愛くるしい仲間達
「ほらよちー助、新しいウルカリバーだ」
「ウルカリバーって…別に僕が名付けたわけじゃないんだけど…ありがとユーラン」
帝国と同盟を組み、親交試合をしてから一週間…千棘はユーランと一緒に屋敷の地下に設置されている工房にいた。
フィオと戦った第三試合…信仁から受け取っていたお守りのおかげで何とか勝利した千棘だったが、ほぼ愛剣と言っていい程の黄金の剣がフィオに斬られ、地味にへこんでいた千棘はユーランに新しい黄金の剣…ウルカリバーを作ってもらっていた。
「うん…いい重さだし、本職の鍛冶師にはやっぱり負けるね」
「当り前だろ?いくら生産が何でも出来るコルでも鍛冶だけは負けられないしな。銃の方は信仁の方に修理出してんだろ?」
「そうだね。二つともボロボロにしちゃったからめっちゃ怒られたけど、活躍した事を伝えたら喜んでたよ」
「誰しも自分が作ったもんが活躍すれば嬉しいもんだ。あたいもその剣が活躍するなら嬉しいさ」
「ありがと。大切に使わせてもらうからね」
千棘は軽く二三振りして調子を確かめたウルカリバーをインベントリにしまい、第三試合で着ていた着物の様な袖を揺らしながら汗を拭っているユーランに近づくとユーランは顔を赤くして千棘に怒鳴る。
「お、おいちー助!!あたいに近づくな!!」
「えっ!?…僕なんかした?」
「あ、いや…ほら、鍛冶仕事の後だと汗くせーからあんま近寄られたくねーんだ」
「ああ、無神経に近づいちゃってごめんね?いつもユーランはいい匂いするから気が回らなかったよ…」
「ばっ!?…まぁいい、シャワー浴びてくる」
「片付けは僕がしとくねー。ゆっくりはいってらー」
ユーランがお風呂場に向かうのを見届けた千棘は火が入っている熱い炉の火を消し、剣を打つために用意していた道具を片付けていると工房の扉がノックされた事に気付いて声を上げる。
「はいはーい、どちら様ー?」
「ちーちゃん、私達ー」
「エルリとルエリか。熱いけど入っていいよー」
千棘が部屋に入る事を許可すると精霊族の双子…エルリとルエリが部屋の熱気に顔を顰めながら訪ねてきた理由を説明する。
「通信でも伝えたけど、シルトが軌道に乗り始めたから手が空いたの」
「僕達も手伝えるけどなんかすることある―?」
「うんうん二人ともお疲れ様ー!精霊女王も最近頑張ってるみたいだし、精霊の国はもう安泰だね!」
二人の話を聞いた千棘は工房の片づけを一旦止め、顎に指を当てながら現状の状況を整理していく。
「まずはフェイナ、アルメラ、ユリス、ルノ、フィーの5人はシエルと一緒に各国でアイドル活動をしてもらってて、鏡はアンバーウッズで僕達と同盟を結ぶ準備中…ピュリエットはクラウディアパレスの住民を説得中で信仁とシンシアは国の設計図を任せてる…ベルセはアンダーパラダイスで大会の準備だし、アクエリアとシルトの連絡は通信で出来るし…今完全に手が空いてるのは僕達とユーラン…それとフリエスとアリエスの二人だね…あれ?母さんは何やってるんだ?」
「僕達はついさっきこっちに来たばっかりだからちーちゃんママの事はわからないかな…ね?エルリ」
「そうねルエリ。通信してみたらいいんじゃない?ちーちゃん」
「確かにそうだね…っと、今のところエルリとルエリにお願いする事は無いんだよねー…動いてるみんなには悪いけど、ユーランも一緒に4人で何処かいく?」
「いくいくー!!」
「よし!じゃあユーランがお風呂から上がってくるまで自由時間って事で!」
「りょーかーい!」
エルリとルエリがはしゃぎながら工房を出ていくのを笑顔で見送った千棘はユーランが帰ってくるまで一人で工房の片づけをしながら那奈へ通信をする。
