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再始動 -Second Life on-line- そして第二の人生が始まる  作者: 絢奈
第二章 黒猫は何を想う
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黒猫、天使と会う

(視線を感じる…これは釣れたか…?)



 バンとの試合を終え、冒険者登録をAランクで登録してもらい受ける予定のないクエストボードを眺めながら周囲を観察する千棘は、試合が終わった直後に一つの視線を感じるようになった。



(多分…フェルミット侯爵の私兵辺りがスカウトに来るかもしれないな…このままここに居たら話しかけられないだろうから一旦ここから離れるか…でも、僕の噂が広がってからなんか…変な視線を感じるんだよな…)



 フェルミット侯爵の私兵とは別にすごい熱の籠った視線を向ける人がギルドの隅っこにフードを被って立っていた。



(これはもしかしたらだけど…二人とも釣れたか…?でもそれなら…)



 そして一つの採取クエストをボードから剥がして試合をしたバンの元へ持っていく。



「バンさん!このクエスト受けます!」


「おう…火竜の花…こりゃまたえらく遠い場所に行くもんだな…確かにお前と同じAランクの依頼だがこれは採取だぞ?魔獣を倒しての剥ぎ取りじゃないぞ?お前採集出来るのか?」


「ええ!まかせてくださいー!」


「そうか、強さ自体は疑ってない。だがここは火山の近くでかなり温度が高いから脱水症状とかで死んだりするなよ?強くても自然には勝てないだろうからな」


「そうですね、その辺もしっかり対策していくので大丈夫です!」


「そうか…んじゃこの依頼はチヅルが受けるって事で処理しておく」


「はい!では行ってきますね~」



 と、クエストを隠れ蓑にしてギルドから外へ向かう際に何気ない仕草で端っこにいるフードを被った人物にハンドサインを送り、二つの視線を背中に感じながら外へ向かう。



(釣れたな…)



 怪しまれない程度に必要と思われるものを買い込んでそのままティクスの外へ出る為、門番に依頼で外に出る事を伝えて通してもらう。



『ユリス?作戦通り二人釣れたっぽい』


『運がいいねー、一つは私兵でもう一つは予想通り黒猫だった?』


『ほぼ黒猫だね。ダフネのみんなにしか伝わらないサインを送ったら付いてきたから確定だと思う。一応二人っきりで会う為に適当な採取クエストを受けて外で落ち合う予定だよ。そっちは何か情報ある?』


『うーん、こっちで確認できた情報はギルドで『黒剣』を倒した12歳、戦い様は『ダフネの十英傑』チトゲの再来って噂ぐらいかな?』


『さっき戦ったばっかりなのにみんな耳が早いね』


『冒険者の耳は早いよー?その情報が命に関わってくるかもしれないしね』


『そっか。そしたらそのまま引き続きお願いするね?』


『了解~』


 …


(私兵の方はまだ付いてくるな…黒猫の方は…気付かれてないみたいだな。それじゃあ…よーい…ドンっ!)



 準備運動をしながらさりげなく黒猫の方に向けてもう一度サインを送り、黒猫が付いてこれそうなギリギリの速度で走り始める。



(意外とついて…来ないな…)



 最初の10秒程は私兵も付いて来れたがすぐに追跡を諦めてしまった。



(よし…これで更に僕が規格外な能力を持っている事を私兵はフェルミット侯爵に伝えるはずだ…うん、問題なく付いて来てるね…この辺でいいかな?)



