泥棒オオカミ、腐れオオカミ
「…到着です。ここは私が薬品の調合等をしている部屋ですので気にせずに寛いでください」
ピュリエットの転移でコルの居室からクラウディアパレスにあるピュリエットの居室に転移したコル、セッテ、エルはソファーに腰を掛けて部屋を見渡す。
「やっぱり情報を集めるとこういう部屋になりますよねぇ」
「そうですね。一応、クラウディアパレスの書籍関連は全てここにありますので本棚だらけになっちゃいますね」
薬品関連の品が置かれているスペースは棚に置き換わっているが、それ以外の壁には本棚がびっしり並んでソファーのすぐ後ろにも本棚…小型の図書館を思わせるピュリエットの居室で細かい打ち合わせをし始める。
「ではぁ…まず翼人族の方には私達が興す国の国民になってもらいますぅ。ですが現状は天使の不在によって翼人族の方々は存在意義を見失い、クラウディアパレスが衰退している状況ですぅ。ですので今回は天使のエルが翼人族の方々を導く先導者として活躍するぅ…というのが大まかな内容ですが皆さんの意見はありますかぁ?」
「異論ございません」
「ええ、私も特に問題ありません」
「…」
エルとピュリエットはコルの言葉に頷くが、セッテだけはソファーの上で傍観者の様にコル達のやり取りを見守っていた。
それを見たコルは今回セッテは傍観に徹するのだろうと思い、そのままエルとピュリエットに続きを語る。
「正直今回に関してはエルの存在が答えそのものですので難しい事になるとは思えません~。手早く済ませ『エト?ここにいるの?』…?」
コルの言葉を遮る様にピュリエットの居室の扉から女性の声が聞こえ、自然と部屋にいる4人が扉に視線を向けると扉が開いて声の主の姿が露になっていく。
「さっき呼びに来た時は部屋に…っ!?」
声の主…ピュリエットの事をエトと呼ぶ白鳥の様な白い翼に金の糸を思わせる髪を綺麗に切り揃えた女性は、緑色の目を鋭くしながらピュリエット以外の3人を睨みつけていつでも攻撃出来る様に身構える。
「エト!?こいつらは誰なの!?何で翼人族じゃない奴らが…!!」
「ユースティス落ち着いてください…彼女達は『私の親友達』です」
「っ!?…こいつらが…!」
ピュリエットの『私の親友達』という言葉を聞いた瞬間、ユースティスは警戒の色と合わせて憎しみ、嫌悪、侮蔑…ありとあらゆる負の感情を瞳に宿し、射殺さんばかりにコル達を睨みつける。
ここに来る前…自室でピュリエットがこの世界に転移してからずっと手助けをしてくれたユースティスを疑ってしまったコルはもう二度と仲間を疑わない気持ちでこれから起きる事象も読まず、明らかに雰囲気が変わったユースティスに気が付きながらもゆっくり近づき、手を差し出しながら言葉をかける。
「貴女がユースティスさんなんですねぇ。私はコ『私に近づくな泥棒オオカミ!!!!!』うっ!?」
コルは偽名も使わずに自己紹介をしようとしたがユースティスは差し出されたコルの手を懐から取り出したナイフで切りつけ、コルを罵倒しながら更に強い負の視線をコルに向ける。
「ゆ、ユースティス!?貴女は何を『こ、コル様!?…貴様…!!!!!』…!?」
友好的に挨拶を交わそうとしたコルの手をナイフで切りつけたという事実にピュリエットは驚き、インベントリからポーションを取り出して駆けつけようとしたが、自分の仕える主が傷つけられた事に激怒したエルが一瞬でユースティスとの距離を詰め、ナイフを持った手と華奢な首を鷲掴みにして本棚へ叩きつける。
「ぐあっ!?は、はや…っ!?」
「…貴様!!わたくしの前でコル様を傷つける事がどういう事なのか!!!貴様の死を持って理解させてやる!!!!!!!楽に死ねると『エル!手を離しなさい!』…何故お止めになるのですコル様!!!!この駄鳥はコル様の手を…!!!!!」
「離しなさいエル!!」
