常識的な吸血鬼
「皆様!!大変長らくお待たせしました!!これからシドフィア帝国対仮称魔王軍の試合が始まります!!」
試合審判が闘技場の中央で観客達に試合が始まる事を告げると闘技場が沸き上がる。
「ルールを説明させて頂きます!!今回は4対4の勝ち抜き方式を取らせて頂き、相手を死に至らしめる攻撃は禁止、場外無し、相手に降参と言わせるか、相手を行動不能にした側の勝利となります!!」
とてもシンプルなルールを説明した審判は北側の門へ腕を向けて高らかに宣言する。
「まずはシドフィア帝国側、ノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝の妹君!!!アルセーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第二皇女の入場だー!!」
すると盛大な音楽と歓声と共に巨大な門が開け放たれ、そこから黒髪の少女が360度余すところなく観戦できる円形の観客席に手を振りながら軽い足取りで中央の審判の元まで歩いていく。
「続きまして仮称魔王軍側、魔王チヅル様の傍付きメイドでなんと天使様!!全ての種族と手を取り合う国を目指している魔王様の考えに共感した天使エル様の入場だー!!」
審判の選手紹介にメイドという単語が含まれたことによって観客席からは戸惑う様な声が混じり、アルセーヌ以上の歓声が沸く事は無く、南門から現れた人影を見た者たちは更に困惑の色を強める。
「あ、あれ…?天使様なのか…?」
「いや…どう見ても人間の少女じゃねぇのか…?」
頭の上にあるはずの天使の輪も背中にあるはずの天使の羽も持たない、どう見ても人間の少女としか思えない人物がゆっくりと審判の元まで歩いていき、笑顔でアルセーヌに手を差し出す。
「アルセーヌ、よろしくね?」
「はいっ…チヅル様、お相手よろしくお願いします…!」
「な、な、なんと言う事でしょう!!最初の試合からまさかの魔王チヅル様の登場だー!!」
審判の驚く声で観客席も驚き、魔王の姿を改めて見た者は自分の目を疑ってしまう。
「嘘だろ…?あんな可愛い子が魔王なのか…?」
「いや、男らしいぞ!?」
「なにー!?」
そんな声が闘技場を埋め尽くし始めた時、千棘は何もない空間から取り出されたアルセーヌの武器に視線が吸い込まれていく。
「へぇ…可愛い顔に似合わず、かなりえぐい武器を使うんだね?」
「か、可愛いですか…?こ、これは私の能力と相性がとてもいいので…」
可愛いと言われた事に頬を染めながらもアルセーヌは自分の能力と相性のいい武器…140㎝程のアルセーヌより二回りほど巨大なバルディッシュの石突を闘技場に下ろすと重厚な音と共に千棘の足元が揺れる。
「うわ…その斧どれだけ重いの…?」
「わ、わからないですが…大人の男性10人でも持ち上げられないとか…」
そんな超重量のバルディッシュを重さも感じさせずに軽々持ち上げている腕は筋肉質とは無縁の華奢な女の子の細腕。
千棘は何もかもがアンバランスなアルセーヌに苦笑しながらインベントリから武器を取り出す。
「わ…チヅル様もバルディッシュを使われるん…ってそっか…チヅル様はそうですもんね…?」
「うん。手に持てる武器なら何でも使えるから、アルセーヌと同じバルディッシュで戦うよ」
アルセーヌが持つバルディッシュとほぼ同じ大きさの禍々しいバルディッシュを軽く振ると、突風にでも吹かれたかの様な風が巻き起こり千棘とアルセーヌの髪を暴れさせる。
「久々に使うからちゃんと使えるか不安だけど…全力で来てね?」
「はいっ…全力でいきます…!」
千棘とアルセーヌは巨大なバルディッシュを肩に担いで直径100m程で作られた闘技場の開始位置まで歩いていく。
そして何も言葉を発さずにやり取りを見守っていた審判が我に返り、両者が開始位置に付いた事を確認して会場の端まで走っていくと両腕を振り上げる。
