作戦会議
「ユーちゃん~暇だね~」
「チーちゃん暇だよね~」
襲撃から三日間、アエリアは千棘になり、ユリスは『変装の腕輪』という魔道具を千棘から借りて、今は白猫の獣人になっている。
合わせて、最初の宿をすぐに引き払って別の宿に移動してから明らかにアエリアやユリスを探しているらしき人は見かけるが、千棘とユリスの変装を見破れる者はいなかった。
姉弟という設定で街中を色々見て回ったが、フェルミット侯爵家の動きが何だか活発になっているようで、執事が帰らなかったからなのか、はたまた情報が漏洩した可能性を加味したのか、計画を早めるにあたって武器や防具が売り切れになっている鍛冶屋が多く見受けられた。
そして今、ユーちゃんとチーちゃんはギルド近くのカフェテラスで食事をしながら鉄壁の黒猫がクエストから帰ってくるのを待っているが…全然ギルドに立ち寄っていなかった。
三日連続で同じ店、同じ席、同じ注文で店員さんは何なんだろう?と訝しげにしていたが、提供した後の二人のスマイルにやられて何も言えないでいた。
「あ、ほらユーちゃんほっぺについてるよ?」
「え、じゃあチーちゃんとって~」
「い、いくら姉弟でもそんな事…」
「何チーちゃんお姉ちゃんに照れちゃってるの~?」
時々こういう姉弟のイチャイチャ漫才をして道行くカップルを「あそこのお店なんか雰囲気いいね?」「うん、ちょっと寄って行こうか」という気分にさせてお店に貢献したりしていた。
そんな事を毎回やっていれば暇にもなるというのも仕方ない事であった。
「そーいえばチーちゃんはクランとか作らないの~?」
「ん?クランって何?」
「あーなんていうか冒険者の集まり的な?」
「そんなのあるの?」
「あるというか冒険者の中でそういうのがあるってだけ~まぁ簡単に言っちゃうとパーティーのおっきいのみたいな?」
「ふ~ん、それってどこかに登録しないといけないの?」
「んー、冒険者達が勝手に名乗ってるだけだから特に必要ないんじゃないかなー?」
「ふむぅ…ユーちゃんはそういうの作りたいの?」
「んー…チーちゃんがさ?みんな集めたらそれで終わりなのかなーって思っちゃったの」
「あー寂しくなったのね?」
「ちょ!違うから!弟のくせに生意気~」
「んーそうだなぁ…子猫が見つかったらそういうの名乗ってもいいかもね?ユーちゃんも名乗る?」
「名乗る名乗る!」
子猫は黒猫と言ってしまうと目が付けられると思い、別の呼び方をしている。
そして二人は朝のオープンから夜の閉店まで同じ席で時間を潰して朝食、間食、昼食、間食、夜食を食べて、明らかにカフェで払う金額を超えた金額を払って店を後にしようとした時、千棘が閃いた顔をした。
「そうだ!ユーちゃん!僕冒険者になるよ!」
「…え?」
「まぁ詳しい後は宿に帰ってから~、店員さん、いつもありがとうございます」と天使スマイルをかましてユーちゃんと宿に帰る。
■
「という作戦なんだけどどう思う?ユリス」
「確かに今フェルミット侯爵が明らかに動いてる状態だもんね…」
「そうそう、しかもノエルも全部はやっぱり特定出来ないって言ってたんだよね」
「でも流石にハイリスクすぎない…?」
「でもハイリターンだよー?やってみる価値はあるよ?」
「でもリスクをかぶったら反逆罪だよ…?」
「んーでもそれで全部特定出来なかったらまた同じ事起きるから僕的にはやるしかないかなって感じなんだけど…」
「というかその作戦なら私はどうしたらいいの?」
「さすがにユリスは危ない目に合わせられないからその腕輪でまた別の人に変わってもらって、外から情報を集めて僕に教えて欲しいんだけどどう?」
「んー…本当は一緒に行きたいけど…でも情報は多い方がいいし、チヅルならどんな事が起きても大丈夫だもんね…」
「うんうん、それにうまくいけば子猫の方から僕達に接触してくると思うんだよね」
「確かにうまく行ったら会えるけど…でも絶対に怒られるよ?」
「そこもハイリスクの中に入ってるかな…先に僕達と子猫が会って、状況を説明して協力してもらうっていうのがベストオブベストかな」
「そんなうまくいくかなぁ…」
「なんとかなるよ!じゃあそんな感じで動こうと思うからユリスもお願いね?連絡はすぐ取れるようにしておいてね?」
