊れてもおかしくない不安感を植え付けていた。
だが、障壁が張られ『一旦』大丈夫な事を確認できた観客は声を出さずにその試合の光景を見つめていた…。
■
千棘はアルと三合目を打ち合った後、またお互いの攻撃で生み出された衝撃で二人ともステージ端ぎりぎりに剣を突き刺して場外を防いでいた。
(こっちだって全力出してるのに…ついて来るどころか互角…?千棘の身体なのに互角…?こんなの同じプレイヤーかアルメラしか考えられない…!あのフルフェイス吹き飛ばして顔を見てやる!!)
口には出さず自分の心内だけで毒づくとその場でゆっくり立ち上がり、一合目と同じ構えを取る…。
(ありえない…何このチルって人…私の全力と同じ威力の攻撃…しかも速さに関しては私より若干速い…軽鎧とドレスの重さの違い…?プレイヤーなのは確実…元より負けるつもりはないけどこっちは最強ギルドの【Daphne】の看板を背負っている…絶対に勝つ!!)
アルも相手が自分と同じ存在だとわかり、どこの誰でも《SL》で最強と呼ばれたギルドのメンバーである誇りに賭けて絶対に負けるわけにはいかないと意気込み、ゆっくりと立ち上がって両手剣を腰の横、引っ張るような形で構える。
その状態でたっぷり10秒ほど両者が構えて先にアルメラが動き出す。
(まずは撹乱…!)
先程は直線的に突っ込んできたが千棘の視線を振って捕らえ辛くする為、左右に動いて千棘との距離を詰めていく。
(振って来たな…なら合わせる!)
対する千棘もその動きを見て相手の思惑を感じ取ったのか、アルが左に動けば千棘は右にと常に真正面に捕らえるよう逆に動きながら距離を詰めていく。
(仕留める!!)
お互いの距離が0になった瞬間、千棘は右斜め下から掬い上げるような斬り上げ、アルは右斜め上から振り下ろしで二人の剣が四合目を迎える。
(ぐっ!?さっきより数段重い…!なら流すっ!!)
千棘はアルの超威力の剣に力で対抗するのではなく受け流し、アルに押された力を利用し軽くステージから両足を浮かせてその場で回転し、アルの右肩を狙った五撃目を繰り出す。
「ぐっ!?」
その五撃目に反応出来ず、肩で千棘の剣を食らったアルは軽鎧とは思えない頑丈さに助けられ、ステージの端まで吹き飛ばされるが剣を突き刺し、ステージを割り砕きながら止まる。
千棘はそこから一気の距離を詰めるわけではなく、逆に同じようにステージ端まで瞬発し、四つ目の武器を手に持つ。
千棘の四つ目は千棘の身長1.5倍程の長さの長弓だった。
その弓は全体的に真っ白で弦をかける末弭、本弭と呼ばれる部分は天使の羽のようなモチーフになっており、弓を手に持つ弓柄部分にも天使の羽のようなモチーフが施されて、その弦は金色の糸という天使が持っている様な巨大な弓。
それをインベントリから出した真っ白な水晶で出来た矢を番え、弓がギシギシと軋む音を聞きながら限界まで引き、ステージで左肩を押さえて立ち上がろうとしているアルを見据え弓を放つ。
「当たれ!!」
放った瞬間、一合目の時と同じような轟音と衝撃波が魔法障壁を揺らし、矢は一直線にアルへ飛ぶ。
(速い…感!!!)
そんな弓から放たれた矢は明らかに視認できる速度ではなかったが、立ち上がったアルはピンクゴールドの両手剣でその矢を斬り捨てる。
(チャンス!!)