「きゅ、急な選手交代がありましたが両者の同意があったのでこのまま開始します!!アルセーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第二皇女対魔王チヅル…戦闘開始!!」
「「ッ!!!!!」」
戦闘開始と共に審判の腕が振り下ろされると観客席と審判を包み込む様に頑丈な魔法障壁が発生し、これから起きるであろう衝撃から守るのを見た千棘は、目の前に瞬発してきたアルセーヌの上段からの大振りを真正面から受け止める。
「っぐっ!!すっごい威力だね…!」
すると空間が爆発した様な音と衝撃が千棘を襲い、千棘が建っている周囲10m程がひび割れ陥没して闘技場が捲れ上がっていく。
「うそ!?これで無傷何ですか!?」
渾身の一撃を軽々受け止められたアルセーヌは目を見開いて驚くが、すぐさま受け止めている千棘のバルディッシュを蹴って後方に距離を取る。
「っつぅ…手がめちゃくちゃ痺れてるよ…」
「い、今ので手が痺れる程度なんですか……ふふっ…ふふふふ!!!」
今まで全力を出した事がなかったアルセーヌは自分の全力を受け止めてくれる千棘という存在に感謝しながら、湧き上がってくる興奮に浸っていく。
三日月の様に吊り上がった口端をそのままに、勝手に漏れ出てくる笑い声に自分の言葉を乗せて手の痺れを取る為に手を振っている千棘へ感謝の言葉と強烈な攻撃を送る。
「ふふふ!!あははは!!!チヅル様ありがとうございます!!ふふふふ…!!!全力を出すのですぐに壊れないでください…ねっ!!!あはははははは!!!」
「ちょ!?あ、アルセー…うっぐっ!?」
狂気に満ちた凄惨な笑みと笑い声を携えたアルセーヌが問答無用でこちらに突っ込んでくるのに驚いた千棘は、迎え撃とうとバルディッシュを構える…が、突然こちらに向かってくる中程でアルセーヌが地面に沈み込んだ途端、後ろに現れたアルセーヌの強烈な横薙ぎを何とか受け止めて闘技場の壁まで吹き飛ばされてしまう。
強烈な音と共に闘技場の壁に突き刺さった千棘は瓦礫と共に闘技場の土を踏み、口の中から赤い血を吐き出しながら服に付いた壁の破片を払って行く。
「うっ…ぺっ!…いきなり後ろに現れた…?何か他にも能力を持ってるのか…」
「あは!!すごいすごいすごぉい!!今のでも戦闘不能にならないんですね!?もっと、もっともっともっと!!あははははは!!!!」
また真っすぐ近づいてくるアルセーヌに向かって深く集中をしながら同じ様に瞬発して距離を詰めた千棘は、スローモーションの世界でアルセーヌがまた地面に沈み込んでいくのを見つめ、完全にアルセーヌの姿が地面に隠れた瞬間、
「何処から…左かっ!!」
「当たりですっ!!!」
今度は左側から現れたアルセーヌに驚きながらも身体を回転させ、遠心力を乗せた破壊の一撃を鏡合わせの様にアルセーヌのバルディッシュに放つ。
「っうらぁああ!!!」
「うっきゃう!?」
迎え撃たれると思わなかったアルセーヌは可愛らしい悲鳴を漏らしながらバルディッシュに与えられた衝撃と共に壁に突き刺さるが、千棘も同じ様に反対側の壁へ突き刺さる。
「っぐ…万全の一撃じゃないとはいえ互角の威力…!?バルディッシュ同士の戦いならほぼ互角だな…」
「…あは!!あははははは!!ああ…チヅル様…チヅル様チヅル様チヅル様…!!!もっと、もっともっともっともっと私の全力を受け止めて下さい!!!!」
アルセーヌも壁から抜け出して狂気に染まった様子で千棘へ瞬発し、また同じ様に地面へ沈んでいく。
「また潜った…確かめて見るか…」
同じ様な攻撃を三度も繰り返された千棘はアルセーヌの能力が自分の推察と当たっているか確かめる為、アルセーヌの姿が完全に見えなくなったタイミングで勢いよく飛び跳ねて空中に逃げる。
