口の端から青い涎
「間違いございません。私達で証拠も集めてまいりました、エルラシア国王、エドワード・フォン・シャルミャイア・エルラシア陛下」
そして騒がしかった会議室とは言えない程大きいホールは静寂を迎えた…。
(噛んだ…)
この場にいる全員が心を一つにした瞬間だった。
「…間違いございません。私達で証拠も集めてまいりました、エルラシア国王、エドワード・フォン・シャルマイア・エルラシア陛下」
(噛んだのをなかった事にした…)
この場にいる全員がまた心を一つにした瞬間だった。
明らかに言い間違えてしまったとわかった時、アエリアの顔は少し赤くなっており、斜め後ろで控えてるフェイナとユリスもアエリアの耳を見て赤くなっているのを見て、笑いを堪えるのに必死で顔を上げることが出来なかった。
そして静寂から敵対貴族の喧騒に変わり、場の熱が一気に上がったのを確認してアエリアは指を一回パチンと鳴らす。
「ぐあっ!?何だこれは…っ!」
その瞬間、声を上げていた貴族たちは身体が硬直し、その場で崩れ落ちてテーブルに顎をぶつけたり椅子の上にうまく落ちずに転げ落ちたりした。
「貴様!!何をした!!!」
それを見た護衛達は再度武器を構えるが、お構いなしにエルラシア国王へアエリアは言葉を投げかける。
「陛下、大変申し訳ございません。ですが、事態は急を要する事なので手荒な真似をお目こぼしして頂きたく思います。こちらが今回私達で集めた証拠でございます。今、こちらに武器を向けている護衛の方々にお渡しするので、ご確認お願い致します。もしかしたらここにいるノエル・マクナス公爵様に反対的な行動を取っていた方も、今回の王位簒奪に加担している可能性もございますので、この場で拘束をさせて頂いております」
と伝えて一番近い護衛の方にゆっくり近づき、証拠の書類を手渡す。
手渡された護衛はこちらを警戒しながらもエルラシア国王と王妃の元へ行き、書類を手渡す。
国王と王妃が書類を確認している間、床に倒れている敵対貴族に視線を向けると青ざめて震えているのが見える。
その様子を見ながら国王と王妃が書類を確認し終わるのを待つ…。
■
「…冒険者リア、ウェイナ、ユリス。この度のこの会議の場に乱入した事、この場にいる貴族、王族に対しての敵対行動全て不問にする。そしてノエル・マクナス公爵。お前の言葉を最初から疑わず、信じてやれず済まなかった。…これより兵を王都リライアの外壁へ即座に配置し、逆賊を迎え撃つ。そして今そこで拘束されている者たち全てゲイル・フェルミットに加担している。そいつらと一緒にゲイル・フェルミットも捕らえよ」
と言葉を発し、護衛へ指示を出す。
「ご配慮ありがとうございます。陛下、もう一つご報告なのですが、既にゲイル・フェルミット侯爵は私達で捕らえております。少々お待ち頂ければここに連れてまいりますが如何なさいますか?」
「何?既に捕らえていると…わかった、襲撃の14時までもう時間もあまりない。すぐに連れてまいれ」
「はっ」
エルラシア国王よりフェルミット侯爵を連れてこいと言われた為、アエリアだけで屋敷へ転移してフェルミット侯爵と一緒にまた先程のホールへ転移する。
「陛下お待たせいたしました、この者がゲイル・フェルミット侯爵です」
「なっ!お主、転移の魔法が使えるのか!?」
ノエルとフェイナ、ユリス以外この場にいる者が驚きを隠せず、今まで威厳を保っていた国王ですらアエリアが転移魔法を使える事に驚いた。
「ええ、ちなみにティクスに待機させられていた私兵も全て捕らえて王都へ転移させて連れてきております。手傷は負っておりますが、誰一人も殺さずに縛り付けているのでご命令とあらば牢にでも閉じ込める事が出来ますが如何しますか?」
「なんと……今は迎え撃つ事に全力を注ぐ。全てが終わり次第、身柄をこちらで預かる」
「かしこまりました。ノエル・マクナス公爵様、匿名で情報をお渡しした事申し訳ありませんでした。ですがノエル・マクナス公爵様のおかげで王国の危機を脱する事が出来ました。ここに感謝を…」
「いいえ、リア、ウェイナ、ユリス。今回は本当に助かりました。また何かあったら助けてくださいね?その時はしっかりと依頼させて頂きます」
