天使を超えた天使
「千棘すみません…私じゃどうしようもなかったです…」
「んーん、逆にこっちこそごめんね?クラウディアパレスでの扱いを知ってたのにも関わらず…」
「いえ…自分で立候補した事ですし千棘は気にしないでください。…それで、クラウディアパレスをどうやって救うんです?」
セッテと那奈のおかげでクラウディアパレスを救う為の道が見えた次の日…千棘は自室にピュリエットを招いて昨日の説明をする。
「昨日セッテと母さんのおかげで翼人族達が天使の使いって言われている事を思い出したんだ。そして…」
千棘は隣に座っている天使のメイド…エルを見ながら言葉を続ける。
「うちには実際に天使のエルがいる。だからエルにクラウディアパレスを救ってもらおうと思うんだ」
「微力ではございますが、皆様の役に立てるよう努めさせて頂きます」
するとピュリエットは両手で頭を抱え、盛大な溜め息を吐きながら口を開く。
「はぁ…私とした事が…確かに翼人族は天使の使いだと言われていましたね…千棘達と合流してから日が浅かったのでエルが天使だという事をすっかり失念していました…」
「あはは…僕も昨日まですっかり忘れてたよ。それでピュリエットが何でクラウディアパレスで村八分状態なのかもわかったんだ」
「それは私の翼が黒いからですよね?」
「うん。翼人族達は神が定めた決まりで絶対に白い翼でしか生まれないらしいんだ。翼が黒くなる原因…それは堕天したと考えられているからピュリエットを爪弾きにしているんだって」
「え…堕天…ですか?」
千棘から言われた堕天という言葉に目を丸くしながら呟く様に言葉を漏らしたピュリエットは、今まで同族である翼人族達に言われた事を思い出していく。
「…確かに。私が今まで他の翼人族達に言われた罵声を堕天しているという状況で当て嵌めていけば全て納得がいきます。ですが、地上で集めた情報では翼人族の堕天について記された文献は見つかりませんでしたね…」
「多分それは神が絶対に白い翼でしか生まれないというルールを作ったからじゃないかな?というより、本当の天使じゃないんだから堕天すると言うのもおかしな話じゃない?」
「そうですね…一応聖職者が悪の道に落ちるのも堕天と言われていますが、そうなると翼人族は何をしたら堕天と認識されるのかが曖昧ですね」
「んー…安直だけど天使の使いだから悪魔の使いをしたとか?」
「安直ですね…まぁ、こればっかりはわかりませんし、これでやっと私がずっと疑問に思っていた事がやっと解消されました…ありがとうございます、千棘」
「これに関してはセッテに聞かなくちゃわからなかったよ」
千棘とピュリエットは乾いた笑みを浮かべながらエルが入れてくれた紅茶に口を付けるが、ふと千棘の脳裏に根本的な疑問が思い浮かぶ。
「あれ?そもそも何でユースティスはピュリエットに力を貸しているの?」
そう問われたピュリエットは千棘の言っている意味が分からずに目を丸くしながら問い返す。
「えっと…それはどういう意味ですか?」
「まず前提の話をするね?翼人族の間だけで語られている堕天というものがあって、そうなってしまった者は黒い翼になる…それは翼人族からしたらとても忌むべきものとされているからピュリエットは命を救ったのにも関わらず、翼人族から爪弾きにされているはずだ。…命を救われたのにも関わらずだよ?なのに何でユースティスは堕天した翼人族と同じ特徴を持つ黒い翼のピュリエットに力を貸しているんだ?それにユースティスは翼人族、なら堕天の事を知らないはずはない…なのに唯一力を貸してる…疑問に思わない?」
「それは…」
千棘の疑問を聞いたピュリエットは何故、ユースティスが力を貸してくれているのか全く見当がつかず、それはと言ってから言葉が続く事は無かった。