「了解~、お風呂入ってくるね~」
二人の作戦会議は千棘発案の作戦で進める事になった…。
■
「すみませ~ん、僕冒険者になりたいんですけど、どうやったらなれますか?」
「あん?おい、坊主…さすがに15歳以上じゃないだろう…」
話しかけたのはいつもガラガラのカウンターに座っているスキンヘッドの受付、名札を見る限りバンという名前だ。
「はい、僕12歳なんですけど、強かったらなれるって聞いたんですー!僕強いから冒険者になりたいんです!」
そう言うとギルド内はどっと笑い声が響いた。
「あんなちっこいガキがか?どこの嬢ちゃんだよ!ここはガキの遊び場じゃねーぞー」
「そうよ、あなたにはまだ早いわよ?まずは学校とかで魔法のお勉強をした方がいいわよ?」
「ていうかこんなちっこい嬢ちゃんが冒険者ならおりゃぁ今頃Sランクだぜ!」
と、色んな所からの笑い声を聞きながらそれでもバンさんに話しかけ続ける。
「でも僕本当に強いんですよ?正義の味方になりたいんです!」
そしてその言葉を聞いて更にギルドが沸く。
「更に英雄願望ときたぜ!こりゃ将来大物だぜ!」
そういう声も無視してバンさんに話しかけ続ける。
「えっとバンさん?どうやったら実力を示せますか?ここにいる全員倒したら認めてくれますか?」
千棘の発する言葉一つ一つがギルドにいる人達のツボらしい。
「おいおい嬢ちゃん…そんな事出来るわけないだろう…」
「出来ますよ?」
「…んやダメだ…実力見る見ないに関わらず、こんな危ない仕事なんてするもんじゃないぞ」
「バンさんって意外と腰抜けなんですね?そんな怖い顔してるのに」
一気にギルドの喧騒が嘘のように静まり、どうしたの?という雰囲気を出しながら周囲を見渡す。
「あれ?僕なんか言っちゃいけない事言っちゃいましたか?思った事言っただけなんですけど…ここに居る皆さんもだいぶ弱そうだし、この程度の強さなら僕、素手でも倒せちゃいますよ?」
そう言って硬直している皆に天使スマイルをプレゼントすると、頭にきた冒険者達がこぞってバンの元に駆け寄り千棘との試合を申し込み始めた。
「流石に聞き捨てならねぇ事を言われた。バン、こいつと試合させろ」
「そうよ、流石に世間知らずのおこちゃまにはお灸を据えないといけないわ」
千棘は思った通りの展開になり内心ほくそ笑む。
アエリアの時と同じ状況を作り出せば嫌でも目立つし、複数の相手が出来ると分かれば絶対にフェルミット侯爵家が手を出してくると踏んでの煽りだった。
そして正義がどうの言ったのも、フェルミット侯爵は「今の王国はダメだ、正義の名の元に」を好きなフレーズとして使っている事も身体に聞いた執事から聞いていた為、年端も行かない実力者が正義を謳っていれば手籠めにして使いつぶすだろうと思っての事だった。
だったのだが…
「そこまで言うなら俺が相手になる」
「…え?」
バンが一騎打ちを申し込んできた。
流石に千棘はこれだとスカウトされる可能性が低くなると思ったので更に煽る。
「え~ここにいる人達をまとめて相手した方が楽しいのでバンさんもその中に加わってくださいよ~」
「そんな集団で寄ってたかってやるようなやり方は好きじゃねぇ」
バンの微妙な正義感に触れてしまったようで一対多の模擬戦は出来なさそうになっていた。
「んー…僕は皆さんに馬鹿にされたので出来れば皆さんと戦いたいです~その後でよかったらバンさんとも戦ってあげますよー?」
「ここに居るやつら全員束になっても俺には勝てない。それで十分だ」
周りを見てみるとみんな渋い顔をしているが特に反論など出ず、
「そーなんですねー。ここにいる人達が纏まってもバンさんには勝てないんですね?じゃぁ、ここでバンさんを僕が倒しちゃったらここにいる人達より僕が強いって事でいいんですかー?」
「ああ、それでいい。お前らもそれでいいか?」
バンが周りの冒険者に問い掛けるが誰も異論はない様だった。
「そうですかー、どこで戦うんです?」
「地下に訓練場があるからそこでやるつもりだ。死に至らしめる攻撃はなし、それ以外は何でもありだ」
「わかりましたー。バンさんはどういう武器を使うんですか?」
「俺は両手剣を使っている。だがハンデとして『ハンデとかそういう負けた時の言い訳辞めてください』…」
