死神と白うさぎ
「あ!ウル!見えてきたよ!あれあれ!」
「あら~あれが学術都市ティクスですかぁ…王都とはまた違った雰囲気ですね~」
「王都にもあるんだけど、ここは名前の通り学校が多いんだよー!魔法学校、騎士学校、後は物作りの学校とか、絵を描く学校とかいっぱいなんだよ!後図書館!」
「多いですねぇ…とりあえずこのままフェニックスで近づいてしまうと大騒ぎになるのでこの辺の森で一度降りてアエリアにになりますねぇ」
「りょうかぎゃあああああああ!!!はやいはやい!!!落ちてるううう!!!」
■
「ほんとユリスは面白いわね、いじりがいがあるわ」
「もうリア!私はいじられキャラじゃないの!!」
「そうね、ユリスはユリスってキャラだもの、悪かったわ」
「ふぇ…だーかーらー!いきなり撫でないで!それにユリスってキャラだものって何よ!」
「そのままよー。あ、ほら、門見えてきたから行くわよユリス」
「答えになってないよ!もー!」
検閲している門番にアエリアとユリスはギルドカードを見せて通行料を払い、学術都市ティクスへ入った。
王都は煌びやかで綺麗な家が並んでいたり食べ物の屋台が並んでいたが、ティクスは本と宿屋がメインでいかにも色んな場所からここ学術都市ティクスに学びに来ているという人で溢れていた。
学校には制服の制度があるのか、若い人は同じ服を着ている人が多く、女性はスカート、男性はズボンとなっていて上に着ている上着でどこの学校に通っているかが分かるようになっている。
「あら、結構王都とは違うわね~。ユリスは私と同い年だけれど、学生に混じってもあんまり違和感なさそうね?一緒に制服でも着てみる?」
「制服?まぁー確かに着てみたい気もするよねー。いつもと違う格好って言うのもなんか新鮮だしー」
「案外乗り気ね?じゃあ、ギルドで聞き込みしたら制服でも見に行きましょ」
と、どこの制服がいいなどの会話をしながら冒険者ギルドへやってきた。
冒険者ギルドは筋骨隆々の男達は殆どおらず、どちらかというと若い男女が多くて制服なのを見ると授業の一環等で冒険者に登録して、森や山で魔獣を倒す授業をしているんじゃないかとユリスと話しながらカウンターに行く。
カウンターまでの間にアエリアとユリスはかなり目を引いて「あの美女誰なんだ…」とか「あの隣のウサギさんちっちゃくて可愛い…」という声が聞こえてきてアエリアはいつも通りだったが、ユリスはかなり恥ずかしそうにしていたので軽く頭を撫でて「ふぇ」と鳴かせておいた。
別の意味で顔を真っ赤にさせているユリスの駄々っ子パンチを食らいながらスキンヘッドの強面受付の前まで行って早速噂について聞く。
「ねぇあなた。ここ最近、鉄壁の黒猫って言われている子がいるらしいのだけれど、どこにいるか知らないかしら?」
「ん?あんたらここら辺で見ない顔だな?それに俺に話しかけるって言う時点で他所者だな?」
「質問が多いわよ。そうね、王都から鉄壁の黒猫の話を聞いてここまで来たのよ。パーティーを組みたくてね。それで?その黒猫ちゃんはどこにいるのかしら?」
「あー、あいつなら今依頼中でBランクのパーティーに付き添ってるな」
「あらそう…後どれくらいで帰ってくるのかしら?」
「そりゃわかんねぇな…昨日出ていったばっかだからよ。でもあいつは競争率がたけぇぞ?」
「そりゃそうでしょうね…んまぁいいわ。あの子が居て壊滅するパーティーなんてありゃしないわ。その子の名前は何て言うのかしら?」
「ん?その口ぶりだと知り合いじゃねぇのか?」
「もしかしたら他人の空似って事もあるでしょ?人違いなら恥ずかしいじゃない?」
「そりゃそうか。そいつはウェイナって名前で猫型の獣人族だな」
「黒猫って言うぐらいなんだし髪の色とかも黒なんでしょ?」
