黒猫と白兎と公爵の不安
『ユリス、こっちは終わったんだけど誰も逃げ出さなかった?』
『チヅル、こっちも誰も逃げる所は見なかったよ』
『了解、軽く地下の様子を見たんだけど、ユリスの考えた通りに魔道具での転移をして王都にいきなり現れるつもりだったみたい』
『なるほどね…意外と感が冴えわたった!』
『一旦ここにいる私兵と屋敷にいる侯爵を王都の拠点の地下に閉じ込めたりするからユリスも地下で合流してくれ』
『了解!』
…
「さてと、ウェイナ大丈夫だった?」
「もち!ちーちゃん来てくれるって信じてたからね!」
「期待に応えられてよかったよ。えっと、そっちの3人はこの前話してたウェイナを助けてくれた人達かな?」
「うん!帝国の貴族からの直接依頼でここに来るように指示されたらしくて…えっとパーティーリーダーのペイン、魔法使いのイーナ、近接のシャンだよ」
「そっか…なるほどね。ペインさん、イーナさん、シャンさん、ウェイナをティクスまで連れて行ってくれた事、本当にありがとうございます」
そう伝え、千棘はまだまだ落ち切っていない血まみれの状態で3人に頭を下げる。
少々面喰いながらも3人も挨拶を返してくれ、どういった経緯で依頼を受ける事になったのか等の詳細を聞き、一旦ティクスの宿で休むように伝えるが「俺達もAランクパーティーだから何か手伝う!」と意気込んでいた。
その気持ちに感謝を伝えてやんわり手伝いを辞退して宿に移動してもらい、事が終わり次第話そうと伝えて地下を脱出してもらった。
するとフェイナが、
「ちーちゃん…ごめんね?勝手に戦闘始めちゃって…予定狂っちゃったよね…」
と少し涙目で今回戦闘を始めてしまった事を謝罪してきた。
「フェイナ、大丈夫だよ。確かに少しだけ忙しくなったけど、それでもやる事は変わらない。早いか遅いかの違いしかないから気にしないで。それにあの人達を助けたいってフェイナの気持ち、ちゃんとわかってるからさ。だって僕らの盾役だよ?守って当たり前なんだからさ!」
頑張って背伸びして項垂れたフェイナの頭を撫でてあげる。
すると涙を拭いてそのまま膝立ちになったフェイナの顔は泣き顔ではなく笑顔になった。
「うん!ちーちゃんありがと!よーし!早く残りも片付けないとね!」
意気込んでいると吹き飛ばした扉の方から白いうさ耳を持った人物が現れた。
「チヅル、ウェイナさん、お待たせ!さっき上で3人冒険者と鉢合わせしたけどチヅルさんとウェイナさんの知り合いって言うから通したけど大丈夫?」
「ユリス、問題ないよ。ウェイナがその3人を守る為に戦闘が始まったんだけど、ほらこの通り!」
ユリスはその言葉を聞き辺りを見渡すが千棘の笑顔の先は想像もつかないような血みどろで、絶対に誰か死んでいると思ったが死人は不思議といなかった。
「あー…うん…すごいね…チヅル…ってこれで終わりってわけじゃないんでしょ?」
「うん、まずはリアにここにいるやつらと屋敷のやつらを王都の拠点に転移させてもらって、ここに設置されている転移の魔道具を起動して、どこに転移するかを確認して各領地から今回加担している貴族の私兵がどこに現れるか予想してそこで撃退する。後はいつのタイミングで動き始めるかなんだけど…」
「あ、チヅル。それならこの資料に書いてあったよ?一応14時に各決められた場所に転移開始して、制圧するって」
「14時か…まだ一時間以上あるな。わかった、とりあえずリアを連れてきて転移するからウェイナとユリスはここで意識がありそうなやつの目と耳を塞いでおいて欲しい。僕はリアと合流して屋敷の奴らを転移させたら戻ってくるから、そしたら一緒に一旦王都に戻ってノエルの場所にいこう」
「了解!」
「おっけー!」
二人の了承をもらった千棘は地下から地上へ出る階段に向かい、誰も見ていない事を確認した後、アエリアの姿になる。