『もしもし母さん?』
『あら、千弦?どうしたの?』
『んっしょ…そういえば母さんは今何やってるのか知らなかったから聞こうとおもっ…てさ』
『今は王城でセシリアさんとマリアちゃんとお茶会してるわよ~』
『へぇ~おちゃか…え?セシリアさんとマリアちゃんって…え?王妃と王女!?』
『そうよ?』
『そうよって…いつの間に仲良くなってたの…』
『同盟を組む話をした時のパーティで仲良くなったの。あの時は姉って言ったけど、本当の事を言ったら意気投合しちゃってね?今はママ友よ』
『王妃がママ友…す、すごいね…』
『それより千弦は何しているの?もし暇ならお茶会にくる?』
『ああ、今からエルリとルエリ、ユーランの4人で両ギルドに寄ってフリエスとアリエスと話して、その後街で遊ぶつもりなんだ』
『そうなのね。…あっ!そういえば……何でもないわ』
『えっ?何言いかけたの?』
『ふふ、まぁみんなで楽しい時間を楽しみなさい。そろそろお茶会に戻るわね』
『ちょ、母さん?……母さーん…』
…
「何を言いかけてたんだ…?まぁ、重要な事ならすぐに教えてくれるだろうし…っと、片付けはこんなもんかな」
那奈と通信を終えた千棘は工房の片づけが終わったか工房内を見渡し、綺麗に整頓されているのを見て地下工房を後にする。
「まだ直接フリエスとアリエスを勧誘してなかったし、丁度いい機会だな…服は…これでいっか」
そんな事を呟きながら自室に戻った千棘はユーランがお風呂に上がってくるまで書類の整理や今後やるべき事を整理していると、扉をノックする音に気付いて声をかける。
「はいはーい、どちら様ー?」
「ルエリだよー」
「ん?いいよ入って」
珍しい事にいつも二人で行動するエルリとルエリなのにルエリだけが部屋を訪ねてきた事に首を傾げながらも招き入れると、千棘と同じ様に男とは思えない程可愛らしい服に包まれた少女と見間違える男が部屋に入ってくる。
いつものベレー帽とセーラ服姿じゃなく、フリルのあしらわれたドレスに頭に大きなリボン…西洋人形の様な服に身を包んだルエリは正しく人形の様に可愛らしかった。
「どうどう?似合ってる?」
「うんうんめっちゃ似合ってて可愛いね?エルリはどうしたの?」
「エルリはちょっと用事~」
ルエリはそう言うと半透明の羽を震わせ、軽く宙を飛びながらソファーに身体を沈み込ませて足をばたつかせる。
「そっか。ルエリと二人っきりって言うのは珍しいね?」
「ねー?僕はいっつもエルリと一緒にいるし、一人で行動した時はちーちゃんが目を覚まさなかった時ぐらいかな?」
「あの時ねー…本当に心配かけたよ…」
「んーん、今ちーちゃんがこうして元気でいてくれてるし、大丈夫だよ!」
「ほんとありがとね?…ルエリは新しい国で何したいとかってあるの?」
「何かしたい事かぁ…今は思いつかないかな?」
「あれは?こっちに来る前、SLで見た事の無い動物を見たいって言ってたのは?」
「んー…シルトの外交官やってる時に殆どの国回ったけど、見た事の無いって言うのは見つからなかったよ?」
「そっかー…んー…ならルエリがやりたい事を見つけられる国にしないとね」
「僕はなんて言うか、ちーちゃんと何かしてる方が楽しいからなぁ…」
「なら、今度一緒にアイドル活動とかしてみる?」
「え!アイドル活動!?」
「うんうん。一応外交官っていうお堅い仕事してたでしょ?だからあんまり表に露出するとか考えれなかったけど、シルトが落ち着いたならいいんじゃないかな?」
「するする!」
「よし、じゃあ後でシエルに伝えておくね?エルリもやるよね?」
「エルリもやりたいって言ってたから大丈夫!」