「ああ、そうだな。瞳の色は赤だが…お前の知り合いだったか?」
「ええ、99%私の知り合いね。情報ありがとう、しばらくは厄介になるつもりだからまた来るわ」
「おい、ここまで話させたんだから依頼ぐらい受けていったらどうだ?」
「ごめんなさいね、これからこのウサギちゃんと制服デートでもしようと思ってるのよ」
「ウサギだけどうさぎちゃんじゃない!それにデートでもないよ!女の子同士なのに!!」
「あら、私とはデートしたくないのかしら?」
そう言ってユリスの顎を優しく摘みキス出来るぐらいの距離まで顔を近づけるとトマトのように顔を赤くして、
「っ!ちが…そういう意味じゃなくてその…ここ…人多いし…」
「あら?人が少なければいいのかしら?」
「~~~!!」
地団駄を踏み始めたので手を放した。
「という事なので依頼はまた今度受けるわね」
「何がという事なのかがわからんが…あんま嬢ちゃんをいじめてやるなよ…きっちりフォローしておけ…」
「ええ、それはもちろんよ。ほらユリスいくわよ」
「ふんっ!」
そっぽ向きながらも後ろに付いてくるユリスを確認して一緒にギルドを出てユリスに、
「さっきはごめんなさいね。ちょっと黒猫の事を確認した途端、ギルドの中で視線を感じたからちょっとふざけてしまったわ」
「…視線ならずっとあったよ…」
「そういう視線じゃなくて…そうね、簡単に言えば敵意かしら?」
「敵意…?…黒猫に近づこうとしているのを良く思っていないとか…?」
「そうね…あの子が誰かに恨みを買ったりとかそういうのは無いとは思うけれど…逆恨みって言う事もあるし、まぁどっちにしろ黒猫は私の探している黒猫でほぼ間違いないと思うわ」
「結構順調だね?」
「ええ、怖いほどにね。…まだ視線を感じるし相手の出方でも見ようかしら…とりあえずユリス、宿屋でも先に決めてから観光でもしましょ」
ユリスの提案で宿探しを任せたがご飯の事しか考えておらず、お風呂の事が頭から抜けていたのでお風呂付きのちょっと高めの宿屋にチェックインしてダミーの荷物を部屋に置いて二人で服屋へ行き、制服の試着をする。
「ユリス…あなた制服滅茶苦茶似合うわね…」
「え、そう?」
赤いブレザーに紺色のチェックスカート、足には普段履いていない紺色のソックスに革靴で耳の根本には可愛らしいシュシュの様なものを付けている。
「…犯罪的に似合ってるわ」
「え?何も犯罪なんてしてないよ?」
「まぁ…私はあんまり似合わないわね…」
「んーリアは身長高いからな~、あ!同じ赤じゃなくてこの白のブレザーとかどう?スカートは長くして、髪もせっかくだし…こう!」
ユリスの手腕により白のブレザーに白のロングスカート、髪は色が分かれている所から二つ結びにしておさげ状態になり、いつもの改造シスター服と趣が全く逆になったアエリアははっきり言って深窓の令嬢のようになっていた。
「うん!リアはこっちの方が似合ってるね!赤は騎士学校、白は魔法学校でちゃんと分かれてるしね!」
「意外とユリスはお洒落さんなのね?いつも冒険者の格好しか見てなかったからわからなかったわ」
「まぁあの格好が動きやすいからね~」
「なるほどね、じゃあ制服も決まったしそろそろ観光しましょうか」
「賛成~!」
そうしてアエリアとユリスは鉄壁の黒猫と呼ばれるウェイナが返って来るまでの間、初めて来た学術都市ティクスを観光し始める…。
■
しばらくの間、二人で出店で買い食いや図書館に行ったりして時間を潰してそろそろ宿に帰ろうとした時、ずっとアエリアとユリスに視線を向けていた人物が物陰から出てきた。
「あら?さっきから随分と熱い視線を向けていると思ったらそちらから来るなんて…誰かしら?」
