二丁のお守り
シドフィア帝国、帝都フィルディアの総合闘技場の貴賓席…そこでは先程まで会議室で会談した面々で一般出場者の試合を眺めている。
普通の観客席より一段高い貴賓席は総合闘技場を一望出来る造りで集まっている観客達の興奮と熱気、戦っている選手達の息遣いや迫力が直に感じられる様になっていた。
そんな貴賓室で出番を待つ者は一般出場者の試合を眺めながら思い思いの時間を過ごしていた。
「フィオとレノがSランク冒険者かー…今は何の武器を使ってるの?」
「やっぱ木刀を振り慣れてるから刀使ってるかな~。あ、後魔法も使ってる!」
「僕も刀と魔法ですね」
そういうとフィオとレノが持ち武器である腰に下げている刀を手に持ち、千棘に見せる様に鞘から少しだけ刀身を覗かせる。
「へぇ…フィオの刀…めちゃくちゃいいね」
「でしょ?この刀はSランクになった時に使ってた安い武器が壊れちゃって…その時の依頼報酬でヒヒイロカネを買って作ってもらったんだ~」
フィオは自分の髪色と同じ紫色の鞘から刀を抜き、ほんのり赤い刀身を露にして千棘に手渡す。
「ヒヒイロカネ…幻の鉱石…確か、腕のいい職人が加工しようとしても道具の方がヒヒイロカネの硬さに負けちゃって、なかなか加工出来ないって言う珍しい鉱石だよね?」
「うん!すごい鉱石なんだけど、加工出来る人が全くいないから幻の鉱石って言われてるのに結構安かったんだよね~。でも凄腕の鍛冶師と知り合って、この刀を作ってもらったんだ!」
「ヒヒイロカネを加工出来る人か~…その人はめちゃくちゃすごいね…」
そう言いながら千棘はこの刀を打った鍛冶師の名前を確かめる為に刀の情報を調べてクスリと笑う。
「ふふっ。フィオ?この刀を作った人ってエルノ・シエル工房のランって人でしょ?」
「えっ!?この刀見ただけで誰に作ってもらったかわかるんだ!?やっぱランちゃんってすごい有名な人なんだね~」
「うん。だってこのランって子、ダフネの十英傑のユーランだもん」
するとフィオは千棘の手にある刀を、レノは両手で持っている一振りの刀を見ながら目を見開き、驚きの声を上げる。
「ええええ!?私達の刀ってダフネの十英傑のユーラン様が作ったの!?」
「そ、そんなすごい刀を知らずに僕達使ってたの!?」
「みたいだね?でもよくユーランが直々に打ってくれたね?」
「あ、そういえば…」
レノは何かを思い出した様な表情を浮かべてユーランに刀を作ってもらった経緯を千棘に伝える。
「あの時エルラシア王国の王都でカルフィード共和国で有名のベルファスト工房の職人がエルノ・シエル工房の指導者として移籍したとか噂を聞いて…」
「それは私も覚えてるけどなんかあるの?」
「いやほら、僕達がランさん…ユーランさんにヒヒイロカネを持って行って刀を打ってもらおうとした時、一回断られたでしょ?」
「うん。でもすぐに気が変わったって言って打ってくれたよね?」
「そう。ヒヒイロカネを加工出来る人なんてそうそういないし、どうにか打ってもらう為に何で冒険者になったのかとか、憧れの人の事とか聞かれてもないのに喋ったでしょ?」
「うん…確かその時チヅルお兄ちゃんの…あ!!」
「多分ユーランさんはチヅルさんの名前を聞いて僕達に繋がりがあるとわかって打ってくれたんだよ」
「なるほどねぇ…二人とユーランの繋がりはそんな感じだったのか。ならユーランも伝えてくれれば…って、ユーランも忙しいから忘れてたのかな」
そう言いながら千棘はフィオの羽の方が重いんじゃないかと思える程軽い刀を軽く振り、澄んだ風切り音を一度鳴らしてから紫色の鞘に緋色の刀身を納めていく。
「この武器にはかなりすごい付与魔法が仕掛けられてるからちょっとやそっとじゃ欠ける事もないし、鉄も軽々斬れるぐらい切れ味がいいからガンガン使ってあげてね?」
「うん!絶対に大切にする!」
フィオはそう言いながら千棘の手から自分の愛刀を受け取り、いつもの様に腰に差しながらレノの刀を見る。
「チヅル兄さん。これが僕の刀です」
「ん…レノ方は少しだけ長いんだね?」
「そうです。まぁ僕の方が身長高いので…」