「近づかせない!!」
矢と両手剣が当たった瞬間パキィン!と硬質な音を立てて水晶の矢が砕け、それと同時に声も発さずに距離を詰めてくるアルを見ながら弓から鞭へ持ち替え、神速の速さで振るって近づけないようにする。
「くっ…流石にこの速さは捌けない…!」
一振り一振りが音速を超えている為、鞭を振るい始めてから絶え間なくパパパパパパパパン!!と空気が破裂する音がしてアルもたまらず足を止め、鞭が伸びても躱せる間合いギリギリで千棘の動きを見る。
千棘はステージ端からゆっくりと神速の鞭を振るいながらステージの真ん中まで移動し、再びアルと対峙する。
「これで仕切り直し…ですね?」
「……」
「…?」
しばらく両者がにらみ合った所でアルメラが構えを少し構えを解いたのを見て、千棘も鞭を振るうのをやめるとアルが千棘に質問を投げかける…。
「チル…あなたは何者なの?私の全力の攻撃を受け止めただけじゃなく私に一撃入れた。この鎧じゃなかったらきっと私は大怪我していた。あなたは…私と同じ…《プレイヤー》なの…?」
アルメラは少しだけ声を震わせながら目の前にいるチルと呼ばれている人物が何者なのか問いかける。
すると千棘は…
「ここは戦いの場。聞きたい事があるなら戦って勝ち取るのよ。私はアルとの戦いを全力で楽しみたい…そんなに声を震わせて!縋るように!答えを求めるなら!何も考えないで!今だけを考えて!!私と戦いなさい!!」
「っ…」
発破をかけ、鞭を軽く振るって無抵抗のアルのフルフェイスを弾き飛ばし…フルフェイスに守られていた美しい素顔が観客に晒される…。
その素顔は《SL》で見た時と何も変わっておらず、お尻まで真っすぐ伸びる美しいピンクブロンドの髪、海を思い浮かべるような綺麗な青の瞳。
凛とした素敵な女性の頭には特徴的なアモン角が二つある。
軽鎧の中に隠しているがきっと長く綺麗なピンク色の尻尾があるはず。
いつもはクールな彼女の目には薄っすらと涙が溜まっており、アルメラはこのままでは【Daphne】のメンバーである私が負けて【Daphne】の名前を穢してしまうと弱気になっていた。
(やっぱりアルメラだった…どうせアルメラの事だから私が負けたら【Daphne】がとか思ってるんだろうな…でもなアルメラ…もう既に【Daphne】のアエリアは白い兎の友達に一回負けてるんだ…)
そんな事を思いながらアルメラに鞭から金色の片手剣に持ち替えて切っ先を向け、アルメラがきっと喜ぶような言葉を言ってあげる…。
「アルメラ、【Daphne】のギルドマスターとして命令します。全力で戦いなさい!!」
「っ!?!?」
観客にはギリギリ聞こえないであろう声量でアルメラに伝える。
その命令を聞いたアルメラは先程の悲しそうな顔から一変し、驚いた顔をしたがすぐ意志の籠った青い瞳を鋭くして怒声を響かせた。
「私達を騙した事……試合が終わった後にぜっっっっっっったい!!!!後悔させてやる!!!!」
「っ!?ぐぅっ!?」
怒り任せの突進、怒り任せの剣撃は先程とは比べ物にならない速度と威力を生み出し、流石の千棘も全身から冷や汗を吹き出しながら全力で捌いていく。
(そ、そうだよねええええ!めちゃくちゃ怒るよねえええ…!?ううううう!!フェイナ…!!!やっぱりこの作戦は最初っから!間違ってたあああ!!)
内心、弱音を吐きながら怒りに身を任せた全力のアルメラと千棘は全力で戦い続ける…。
■
「…ねぇウェイナ?どこいこうとしてるの?」
「えっと…ウェイナちゃん的に命の危険を感じたからそろそろ退散しようかと…」
「ダメですよウェイナ!!こんなに素敵な…姫騎士と聖剣使いの騎士の戦いを見ないなんて!!ほら座ってください!!」
「ううう…三人ともほんとごめん…」
フェイナはステージにいる千棘、アルメラ、ユーランに必死に謝っていた…。
■
(くっそ…!!アルメラの攻撃は本当に重すぎる…!!千棘の身体なのにだんだん手が痺れてきた…!)
アルメラの怒り任せの剣をずっと片手剣で受けては斬り返し、怒涛の攻防戦を繰り広げていた千棘が、腕の痺れによってたまらず距離を開いて仕切り直す為に力任せの一撃でアルメラの剣を迎え撃ち、お互いの衝撃で距離を無理やり開かせる。
二人はステージ端まで吹っ飛ぶことはなかったが、ステージ上をゴロゴロと転がりながら止まり、立ち上がって千棘は手を振って痺れを取る。
アルメラはずっと下を向いており、千棘の事は見ていなかったが隙が一切なかった。
(試合が終わったらアルメラをどうやって宥めるか…やっと手の痺れが…?)