「お前に名乗る名などない…何故黒猫を探っている…」
「別に?知り合いに似たような人がいるから同一人物か確かめていただけよ。何か問題があるのかしら?」
「何もお前に教える事などない、動けなくして連れていく」
「っ!」
その言葉でユリスは武器に手をかけるが、動かないように手を広げてユリスを止める。
「ちょ!リア!?何で止めるの!?」
「こっちの質問に答えてもらってないのにこのままはい、さよならはないでしょう?」
「そうだけど、向こうはやる気だよ!?」
「ええ、私もやる気よ。そこの不審者、今から捕まえて情報吐かせてあげるから感謝しなさい?」
「黙れ。お前に喋る事など何もない」
「あっそ」
そう言い放ち、不審者は剣を抜いて掌を突き出し魔法を発動しようとするがアエリアが指をパチンと鳴らす。
「ぐっ!!」
「もう動けないでしょ?声を少し出せた事は褒めてあげるけれど、それだけね。ユリスはそのまま警戒していてちょうだい。気配はないけれど、もしかしたら遠距離からの攻撃があるかもしれないから」
ライゼンですら指一本動かす事が出来なかった複合魔法『ショック』で完全に行動不能になった男を見下ろしつつ、
「一瞬…わかったリア気を付けて」
「ええ。…さてと、ここで口を割らせるのは誰かの目に付くかもしれないれないわね…何処か誰もいない建物…あそこの建物でいいかしらね」
無慈悲な手を装着しながら不審者が持っていた剣を握り砕き、硬直している不審者を肩に担いでユリスに後ろを警戒してもらいつつ誰もいない廃屋に入り、不審者の纏っているフードを引き裂いて顔を見る。
「ふーん…どうやら雇われただけのただの冒険者ってわけじゃなさそうね?」
「…」
「だんまりってわけね?悲鳴をユリスに聞かせるわけにもいかないから一旦あんたの声が届かないようにさせてもらうから、途中で話したくなってもしばらくは止まらないからそのつもりでいてちょうだいね?」
風魔法で男の不審者が悲鳴を上げても大丈夫なように音を遮ると警戒を続けてくれているユリスを見た。
「さて、ユリス。今から私がいいって言うまで絶対にこっち向かないでちょうだいね?見たら多分心に傷が残るわ」
「私そこまで軟じゃないよ?」
「腕落としてまた生やして落としたりしても大丈夫なの?」
「私絶対に見ない!!」
「よろしい。こっちの音もユリスに聞こえないようにしておくけれど、何かあったら聞こえる様にしておくからこっちを見ない状態で叫んでちょうだい。…さてと、不審者さん?こっちの声は聞こえているはずよね。今からちょーっとお話しやすくしてあげるから覚悟しなさい?意識も飛ばさせないし…おっと!それはダメよ?口の中に仕込んだ毒薬で死のうなんてそんな楽な方法は許さないわ」
口の中に入れていた毒薬を麻痺が解けた瞬間に噛み砕こうとしていた為、口の中に歯を折りながら拳を突っ込んで毒薬を取り上げる。
そして明らかに表情の変わった不審者ににっこりと微笑んで身体に聞き始めた…。
■
「ふーん…成程ねぇ…で?どこまで本当なの?その話は」
「全部本当です…」
「そうなの?まだ隠している事があるんじゃない?もう一回潰してあげようかしら?」
「ほ、本当に本当だ!!命に誓って本当だ!」
「さっきあんた毒で死のうとしたじゃない。そんな安っぽい命に誓ってもらっても困るわ…そうね、あんたのここにでも誓っときなさい」
そう言って男の股に足を振り下ろし寸止めする。
「ほほほほ本当だ!男に誓って!!!だからもうやめてくれ…」
ボロボロに泣き崩れ始めたので身体の傷を綺麗さっぱり治してユリスに伝える。
「ユリス、お疲れ様。そっちは大丈夫そう?」
「リア…すごい泣いてるね…っとこっちは大丈夫だよ」