「身長に合わせて長さを調節したわけじゃないでしょ?」
「…やっぱりチヅル兄さんはわかっちゃうんですね」
千棘はフィオの刀より少し長い刀を茶色の鞘から抜き出し、緋色の刀身を見てフィオの刀と違う所を確認する。
「同じヒヒイロカネで打たれた刀だけど切先に重心がある感じがする…結構大振りしやすい様になってるね?」
「ええ、羽の様に軽いので普通の人なら何も変わらないですが、切先の方が少しだけヒヒイロカネを多く使っているので重くなってます」
レノの説明を聞き、切先に重心がある事をイメージしながら一振りすると、フィオの刀を振った時の澄んだ風切り音じゃなく、少し荒い風切り音が千棘の耳に届く。
「…確かにこれはこれで振りやすいね。手元が軽いから接近された時も捌きやすいし、適正距離なら威力が段違いになるし…いい武器だね」
茶色の鞘に少し長い緋色の刀身を納めてレノに返し、千棘はインベントリから黄金の両刃の直剣…ウルカリバーを取り出して腰から信仁から受け取った物を二つ、指に引っかけながら使う武器の紹介をする。
「フィオとレノだけ僕の武器を知らないのは不利だから教えるね?この剣は『これ!神剣ウルカリバーですよね!?』…別にそれが本当の名前じゃないんだけどね…」
フィオが興奮した様に千棘の手に現れたウルカリバーを手に取って振ろうとするが、あまりの重さに女の子が出しちゃいけない様な声を出しながら必死に持つ。
「ぐぅぅぬぬ!?お、おもす…重すぎる!?」
「ちょ!フィオあぶなっ…ん!?お、重すぎる…!」
ふらついてウルカリバーを落としそうになったフィオを寸での所で助けたレノも同じ様に、ウルカリバーの重さに驚愕しながら千棘へ渡して思っている事を問う。
「あ、あの…この神剣ウルカリバーって…姫騎士のチルさんが使ってた剣ですよね…?何でチヅル兄さんが持ってるんです?」
「ああ、チルは僕の女装だからね」
「「女装!?」」
「あはは…まぁこの剣の事は知ってるみたいだから省くけど…こっちはきっとフィオとレノが見た事ない武器だよ」
驚く二人を宥めながらもう片方の手の指で引っかける様に吊るされている黒と銀の『銃』を二人に手渡す。
「チヅルお兄ちゃん…これ何?」
「鉄で出来てるみたいですけど…」
「これは僕が前にいた世界で使われていた武器なんだ。銃って言って、鉄の塊を高速で飛ばして攻撃するんだけど…」
そこまで言って千棘はこれを渡された時の事が脳裏を過る…。
■
「我が王…会談に行く前にこれを渡しておきたかったんだ」
「ん?なにこ…信仁?何で銃がここにあるの?銃火器系を作る事は禁止してたよね?」
「いや…これは新しく作ったんじゃない。前からあったものを改造したんだ。今の俺は我が王に銃火器系の創造は禁止されている…が、改造は禁止されていない…だろ?」
「そんなのただの屁理屈だ。君自身の身を守る為なら使用しても構わないけど、それを何で改造して僕に渡す?」
「…俺も仲間の身を守る為に何かを渡したかったんだ…」
「…それは便利な魔道具をいっぱい作ってくれてるでしょ?それで『違うんだ』…?」
「なんというか…お守りみたいなもんなんだ。俺がこの世界に初めて来た時、銃という物に何度も助けられた。…だからお守りみたいなもんなんだよ。だから使う使わない関係なしにお守りとして持っておいて欲しいんだ」
「………はぁ…わかったよ…仲間の為にやってくれた事だしこれ以上は言わない。だけど、自分やシンシア、仲間の身を守る為以外の創造は禁止。後改造もダメだからね?」
「わかった。…このお守りについて説明してもいいか?」
「うん。二丁あるみたいだけど?」
「ああ、両方とも同じ性能で色が違うだけだ。このハンドガンはマシンピストルって言うんだがわかるか?」
「確か…フルオートで撃てるやつだっけ?」
「そうだ。今までは実弾しか撃てない本物の銃だったんだが、それをこの世界に合わせて改造してみた。実弾を使いたかったら実弾のマガジンを入れればいいんだが…こっちのマガジンは使用者の魔力を弾丸にして撃ち出す事が出来るんだ」
「魔力弾…」