 そう思い、森の深い場所で走るのを止めて深呼吸する。



 そして…



「…()()()()、お待たせ」



 そう呟いた瞬間、千棘の目には木の陰から猛烈なスピードで突っ込んでくる黒い影が映ったが特に回避する必要が無くそのまま両手を広げ…



「うううううう!!!!ぢーぢゃんんんん!!」



 黒い影、黒猫…【Daphne】のメンバー、フェイナが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら抱き着いてきた。



「うぐっ…っとと」



 その衝撃は素直に言ってトラックを真正面から迎えて弾き飛ばされる程の衝撃があったが、今は千棘の身体であるのと、フェイナが鎧を身に纏ってない事の二つの幸運が合わさり、ものすごい衝撃と人体からは決して発さないような音だけで済んだ。



 鎧を身に纏っていない為、フェイナのいつもは鎧に隠されている柔らかい豊満な胸に包まれながら千棘も背中に手を回し、再会を確かめ合うように、



「すぐ迎えに行けなくてごめん。戦う手段もなかったから本当に大変だったでしょ」



 と、本当は頭を撫でてあげたいが手が届かないので背中を擦ってあげる。



「ううう!!!アルメラもちーちゃんも誰もいなくて一人でめちゃくちゃ寂しかったしわけわかんなかったし!!!頑張って街探しても何が何だかわからないし!すっごい不安だったあああ!!ぢーぢゃんんん!!」


「あ、あはは…」



 今までの苦労や寂しさを発散するかのようにギリギリと千棘を締め上げていく。



 本当に千棘の姿でよかったと思いながら、全部吐き出すまでこのままの状態でフェイナが落ち着くのを待った…。





 ■





「そっか…そんな状態なんだね、ちーちゃん…」



 再会から30分後、ようやく落ち着いたフェイナはいつも赤い目を更に赤く腫らしながら千棘が作ったシチューを食べつつ、千棘が今までどうしてきたのか、今の学術都市ティクスはどういう状況になっているかを話した。



「うん、でも本当にフェイナに会えてよかった…メンバーの中じゃ唯一戦闘能力がないから絶対困ってるだろうと思ってさ。そこは本当にライゼンに感謝だね」


「ライゼン?あの侍っぽい人?」


「そうそう、フェイナも試合したんでしょ?僕はアエリアで魔法なしの試合をしたんだよね」


「あの人ねー。私がギルドで色んな人のタンクをやって鉄壁の黒猫とか言われ始めた時に『お主の鉄壁を崩したい』とか言ってきて新手のプロポーズかと思ったよ~」


「あはは!ライゼンっぽいね!それとフェイナこれ、どこでも話せる魔道具をコルで作ったから持っておいて欲しいんだ」


「ん、ありがとー。今ちーちゃんに協力している人はさっき話してくれた6人なんだよね?相変わらずの手腕っていうかすごいね!」


「そう?殆ど成り行きだったけどね?あ、そうだ。ここで話すのもあれだから、王都に構えた拠点で少し話そうか。僕が受けた依頼の火竜の花は持ってるんだけど、すぐに持っていくと怪しまれるから少しだけ時間を空けたいんだよね」


「おっけー!拠点ってどんな所!?前のギルドホームみたいにログハウス!?」


「んーん、一家根絶やしになった元スラム近くのおっきい屋敷だよ」


「え、何それ…絶対事故物件じゃん…お化けとかでないの…?」


「大丈夫。入居する時にアエリアの聖域(サンクチュアリ)で浄化したからただの屋敷だよ?」


「んーそれならいっかぁ…あ!お風呂は!?後、私の部屋とか!」


「ふっふっふ…特にお風呂は拘ってリフォームしたし、綺麗な何も置いてない部屋をちゃーんと用意してるよ!」


「おー!!さすがちーちゃん!伊達に私達のギルマスやってないね!」


「まぁね!そろそろ屋敷にいこっか?屋敷に行ったらフェイナが見つかった事をみんなにも報告しないといけないし、しばらくは屋敷にいよっか」


「おっけー!楽しみだなー!」



 千棘はアエリアに代わり、アエリアを見たフェイナは抱き着いて頬ずりしてくるが苦笑いをしながら上級空間魔法の転移を使い屋敷へ転移する。



 それから3日間、強力してくれた仲間達にフェイナが見つかった事や、顔合わせ、部屋の割り当てに飾りつけなど穏やかに日を過ごした…。





 ■





「さて、では…今はギルドはないから僕、千棘が状況を確認するよ。まずはフェイナ」


「はーい!今日はクーデターを起こそうとしているフェルミット侯爵の私兵になって内部に潜入して情報を集めるよ!」


「次は僕、千棘は昨日、フェルミット侯爵の家に送った手紙が今日には確認されていると思うからフェイナが私兵になっても怪しまれないようにその手紙にはアエリアの状態で拘束されている写真を添付してあるから、それをネタにフェイナに接触するよう手を回した。それを確認した後に、僕もギルドでクエスト完了報告をして、僕に接触してくるフェルミット侯爵の私兵に僕も加わり、二人で今回関与している貴族を全員洗い出すよ」