内から湧き出る怒りをそのままにエルは口から泡を出しているユースティスの首をへし折る勢いでギリギリと締め付けるが、コルの鋭い視線と声に諫められてしまう。
「楽に死ねると思うなよ…!!!!」
「いいから離しなさいエル!!命令ですよ!!」
それでもユースティスに制裁を加えようとしていたエルに力強く命令をしたコルは、怒りで鬼の様な形相を浮かべているエルが本当にゆっくりと吊り上げたユースティスを下ろしているのを見て一安心しかけた時…
「っ…かしこまりました…コル様の恩情に『げほっ!!…黙れ腐れオオカミ!!!!』っ!!!!」
首の拘束が緩んだ事で声を上げれる様になったユースティスは口元に付いた泡を気にもせずコルに向かって罵声を浴びせた途端、エルは何も言わずにユースティスの華奢な首の骨をへし折り、声にすらなっていない音を口から出したユースティスをごみを捨てる様に本棚に叩きつけてしまう。
「え、エル!!!貴女何をして…ピュリエット!!!すぐにユースティスを治しなさい!!」
「ゆ、ユースティス!!!!」
即死はしていないが明らかに数秒後には息絶えてしまう状態のユースティスを見たコルは呆気に取られていたピュリエットへ力強く命令し、怒りに肩を震わせているエルの両腕を掴んで声を荒げる。
「エル!!!貴女は何をしているんですか!?」
「っ…申し訳ございません…コル様を罵倒する声に我を忘れてしまい…」
「だからってやりすぎです!!…こんな事になるなら…いえ、もう疑わないと決めました。今すぐ時間を巻きも…!?」
コルはたった一瞬で人が死にかける状態にまで状況が変わってしまった事を嘆いて時間を巻き戻そうとした時、この状況になっても身動き一つ取らないセッテに気付いて声を上げる。
「まさかセッテ!!貴女は最初からわかっていたから傍観者として何も言わなかったのですか!?」
するとセッテは申し訳なさそうな表情を浮かべながら口を開くが、語られた言葉にコルだけは仕方ないと理解してしまう。
「すみません、千弦さん。…これが最善の事象なんです」
「っ!?………わかりました…でも、今度からはちゃんと初めに言ってくださいね?いくらその方が面白いからとか言ったら…」
「わかっています。私もこんな時まで面白さを求めるわけではありませんよ?…ですが、私は千弦さんよりももっと先の事象を読み取っています。故に先に伝えていたら最善の事象にはなりえません。だからこれからもそう言う事がありますので先にお伝えするのは出来ません」
「…そうですか」
それ以降一言も喋ろうとしないセッテからコルは視線を切り、明らかに自分よりも先を見据えているセッテの言葉を信じて時間を巻き戻す事を止め、ユースティスに何度も手を伸ばしては引っ込めているピュリエットの元まで行き状況を確認する。
「ピュリエット…ユースティスは大丈夫ですか?」
「ええ…即死ではなかったので治せました…が、今は意識がない状態です。すみません…ユースティスは決してあんな事をする様な人じゃ…」
そうユースティスを庇うピュリエットの表情は何が起きているのかわからないと言ったほど弱々しい表情でコルに視線を向けるが、ユースティスが傷つけたコルの手から夥しい量の血が流れているのを見て否が応でも理解してしまう。
「…すみません…やっぱりコルが言った通り…ユースティスは何か私に隠し事をしていた…本当に申し訳ありません…私があの時、コルの話を感情的にならずに客観的に聞いていればこんな事にならなかったはずなのに…」
ユースティスに伸ばしていた腕を力なく床に垂らし、コルが怪我をしたのは自分のせいだと責めているピュリエットの頭をコルは優しく撫でながら口を開く。
「…別にいいですよぉ。見た目は凄く痛々しいですがぁ…ほら、簡単に治せるんですし気にしないでください~」