「我が王はその身体だと魔法が使えないんだろ?魔力が余ってるならこれを使っても特に問題ないんじゃないか?」
「確かに…実弾よりは殺傷力は落ちてるのかな?」
「魔力の性質を変えれる奴ならゴム弾の様にして撃つことも出来るし、魔力を籠めれば大砲の様な火力も出せる。魔法が使えない奴向けの簡易魔法発動装置って考え方をしてもいい」
「なるほどねぇ…」
「後はこの銃を使う時に持ち主の魔力を覚えさせるんだが、そうする事によって他の人に悪用されないっていうセーフティーも付けてある。だからその二丁に我が王の魔力を流せば専用の銃になる。それをばらしてセーフティーを外せない様にもしてるし、パーツ一つ一つに隠蔽魔法を付与しているから技術が悪用される事もない。更には魔力痕って言うのが残る様にしてあるからそれを使って犯罪を犯してもすぐに誰がやったのかわかる」
「ま、マジか…確かにそこまで安全性を高めてるなら大丈夫か…逆に冒険者からしたら必需品になるか…?」
「そこは我が王の判断に任せる。俺はただお守りとして渡したかっただけだからその活用方法までは口を出さないさ」
「わかった。有難くもらっておくよ信仁」
■
「…これは魔力を弾にして打撃を与える武器なんだ」
「魔力を打撃に…じゃあ、魔法が使えない人も疑似魔法として使えるの!?」
「すごい…これがあるなら護衛を雇う商人達の護身用にもなりそう…」
「まぁその辺は追々ね?今回はこの剣と銃で大会に出ようと思ってるからよろしくね?」
「うん!」
銃の説明をし終えた千棘はインベントリに神剣ウルカリバーをしまって腰のホルスターに二丁の銃を戻し、下で行われている試合をフィオとレノと一緒に見ようとするが既に試合は終了しており、優勝者が審判に紹介されている場面だった。
「あ、終わっちゃってたね…」
「まぁ次は私達の番だし、楽しみだなー!」
「うん…僕も久々にわくわくしてるかも」
すると優勝者を称える時間は終わったのか、ノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝が豪華な椅子から立ち上がり、試合を見に来ている観客へ大声で告げる。
『素晴らしい試合だった!!帝国にこれだけの猛者がいると知れて我は安心した!!是非その力を違える事なく、この帝国の為に振るってもらいたい!!帝国の民よ!今一度勇気ある戦士達に盛大な拍手を!!』
ノクスの声が会場に響き渡ると観客は沸き立ち、立ち上がりながら盛大な拍手と素晴らしい試合を見せてくれた戦士達に言葉を送る。
その拍手と声を受けた戦士達は笑顔で会場を後にし、もう一度ノクスの声が闘技場に響く。
『次は新たに同盟を組んだ優しき魔王…魔王チヅルとその配下と我が帝国の精鋭が行う親交試合を開始させてもらう!!魔王と平和の道を進む事が出来る今だからこそ成しえた素晴らしい試合だ!!ここにいる者達は歴史の観測者!!是非未来へ語り継いでいってもらいたい!!』
先程以上の熱気が観客から発せられ闘技場を包み、次の魔王対帝国の試合を盛り上げていく中、千棘は同じ貴賓席にいる鏡、ノエル、ベルセ、エル、デルへ声をかける。
「鏡はどうする?」
「んや、俺様は今回パスだな。帝国側はフィオ、レノ、アルセーヌ…もしかしたらノクスだろ?ならちー、エル、デル、ベルセの4人で頑張ってくれや」
「ん、わかった。エル、デル、ベルセ?」
「お任せください千棘様」
「ええ!私も全力で戦わせて頂きますわ!」
「うん、よろしく頼むね」
そう伝えた千棘はフィオとレノに向き直り、笑顔で告げる。
「絶対に僕達が勝つから、この試合が終わったら残念会を開こうね?」
するとフィオとレノも挑発されている事に気付いて口端を吊り上げて言う。
「私達が勝つから祝勝会に呼んであげるよチヅルお兄ちゃん」
「僕達は簡単に勝てる様な相手じゃないって事教えてあげますよチヅル兄さん」
山賊に攫われていたただの少女と少年が、誰もが憧れる神話の英傑に宣戦布告をする。
そしてこの試合でただの少女と少年は英雄へと至り、今後語り継がれる『フェルスの二英雄』と呼ばれる事になる…。