そしてギルドの中が、
「あのガキ…世間知らずもいい所だ…殺されるぞ…」
「元ソロSランクの『黒剣』のバンにあんな喧嘩売ったらマジでやばいぞ…」
という声一色になっていたが千棘は、
「へー?バンさんってSランクだったんですね?僕の知り合いにもSランクの人がいましたけど、その人よりはなんというか…」
「わかった、刃は潰してあるのを使うが、腕や脚の一本は覚悟してもらうぞ?」
「わかりましたー。でも、刃潰してあるのが本当の武器じゃないですよねー?刃が付いてるのを使ってもいいですよー?武器の所為で負けたなんて言い訳されたくありませんし、『黒剣』なんて通り名があるならすごい剣使っているんですよね?ぜひ使ってください!」
「…わかった。後悔はするなよ?」
「わかりましたー、僕も自分の武器を使うので許してくださいね!」
お互い落ち着いているやり取りをしているがバンの顔は明らかにトマトのように赤くなり、頭にはかなりの血管が浮いていた。
それを見ていた冒険者も引きながらも訓練場に移動した千棘の後から観客席に移動していった…。
■
「さて、今から俺が相手するが、本当に腕や脚は覚悟しろよ?」
「大丈夫ですよー、もし無くなってもちゃんと生えてくるポーションがあるので!」
「…そうか」
「あ、逆に確認なんですけど、武器って何使ってもいいんですか?」
「ああ、好きに使うといい。だがお前は何も持っていないぞ?」
「それはお楽しみですよ~観客の皆さんは早く僕の事を叩きのめして欲しそうにしてますよ?」
「それはお前があそこまで煽るからだ」
「まぁ僕を馬鹿にした人達なのでどうでもいいんですけどね?僕が勝ったら好待遇してくださいねー?」
「俺の出来うる限り対応させてもらう。…いくぞ!」
「はーい」
凄い殺気を振り撒きながら真っ黒の大剣を携え高速の突進を以て近づいて来るバン。
(速いけど…遅いね)
大体動きの速さはライゼンよりほんの少しだけ早い程度だが、アエリアであれば避けきれないだろうが…今の身体は千棘だ。
しっかり集中すると意識がスローの世界に変わっていくのを感じながらしっかりと剣を見据え…
(高速の突き、これは身体を右にほんの少しずらして避ける。そのまま横に薙ぎ払う、これはのけ反って剣の腹を少し押して剣の軌道を上に変える。体勢が崩れてもすぐ立て直してそのまま右のお腹狙いの蹴り、これを下をくぐって避ける。剣が振り回されてるのを利用して回転しながら左の顔面狙いの肘、これも顔をずらして避ける。そこから右のストレート…いい身体の動かし方だな…だけどこの右腕を少しだけ上に弾いてあげれば次の攻撃の左手での斬り払いを防ぐことが出来る。そしてここで蹴りっと)
完璧に見切り、未来予知に匹敵する予想を武器にバンの右腕を上に弾いて左腕の斬り払いを邪魔し、体勢が崩れたタイミングでがら空きの左脇腹を真っ直ぐ蹴りつけ吹き飛ばす。
「ぐうっ!?」
「ひゅ~…僕の予測も錆び付いてないね」
数十m先の壁が爆破されたように弾け飛び、観客席は何が起こったんだ!?と叫び声をあげて土煙を見つめ、そしてほぼ開始位置から動いてない千棘を見た観客席は信じられないといった顔で言葉にならないような顔で見つめてくるが、土煙から脇腹を押さえたバンがゆっくりとこっちに歩いてくる。
「くそ…なんつー蹴りだ…骨が折れたかと思ったぜ…」
「あれ?折れなかったんですか?ちょっと手加減しすぎたかもしれないですね?」
「ハッ…今のは小手調べだ。次は本気でいくぞ!」
「やっと本気ですか?じゃあ、次は僕も武器出しますね?」
冷や汗を垂らすバンの強がりを聞いた千棘はバンの認識出来ない速度で空間から紫の水晶で出来ている弓を取り出し…
「バン!ってね」
その弓から速射で放たれた矢は同じく紫色の水晶のような矢で、空気が爆発したような轟音を響かせるとかなり遠くに立っていたバンの耳を掠めるように通過していった。
「…は?」
耳に鋭い痛みを受けて訳がわからないとばかりに声を漏らすバン…そしてその矢が壁にぶつかるや否や、壁が砕け、水晶の矢も砕け、散弾のように飛び散った。
「そんな遠くにいたら狙い撃ちしちゃいますよ?」
そんな弓の狙撃を食らったバンだったが…