そう言いながらインベントリからポーションを取り出して血を滴らせている手の傷を癒しながらピュリエットにおどけて見せるが、それでもピュリエットの表情が晴れる事はなかった。
「…いえ…確かに傷はそうでしょうが…信頼は傷付きました…コルは私の言葉でユースティスを信じてくれた…なのにユースティスは…」
「そこから先は言わなくていいですよぉ。…このまま外に出ていこうかと思いましたがぁ…もし私達に対する反応がユースティスの反応と同じだと厄介ですので目を覚ますまで待機しましょう~」
「そう…ですね」
床で横たわるユースティスを抱いたピュリエットは晴れない表情のままソファーの上に寝かし、インベントリから縄の様な物を取り出して拘束しようとするが…
「ピュリエット?ユースティスは拘束しなくていいですよぉ。…本当はそんな事をしたくないのでしょ~?」
「コル…でも、ユースティスはコルを傷つけてしまった。ならこうするしかない…」
「…あ、そう言う事ですかぁ…ピュリエットは好意を寄せている女性を人前で拘束する趣味があるんですかぁ……人の趣味には何も言いたくありませんがぁ…それだけはやめた方がいいと思いますよぉ?」
「なっ!?こ、コル!!ちょっと待ってください!私は別に好意なんて…」
「好意を抱いてる事ぐらい誰でもわかりますよぉ?…まぁ、私達に嘘を吐きたいんだったら止めませんがぁ?」
「……わかりました、ありがとうございますコル…」
突然人が変わった様にコルを傷つけたユースティスを見つめるピュリエットの表情が先程よりはよくなった事を確認したコルは、もう一人絶望という言葉がぴったり合う表情を浮かべているエルを見つめながら優しく頬を包み込む。
「コル様…申し訳ございません…」
「……私の為に怒ってくれた事は素直に嬉しかったですし、貴女の立場からしたらさっきの行動が最善なのはわかっています。…ですが、命まで奪うのはやりすぎです。そこだけ反省してください…それ以外の事についてはありがとうね?エル」
「コル様…」
少しだけ笑顔になったエルを抱きしめたコルはソファーに身を沈め、小さく溜め息を吐きながら微笑ましそうに見ているセッテを横目に見ながら自分の身を守る為の魔法陣を空中に描いていく。
「はぁ…セッテは楽しそうで何よりですぅ……来てください、リヴァイアサン」
コルがそう呟くと空中にかかれた無色の魔法陣が深い海の様な色に変わり、バハムートを召喚する時と同じぐらいの莫大な魔力が身体が抜けていく感覚がコルを襲う。
するとその魔法陣から水色の髪を持つ女性がひょっこりを顔を覗かせ、楽しそうな笑みを浮かべながら魔法陣から這い出てきて口を開く。
「やっほーママ。何かあったのー?」
召喚されたリヴァイアサンは青い竜の尻尾を振りながらソファーに腰かけているコルの後ろに回り、後ろから抱き着く様にしな垂れかかる。
「一応自分で身が守れるように貴女の力を貸して欲しいのですがぁ…いいですかぁ?」
「うん、全然いーよー?でも私達契約して間もないから一つになれるかわからないよー?」
「そこに関しては心配してませんよぉ。私達は強い絆で結ばれているって信じてますからぁ」
そう言いながらコルは手を伸ばして後ろから抱き着いてきているリヴァイアサンの頭を撫でるとリヴァイアサンは嬉しさを表現する様に青い竜の尻尾をぶんぶん振り、コルへ頬ずりをしながら笑みを浮かべる。
「ふーん?そんなに私の事を信頼してくれてるんだねー?じゃぁ獣神化だっけー?さっさとしちゃおー?ほいっ」
「わっ!?…もう、びっくりさせないでください~」
「ごめんねーママ」
リヴァイアサンは音もなくコルの後ろから跳ねてソファーに座るコルに跨って驚いているコルの頬を両手で優しく挟みながら謝り、コルも同じ様にリヴァイアサンの頬を両手で優しく包んで問いかける。
「私の力になってくれますか?リヴァイアサン」
「うん。私はママの力で全てを飲み込む海。『私達』はどんな事でも飲み込んでママを助けてあげる」