「悪く言うつもりはないんだけど、ユースティスはピュリエットに何か隠し事をしている。…もちろん本当にユースティスが心からピュリエットに感謝して、力になりたいって純粋に思っているかもしれないし、堕天の事を伝えてしまえば傷つけるかも知れないと思って黙っているのかもしれない…が、もし…悪意を『やめてください!』…ごめん。ただの憶測で言っていい事じゃないね…今のは忘れて」
それ以上は聞きたくないとばかりに声を荒げたピュリエットに謝り、憶測でピュリエットの仲間を貶めた自分に苛立ちながらも千棘は思う。
いくら仲間だからと言って許せる事と許せない事はある…その許せない事を今自分が大切な仲間にしてしまったと、きっとピュリエットにとってユースティスはかけがえのない人物なのだろうと。
感情的に声を上げてしまったピュリエットはハッと我に返り、千棘の悔いる様な表情を見て慌てながら口を開く。
「あ…いえ、こちらもすみませんでした…つい感情的になって声が大きくなりました」
「…それでいいんだよ。仲間を貶されて怒らない奴なんて僕達の仲間にはいない。僕はまだユースティスっていう人物が分からないからさっきみたいな事を言っちゃったけど、ピュリエットがそこまで声を荒げるならいい人なんだね?」
「確かに知らないなら警戒するのも当たり前ですから千棘も気にしないでください。…ユースティスは…ちょっと我儘な所はありますが、とてもいい人ですよ」
ユースティスという存在を思いながら笑みを浮かべたピュリエットは誰がどう見ても惚れているんだとわかる程素敵な表情をしており、その表情を見た千棘とエルは微笑みながら紅茶に口を付ける。
「そっか。…じゃあ、パパッとクラウディアパレスを救いにいきますかー!エル?メイド服だと威厳が出ないから着替えてきてくれる?後、僕の代わりで『呼びました?お兄ちゃん?』…とりあえず着替えてきてくれる?」
「かしこまりました」
まだ呼んですらいないのに時間を止めて突然隣に現れた様に装い、自分の事をお兄ちゃんと呼ぶ声を無視しながら千棘はエルに着替える様伝え、対面で驚いているピュリエットに新しく出来た双子の妹を紹介する。
「え…千棘が二人…いや、お兄ちゃん…?どういう事です?」
「ごめんね?まぁ僕の妹というキャラ設定のセッテだよ」
「ピュリエット君お久しぶりですね?」
「女神セッテ…お、お久しぶりです…えっと…」
「うん。その先の疑問は分かる。簡単に言うと、一から自分の身体を作るのが面倒くさいから僕と同じ身体を作った。そして今後、僕の影武者として振舞ってくれるらしい」
「千弦さん?それだと私が面倒くさがりみたいじゃないですか。ちゃんと説明しないとピュリエット君に誤解されちゃいます」
「…大丈夫です。何となく状況はわかったので…という事は、千棘はアエリアかコルの身体でいくんですか?」
「うん。アエリアで熾天使になればとは思ったんだけど、エルがいるからコルでいくつもり。もしかしたら人手が急に必要になるかもしれないし、それなら召喚できるコルが丁度いいしね。後…うちのフェニックスがコウちゃんに会わないと拗ねちゃうからさ…」
「ああ、そう言う事ですか。わかりました」
そう伝えた後、千棘はコルをイメージして姿を変え、ピュリエットは蒼い魔法陣を空中に描き、蒼いフェニックスのコウノトリを召喚する。
魔法陣から発せられる光が収まるとそこには蒼い髪をツインテールにして手には蒼いフェニックスのぬいぐるみ、眼の色はピュリエットと同じ薄い水色と薄い黄色のオッドアイの幼女が現れる。
「ん…あれ?千棘さんとコルさんが一緒にいる…?何で?」
「やぁコウちゃん。僕が千棘だよ?」
千棘になりきったセッテは紳士な手つきで幼女のコウノトリの手を取りながら自己紹介をするが…
