姫騎士と聖剣騎士
本日一話目、いつもより少しだけ短いです。
この後すぐ書き始めるのでよかったら楽しみにしていてください。
チルこと千棘は第一試合から第三試合まで鞭と大鎌だけで戦い抜き、残りの武器二本を披露する事なく決勝まで駒を進め、ランことユーランも同じように片手剣を使うアルという相棒が第一試合から第三試合まで同じような試合運びで決勝まで勝ち進めていた。
まさかの優勝候補1、2位を苦も無く下し、決勝に勝ち進んだエルノ・シエル工房の名前が会場にいる観客達の口から途切れることなく聞こえており、無名の工房初出場で優勝か!?と興奮したように議論しあっていた。
広場でベルファスト工房の1,2位に賭けていた人達は落胆しながらもエルノ・シエル工房を称え、エルノ・シエル工房に賭けていた人達は優勝間近という事実に興奮を隠しきれず、隣の観客に話しかけたりと会場から人の声は消える事はなかった。
今は決勝戦を始める為にステージの再調整や、会場にいる莫大な人数が食事休憩をしている時間で千棘達は控室で食事を取っていた。
「第一試合から第三試合までちーちゃんも金欠幼女のとこも同じ戦い方、まぁ金欠幼女達がちーちゃんの事を見破ってる可能性はほぼゼロだね」
「うん、まだ武器二つ出してないから決勝で使う予定だし、残り二つは…まぁ楽しみにしといてよ」
「残り二つも凶悪な武器だったりしない…?」
「まだカッコいい武器が二つもあるんですか!?」
「そーだよ!だから応援よろしくね!」
「はい!」
「シエルちゃんはすっごい素直だなー…」
「うん…シエルは素直でとってもいい子だね…」
どうしてもシエルと千棘が一緒になると気疲れしてしまうフェイナとユリスだった…。
■
ベルファスト工房のユーランとアルも同じく、アルの控室で食事を取りつつチルの戦い方を思い返していた。
「あんなトリッキーな武器扱うのは相当な技量の持ち主だぞ?アル大丈夫か?」
「流石に得物が変われば当然動きが変わる。対応出来なければ後手になると思う」
「だよなー…大鎌を振り抜いてたらいきなり鞭になって距離を武器の間合いで埋めたりする変則的な戦い方だし…」
「でも大丈夫、私も本気でやる」
「殺しちゃダメだぞ?」
「だから私は白黒シスターほど凶暴じゃない」
「ならいいけどよー…」
「そういえば、最終調整で加えたあれ、通しやすくしてくれた?」
「ああ、しといたぞ!あたいにかかれば朝飯前だぜ!」
「そう、ありがとラン」
■
『会場の皆様!大変長らくお待たせいたしました!!カルフィード共和国主催の年に一度の鍛冶師の祭典!武具大会決勝戦が始まります!!!!』
食事を取り、体力が回復した観客はこれまで以上の声援で大会を盛り上げる手伝いをしていた。
『まずは優勝を決めるべく、ステージに上がる両工房を紹介します!!まず東ゲートからステージに上がるのは首都ハルシオンでは知らない者なしの超有名工房!!ベルファスト工房!!!代表者ラン!!選手アル!!』
名前を呼ばれたベルファスト工房は二人でステージに向かい、赤髪のドワーフの女の子が姿を現すとあんな可愛い女の子がアルの武器を作っていた事に会場中が驚きの声を上げる。
身長120㎝ほどの体躯からは考えられない程大きいハンマーを肩に担いでアルの隣に並びながら、相手がステージに上がってくるのを二人で待ち構える。
『続きまして西ゲートからステージに上がるのはエルラシア王国から参戦した出場回数0、今まで名前を聞いた事がない新進気鋭!!我らが誇る有名工房を負かすのはこの工房か!?!?挑戦者!!エルノ・シエル工房!!代表者ウル!!選手チル!!』
名前を呼ばれた千棘もゆっくりとステージに上がり、ベルファスト工房の時と同じぐらいの声援を受けながらステージ上の二人の元へ向かう。
エルノ・シエル工房の代表者コルの姿が見えないという声も聞こえたが、大会自体には一切顔を見せない鍛冶師もいるので特に問題はなかった。
「おう!お前がチルか!お前かなりつえーな!しかもあの大鎌と鞭!すんげーいい武器だな!!この場に作ったウルってやつがいないのが残念だけどよ、それでも勝つのはあたいらだぜ!!」