「ええ、ご依頼とあればすぐにでも」
と膝をついて『今回の手柄』を『ノエル・マクナス公爵一人』である事を『しっかり』と王族と中立貴族達にアピールし、ノエルの立場を強くする。
ここまでは全て会議が始まる前にみんなで考えた作戦通りだった。
そしてここから二つのパターンが考えられる。
まず一つ目、最後まで中立を掲げていた貴族は今回の手柄の全てノエルに持っていかれた。
手柄を持っていかれた故に、自身の私兵を使い、逆賊を迎え撃つという役割をしっかりと果たさなければ、降爵や今後の立ち回りが制限されると考えるはず。
このクーデター阻止が今後の命運を分ける思いで取り組んでくれるに違いない。
何としても戦果を上げないといけない中立貴族達は、先程の「その時はしっかりと依頼させて頂きます」という言葉を耳にしている為、なら私がとアエリア達に依頼をするパターンが一つ。
もう一つは国王自らアエリア達に依頼する事。
出来ればアエリア達は二つ目のパターンを希望したい所。
だが正直、防衛戦では千棘は早く動けても複数の敵と戦うのは向いていない。
アエリアは高威力広範囲の攻撃を得意としているが…燃費も悪ければ味方にも被害が出てしまう。
となると…
「冒険者リア、ウェイナ、ユリス、お主達にエドワード・フォン・シャルマイア・エルラシアから依頼をしたい。この王都に迫りくる逆賊を迎え撃って欲しい。相手の生死は問わない。どうだ?受けてくれるか?」
きた、この流れだとアエリア達は思い、フェイナとユリスは、
「「その依頼、受けさせていただきます」」
と答えたがアエリアだけは首を横に振る。
「申し訳ございません陛下。私、リアはその依頼を受ける事が出来ません」
ノエルとフェイナ、ユリス以外は王命を断るとは何事だ!という雰囲気でアエリアの事を睨む。
「ただ、今回の様な防衛戦に、私以上に活躍できる人材がおります」
その言葉で転移魔法を使えるものより活躍できる奴がいるのか?という雰囲気に切り替わる。
「ほう、リアよ、その者はどんな人物だ?」
「端的に申し上げれば、生産者ギルドのAランク生産者、ノエル・マクナス公爵様のお抱え薬師のウルという人物です」
「く、薬師とな…?」
「ええ、陛下。ウルは召喚術を得意としております。本人自身は戦闘能力はございませんが、先程依頼を受けたウェイナとユリスがいれば、一人で万の軍に匹敵する程の実力です。もしよろしければ時間もございません、私から依頼させて頂きますが如何でしょうか?」
「………わかった、そのようにしておいてくれ。皆、素早く行動に移せ」
その言葉でホールにいる人達は各々の仕事に戻る…。
■
「くふふ…シャルミャイア…ふふふ…」
「ウェイナさんそんなに笑ったらリアがかわい…そうだよ…うっ…ふふ」
「そうよ、ウェイナさん。ユリスもそんなに笑っては可哀そうよ。ええ、顔の赤いリアなんて私達は見ていないわ。それに何事もなかったかのように言い直すリアなんて見ていないわ」
「もうあんた達、忘れなさい!それに言いにくい名前なのが悪いわ!!ほら準備する準備!!」
「「「はーい」」」
「全く…さて私も準備しますかね…」
王城からアエリアの拠点に戻った後、3人にいじられながらもアエリアはコルに代わり装備を整えている。
フェイナもいつもの黒の全身鎧に黒の盾、ユリスも冒険者のいつもの格好になり、弓と双眼鏡の点検をし、短剣二本を曲芸のように回して鞘に入れる。
ノエルは一度自身の屋敷に戻り、自身の娘シエルと囲ってもらっているフリエス、アリエス、慈悲の四姉妹の元に戻ってもらって屋敷で待機してもらう。
装備を整えたコルはいつもの赤ずきんではなく、黒のゴスロリに頭には真っ赤なバラ付いたカチューシャ、手にはキラキラ光る宝石が付いた身長程の杖を持ち、髪型もいつもの三つ編みではなくポニーテールにしている。
「さて、ウェイナ、ユリス、準備出来ましたかぁ?」
「ん!ちーちゃん特に問題ないよー!」
「ウルに貸してもらった装備もあるから大丈夫!」
「わかりましたぁ、では全方位が見渡せる時計台までいきますよぉ。後20分程で敵さんが攻めてくるのでぇ」