「お前…今何をした…?」
千棘の手には既に弓は握られておらず、素手の状態だった。
「あれ?今の見えなかったですか?弓を撃ったんですよ?」
「…くそ…見えなかった…」
「じゃあ、次はこれでいきますか」
口元は笑っているが冷や汗の量を増やしたバンに見せつけるように空間から大剣にも見えて槍にも見えるロンパイアという武器を取り出す。
「遠距離からの攻撃も得意ですけど、一番はやっぱり近接戦なのでよろしくお願いしますね?」
「末恐ろしいもんだぜ…」
と言いつつすり足で寄ってくるバンに、
「まだ来てくれないならこっちからいきますよ?」
「なっ!?」
一気に瞬発して下から掬い上げるように剣を弾き、
「それっ!」
「くっ!?」
そのまま左腕を上げて石突部分で顎を狙うように下から振り抜くが間一髪避けられ、
「もういっちょ!」
「ちっ!?」
剣を弾いた時の反動に逆らわず、生かすようにバックステップをしたので槍に持ち替えて利き腕を狙う一撃を突き出す。
「こなっ…くそっ!!」
が、千棘のその一撃すらも剣の持ち手部分で的確に防いでその衝撃で更に後ろに下がる。
「ひゅぅ~…流石元Sランク冒険者ですね?なら、これはどうですか?」
「凶悪な武器を…!」
「そぉれっ!!」
槍から棘鉄球が付いているフレイルに持ち替え、息を尽かせる間もなく素早く身体を回転させて遠心力を乗せたぶん回しを横腹目がけて振り抜く。
「くそっ!?」
だが、バンは槍を防いだ衝撃で腕を素早く引き戻し、剣の腹で受け止め硬質な音を響かせながら少しだけ後ずさりしながらも千棘のフレイルを受け止めた。
「おおっ、受け止めた?」
「お返しだ!!」
「おっと!」
そしてすぐにバンも千棘の勢いを利用した回転を加え、遠心力の乗った剣の切っ先がギリギリ届く射程で横に斬り払ってくるが、千棘はフレイルから盾に持ち替えてバンの剣を斜め上に受け流し、
「更にお返しですよっ!」
「っ!?」
素早く白い鞘に入った刀に持ち替え居合の構えから神速の一撃を放ち、バンの分厚い胸板に横一線の傷を刻み込み吹き飛ばした。
「ちょっと浅かったかな~…っと、降参してくれますか?バンさん」
上空からバンの持っていた黒い両手剣が上から振ってきたので刀を納め、それを空中で手に取ると倒れているバンの元へ瞬発して首元に切っ先を向け試合終了の言葉を待つ。
「くそ…俺の負けだ…」
観客席からは一切の音はせず、何が起きたかわからないという顔でただただ首元に自分の両手剣を突き付けられているバンを見て呆けていた。
「はい、バンさん、お疲れ様でした。これ飲んでください」
「ああ…」
なかなか楽しかった試合に笑みを浮かべてポーションを渡すとバンはそれを飲み干し、胸に刻まれた刀傷はどこにも見当たらず、ただ土埃で汚れた身体になっていた。
「このポーションすごいな…」
「ええ、僕の仲間が作ったすごいポーションなんですよ?」
と、にっこり笑ってまだ倒れている巨体を腕を伸ばして軽々引っ張り起こす。
「…完全に俺の負けだな。侮ってすまなかった…ここまで手も足も出ない試合は初めてだった。お前は実力を示した、冒険者もお前みたいなやつがいてくれたら安泰だろう。すぐにギルドの登録をするから受付に来てくれ」
「わかりました、それと観客はどうします?みんな動きませんけど?」
「放っておけ。今頃お前に喧嘩売ってしまった事を後悔しているんだろう。それにしてもお前も人が悪いな?なんか理由があるのか?」
「ふふっ何のことですかね?あ、バンさんに言った言葉の数々はぜーんぶでたらめですからね?最初に一目見た時からこの人強い、戦ったら面白そうって思ってましたから!」
「ハハッそりゃそうかい。んじゃま、登録しに行くか。さすがにSは無理だからAでいいか?」
「そんなあげてくれるんです?Bとかでもいいですよ?」
「そうか?やっぱりお前、冒険者になるのとは別の目的があるだろ?」
「何のことですかね?まぁまぁ登録しに行きましょー!」
静かな訓練場を後にする二人…この試合は『ダフネの十英傑』千棘の再来、『天使事件』と今後語られ続けることになり、おかげで千棘が本来予定していた二名が千棘の思惑通りに動いていた事はまだ千棘は知らない…。