「誰こいつ?絶対に千棘さんじゃない」
「コウちゃん…誰こいつはダメですよ?この千棘は女神セッテです」
「女神セッテ…ん、よろしくです。でも千棘さんの真似は似てないです」
「あらぁ…手厳しいんですね?」
「あらぁ…じゃないと思うんですよぉ?私はそんな事しませんのでぇ…」
千棘とそっくりな身体で変な事をしだしたセッテに首を横に振りながらコルは赤い魔法陣を空中に描き、赤いフェニックスを召喚する。
赤い魔法陣から発せられる光が収まると幼女のコウノトリとは対照的な赤いツインテールに赤い両眼、貴族令嬢の様な凛々しい女性姿のフェニックスが現れ、豊かな胸でコウノトリを抱きしめる。
「会いたかったですわ!」
「う…お姉ちゃん苦しい…」
不死鳥の姉は不死鳥の妹との再会に言葉通り胸を躍らせるが、その踊る胸に包まれている妹は苦しそうに床に付かない足をバタバタさせていた。
「ちょっと二人でお話しますわ!お母様またですわ!」
「う、ピュリエットたす」
フェニックスはコルの返答も待たずに胸に挟んだコウノトリをぶらぶらと揺らしながら連れていき、連行されたコウノトリの救援要請は閉じる部屋の扉に阻まれてしまう。
そんな慌ただしい不死鳥姉妹を微笑ましいく見送ったコルとピュリエットは、入れ替わりで部屋に入ってきたエルの姿に視線を奪われる。
「千棘様…コル様、ご指示通り着替えてまいりました。こちらの服で不備はございませんか?」
肩から豊かな胸元まで露出したオフショルダーの白い短めのワンピースを身に纏い、ガラスの靴を履いているのかと思える綺麗なヒール、アクセントで右太ももと左足首にあしらわれた白いフリルのガーターリング、そして腕にはエルの頭にある天使の輪をモチーフとした金色の細いブレスレットが腕に通されており、その場で一回転したエルは天使を超えたとしか言いようのない程天使だった。
「あらあらエルちゃんとても似合ってますね?天使を通り越して女神みたいですが私よ『ええ、とっても綺麗ですねぇ…』…千弦さん?」
「確かに天使を超えてるとしか言い表せないですね…」
「…お褒め頂きありがとうございます」
「こ、これが天使スマイル…」
「女神スマイルはいりますか…?」
ちょっと恥ずかしがりながらはにかんだエルの表情にやられたコルとピュリエットは口を揃えるが、セッテだけは千棘の顔で女神スマイル…と構って欲しそうにしていた。
「セッテは一旦落ち着いてくださいねぇ…んんっ…現状も知っておきたいのでエルはこの変装の腕輪で天使の輪と翼を隠しておいてくださいねぇ」
「かしこまりました」
「ピュリエットは転移の魔道具の準備を~」
「わかりました」
「セッテはぁ…そのお胸を何とか隠して頂いてもぉ?」
「仕方ありませんね…女神バストを隠してしまうのは忍びないのですが…仕方ありませんね…」
「二度も言わなくていいですよぉ…」
エルはコルから受け取った腕輪を嵌め、天使の輪と翼が消えた事を確認してから一歩下がってコルの後ろに侍り、ピュリエットは再会した時に渡した転移の魔道具をインベントリから出して魔力を籠め始め、セッテは渋々と言った表情で指を軽く鳴らして何も無い所から魔王っぽい黒のマントを出して身を隠したのを確認したコルは頬を軽く叩いてやる気を出す。
「よし…ではこれからクラウディアパレスを救いにいきますよぉ!!」
皆が笑顔で頷くと、ピュリエットが転移の魔道具に魔力を籠め終わり、音もなくコルの自室から4人の姿が消える。
「お母様!!わたくし達もいきま…すわ?」
「お姉ちゃん…あたし達置いてかれたけど…?」
クラウディアパレスを救うという掛け声が聞こえた不死鳥姉妹は急いで部屋に戻ったが、そこには主であるコルとピュリエットの姿はなかった…。