「はぁぁぁ!…ってあれ…?」
「やっぱり…」
すると瓦礫で出来た影から出てきてバルディッシュを振り抜いたアルセーヌの姿を見つけ、千棘は自分の推察が当たっていた事にニヤリと口端を吊り上げる…が、攻撃を避けられたアルセーヌは凄惨な笑みから一気に冷めた様な、しょぼくれた様な表情を浮かべて巨大なバルディッシュの刃を地面に落としてしまう。
「えっ!?ど、どうしたの?アルセーヌ…」
「…やっぱり…チヅル様も避けるんですね…私の全力を受け止めてくれる人なんて…」
すっかり落ち込んでしゃがみ込んでしまったアルセーヌに千棘はさっきまでの落差でどうやって対応したらいいのか分からず、観客席を見渡すが誰も助言をしてくれる人はいなかった。
「私はいつも半分も力を出せないから…初めて全力で戦えると思ったのに…はぁ…」
「うっ…ご、ごめんよ…アルセーヌがいきなり消えたり現れたりする能力を見極める為に避けただけなんだ…影の中を移動できる能力と自分の身体能力を向上させる事が出来るんでしょ?」
「ええ…まぁ…昔の私は身体が弱くて引っ込み思案で…人と関わらない暗い女の子でしたから…」
「そ、そうなんだ…」
「はい…」
たった数合バルディッシュを合わせただけで荒れに荒れた闘技場で千棘とアルセーヌの間にとても微妙な雰囲気が流れるが、千棘は頭を横にぶんぶん振って禍々しいバルディッシュを肩に担ぎながら胸を叩く。
「あ、アルセーヌ!これからは一撃も避けないって約束するからもう一度僕と力比べをしよう!」
「…………本当ですか…?」
「う、うん!任せてよ!それに影移動が出来るって分かれば今度はこっちから攻めるからね!」
「…………わかりました」
表情はまだ落ち込んでいるが、手放したバルディッシュを千棘と同じ様に肩に担いだアルセーヌは一度身体の空気を全て吐き出し、鋭い視線を千棘に向ける。
「どちらかが力負けするまで…付き合ってもらいます…」
「わ、わかったから…ふぅ…」
千棘もバックステップで距離を離し、十分な助走が取れる位置まで下がり肩に担いだバルディッシュを横持ちに構える。
「…じゃあ今度は僕から攻めさせてもらうからね!!」
「わかりました…」
まだテンションの上がり切っていないアルセーヌを一撃で興奮させてやると内心呟きながら、千棘は禍々しいバルディッシュを握りしめて吠えながら瞬発する。
「ぶっ…とべええぇぇぇぇ!!!!」
地面を駆け上がる様な超低姿勢でアルセーヌに急接近し、身体を横に回転させて遠心力の籠った横薙ぎでアルセーヌのバルディッシュを打ち抜き、先程とは比べ物にならない音と衝撃を生み出す。
「きゃぁ!?」
全力と遠心力の籠った千棘の一撃はアルセーヌの許容を超え、目にも留まらない速さで闘技場の壁に突き刺さり、強固な魔力障壁を突き破ってしまう。
「あっちゃー…流石にやりすぎたかな?でもアルセーヌなら大丈夫か…」
「ちー!!!お前やりすぎだ!!!!俺様の障壁をぶち破る威力なんか耐えられるはずねーだろ!!!」
魔力障壁を張っていた鏡が焦ったように貴賓席から千棘に怒声を飛ばすが、千棘は笑顔で鏡に手を振りながら言う。
「だいじょーぶ!!アルセーヌならこれぐらいじゃ死なないよー!!」
「おま!!皇族だぞ!?少しはかげ『あははははははははは!!!!すごい!!!!チヅル様本当に凄いです!!!!』!?」
鏡の怒声に被せる様に少女の笑い声が響き、観客席にいる人達の視線を奪う。
闘技場の壁に大きく開いた大穴からバルディッシュを軽々振り、歩くのに邪魔な瓦礫を吹き飛ばしながらアルセーヌが闘技場に戻ってくるのを見た千棘は口端を吊り上げてアルセーヌの一撃を待つ。
「う、嘘だろ…!?あんなの食らってぴんぴんしてんのかよ第二皇女は…!!」
「ほらね!!!ミラー!!!もっと頑丈な障壁張っておいて!!!」