「そっかそっか。じゃあ、楽しみにしといてね?」
「うん!」
エルリと二人っきりになる事なんて滅多にないと思い、千棘はルエリとボーイズトークを繰り広げながらユーランのお風呂上がりを待っていると扉をノックする音が聞こえて声をかける。
「はーい、どちら様ー?」
「エルリだよー」
「入っていいよー」
千棘はルエリと話しながら処理していた書類を纏め、羽ペンを弄びながらエルリを向かい入れたが、エルリの後ろにいた人物を見てその羽ペンを床に落としてしまう。
「ちーちゃんお待たせ!ちょっとおめかしに時間かかっちゃった!」
「お、おいエルリ…流石にこの格好は恥ずかしいって…」
「何言ってんの?ランランめっちゃ可愛いよ?ね?ちーちゃん!」
「…」
「ちーちゃん?」
エルリはルエリと寸分違わない西洋人形の様な姿でいつも通りだったが、ユーランはいつもの半纏にさらし、乱雑なポニーテールという姿ではなかった。
いつものポニーテールは解かれ、赤と白のグラデーション髪は緩く巻かれて派手過ぎず落ち着きが伺える印象を醸し出しており、頭には大きめの白いリボン、服は赤と白のグラデーションのワンピースに少し踵が高い赤いパンプス…ドワーフの低身長と合わせてとても愛くるしい少女となったユーランは、誰もが思わず抱き上げてしまいたい程の可愛さを発揮していた。
そんな清楚で可愛らしい服に身を包んだからか、姉御肌な性格は少し大人しくなり、千棘にユーランの姿を自慢するエルリに対する抗議が弱々しかった。
「おーいちーちゃーん?」
「…」
「ほ、ほら、エルリ…あたいにはこんな格好似合わないんだよ…着替えてくる…」
「ちょ!ランラン待って待って!…ちーちゃんしっかりして!!」
千棘の反応が無い事を気にしたユーランは少しだけ涙目になりながら部屋を出ていこうとするが、焦ったエルリが半透明の羽を震わせ、宙に飛びながら千棘の頬を力いっぱい引っぱたき、部屋の中に頬を叩いたいい音が響いて千棘は我に返る。
「いっつ!?あ!?ああ、ゆ、ユーラン!!その格好めちゃくちゃ似合ってるよ!!いつもの格好もかっこよくて可愛いけど、その格好だと清楚で可愛いよ!」
「っ…べ、別にお世辞が欲しいわけじゃないし…」
「いや、いやいやいやいや!?お世辞じゃないよ!!可愛くてびっくりして固まってただけだから!!」
「…そうか。まぁ…こういう服はあたいには似合わないけど…こういうのも悪くないのかな」
背中を向けて呟いた言葉は千棘には聞こえなかったが、近くにいたエルリとルエリの耳にはしっかり聞こえていたのか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「エルリ、めっちゃ力入れたね?」
「当然よルエリ!ランランのおめかしもちーちゃんの頬も力いっぱいだよ!」
「うう…かなり痛い…けどあれは僕が悪かったから何も言えない…」
「…んで?街に遊びに行くって何処に行くんだよ?ちー助」
「あ、ああ。一応冒険者と生産者ギルドに顔を出して、フリエスとアリエスを勧誘してから適当にご飯とか市場に行こうかなって思ってるよ?」
「この格好で生産者ギルドに行くのか…」
「いーじゃん!ランランの可愛さ見せつけよーよ!ね!ルエリ!」
「うんうん!いこーよ!ランラン!」
「ちょ、エルリ、ルエリ!ひ、引っ張るなよ!!こ、この靴歩きにくいんだから!!」
「やれやれ…楽しい一日になりそうだね」
皆それぞれのおめかしをして、笑顔と恥ずかしがる表情の4人は王都リライアの街へ繰り出していく…。
■
「あれ…魔王…だよね?」
「あんな可愛いから忘れるけど魔王だよ…」