そしていつもの改造シスター服に黒のマスクを着けてフェルミット侯爵達が拘束されている部屋に転移して全員いる事を確認し、千棘が開け放った窓を閉め、まだ眠っている7人を王都の拠点地下へ転移させる。
閉じ込めている間に後から連れてきた冒険者の逆恨みなどで殺されないよう、7人は別の部屋に隔離して、フェイナとユリスの待つ図書館の地下へ転移する。
「あ!ちーちゃん!」
とアエリアを見つけた途端、鎧のまま飛び込んできたフェイナを抱き止めるが鎧の固さと重さ、衝撃で体勢が崩れて床に倒れた。
「うぐぅ!!い…痛ったいわね!!それに私はリアよ!というか早くどいてちょうだい!鎧が固くて重くて痛いし!!」
「あ、忘れてた、ごめんね?ちーちゃん」
「だから…まぁいいわ、ウェイナ、ユリスどう?終わったかしら?」
「うん!ユリスちゃんと一緒にやっといたよ!」
「ふぇ…この撫でテク…リアさんとおな…って!ウェイナさん!いきなり頭撫でないで!…とりあえずリアの指示通りに目と耳、ついでに口も塞いでおいたよ」
「ありがとう二人とも。じゃあ…聖域…ヒール」
地下全体に聖域を発動させ、ヒールで死なない程度に傷を治して全員を1ヶ所にまとめて転移させる。
そしてアエリアとフェイナ、ユリスも一緒に王都へ転移してノエルの場所に移動しながら風魔法でアエリア達の声が聞こえないようにし、どこにいるかイヤリングでノエルに確認する。
『ノエル?リアよ。聞こえるかしら?今、ノエルの所に向かっているのだけれど何処にいるかしら?』
『リア?今、王城でもう一回兵を配置させる為の話し合いをするのに待機しているわ。後、10分後ぐらいに始まるわ』
『わかった、なら私もその会議に乗り込むわ』
『…リア!?そんな事、出来るわけないじゃない!王を交えた話し合いに…』
『こんな事を言って申し訳ないのだけれど、もうノエルの発言だけでどうこう出来る段階じゃないと思うのよ。別にノエルの手腕を疑ってるわけじゃないわ。相手が結託しすぎて大きくなりすぎたのよ。権力には権力、数には数、最初から不利な状況で戦わせていたのだから何も不満はないわ。だから私達が集めた証拠を持ってクーデターの情報を匿名でノエルに流していた事にして、その匿名は私でした、証拠はこれ、そして今回クーデターを企てた侯爵の身柄も既に確保しているっていう状況を作り上げてどうやってでも動かすわ』
『……リア…申し訳ありません、力不足で…』
『何言ってるのよ?唯一個人で持てる最大の公爵っていう力を持ってるのにそんな弱気にならないでちょうだい。個人では最大でも、相手が何十、何万となったら一人じゃ無理だわ。だからノエル、今から私とウェイナ、ユリスの三人で王城に向かうから迎えに来てちょうだい』
『わかりました、すぐ迎えにいきますわ』
『無理言うわね、ありがとうノエル』
そう伝えて通信を切り、風魔法で周りに声が聞こえないよう遮断し続けながら、
「フェイナ、ユリス、そういう事だから王様と話し合いよ!」
「おー!リアル王様だー!」
「ええええええ!?ちょ!リア!?!?何でそんな事になったの!?」
「ユリス、今の話聞いていたでしょ?もうノエル個人で相手に出来ないぐらい他の貴族が力を合わせているのよ。だから有無を言わさずに証拠を突き付けてケツ蹴ってでも動かしてやるわ」
「で、でも…その証拠をノエルに渡したほうが…」
「何言ってんのよ。今から乗り込む場所には、ノエルの味方は誰もいない、良くて中立、ほぼ敵だらけの所なのよ?そんな所に敵の重要な証拠を持って一人で突撃したら確実に殺されるわ。今はまだ、『そんな根も葉もない噂程度』でってはぐらかしていかもしれないけれど、証拠が出たら中立も国王もノエルに傾くわ。それにユリスの守りは私達が信頼している『難攻不落』のフェイナよ?万が一にもユリスが死ぬことなんてないわ」
「そーだよーユリスちゃん!私が死ぬまでユリスは死なないから安心して!!」
「え、やだ…何この安心感…」