ずっと下を向いたアルメラがいきなり千棘を見て一言呟く。
「少しは痛い思い…してもらうからね?」
と呟いたアルメラは両手剣をステージに突き刺し、柄頭に両手を当てて深く集中し始めた。
「…え?」
するとピンクゴールドの両手剣から火の粉がチリッ…チリッ…と現れ、次の瞬間全てを燃やし尽くさんとうねりを上げて巨大な炎が両手剣から吹き荒れた。
「…ええええ!?あ、アル!?魔法なんて使えなかったよね!?もしかしてランの特殊能力をここで使うのか!?!?」
「何言ってるの…?これは私がここで練習した魔法のエンチャント。あっちでは魔法使えなかったけど、こっちで頑張ればこれぐらい出来るようになる。覚悟はいい?チル…」
アルメラがチル対策として両手剣に通しやすくしていたのは魔力。
アルメラは《SL》では魔法のスキルを取っていなかったが、こっちでなら使えるかもと練習したがどうしても初級魔法までしか使えなかった。
だが、武器に属性を付与するエンチャント魔法なら問題なく使える事を確認して自身の魔力で両手剣に炎の属性を付与し、炎が高温である事を証明するようにアルメラの周りは熱気で後ろの観客席が歪んで見える程の熱を発していた。
エンチャントを施した本人はその影響を受けない事をいい事にどんどん魔力をつぎ込み、ピンクゴールドの両手剣が真っ赤に赤熱する。
それを見たユーランも驚いたように声を荒げる。
「ちょっと!!アル!!!そんなに魔力込めたら武器が壊れちまう!!抑えろ!!」
「ラン…私達を騙したあの子に今からお灸を据えるから待ってて」
「あ、アル!?何言ってんだ!?騙したってどういうことだ!?」
「さっきのが聞こえてなかったなら後で教えてあげるから待ってて」
「ちょ!アル!?」
ユーランの静止も虚しく、アルメラは両手剣の限界まで魔力を込めてステージから両手剣を抜き放ち、千棘に切っ先を向ける。
「覚悟はいい?」
ステージに刺さっていた部分は溶解しており、赤黒く蠢いているのを見て千棘は喉を鳴らす。
「あれは流石にまずい…!!!」
明らかにヤバい状況…食らったら痛い思いどころじゃ済まないと思った千棘は、見様見真似で金色の片手剣に魔力を流すと段々発光していき、聖剣と言われても不思議ではない輝きを放ち始めた。
そして頑張って海を思い浮かべ、海の水を剣の周りに纏わせるようにイメージしてなんとかその場限りの疑似エンチャントをして片手剣の切っ先をアルメラに向けるが、不安定で今にもただの金色の片手剣に戻ってしまいそうになるのを魔力を全力で注いで留める。
「これ…!凄く難しい…!!!」
「ぜっっっったいに!私達が許すまでこき使ってやる!!」
「あ、アル!お手柔らかにお願いします!」
声を掛け合うとお互いの距離が0になるよう瞬発し、炎の両手剣と水の片手剣が刃を交えた瞬間、水蒸気爆発が発生して厳重に張っていた魔法障壁を今度こそぶち破り、爆発の衝撃が会場を襲った。
ステージは白い水蒸気でどうなっているかわからず、観客達は衝撃を堪えながらその水蒸気が晴れるのをしばらく待ち続ける…が、全然晴れない水蒸気にしびれを切らした大会スタッフが「風魔法で煙を飛ばせ!」と指示し、ステージの状況がようやく確認できた。
ステージは辛うじて原型を留めていたが殆ど壊滅状態で、所々ステージの石畳ではなく下の地面が見え、抉れている場所が何ヵ所もあった。
だが二人の姿はステージ上のどこにも見えず、観客達がステージを見渡して二人を探すと衝撃で吹き飛ばされた二人が壁にめり込んでいるのを見つけた。
「ほんっと…ムカつく…」
「ごめんよ…アルメラ…ユーラン…」
その後、二人ともめり込んだ壁から抜け出してフラフラな足取りでゆっくりステージに戻っていくが…アルメラが先にやり切った晴れやかな顔で倒れ込み、頑張ってステージに上った千棘はそんなアルメラを見てにっこり笑い、顔から壊滅状態のステージに倒れ込んで武具大会決勝戦は幕を閉じた…。
■
試合が終わった直後、観客席にいた人は誰も声を一言も発さずに必死に戦った二人の騎士に惜しみない拍手と感動の涙を送った。
観客席では今回の決勝戦は歴史に残る試合だと囃し立て、見る者全てを魅了し、感動させる試合だったと語り継がれることになる。
物語から出てきたような姫は神の剣を持ち、それを共にする騎士は聖なる剣を携え、困難な道を二人で歩み、役目を終えた二人は力を必要としない平和な世界に私達は必要ないとそれぞれを殺してお互いの人生に幕を閉じた…。
なんていう物語も出来上がってしまう程にこの大会を見に来た人達の心に刻みつける一試合だったと。
そんな試合の後、大会スタッフは全員今回の試合結果をどうするのかと揉めに揉めていた。
「決定的な瞬間は見えなかったが両者はステージ外に出た。本来であればそれで場外負けだが…どっちが先に場外に出たかなんてあの状況じゃわからない…」
「でも最後、両選手はステージに戻ろうとしてアル選手は途中で倒れ、チル選手はステージに上がってアル選手が倒れてるのを確認してステージで倒れた。ならここはチル選手を優勝とするのがいいんじゃないか?」
「いやでも…」
「いやしかし…」
そんな議論をずっと繰り返し、結論が出たのは次の日の朝だった。
ずっと観客を待たせるわけにもいかず、事情をアナウンスで知らせ一度解散した後、首都ハルシオンの首都放送で結果を伝えるという流れになった。
そんな対応に観客達は嫌な声を一言も出さずに、あんな素晴らしい戦いをした二人に優劣をつけなくてもいいという感じの晴れやかな気持ちで会場を後にしていった…。
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「わ…私…今回の…試合見に来れて…本当に良かったです…感動しました…」
「うん…私も自然と涙が出てきちゃった…なんか悲しい物語を見た気分なんだけど凄い感動しちゃった…」
「ウェイナちゃん的にこの後が怖すぎて涙が出ちゃいそうだよ…」
ぽろぽろと涙を流しているシエルとユリスの背を優しく撫でながらこの後の事を考えて泣きそうになっているフェイナが二人を連れて会場を後にした…。