「ていうか、あの隣の赤髪の子…めっちゃ可愛いな…持ち帰りたい…」
「いやいや、あの赤髪の子はエルノ・シエル工房のランだぞ?」
「ま、マジで!?服一つであんなに可愛くなるのか…!?女って恐ろしすぎるだろ!?」
「それよりも魔王の後ろにいる二人だよ!!精霊族だぞ!?俺初めて見た!」
「精霊族ってみんなあんなに可愛いのか!?」
「ママー、精霊さんお人形さんみたい!私もあの服着たい!」
「そうね、後でお洋服見に行こうね?」
…
「お、おいちー助…いつも以上に注目集めてるんだけど…」
「ん?そりゃそうだよ。こんな可愛い三人を連れてるのが魔王なんだもん」
「エルリ?僕達お人形さんだって?」
「そうねルエリ。お人形さんぽく見えてるなら嬉しいね?」
独特な格好をした千棘が清楚なお人形さんとしか見えないエルリ、ルエリ、ユーランの三人を引き連れているだけで王都リライアの住民達の話題となり、色んな場所からこちらの事を言っている声を聞きながら千棘達は冒険者ギルドに向かって行く。
すっかり千棘の事を血染めの天使と呼ぶ声は無く、何処に行っても魔王魔王…ただ、魔王と口にしている住民達は最初の頃より魔王に危険を感じていないのか、敵意の様な視線は向けられていなかった。
「最初はぼろくそ言われてたけど、だんだん魔王って言うのも住民達に浸透してきてるのかな?」
「まぁ…魔王がこんな感じで街を出歩いてるし、問題も起こしてないのに姿を見る度に命の危険を感じてたら身体がもたないだろ…」
「それもそっか。人間はやっぱり適応能力に優れてるんだねー…あ、ユーラン?アイスっぽいのあるけど食べる?」
「え?あ、ああ…食べる」
「ちょっと買ってくるから待っててね?」
そう言うと千棘は袖をひらひらと揺らしながら人混みの中に消え、ユーランは自分の服を摘まんでひらひらさせながら溜め息を吐く。
「はぁ…この服だとなんか調子でねーな…」
「もうランラン?ランランの可愛さは街の人達も認めてるんだから自信持ちなよ?」
「ルエリの言う通り。ランランは可愛いよ?それに私達は冷やかしたりしないし、ちーちゃんとデートだと思って楽しみなよ?」
「でっ!?で、デートってお前ら…あたいは別に…」
「そうやって引っ込んでたら、フェイナ達に取られちゃうよ?」
「エルリの言う通りだよー?みんな押しが強いんだから…」
「うっ…といってもなぁ…いきなりそんなガツガツいけねーし…」
「まぁ、いきなり好き好きしてもちーちゃんびっくりするだろうから、ランランの出来る範囲でいいけど…ずっとそんなんじゃダメだからね?」
「うんうん。僕達は応援してるから!!」
「お、おう…」
顔を赤らめながらもエルリとルエリの助言を胸に刻んだユーランは火照った顔を両手で包んでいると袖をひらひらとさせながらアイスを四つ持った千棘が帰ってくる。
「みんなお待たせー!…って、顔赤いけど大丈夫?ユーラン?はい、アイス。エルリとルエリのもほら」
「あ、ああ…ありがとう…」
「ありがとちーちゃん!」
千棘から受け取ったアイスをみんなで食べながら談笑し、冒険者ギルドまで歩いていると突然千棘がユーランの手を引き抱き寄せる。
「は、はぁ!?ち、ちー助な、何を!?」
「いきなりごめんね?でもほら」
突然の事に驚いて真っ赤になりながら千棘に抗議したユーランだが、次の瞬間何故抱き寄せられたのかを悟る。
小さな男の子が果物の入った袋を両手で抱きしめて走っており、何かに躓いて袋に入った果物をぶちまけてしまいそうになるのを見た千棘は完全に制御出来る様になった魔王の力で闇を出し、少年の身体と零れそうになっている袋を押さえる。
「大丈夫?怪我はない?」
「え…あ…ご、ごめんなさい…い、急いでて…」