■
「ねぇウルちゃんほんとにだいじょーぶ?」
「ウル…汗も凄いし顔色悪いよ…?」
「だ、だいじょ…じゃないです…ま、魔力切れがこんなに辛いとはお、思いませんでしたぁ…それにポーション飲みすぎ…はき…うぅ…」
クーデターの軍が転移してくる2分前にコルは王都の周り東西南北全てに召喚獣を配置し終えていたが、ネシアの世界に来て初めての魔力切れが想像を絶するほど辛い物だとは思っていなかった。
更には自前の魔力だけでは東西南北に配置する事は不可能で、自身で作った魔力を回復させるポーションを飲んでは魔力切れまで召喚を繰り返し、時計台の床に空のポーション瓶が20本ほど転がっていた…。
そしてコルは新たな決意を抱く。
「も、もう絶対に…こんな事…しません…そろそろ…敵が来ますから…ウェイナ、ユリス…私の事まも…って…」
そう言い残しコルは口の端から青い液体を垂らしながら気絶してしまった…。
残されたフェイナとユリスは顔を見合わせ苦笑いをし、遂に始まった防衛戦をコルの身を守りながら時計台の上で見届ける…。
■
「う…うっぷ…ここは…」
「あ、ちーちゃん起きた~?」
「うぇ、ウェイナ…」
「ここは私達の拠点で今は私と二人っきりだよー、ユリスは今ご飯とか買いに行ってるよ?」
「…そうですかぁ…フェイナ、あの後はどうなったのですぅ…?」
「ん、ちーちゃんが気絶しちゃった後、予定通り敵は来たんだけど、ちーちゃんが召喚してくれたポイズンバタフライとパラライズバタフライ、スリープバタフライがすーっごく役にたってね?ちーちゃんの召喚獣が相手にした人達は死傷者0。でもやっぱり王国や貴族の方で用意した兵は結構相手を殺しちゃったみたいなんだけど、まぁ自分のメンツを守るので張り切った結果って感じかな?あ、ちなみに地下に閉じ込めてた人達は全員渡しておいたよ!」
「そうですかぁ…他の召喚獣はどうなりましたかぁ…?」
「アイアンスパイダーは拘束するのにすっごい大活躍だったし、もし突破出来たとしても東西南北に一匹ずつフェンリルを召喚しておいてくれたから特に問題なかったよ!あ、戦いが終わった後に一日だけ召喚されたまま残っていたけど、魔力切れだったのかちゃんと消えたから大丈夫!」
「魔力で身体を作っているので特にやられても被害がないのが召喚術の強みですねぇ…使いすぎるとああなりますけどぉ…その言い方だと私は何日か寝てたのですかぁ?」
「うんうん、二日間寝てたよ!私とユリスちゃんは終わった後に謁見とか色々したけどほぼ終了したし、一番の功労者が倒れてるからね~私達もノエルちゃんの所の人達もちーちゃんが寝てるから祝勝会はちーちゃんが起きてからって事にしてる!王城のパーティーも失礼のないようにすぐ抜けちゃったしね~」
「あらあらぁ…それは悪い事しちゃいましたねぇ…ふぅ…まぁ万事解決って事でいいですかねぇ…」
「あ、そうそう、ちーちゃんは王様と王妃様に個別で招待されてたよ?」
「…?まぁ確かに私が呼ばれるのはわかるのですがぁ…フェイナやユリスはぁ?」
「私達はもう済ませちゃった。私達はアエリアとコルのお手伝いをしただけだから詳しい事は二人に聞いて欲しいって言っといた!…でもアエリアとコルは同時にはいられないから、個別に呼んでくださいってそれとなーく言っといたよ!」
「フェイナありがとうねぇ。んーっ!…じゃあ私はお風呂に入ってきますねぇ?千棘はまだ血まみれのはずなので3回お風呂に入らないとぉ…」
「確かにちーちゃんはそれ大変だよねー!私が洗ってあげよーか?」
「フェイナ?一応中身は男なんだからそういう事は言っちゃダメですよぉ。では行ってきますねぇ」
「ちーちゃんのその姿を見てるとついつい忘れちゃうんだよね~はーい!ユリスちゃんとかノエルちゃんには私から連絡しとくね~!」
血みどろの千棘、埃まみれのアエリア、気絶した時のままでポーション臭いコルの身体をお風呂で綺麗にして、フェイナの連絡で屋敷にきたユリス、フリエス、アリエス、慈悲の四姉妹、ノエルとシエルのみんなと屋敷でパーティーしてみんなと一夜を過ごす。
そしてその次の日、アエリアとコルで王への謁見をする事になる…。