「でしょ?ユリス、これがダフネの十英傑のフェイナよ」
そう三人で笑いながら話して女三人寄れば姦しいというが、魔法でアエリア達の声は周りの人に聞こえなくなっているので街の人々は、無言で身振り手振りで会話しているアエリア達を見て首をかしげながら日々の生活に戻っていく…。
■
「止まれ!ここはエルラシア王国、国王のおられる王城だ!誰も入る事は出来ない!すぐに引き返せ!」
「ああ、待ち合わせなのよ。悪いけれどここで待たせてもらうわよ?」
「待ち合わせなら他所でやれ!早く立ち退かなければ力づくで『あなた達お止めなさい!』…!」
門番達とアエリア達のやり取りに凛とし、透き通った声が届いた。
門番達はその声の主を探し、一人の女性と護衛を見て顔を青くしながら膝をつき頭を垂れる。
その動作を真似てアエリア達も門番達と同じ姿勢を取り、頭は下げずに声の主を見つめる。
「お待たせ致しました、ノエル・マクナス公爵様。私達、リア、ウェイナ、ユリス三名ともここに」
「リア、ウェイナ、ユリス。よく来てくれました。あなた達、この三名は私、ノエル・マクナスの名において身分を証明致します。何か問題はありますか?」
「はっ!!何も問題ございません!皆様申し訳ございません、役職の責務故の行動お許しください!」
「いえ、あなた方のおかげで王都の平和は守られております。こちらからは感謝しかございません。ノエル・マクナス公爵様、身分の保証、重ねてここまで来てくださった事に感謝を」
そう言い、初めてここでアエリア達も頭を下げる。
「要件は歩きながら伝えます、リア、ウェイナ、ユリス、私についてきて頂戴」
「「「はっ」」」」
三人とも応じ、王城に入っていくノエルについて行き門番達にも軽く頭を下げる。
■
「という内容で行こうと思うのだけれど、ノエル、ウェイナ、ユリス、何か質問等はあるかしら?」
「いえ、リア。よく短い時間でここまで考えて頂きました。私は特に問題ありません」
「うん、ユリスとノエルを守ればいいだけだし、特に私も問題ないよちーちゃん!」
「私も大丈夫!というか王様は守らなくていいの?」
「王様の護衛なんてこの国の最高峰のはずよ。特に心配いらないわ。それに手荒になるけれど、私が突入したらノエルと王様と王様のお付きっぽい人以外動きを止めちゃうから一応警戒だけはしておいて欲しいわ。それとノエル、国王様の名前を教えてくれるかしら?」
「王の名前も知らなかったのですね…ええ、エルラシア王国14代目国王、エドワード・フォン・シャルマイア・エルラシア陛下ですわ。王妃様はセシリア・フォン・シャルマイア・エルラシア王妃様です。今回、王女様は同席されるかわかりませんが、王女様はマリア・フォン・シャルマイア・エルラシア王女殿下ですわ」
「…ん…も、もう一度いいかしら?」
「国王様はエドワード・フォン・シャルマイア・エルラシア陛下。王妃様はセシリア・フォン・シャルマイア・エルラシア王妃様。王女様は第一王女マリア・フォン・シャルマイア・エルラシア殿下です」
「エドワード陛下…セシリア王妃…マリア殿下…フォン・しゃるみゃ…」
「ちーちゃん噛んだ」
「…噛みましたね」
「リア噛んだ…」
「う、うるさいわね!!言いにくいのだから仕方ないでしょう!まったく…シャル…マイア…シャルマイア…しゃるみゃ…」
「「「……」」」
会議が始まる2分前、アエリアを除くこの場にいるみんな本番では噛まないでくれと祈るのだった…。
■
「…ノエル・マクナス。お前はまだ我が国の貴族達が王位簒奪を狙っていると申すか?」
会議室とは言えない程、大きなホールに大きな丸いテーブル、そのテーブルを囲むように着飾った人達…低く威厳のある声が言葉の重さを乗せてホールに響かせるとノエルへ視線が集まる。