「怪我がないならいいんだ。人が多いから気を付けてね?」
「う、うん…お姉ちゃんありがと…」
「どういたしまして~」
千棘をお姉ちゃんと言いながらもしっかりとお礼を伝えて走り去っていく男の子を見届け、千棘はあっけらかんとしながらアイスに口を付ける。
「あのままユーランが歩いてたらあの子にぶつかってあの子が怪我してたからさ。いきなりごめんね?」
「い、いや…ぼーっとしてて気付かなかった…ってか、ちー助よくわかったな?」
「時間を巻き戻したんだよ。普段から無数の事象を見るわけにもいかないし、ぶつかる瞬間に戻したんだ」
「神の権能をそんな簡単に…まぁ、ちー助らしいか」
ゆっくりと自分の肩を抱く千棘の腕が離れていくのを名残惜しそうにしながらもユーランは火照った身体をアイスで冷ましながら千棘の横を歩き続け、ようやく冒険者ギルドにようやくたどり着く…。
■
「ま、魔王だ…」
「魔王が何で冒険者ギルドなんかにくんだよ…」
「まだ死にたくねぇ…」
そんな声が聞こえてくる中、千棘は苦笑いしながらユーラン達を連れてカウンターへ向かって行く。
冒険者だからこそわかる魔王の怖さ…絶対に敵わない、絶対に手を出しちゃいけないという恐怖は一般市民より根強いのかここでは敵意というより怯えや恐怖の視線が多く千棘達を貫いていた。
でもそんな中、全く怯えも恐怖も無く、ましてや好意的な視線を向けてくれる人はこの場では一人しかいなかった。
「チヅルさん?どうしました?」
ピンク色の髪で頭には狸耳、尻尾は触ったら埋もれてしまいそうなほどの毛並みを持つ女性…冒険者ギルド王都リライア支部ギルドマスターのアリエスが不思議そうな顔をしながら千棘に声をかける。
「アリエス、今時間大丈夫?」
「ええ、お昼休憩なので時間は大丈夫です」
「そっか。じゃあちょっとだけそこの席ではなそっか」
「わかりました」
千棘は冒険者達が情報を共有するスペースに空いてる席を見つけ、指を差しながらみんなで腰を掛けて早速本題を切り出す。
「突然ごめんね?今日来たのはアリエスに僕が新しく興す国で冒険者ギルドのギルマスをやって欲しいっていうお願いで来たんだけど…」
「ああ、その事ですか。頼まれなくても移動するつもりでしたよ。もう王都リライア支部のギルマス後任も育成していますので」
「えっ!?そ、そうなの?」
「はい。逆に私や姉のフリエスじゃないとチヅルさんの国でやっていける気がしませんけど?」
「そ、そっか…」
「まぁ、私がここで手を付けてる最後の仕事が終わったら…という事ですけどね」
「最後の仕事?結構面倒な奴なの?」
「面倒…まぁ私としては面倒とは思いませんが…なんせ冒険者という家業が出来てから前例のない大改革をしていると言えば面倒事なんでしょう。私はアンダーパラダイスという魔獣…いえ、魔族の国があるという事を聞いて思ったんです。魔族の方も冒険者として登録出来る様にしようと」
「ええ!?」
アリエスが何事もない様に無表情で告げた最後の仕事の内容…魔族も冒険者として活動出来る様にするという前代未聞の大改革。
それを聞いた千棘はもちろん、ユーラン、エルリ、ルエリも同様に驚きの表情を浮かべながらアリエスを見つめる。
「…何か不味かったでしょうか?」
「いや…不味いも何も、僕としては嬉しい限りなんだけど…そんな事出来るの?」
するとアリエスは心底呆れた様な表情を作りながら眉間を指でもみほぐして千棘を見据える。
「…チヅルさんが全種族が手を取り合う国を興すって言ったんでしょう?なら、そこに魔族の方々が含まれるのは当然です。…仲間である私達の魔王がそう求めるならその目標に向けて私達は全力でバックアップするだけです。出来るか出来ないかじゃない、やるんですよ私達が」