「ええ、男には男にしかわからない悲しみがあるのよきっと。それより少し大変なことになったわ。少しノエルと話さないといけなくなったから待ってちょうだいね」
「ノエル…うん、わかった」
そう言うとユリスは男の近くに行き、自殺しないように見張り始めたので耳に付けた魔道具でノエルに話しかける。
『ノエル、リアよ。聞こえるかしら?』
『リア?あれ、これで聞こえるかしら…リア?』
『ええ、聞こえてるわよノエル。少し厄介な事になったから伝えておきたいことがあるの。まず学術都市ティクスを収めている貴族のフェルミット侯爵家って言うのがクーデターを起こそうとしているらしいのよ』
『え!?なんですって!?』
『最後まで一旦話すから落ち着いて聞いてちょうだい。そのフェルミット現当主の執事二人のうち一人が今私とユリスの足元に転がっているの。私の仲間探しで黒猫の話をした辺りからずっとつけられていて、さっき襲撃されたから情報を吐かせたわ。私の魔道具で会話の内容と映像は記録しているから証拠にはなると思うし、心配ならまだ生かしておいてるから王都まで連れていけるけれど、この執事の身柄欲しいかしら?』
『ちょっと処理が追い付かないわ…とりあえずフェルミット侯爵がクーデターを起こそうとしている。あなたは執事の襲撃を受けて逆に捕らえて情報を引き出した。でも何故黒猫からここまでの話になるのかしら?』
『私兵として囲おうとしたらしいわ。それで黒猫にクーデターを伏せて誘ったけれど拒否され、交渉材料として身内を捕まえてしようとしたらしいわ。まぁ相手が悪かったわ本当に』
『フェルミット侯爵には同情しますが…わかったわ。そうしたら一度その執事を連れてきてもらえるかしら?こちらで処理はしておくわ。どのくらいかかりそうかしら?2日ぐらい?』
『いえ、転移すれば一瞬だわ』
『え!?転移!?…そうよね十英傑だものね…』
『そこまで難しくないと思うけれどね。とりあえず今から送るけどシエルは大丈夫かしら?』
『シエル?今は入浴の時間だからいないわよ?』
『わかったわ。ノエルの寝室に転移するから待っていてちょうだい』
…
「ユリス。今から一旦王都に転移してその執事をノエルに預けてくるから1分程待っててくれるかしら?」
「ん、了解リア。とりあえず目隠しとか色々しといたよ」
「助かるわ、すぐ戻るから待っていてちょうだい」
不審者の方に手を触れ、ノエルの寝室をイメージして上級空間魔法で長距離転移をするとノエルに執事と映像と音声を記録している魔道具を渡し、もう一度廃屋へ転移した。
「お待たせユリス。それじゃ一旦宿に戻って休みましょうか。明日は一旦千弦で行動するからそのつもりでいてちょうだい」
「ん。ねぇ…これで終わりだと思う?」
「正直終わりだとは思わないわ。今回執事を撃退した事は相手にも伝わっているつもりで動くわ。明日はユリスにも変装して貰わないといけないから気を付けてね?」
「リアだけ変わってても私がそのままだとバレちゃうもんね」
「そういう事。じゃあ宿屋に戻るわよユリス」
「りょーかいリア。何食べようかな~」
と、廃屋から出て宿屋の料理の話などをしながら宿屋へ帰っていく。
■
「ふー!これでクエストしゅーりょー!」
「ああ、助かったぞウェイナ」
「私に任せとけば傷一つ付かないよ!」
「本当にすごいわ…私達とはやっぱりパーティー組みたくないかしら…?」
「ん~~組みたくないってわけじゃないよ?だけど待ってる人がいるんだよね~~」
「ほほ~~?ウェイナの好きな人か?」
「ん~そんなんじゃないけど…どっちかというともう家族みたいな人だよ。私の…んーや、私達の大切な人だよ!ほら、みんな暗くならないうちに山降りて帰ろ~!!」
険しい山の中で一人の黒猫が昔の仲間に想い馳せる…。