「はい、エドワード・フォン・シャルマイア・エルラシア陛下。私は事前にフェルミット侯爵家の不審な動きを察知し、エルラシア王国に牙を剥こうとしているのを確認致しました。合わせて報告いたします。更に調査をした所、隣国…シドフィア帝国の関与が確認されました。関与したのはアルマート公爵という事も確認出来ております」
そう、今までの会議では他国の関与があるという話は一切出てこなかったが、今回の会議ではいきなり他国の関与があり、更にはその関与をしているであろう貴族まで探り当てたノエルは国王と王妃には半信半疑の目を向けられ、中立の貴族は信じられないという視線を向けられ、敵対する貴族は何故その事を!というような視線を向けながら言葉にはせずにじっくりと睨みつける。
「それは本当なのか?ノエル・マクナス。…だがお前は会議の場ではいつもその情報を提供した者を隠しているではないか。流石にすぐ信じられるわけがなかろう…今回もその者の素性は隠すのか?これ以上隠し立てするのであれば不忠での罪に問われる可能性もあるとお前ならわかるであろう?」
「仰る通りです。情報を提供して頂いてる者との契約があります故、私からその者の素性をお話する事は出来かねます。私への罰は如何様にも受ける所存であります…」
「「……」」
国王と王妃様もノエルの変わらない意志の固さにどうしたものかと小さくため息を吐きこめかみに指を当てて揉む。
そのしぐさを見た反対派の貴族達はここぞとばかりに声を上げる。
「エドワード陛下、王族の方々への情報の隠蔽、更には王都が危険であると嘘の情報を流し、でたらめにこの場をかき乱しているこの者を罰するしかないと考えております」
「私も同じ考えでございます。この者は自分の爵位にふんぞり返り、我々を陥れようとしているに違いありません。エドワード陛下、どうかご決断を」
ノエルは敵対貴族達の王への言葉を聞きながらも表情を崩さず、凛とした態度で国王と王妃の方を向いている。
そしてノエルはこの場熱が最高潮に達した最高のタイミングでイヤリングを弾く。
弾いた瞬間、会議室の扉が勢いよく開け放たれ扉が大きな音を立てながら3人の入室を演出する。
「突然この場に現れ申し訳ございません。私はBランク冒険者のリアと申します。私の傍にいるのは同じBランク冒険者のウェイナとユリスと申します」
その声を聞いた者達は凛として誰にも媚びないような力強い声を聞きて三人へ視線を向け、三人は入口から国王達が着いている丸テーブルに近づき、ほどいい距離で足を止めて膝をついて頭を垂れる。
突然乱入したBランク冒険者の三人を見た護衛達はすぐに取り押さえようとするがノエルが凛とした声を響かせる。
「待ちなさい!!あなた達はもしかして私に匿名で情報を流してくれた方で間違いありませんか?」
と護衛を止め、アエリア達の立場を明確にする。
「その通りでございます、ノエル・マクナス公爵様。この度、僭越ながら私達が国家反逆に当たる貴族の情報を入手した為、スラムを救った信用のおけるノエル・マクナス公爵様に大変失礼ながら、名前を伏せ、情報提供をさせて頂きました」
その言葉を聞いた敵対貴族と中立貴族は驚きを隠せずにあたふたしながらも突然乱入してきたアエリア達を捕らえようと護衛達に命令をする。
だがエドワード陛下は騒ぎ立てる貴族たちに声を荒げる。
「皆の者、落ち着け!!騒ぐんじゃない!!」
そして護衛達がアエリア達を取り押さえようとしてもその場から一切動かなかったアエリア達に対して言葉をかける。
「その者、リア、ウェイナ、ユリスと言ったな?お前達の情報は誠か?」
その言葉を聞いたアエリアは頭を上げしっかりと国王と王妃を見つめ言い放つ。
「間違いございません。私達で証拠も集めてまいりました、エルラシア国王、エドワード・フォン・シャルミャイア・エルラシア陛下」
そして騒がしかった会議室とは言えない程大きいホールは静寂を迎えた…。
いつもはお姉さんしているアエリアの可愛い一面を出してみました。