「っ…」
力強く言い放たれたアリエスの言葉に千棘は面食らってしまうが、こんなに心強いバックアップをしてくれる仲間が居る事に感謝しながらアリエスに頭を下げる。
「ありがとう、アリエス。やっぱり君達じゃないと僕の国のギルマスは任せらんないね」
「当然です。どれだけチヅルさん達の無茶を通してきたと思ってるんですか?もし、他の人に任せるとか言ってたら引っぱたいてましたよ」
「あはは…それはごもっともで…」
「そういう面倒くさいごたごたは私達バックアップ組に任せてください。チヅルさんはちゃっちゃと豪華な冒険者ギルドを建ててください」
「わ、わかりました…じゃあ、これからフリエスにも同じ話をしてくるよ。時間取ってくれてありがとね?」
「いえ。…姉には私から伝えましょうか?」
「いや、こういうのは自分の口から伝えないとね。…まぁ同じ屋敷に住んでるんだから屋敷で話せばとは思うけど、仕事が終わった後に仕事の話も気が滅入っちゃうからね」
「わかりました。一応チヅルさんがそっちに行くって言う事だけは伝えておきます」
「うん。じゃあまたね、アリエス」
「はい。気を付けて」
アリエスに見送られながら冒険者ギルドを後にした千棘達はそのまま生産者ギルドへ向かって歩きながら、今まで支えてくれていたバックアップ組の皆に感謝の気持ちを吐き出す。
「はぁ…アエリアで初めて会った時、めちゃくちゃビビられてたのに今じゃこっちがビビる程の迫力つけちゃって…頼もしいよ全く」
「ああ。あたい達だけじゃどうにも出来ねー事をアリエス達がやってくれるからこんだけ自由に動けてるんだ。感謝は忘れねーようにしねーとな」
「うんうん。正直言って僕達は戦う事しか出来ないしね」
「そうだね。政治とかそう言うのの大変さはシルトの外交官で嫌って程味わった。…ちーちゃんはほんと、周りに恵まれるよね?」
「ほんとにね?フェイナ、アルメラ、鏡、ユーラン、エルリ、ルエリ、ピュリエット…この世界であったユリス、ライゼン、ルノ、フィー、ノエル、シエル、フリエス、アリエス、アイシャ、ウィール、サリィ、カレン、カルラ、信仁、シンシア、那奈、セイラーン、ベルセ、ノクス、カトレーヌ、アルセーヌ、フィオ、レノ…それに慈愛の四姉妹とエルラシアの王族…そして女神のセッテ。こうやって並べるとなかなかすごい人達が味方だよね?」
「アンダーパラダイスを含めたら5ヶ国…いや、鏡の事もあるから6ヶ国…しかも女神。それを味方に出来る人なんてなかなかいねーよ」
「さっすが慈愛の魔王様!」
「さっすが私達の魔王様!」
「あはは…みんなの期待に答えれる様にこれからも頑張んないとね!」
そして見た目だけは少年少女の4人達は楽しそうに話に花を咲かせながら二つ目の目的地である生産者ギルドへ入っていく…。
■
「あれ…ランの姉御じゃないか…?」
「いや…ランの姉御はあんなに可憐じゃ…」
「でも髪の色とかあの身長…」
「でも姉御があんなおめかししてギルドに来るのか…?」
「いや隣見てみろって…ありゃ魔王だぞ?」
「え!?ランの姉御が魔王とデート!?」
生産者ギルドでは打って変わって魔王である千棘が注目を集めるのではなく、エルノ・シエル工房で活躍している鍛冶師ランことユーランが話題の中心となり、あちらこちらから聞こえてくるデートという声にユーランは顔をどんどん赤くしていく。
本当であれば怒鳴り散らしているはずのユーランは着ている服がそうさせているのかとても可愛らしい少女と化していたが、あまりにもからかわれているのが可哀そうに思った千棘は身体から闇を少しだけ出し、ユーランの肩を抱き寄せながら威嚇して口を開く。