「全力で張ってやるが期待すんなよ!!!!」
「期待してるからね!!!」
「いきますよ!!!チヅル様!!!!ふふふふふ!!!!」
完全にスイッチが入ったアルセーヌは一直線に瞬発するのではなく、荒れた闘技場に出来た影から影へ潜りながら高速で千棘へ接近する。
「そう何度も同じ手は食らわない…よっ!!」
「うっ!?」
アルセーヌは確実に攻撃を当てる為に千棘の影からではなく付近の瓦礫の影から身を出してバルディッシュを振り抜こうとするが、千棘は出てくる場所がわかっていたようにアルセーヌのバルディッシュを打ち払う。
お互いのバルディッシュがぶつかり合い、瓦礫を吹き飛ばしてしまう程の衝撃が生まれるが千棘は万全な状態で迎え撃った為吹き飛ばず、アルセーヌだけが闘技場の壁に吹き飛ばされていく。
「アルセーヌの本気はこの程度なのか!?」
千棘が遠くの壁に突き刺さったアルセーヌに大声を響かせると闘技場の壁が爆ぜ、土煙の中からアルセーヌが笑いながら出てくる。
「うふふふふ!!!あははははははは!!!いい!!さいっこうです!!!!!もっと!!もっともっともっと全力でやりましょう!?!?」
「根競べなら絶対に負けないからかかってきな!!!」
凄惨な笑みを浮かべた二人の獣は破壊を撒き散らす巨大な斧を思う存分振り回し、お互いの全力をぶつけあって行く…。
■
「な、なんですのあれ…あ、あれが人間同士の戦いなんですの…!?」
「あの戦いは少々異質です。全ての人間があの様に戦えるわけではございません」
「エル、少々は語弊があります。限られた一部の人間にしか出来ない異質の戦いでございまいます、ベルセ様」
闘技場の控室、吸血鬼のベルセと天使のエル、悪魔のエルは闘技場の様子を映し出す魔道具を見ながら千棘とアルセーヌの戦いを見守っていた。
「ほ、本当であればエルがアルセーヌ第二皇女と戦うはずだったんですのよね…?エルはあれに勝てますの…?」
「そうですね…」
ベルセの問いに顎に指を当てながらしばらく思案したエルは口を開く。
「あれぐらいであれば問題なく勝てますね。…ただ…」
「ただ…なんですの?」
「ただ、アルセーヌ様と同じバルディッシュを使用して、更に避ける事を許されない試合なら確実に負けるでしょう。わたくし達は刀と魔法を使った高速戦闘を得意としておりますので。…そして今、アルセーヌ様がダフネの十英傑と呼ばれる千棘様と互角に戦えている要因はあの影の能力のおかげかと思います」
「影の能力…それだけで渡り合えるものですの?」
ただ影の能力のおかげと言われても腑に落ちていないベルセを見たデルはエルに変わってベルセへ何故、ダフネの十英傑の千棘と互角に渡り合えているかを解説する。
「ベルセ様。まず大前提として千棘様は魔力があっても魔法はお使いになれません。千棘様は純粋な身体能力と数多の武装を臨機応変に使いこなす事で無類の強さを発揮されるお方です。しかし現在、千棘様はアルセーヌ様と同じ武装のバルディッシュのみをお使いになられております。この時点で千棘様はアルセーヌ様に対するアドバンテージを失っております。そしてアルセーヌ様は千棘様に及ばなくてもそれに近い身体能力を有しておりますが、それでも千棘様には及ばない…ですので及ばない部分は影の能力を上手く使って補っているのでしょう」
「…でも影の能力は先程から移動にしか使ってませんわ。速度が同じになったとしても火力はどうするんですの?」
「アルセーヌ様が影から出てくる時、先程から何かに弾かれる様に姿を現しております。攻撃の瞬間、腕やバルディッシュ、身体に出来た影を使って身体を弾いて威力を増しているのでしょう。更に千棘様の攻撃を受ける際、衝撃を自身の影へ逃がす事によって受け止め、受け止めきれない衝撃は身体を浮かして吹き飛び、壁と背に出来た影に衝撃を逃がす事によって衝撃を分散し、身体へのダメージを減らして対等に渡り合えていると推察致します」