「あなたがランね、ずっとあなたを探していたの。だから試合が終わったら絶対に時間を取ってもらうわ」
「は?探してた?何のことだ?もしかして勧誘か?」
ユーランは勧誘されているのか?と頭を傾げていたがその問いに答えず千棘が手を差し出すとユーランも手を差し出してしっかり握手し、ユーランはステージの外に向かって歩いていく。
「あなたがチル…予選の決勝とこれまでの戦い、全部見させてもらった」
「アル、私もずっとあなたの戦いを見てましたよ。…今までと同じで手を隠して様子見なんてしてたら一瞬で決着をつけてあげるから」
「…それはこっちのセリフ。チルも出し惜しみなんてしないで最初から全力で来て。本気で戦いたいから」
それ以上はお互い言葉を交わさずにお互い手を差し出し握手をしてステージの真ん中から開始位置まで移動する。
決勝のステージは50m×50m程の大きさで明らかに場外での試合終了を嫌ったステージの作りとなっていた。
今までのステージはこの決勝ステージの半分25m×25mの大きさなのでその目的は一目瞭然となる。
更に試合を全て余すところなく見せる為、空中にも映像を移す魔道具が無数に配置されており、ステージ上は事実上死角なし。
千棘とアルの姿を大きく映している魔道具を発見したので観客アピールとして今まで千棘がつけていた仮面に手をかけると会場がまさか!?と驚愕の声を上げ始めた。
その声が最高潮に高まった瞬間、千棘は仮面をインベントリにしまい、素顔を晒す。
晒された素顔は誰がどう見ても可愛らしい女の子そのもので、男性の観客が自身に彼女や奥さんがいても関係ないといった様子で、一際野太い歓声が円形の観客席全方位から上がった。
天使スマイルを魔道具に映しながら演出として、手を顔の前で合わせてそのまま手を放す。
するとその手の中から金色に輝く両刃の片手剣が現れ、会場が沸き、その声援に答えるように軽く回して武器をアピールする。
見た目は華奢な片手剣だが、見た目以上に重量があり、軽く振っただけでもフォン…フォン…と重く空気を斬る音が聞こえる。
そしてアピールの締めとして剣を軽く上に放り投げてその場でカーテシーを行い、剣を掴むと同時にステージに突き刺す。
その姿はさながら…何かの物語から出てきたと言われても違和感が全くない姫騎士の如き姿。
「さぁ、アル。あなたの番ですよ?」
そのアピールを見て今まで大鎌と鞭でしか戦わなかった千棘が別の武器を出した事も相まって観客は沸き続ける。
ステージの外ではユーランが「アル!!お前もチルに負けるな!!アピールしろ!!もっと目立つんだー!!」と叫んでおり、フルフェイスで覆われた頭だけが下に傾いた…多分「全く…」といった心境なのだろう…。
「はぁ…」
そしてアルも自分の姿が映っている魔道具に向けて千棘と同じように手を合わせて、その手を離すと手の間からかなり大きいピンクゴールドに輝く両手剣が現れ、同じよう軽く回転させながら振ると見た目の重さに比例して重い空気を斬る音がする。
回転を止め、剣を上に掲げると日の光で光り輝き聖剣のような見た目もあり、千棘が姫騎士であればアルはさながらその姫と共に戦う聖剣使いの騎士の如き姿だった。
「これでどう?」
「…アピール合戦はアルの勝ちですね」
会場は千棘がアピールした時以上の声を上げ、このアピール合戦はアルの勝利という事で幕を閉じた。
『両者、物語から現れたと思わせるような素晴らしいパフォーマンス!!!このパフォーマンスに会場の皆さんは試合はまだかと待ちきれない様子です!!!両工房選手!!準備はよろしいでしょうか!!!』
その声でアルは掲げていた剣をゆっくりと中段に構え、千棘は以前一度だけフェルス村に住んでいる元Sランク冒険者エリオに見せた技と同じように左手を床に付けてクラウチングスタートの様な体勢を取る。
「本気で…」
「やる…!」
右手の片手剣は限界まで後ろに引き絞り、刃が顔の横に来るよう深く…この世界に来てから初めて超スローモーションの世界に意識が落ちていく…。
そして――――
『武具大会決勝戦、試合開始!!!』
――――武具大会決勝戦の火蓋が切って落とされた。