「…みんながいたらこのやり取りもすっごい締まって見えるのに二人だとちょっと物足りないね…」


「…そうだね。だけど一応アルメラの情報も少しだけ手に入れてるから次はアルメラを探すつもりだよ。ユーランもかなり心配だけど…まぁ、アルメラが見つかったらしばらくフェイナはアルメラと一緒に別行動をしてもらって、別のメンバーを探してもらう予定だけどいい?」


「おっけー!アルメラと一緒なら何も問題なし!」


「よし、ユリスの情報が正しければ、今日フェルミット侯爵はクーデターを起こそうとするはずだから、今日中に加担している貴族の情報を入手して、クーデターを止めて王族に恩を売るぞー!!」


「おー!!」





 ■





 太陽が傾き始めたティクスの噴水公園、黒猫はベンチに座って屋台で買った串焼きを食べていた。



「ん!あの屋台の串おいしー!これは大発見だ!」



 能天気に見える黒猫の事をダフネの十英傑『難攻不落』のフェイナだとは道行く人達は思わないだろう。



 そんなフェイナは早く相手が接触してこないかと待ち構えている。



「次はどの串に~…」



 すると至る所に誰も座っていないベンチがあるのにも関わらず、フェイナの座っているベンチに近づき、フードを被った人物がそのベンチに腰を掛け、



「鉄壁の黒猫…ウェイナ。フェルミット侯爵の私兵に加われ…」



 そう呟きフェイナを横目に見る…が、フェイナは串焼きを食べつつ、



「だーかーらー!それはお断りなの!私、待ってる人がいるからそういうのに入るつもりはないの!」



 と拒否の色を示すが今回ばかりは違った。



「これを見ろ」



 そう一言だけフェイナに言い、封筒をフェイナの座っている所にベンチの上を滑らせて渡す。



 そしてフェイナはここだ!というタイミングで凄く練習した驚き顔を披露。



「な…この子…!あんたこの子に何をしたの!」



 と、その人物だけに殺気を飛ばすと、さすがの相手も少し身体を震わせるが平静を装い言葉を続ける。



「そいつは確か…リアと言ったか?お前の待っている人はそいつで間違いはないだろう?」


「何でこの子の名前を…まさかあんた達…この子に酷い事をしていないでしょうね…!」


「そこはご想像にお任せする。どうだ?私兵に加わる気になったか?」


「…本当にやり方が汚い…最低すぎる…」


「どうとでも思えばいい。これは正義には必要な犠牲だ」


「必要な犠牲…!?リアはそんな事の為に…!!」



 迫真の演技をしながら写真を握りつぶし、たっぷり時間を取ってフェイナは観念した様に口を開く。



「わかった…その代わりすぐにリアを開放して」


「それは出来ない。お前にはしっかり働いてもらわないといけないからな。しっかり働けば助かるだろうよ」


「その言葉忘れんじゃないわよ…」



 そして第一目標の怪しまれずにフェイナが私兵に加わる作戦は成功した。



 そのままフードを被った人物の後ろをフェイナが付いていく所を、時間を知らせる鐘の塔から魔道具を使い会話の内容を聞きつつ望遠鏡で眺めていた千棘。



(フェイナ演技うまいな~。女優とかアイドルとか出来そうだな…んー…クランを名乗った後に、みんなで演劇とか歌歌ったりして知名度広げるのもよさそうだな~)



 そんな呑気な事を考えながらフェイナが向かう場所を確認する。



(ふ~ん…あの建物ね…確かあそこはフェルミット侯爵が運営している図書館だよな…)



『フェイナ、聞こえていたらそのイヤリングを一回弾いて』



 そうイヤリング型の魔道具に声を伝えるとコツン、という音が響いてきた。



『おっけーフェイナ。そのままフェイナは情報集めとかよろしく。僕も行動し始めるから、大丈夫だったら音2回、ダメだったら音1回』



 コツンコツンと二回の音を聞き、千棘は塔から飛び降りて人のいない路地裏に着地する。



(さてと、こっからは僕の番だ。うまく釣れてくれよー!)