「あ、あんな荒々しい戦いでそんな精密な調整をされてるんですの!?」
「ええ、更に今回の試合は神の権能は使わないと仰っておりましたので今の状況で上回る事は出来ないでしょう」
「そ、それじゃあ私達の魔王様は負けてしまいますの!?」
ベルセの悲痛な声を聞いたエルとデルは笑みを作りながら首を振り、エルが試合の状況を説明する。
「ベルセ様。この試合で千棘様が勝つ方法はちゃんとございます。まず、千棘様率いるダフネの十英傑の方々はこの世界の生物と身体の作りが根本的に違います」
「そ、それは…魔王様が言っていたこの世界がげえむ?という遊戯の世界だったあれですの?」
「ええ。千棘様達はこの世界では習得がかなり難しいゲームスキル、パッシブスキルというものを習得しております。その中には衝撃に対する耐性や毒に対する耐性など多岐に渡りますが、主だったゲームスキルは魔法が使えないというデメリットと引き換えに千棘様はあの小さなお身体に備えております。まず根競べで千棘様の体力が切れる事は無いでしょう」
「で、でも…上回る事が出来ないって先程エルが言ってましたわ。このまま戦闘が長引けば…あっ!?」
「ベルセ様もお気付きの通り、千棘様は純粋な身体能力のみで魔力は使っておりません。対してアルセーヌ様は影の能力を使うたびに魔力を失ってしまう…アルセーヌ様の魔力が切れてしまえば影の能力は使えなくなってしまうので一気に千棘様に戦況が傾くと考えられます」
「だから根競べと言ったんですのね……あ、きゃぁ!?い、いきなりどうしたんですの!?」
エルとデルの解説を聞いて食い入るように千棘とアルセーヌの戦いを見つめていたベルセは急にデルに横抱きで持ち上げられて可愛らしい悲鳴を漏らす。
「ベルセ様、少々そこにおられますと危険かと思いましたので失礼ながら抱き上げさせて頂きました」
「え?危険って…どういう事ですの?」
「ベルセ様、こういう事でございます。デル、私の後ろへ」
エルの言葉でベルセを抱いたデルが後ろに隠れ、エルが真っ黒の鞘に納まった黒い刀を抜き放つと控室の壁がいきなり爆発し、先程までベルセが座っていた所に服がボロボロになった千棘が突き刺さる。
「き、きゃぁぁぁぁ!?な、なんなんですの一体!?」
「あっは!!アルセーヌすごいや!!!」
「いってらっしゃいませ、千棘様」
悲鳴を上げるベルセを無視してエルとデルが千棘を送り出すと、千棘は楽しそうな表情を浮かべて控室をぶち抜いた以上の衝撃を発しながら瞬発していく。
「なっきゃあああ!?な、何が起きたんですの!?」
「率直に申しまして、アルセーヌ様に吹き飛ばされた千棘様が控室に突き刺さりました」
「そしてエルが瓦礫を全て斬ってくれたのでわたくし達は無傷、そして千棘様がもう一度アルセーヌ様の元へ飛び出した…という状況でございます」
「な、何でそんなに淡々としてますの…!?」
この中で唯一まともな感性を持っているベルセは、千棘、エル、デルの異常性をしっかりと理解して頭を抱えてしまう。
「まったく…これじゃ魔王様の試合が見れ…あうっ!?」
「ベルセ様、もう一度来ます」
急にデルに動かされたベルセはデルの言葉を聞いた瞬間、また控室の壁が爆発する光景を見て叫び声を上げる。
「きゃああ!?つ、次は何なんですの!?!?」
「あはははははは!!!!うふふふふふふ!!!!!」
千棘の次はアルセーヌが控室に突き刺さり、狂気的な笑い声を上げながらまた控室から飛び出ていくアルセーヌを見てベルセは叫ぶ。
「もう一体何なんですのぉぉぉーーー!!!!!」
穴の開いた控室は闘技場で戦っている千棘とアルセーヌの轟音としか言えない戦闘音とベルセの悲痛な叫び声で満たされていた…。