コルとリヴァイアサンが言葉を交わし、リヴァイアサンは眠る様に目を閉じてコルは眠る我が子の額に唇を重ねる。
するとコルに覆いかぶさっていた長身の女性が水色の光の粒子となってコルの身体に溶け込むと、コルの頭と腰からリヴァイアサンと同じ青い竜の角と竜の尻尾が現れ、水色だった髪色は深い海の青に変わっていく。
「んーっ!やっぱり一体化出来たねー?リヴァイアサン聞こえるー?」
『ん、バッチリ聞こえるよー?すごいねーママ』
「まぁ私達だしねー。出来て当たり前じゃんー」
性格もすっかりリヴァイアサンに引っ張られたコルは胸の内にいるリヴァイアサンの存在を確かめながらソファーから立ち上がり、リヴァイアサンと一体化した身体の調子を確かめていく。
「ふーん?ほとんどバハムートと変わらない感じだねー…翼はないんだー?」
『私は翼生えてないからねー。でもまぁ、他の神龍達とそこまで大きく違わないよー』
「ふーん。まぁしばらくよろしくねーリヴァイアサン」
『はーい』
身体の調子も確かめ終わったコルはもう一度ソファーに腰を掛けてユースティスが目を覚ますのを待とうとすると、対面に目を両手で塞いだピュリエットを見つけて小首を傾げながら何故そんな事をしているのかを問う。
「んー?ピュリは何で目ー閉じてんのー?」
「いやコル…自分の服がどうなっているのか気付かないんですか…?」
「ん?服ー?…ありゃ、なんか動き辛いと思ったらこう言う事ねー。バハムートの時は服も変わってたから気付かなかったなー」
ピュリエットの言葉でもう一度自分の身体を見たコルは赤ずきんの様な赤いエプロンドレスが豊満な胸ではち切れそうになっているのと、身長が伸びたせいで膝下までのスカートがすっかりミニスカートになっている服に気付いてインベントリの中から黒いスーツを取り出し、無防備に目を塞いでいるピュリエットの前で着替えを始める。
「コル…まさかここで着替えているんですか…?」
「んー?めんどくさいし別にいいでしょー?てか、ピュリがそうやってちゃんと塞いでるってわかってるからだけどねー」
「はぁ…リヴァイアサンの性格に引っ張られ過ぎですよ…」
溜め息を吐き、コルが服を着替えている衣擦れの音を聞いていたピュリエットは別の所から呻き声が聞こえ、今の状況はとても不味いと思い心臓が跳ねあがる。
「うっ…げほっ…あれ…私死んだはずじゃ…」
「ゆ、ユースティス!!まずは落ち着いてください!!ちゃんと説明をするので絶対に落ち着いてください!!」
「…え、エト?何で目なんか塞いで『んー?ユースティス起きたのー?』…!?」
「あ、やっと起きたんだねー。今度はちゃんと話を聞いてもらうからねー?」
ユースティスは首の骨を折られて意識が無くなる前にはいなかった新しい女がピュリエットの前で裸を晒して着替えているという状況を瞬時に理解し、瞬間湯沸かし器よりも早く怒りを沸かせる。
「…エト!!!!私が意識ない間に別の女を裸にしていたの!!!???」
「ちょっと待ってくださいユースティス!!これは誤解です!!いいから落ち着いてください!!!」
「何をどう待つのよ!!!エト!!ちゃんと私の目を見て言いなさいよ!!!」
「だから待ってくださいユースティス!!今目を開けたら見えてしまうんですよ!!落ち着いてください!!」
「もう!!…こうなったら…!!」
目を合わせないピュリエットに苛立ったユースティスは着替え終わったコルに先程と同じ負の全てを籠めた視線を向けながら胸の谷間から奪われていないナイフと取り出し、コル達が耳を疑うような言葉を吐き捨てる。
「エトを堕天させたお前達は私が殺す!!!」
「「「はっ!?」」」
「ふふふ…」
ユースティスの言葉にコル、ピュリエット、エルは驚きの声を上げるが、傍観者に徹しているセッテだけは愉快そうに笑ってその光景を見つめていた…。