 そう思いながらギルドにクエスト完了の報告をしに行く…。





 ■





「お、『血染めの天使』様のおかえりか。チヅル、随分と早かったな?採取に失敗したか?」



 と声をかけてくるのはスキンヘッドの強面受付のバンだった。



「まさか~クエストは完了ですよー。というより『血染めの天使』ってなんですか?」


「火竜の花…しっかりと確認したぜ。…『血染めの天使』っつーのは俺と試合した後に付いた通り名だな。曰く『黒剣』のバンの腕を斬り落としたとか、返り血を浴びながらニコニコした天使みたいな奴とかそんな感じらしいぞ」


「僕そこまで酷い事してないし…というか返り血なんて浴びながらニコニコしてないですよ?」


「まぁあの試合を見てたやつらが尾ひれや背びれを付けて面白おかしく言ったんだろうよ。まぁクエストの処理はこっちでやっておくぞ、これが今回の依頼金な?…それとお前が帰ってきたら報告して欲しいって人物がいるんだが…」


「ん…それは誰ですか?」


「ああ、ここを収めてるフェルミット侯爵様だな」



(きた…まさかご本人様とは…)



「貴族様?どうしてそんな大物な方が?」


「あぁ、何でも自分が抱えている兵に訓練を施して欲しいらしくてな。指名依頼って形で来てるぞ」



(なるほどね…ギルドを通しての指名依頼ならギルドが間に入っているおかげでクーデターの私兵強化とは思われないって考えか…)



「んー…でも僕なんかがどうしてでしょう?」


「そりゃあ俺をコテンパンにしたからだろ?あの試合も実はフェルミット侯爵家の人間が見ていたらしくてな。それでお前に依頼が来たんだ」


「なるほどー…んーじゃあその依頼受けます。日時は何時ですか?」


「帰ってきたらすぐ来て欲しいそうだぞ。ちなみにギルドの依頼としてはフェルミット侯爵様とチヅルの顔合わせ。そこからは貴族様との直接契約になるらしいからなー、チヅル、お前すごい出世だな!」


「あはは、そうですね!じゃあ、その顔合わせをお願いしても?」


「おう、ギルドの馬車で屋敷まで送ってやる。そこで依頼完了だから俺はすぐにギルドに戻るが…ここに来た時みたいな生意気な口を利くなよ?いくら強くても権力はこえぇからな?」


「ええ、十分気を付けます」


「んじゃ用意してくるから外で待っててくれ。すぐにいく」



 千棘はわかりましたと伝えてギルドの外で待機すると新しく入った情報を頭の中で回し始めた。



(まさか本人が直接接触するとは思わなかったな…クーデターに関してはどう説明するのかも気になるし…かなりいい感じに事が進んでるな…うまく行きすぎている時こそ疑え、しっかりと確認しないとな)



 今一度気を引き締め、ユリスとフェイナに個別で状況を知らせてギルドの馬車を待つ。



 普通の馬車より豪華な馬車で、車体にはギルドのマークが大きく描かれており、この馬車は冒険者ギルドの馬車と一目見てもわかるようになっていた。



 到着した馬車に乗り込むと、正装をしたバンさんが乗っており、「似合ってないですね?」と笑いながら言い、「うるせぇ」と軽口を言い合いながらフェルミット侯爵の屋敷へ馬車が向かい…



(よし、クーデターを未然に防いでやる…!)



 意気込みながら千棘はギルドの馬車に揺られる…。

やっとフェイナが合流しました。

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