「あんまりうちのランを揶揄わないでくれるかな?君達は鍛冶師としてのランしか知らないと思うけど、ランは女の子なんだよ?女の子らしい格好をして何がいけないのかな?」
「ち、ちー助…いいって…あたいは『よくないよラン』…」
「君達は悪気があって声を上げたわけじゃない事はわかる。だけど君達に悪気があろうとなかろうと、何気ない一言で一人の女の子を傷つけてるって事をちゃんとわかってるのかな?」
そういうと失言だと悟った者達は手で口を塞ぎながら目を逸らし、ユーランを揶揄う声を上げなくなる。
「ったく…これなら魔王弄りされてる方が全然マシだよ。今度ランの事や僕の仲間達を揶揄うやつがいたら…わかるよね?」
そう言いながら身体から出した闇をユーランの事を揶揄っていた奴等の眼前に伸ばし、声もなく頷いたのを確認した千棘は身体の中に闇をしまいながらカウンターで慌てている黒い狸型の獣人女性の元へ歩いていく。
「ごめんねフリエス。あまりにもランの事を揶揄うから少しだけ脅させてもらったよ」
「ごごごめんなさい!ちゃんと言い聞かせておきますので…!」
「別にフリエスに怒ってるわけじゃないからさ。アリエスから聞いてると思うけど時間ある?」
「はい!奥の部屋を用意してるのでどうぞ!」
そう言いながら生産者ギルド王都リライア支部ギルドマスターのフリエスが千棘達を奥の部屋に連れていき、お茶を用意しながら申し訳なさそうな表情を作る。
「本当にごめんなさい…悪気はないと思うんですが、やっぱり鍛冶系の生産者は男性が多いので…色恋に結構…」
「んや、別にフリエスが悪いわけじゃないよ。…っと、早速本題を話すからフリエスも座ってくれる?」
「あ、はい…チヅルさんが興す国の件でしょうか?」
「そうそう。さっきアリエスの所に行ってきて同じ話をしたんだけどさ…正式にお誘いをまだしてなかったからしようと思って。…フリエス?僕が作る国で生産者ギルドのギルドマスターをやってくれないかな?」
「はい是非!もう既に後任も育ててますし、妹の方で進めている案件はこっちでも進めているので!」
「魔族も生産者として登録出来る様にって事?」
「ええ!…でもまぁ…多分妹の方よりは時間がかかっちゃうかもしれないですね。魔族に対して偏見を持つ人が多いって言うのが現状で、魔族が作ったポーションって聞いたりすると毒が入ってるとかそういうのが…」
「今まで敵対していた種族だもんね…そうなっても仕方ないから僕達の手でその認識は変えていこう」
「そうですね…!その辺は私と妹に任せてください!」
「うん。すっごい期待しておくね?」
「責任重大ですが絶対やってみせます!」
冒険者ギルドと生産者ギルドのギルドマスター勧誘が滞りなく終わった千棘はソファーの上で軽く背中を伸ばし、フリエスが出してくれたお茶を飲み干してユーラン達に問う。
「これで用事は終わったけど、もう少し話してく?それとも街に行って遊ぶ?」
「あたいはちー助に任せる…」
「私も遊びたーい!」
「ん、りょーかい。じゃあ、フリエスがギルドマスターを務める生産者ギルドは豪華なのを建てるから楽しみにしててね?」
「はい!後で要望出しておきますね!」
「ありがと。じゃあまた夕食の時に」
フリエスに用意してもらった部屋を出た千棘達は生産者達がチラチラ見ているのを無視しながら生産者ギルドを出て、ショッピングが楽しめる商業区へと向かう。
そして…
「みーつけた…」
物陰から見つめられている事も知らずに千棘、ユーラン、エルリ、ルエリは4人で楽しい時間を過ごしていた…。




